06





「その手を離して。」

彼女が真っすぐ彼を見つめて睨みつけてる。
驚いた事に彼が素直に彼女の言う事聞いて僕の掴んでいた手を離した。

「…ごめんなさい…珱尓さん…行くわよ…隆生!」

彼女がそう言って目線で合図すると彼が彼女の方に歩いて行って…
2人でそのまま帰って行った。

「……何だったんだろう…今のは?もしかして彼女って…ものすごい不良だったとか??」

いくら知り合いだからって…あんな男の子を黙らせられるものかな?なんて思った。


それに……僕が言った言葉は…彼女に聞こえたんだろうか……?



「……鳴海さん!どうしたんすか?」
「え?」
仕事中にぼーっとしてバイトの男の子に呼ばれたのに気が付かなかった。
「ああ…ゴメン…何?」
「お昼交代っすよ。鳴海さんもこれからっすよね?」
「ああ…うん…」

夕べ彼女は僕の所を訪ねて来なかった…
多少…気にはなったけどそれが普通で当たり前の事なんだ。

定番の何軒かのお店の内の1つのハンバーガーショプで
ハンバーガーセットのコーヒーを啜りながらぼーっとしてた。
何でこんな気分なんだろう…きっと思いの外彼女に振り回されていたんだ…
でもこれでやっと以前と同じ生活に戻れる…僕は何故かそう思った。

きっと僕が彼に叫んだセリフが彼女にも聞こえていたんだろう…
ちょっとひどい事をしてしまったかな…なんて思ったけどそれもそれで良かったんだと
自分を納得させた。


「少し早いけど…戻ろうかな。」
腕時計を眺めて席を立った。
夜とは違う顔を見せる街の歩道をゆっくりと歩きながらそういえば
初めて彼女に会ったのはこの通りだったな…
って…ああ…何だ?ちょっと重症かな?ほら彼に似た人まで見えてきた…危ない危ない…

「おい…あんた!」

「…!?…え?」
「ちょっと時間あるか?」
「…え?」

なんだ…本人だった。



「昨日は悪かったな…つい感情的になっちまって…」
「いえ…」

何だろう…随分大人しいな…まさか彼女に『締め』られたとか?

「あの…」
「あん?」
「あなた…彼女とどんな関係なんですか?恋人…?」

彼女は否定してたけど…

「あいつから何も聞いてないのか?」
「あ…はい…」
「…俺とあいつは双子の姉弟だよ。」
「双子!?姉弟ですか?」
「二卵性の双子だからな…そんなに似てないだろう。
この年になっても姉貴には頭上がんないんだよ…」
そう言ってバツの悪そうな顔で笑った…そんな顔は年相応の青年の顔だ。
「姉弟ですか…」
びっくりした。
「ただ俺達が10歳の時に親が離婚してあいつは親父に俺は母親に引き取られて
親の手前ほ大っぴらに会えなかったけど…時々会ったりはしてたんだ。」

離婚…
あれ?事故で2人共亡くなったんじゃ…無かったんだ。

「あいつが中学の時親父が女作ってあいつ置いていなくなっちまったから…
お袋は俺育てるので一杯一杯であいつ引き取る余裕無くて…
あいつは親父の親戚を転々としてたんだよ。」
「それでおばさんの所に?」
「何だ聞いてるのか?」
「少し…ですけど…」
「とんでもない夫婦でな…あいつも落ち着いていられなくて…」
だろうな…

「3ヶ月前から俺の所にいるんだ。」

あれ?じゃあ今はあのおじさんの家に居るわけじゃないのか…
騙されてたけど…ちょっと安心した。

「じゃあ今はお母さんと3人で?」

「いや…俺もあいつの事とかでお袋とぎくしゃくし出して…
まあそれだけじゃなかったんだけどそれで家飛び出しちまって…こうだ。」

そう言って自分を指差した。
そう…グレちゃったんだ…

「でも君となら彼女も…」

「それが俺も女の所に置いてもらってる身でよ…もう限界なんだよな…」

「え?」
それって……じゃあ彼女は?

「一応バイトしてっけどやっぱキツイらしくてな…
本人は大丈夫だって言ってんだけどあいつ等の所に帰る訳ねぇし…」
「……!?」
彼が真っすぐ僕を見つめてる?!

「あんたに頼みがあるっ!」

「え?」
あ…いや…なんか嫌な予感が……

「ちょっ…ちょっと…待っ!!」

「あいつの…愛理の面倒みてくれねぇか!!」

ほら!思った通り!!

「ちょっと落ち着きましょう。そんな大事な事…本人抜きで…しかもこんな場所で…」
「あいつは絶対そんな事言わねぇから…でもあいつ初めてなんだよ…
あんなに楽しそうで嬉しそうなの…」
「……いや…それは…」
「ずっと1人でよ…あいつは心を許せる相手ずっと捜してたんだよ…」
「でも…それは僕じゃ…」
はっきり言わなくちゃ…

「頼む!あんたならあいつを任せられる!真面目で女にも手が遅そうだし!!」

「…は!?」
ちょっとそれは失礼じゃないんですかね?

「なっ!!」
そう言ってすがる様な眼差しで僕を見るとガシッと手を握られた!

「…ちょっと!!」
ニッコリと笑顔まで付けられた…


嘘……こ…これは………悪夢だ……!!