04





「お礼…受け取って…鳴海さん…」

そう言って夜中に勝手に僕の寝室に入って来た彼女は
僕のベッドに四つん這いになったまま迫って来る…

どんどん顔が近付いて来て…露わになった胸の谷間もどんどん近づいて来た…

「いい加減にしなさいっ!!僕はそんな事望んでないし
女の子がそんな事するもんじゃありませんっ!!!」

そう怒鳴りながら彼女の重さを感じてた布団を思い切り押しのけた。

「きゃっ!!」

彼女が掛け布団ごとベッドの足元に手を付いて倒れ込んだ。

「……僕の家でそんな事許しません。それに僕がそんな事するとでも思ってたんですか?
バカにするのもいい加減にしなさい。
他の男の人は知りませんが女の子がいるからってイコール抱きたいなんて
僕は思ったりしませんから!」

一気にそう叫んで彼女を睨み付けた。
彼女はぺたりとベッドの上に座り込んだまま僕をじっと見てる。
きっと今までそうやって男の所に泊まってたのか…

「もう…この部屋から出て行きなさい…そして朝僕が起きる前に此処から出て行って下さい。
そしてもう僕の目の前に二度と現れないで下さいね!!」

「…………」

それでも僕の事をじっと見つめたまま動こうとしない…
ちょっとショックが大きかったのか?でも…
そんな脅したりとかしたわけじゃないと思うけど……


「……くすっ…」

「…!?」

今…彼女…笑った?

「何笑ってるんですか?」

「あなたがあたしに何もしないなんてわかってたわよ…」

「え?」
何だ?彼女は何を言ってるんだ??
「だからあたしはそれを確かめる為に此処に来たんだもん。」
「ええ?」
言ってる事が余計わからない…??
「逆にあたしの事抱こうとしたら思いっきり殴ってやろうと思ってた。」
「は?…え?言ってる意味が分からないんですけど???」

「これでハッキリした。」
「え?」
彼女の瞳がキラリと光った!?

「鳴海珱尓さん!!」

「…は…は…い!?」

「あたしあなたとお付き合いする事に決めたっ!!」

ビッと人差し指で思いっきり指を指された。
人を指差しちゃダメなのに…なんてトンチンカンな事を考えてる…

「え?決めたって??え?なに?」

未だに訳がわからない???

「今まで出会った男の中であなたがあたしの中の一番だって事!
ずっとどんな人なのか観察してたけどこんなにあたしの事親身になって
心配してくれる人はいなかったもん。大体の男はあたしが露出度の高い服で
近付くとすぐホテル連れ込もうとしたり押し倒そうとしたり厭らしく身体に触って
来たりしたのに鳴海さんは全然そんな事無かった。
見かけだけなのかと思って何度も挑発したのに全く私には手を出さなかった。」

「…え?あの服装とか…態度ってそれを確かめるためなんですか??
え?でも僕に会ったのはあの時が初めてですよね?」

「ずっと…鳴海さんみたいな人を…探してたの…
だからいつもあんな格好で街を歩いてたんだもん。」

「え?…ちょっと…待って…未だに頭の中が…纏まらないんですけど…」

僕は頭を押さえて考え込んでしまった。

「悩む事じゃないわよ…」
「…え?」
彼女がまた四つん這いで僕の方に移動して来た。
そのまま僕の目の前で止まる…
ベッドに起き上がって頭を抱え込んでた僕と同じ目線になった。

「鳴海さんの事が…好きになっただけだもん。」

「え?」

「 ちゅっ !! 」

「 !!!!!! 」

いきなり…キスされたっ!!!

「 あなたのことが…好きになったの ♪ ♪ 」


そう言って彼女が…今までで…一番の笑顔で僕に笑った。




「どうしたの?珱尓君?さっきから上の空だよ?」

お昼を近くのカフェで江里さんと一緒に取りながら僕はボーっとしてたらしい…

「…え?…いえ…昨夜から今朝にかけて変な夢を見たみたいで…」
「え?何?夢見が悪かったの?」
「はい…多分…」
「どんな夢?リストラされた夢でも見た?」
「ちょっと…縁起でも無い事言わないで下さいよ…
実はゆうべ成り行きで泊めてあげた女の子に夜中迫られて…告白されました。」
「へぇ〜〜リアルな夢だわね…」

「朝起きたら何事も無かったみたいに平然とご飯食べてるんですよ。
やっぱり夢ですよね…そう…夢に決まってますよね?
じゃなきゃ人にキスして平然としてられるはずないですもんね…はぁ……」

「…!!??ちょっと珱尓君?今聞き捨てならないセリフが聞こえたんですけど?」

「え?そうですか?」
「そうでしょ?しっかりしなさいよっっ!!珱尓君!!」
「え?」
「いくら彼女いない暦長いからってしっかりしてよ!
どうみてもソレってちゃんと女の子が実在するでしょ?」
「はぁ…確かに…」

