02





「こんばんは。お兄さん…ああ…鳴海さん。」

「君…」

昨日に負けず劣らず身体の線が思いきりわかる服を着て
夕べの彼女がにっこりと笑って立ってる…

「……えっと…こんばんは…じゃあ…ごきげんよう。」
「あ!なによ!逃げなくてもいいじゃない。」
踵を返した僕の隣をピッタリとついて歩いてくる。

何だろう…僕何かしたのかな??

「どうやら夕べは何事も無かったみたいですね。」
歩きながら…彼女とは目を合わせずに話し始めた。

「そう…思う?」

「え?」
僕は少しドキリとした…
「あたしの口からは言えない…」
そう言って僕から恥ずかしそうに視線を外した…

「!!!……本当ですか?」

思わず立ち止まって彼女をまじまじと見てしまった。

「…!!プッ!やぁねウソよ。
心配してくれてありがとう。鳴海さん。本当優しいんだね…」

「………悪い冗談はやめて下さい…次やったらお説教ですよ。」
真面目にそう言った。
「……ごめんなさい。」
「やけに素直ですね。」
「鳴海さん相手だから。」
「??」

言ってる意味がわからない?

「あ!お付き合いしませんので…あしからず。」
最初の質問に今更答えた。
「え〜?何で?」
「何でって…」

逆に付き合わなきゃいけない理由を教えて欲しいな…?

「僕は自分を分かってます。君みたいな若い子が僕みたいなおじさんを
相手にするはずないしあるとしたら僕にじゃない…僕の財布の中身に用があるんだ…」

「………」
彼女はキョトンとした顔で僕を見てる。

「……だから君のお誘いを受けるつもりありません…分かってくれました?」

「……!」
「愛理!」

彼女が何か言いかけた時誰かが彼女を呼んだ。
「隆生……」
振り向くと背の高い彼女と同年代の男の子が立っていた。
短めの髪に浅黒い肌に…耳にはピアス…
ちょっと目付きの鋭い感じの非暴力派の僕とは正反対の世界にいる様な子…

「何してんだ?」
「別に。」
「…!!あんたコイツに何か用か?」
「…!いえ別に。」

そう言っても彼女は何も反応せず僕の方も彼の方も見もせずに黙って…
ホワンと立っていた…そう…

ホワンと言う表現が似合う彼女の雰囲気だった…どうしたんだろう?

「じゃあコイツに用は無いよな?」
「え!?…あ…はい。」
「行くぞ。」
「…………」

彼に腕を掴まれて引かれながら彼女は黙って歩き出した。
僕の方を一度も振り向かずに…

「彼氏…なんですかね?喧嘩とかにならなきゃいいけど…」

多少気になりつつも僕は彼女達とは反対の方向に歩き出した。




「………良く此処がわかりましたね…」

次の日…僕が勤める本屋に彼女がひょっこりと現れた。

「だって昨日此処のお店の名前が入った紙袋持ってたでしょ?」
「だからって…ただ買っただけかもしれないじゃないですか?」
「うん。だからダメもとで来てみたの。でもビンゴだった ♪ ♪ ふふ…」

……ちょっ…ちょっと待って…眩暈が…僕本当何かしたかな?

「…あ」
「鳴海さん!一緒に探して欲しい本があるんですけど…」
彼女に話し掛けようとした時お店の子に呼ばれた。
「あ…はい。」
「じゃあ今は帰るね。また後で ♪ 」

今は?また後で……?冗談じゃ無い…何なんだ?あの子は…?
こんな事をされる覚えが全く無くて…色々考えていたらその後の仕事は何だか上の空だった。



仕事を終えて裏口から表通りに出た。
早番で上がったけどもう夕方と言う時刻はとっくに過ぎてるいたし
あれから3時間は経ってたから…もういないだろうと思っていた…なのに…いたっ!!

「…うそ…?」
正面口から少し離れた場所で街灯の鉄柱に寄り掛かりながら空を見上げてる…
その横顔は待ちくたびれる様な素振りは無くて…何故だかとても愉しそうに見えた…

「…!!あ!鳴海さん!」

僕を見つけて走って来る。
流石に無視して避ける事は出来なかった。

「…ずっと待ってたんですか?」
「うん。あ…でもちょっとは離れたりしたけど…」
「…はぁ…男の子に絡まれなかったですか?」
「まぁ多少…ね。ああでも大丈夫。断るの上手いしそれに隆生の名前出すと
それっぽい人達は諦めてくれるし。」
「…あ…そうですか…」
やっぱりそちら系の方……

「…で?」

「で?」

「何で僕の事待ってたんですか?」
「……えっと…」

「相手の迷惑とか考えなかったんですか?」

「え…?」

「僕は迷惑です。職場まで来られて待ち伏せまでされて…
これはストーカーと思われても仕方ないですよ。
最初から言ってますけど僕はあなたとお付き合いする気ありませんし…
おじさんの事でしたら僕よりも警察に相談した方がいい…それか昨日の彼とか…」

「………」

一気に話してしまって大丈夫だったかな?でもこう言う事ははっきり言っておかないと…

「あたしが怖い?鳴海さん?」

「え?」
いきなり顔を覗き込まれてドキリとした。
良く見るとまだ幼さが残ってる…でも可愛い顔……って!違うだろっっ!!!

「だってあたしの事警戒してるみたい…」
「…そ…そんな事無いです…」
「そうかな?」
「子供相手が慣れてないだけです。」
「子供?あたしが?」
「……僕から見たら…です。きっと一回り以上歳違うと思いますしね…」
「…そうね…でももう身体は一人前の立派な大人の身体よ。」
「…!!!」
そう言って胸を強調された。
「わ…わかりましたから…途中まで送りますから帰りましょう。」
「ええっっ!!ここまで待たせといてさっさと追い返すの?」
「…!!…あの…僕は別に待っててくれなんて頼んでませんけど?」
「でも何か飲み物くらい奢ってよ。そのくらいいいでしょ?缶ジュースでいいから。」

「……………」

それくらいならと仏心を出したのが間違いだった。
炭酸が欲しいと言う彼女のリクエストに応えてサイダーを手渡した。

その途端…彼女が缶を激しく上下に振った。

「…え?」

僕は一瞬何の事だか分からず…
一体この子は何をしてるんだろう?とじっとその光景を見つめてた。

「カキッ!!」
「え!?」
結構な回数を振った後何の躊躇いも無く彼女がプルタブに指を掛けてフタを開けた。

ブ シ ュ ッ !!!

「!!…うわっっ!!!!」

当然の事ながら中身が噴水の様に噴き出して逃げる間も無く
頭から炭酸ジュースを2人で浴びた。

「…………ウソ……?」

ポタポタと頭から頬を伝って顎から滴がしたたり落ちてる。
僕は信じられなくて…目の前の彼女をまじまじと見つめてしまった。
彼女も僕と同じ様にびしょ濡れで顎から滴がしたたり落ちてる…
でも僕と違って顔には満面の笑みだ。

「き…君は一体…何のつもり…」

「シャワーと着替え…貸してね。鳴海さん ♪ ♪ ♪ 」

「はぁ?!」



呆れ半分怒り半分の僕の事なんてお構いなしに…彼女は微笑みながらそう言った。