「さあ詳しくお姉さんに話してみなさい!」


結局上の空のうちに昨夜の事を洗いざらい喋らされた…と言うか無意識に話してた?
それだけ僕のショックは大きかったと見える…


「一応相手は社会人なのね…」
「はい…多分ハタチくらいかな…」
「へぇ〜ハタチねぇ…えっ!?ハタチっ!!」
「はい…」
「じゃあ16も年が離れてるじゃない!?」
「だから信じられないんですよ…こんな僕の何処が良くて…」
「で?珱尓君はどう思ってるの…その子の事?」
「…どうって…まあ苦労してる子なんだなぁとは思いますけど…
僕としては恋愛対象外ですかね…やっぱり年が離れすぎてますし…
からかわれてるんでしょうか?」
「……う〜ん…珱尓君の財産狙いってわけでも無さそうだし…」
「当たり前ですよ…僕財産なんてありませんもん。」
「まあ年上ってのもブームらしいから…いいんじゃない?
別に不倫って訳でもないんだし…付き合っちゃえば?」
「え?もういい加減ですね…人事だと思って…」
「そう言えば珱尓君って今まで何人と付き合った事あるの?」
「え?僕ですか?えっと…高校の時と大学の時と…28の時かな?」
「え?じゃあもう8年も女性経験無し?」
「……何露骨な事言ってるんですか!
仮にも女の人が男に向かってそんな事言うもんじゃ無いですよ!」
「もう…珱尓君ってばホント真面目!そんなんだから相手に愛想つかされるのよ。
もっと軽く考えればいいのに…性格は良いんだからさ!」

「はあ……」

これって褒められてるのかな?けなされてるのかな?

「ねえ今度会わせよ。私が見定めてあげる。」
「え?……絶対面白がってるでしょ?江里さん…」

そんな顔してるし…すぐわかる…

「そんな事無いわよ。ふふ!」
「ふふって何ですか?ふふって…はぁ〜〜〜」


もう…本日何度目かわからない溜息を…僕は大きくついた……



「珱尓さんっ!お帰りぃ〜〜〜〜っ ♪ ♪ 」

「 わあぁっっ!!! 」

マンションの入り口の前でいきなり抱きつかれた!!

「え?愛理さん??」
「やだぁ『愛理さん』なんて!!愛理でいいのに!」
「ど…どうしたんですか?こんな時間にこんな場所で??」
「やぁね…珱尓さんの事待ってたんじゃない。」
「待ってたって…もう10時ですよ?危ないじゃ無いですか!」
「ありがとう。恋人の心配してくれるのね…嬉しいわぁ ♪ ♪」
「誰が恋人ですか!僕は承諾した覚えありませんよ!」
「いいも〜ん!いつかあたしの事好きって言わせてみせるから!
でも待ちくたびれちゃったから珱尓さんの部屋で少し休ませて欲しいなぁ…」

「…………」

ダメとも言えず…ちょっとだけと言う事で彼女を部屋にあげた。

「ありがとう。珱尓さん…ちゃんとお行儀良くしてるから。」
そう言って本当にソファでお行儀良くチョコンと座ってる。
「………暖かいのと冷たいの…どっちがいいですか?」
「暖かいのがいい。」
「じゃあコーヒー紅茶…ミルク…ココア…どれにします?」
「うわ…喫茶店みたい。じゃあ紅茶で…ミルクティーなんて出来ます?」
「大丈夫ですよ。」
「じゃあそれで…」
「はい。」


何だか今までとうって変わった彼女の態度…今日は年相応に見える…


「今日は短いスカートじゃ無いんですね?」
リクエストのミルクティーを渡しながら彼女の姿を改めて見てそう思った。
「だって今までは様子見の為だもの…
あたしだって好きであんな格好してた訳じゃないんですからね。
こう言うカジュアルなのが好みなんです!本当は!!」

そう言ってにっこり笑う…
そんな顔も今までとは違う…ちょっと幼げだ。
洋服も薄手の長袖のシャツにジーンズのズボン…それに…

「あれ?お化粧もしてないんですか?」
そんな濃く無かったけど確かお化粧もしてたはず…

「そうよ。あれも仕方なく…ね。」
「………どうしてそこまでするんですか?」

「どうして?そんなの決まってるでしょ…」

「……おじさんの所を出る為にですか?」
「それもあるけど……もう1人に疲れちゃったから……」
そう言って俯いてしまった…

「彼は?恋人じゃ無いんですか?」
「彼?ああ…隆生?恋人なんかじゃないわ。」
「え?そうなんですか?」
随分親しそうに見えたんですけどね…
「…わぁ!美味しい!珱尓さん紅茶淹れるの上手ね。」
「え?そうですか?」
「ねえ…珱尓さん…」
急に彼女が改まって僕を呼んだ。
「はい?」

「あの……今夜も此処に泊めてもらっちゃダメ?このソファでいいから…
もう夜中に珱尓さんの部屋に入ったりしないから……」

「…………」


好きだと…言われたからじゃない…キスをされたからでもない…
今までと違って…年相応にみえるこの子が…
今まで気が付かなかった幼さを僕に見せたから…
本当は…今までどれだけ心細かったんだろうと思う…

知り合う相手はみんな彼女の身体が目当てだったんだろう…
おじさんもそのうちの1人で…しかも離れる事が出来ないなんて…
頼みのおばさんはそんな彼女を疎ましく思ってる…
きっと家にいても心の休まる事なんてなかったんじゃないんだろうか…

今までそんな事を考えもしなかったのは…
この子が自分の事を何回りも大人に見せていたからで…

とても気が強くて…生意気な子だと思わせていたからだ…

だから……

「かまいませんよ…ちゃんと約束を守ってくれるのなら。」



    なんてそんな言葉が僕の口から零れた……