11





晴天に恵まれて最高のお見合い日和…
定番のお互いの家族紹介と相手の紹介と…当たり障りの無い会話の後…

『後は若いお2人で…』

なんて事になり…
僕は若くは無いんですけどね…なんて心の中で呟いていた。

相手は『富田 千紘』さん22歳大学4年生で写真の通りの女の子。
明るい色の着物が似合ってて上げた髪も似合ってる。
ホテルの庭園を2人で歩きながら久々に着たスーツとネクタイが気になっていた。

「そういえば僕の写真ってどんなのでした?」

お見合い用に撮った記憶が無いから一体どうしたんだろうと気になってた。

「普通のスナップ写真でしたよ。私服姿でしたけど。」
「そうですか…」
多分大分前の写真を使ったんだろう…全く…

「でもお若いのになんでお見合いなんか?」
ずっと気になってたから思わず聞いてしまった。

「………」

あ…!もしかして聞いちゃいけない事だったのかな?

「鳴海さん…」
「はい?」
「鳴海さんも親に言われたから今回のお見合い受けたんでしょ?」
「!?」

今までの物静かな大人しい感じは一瞬で無くなった……

「はぁ〜〜苦しいったらありゃしないわ!こんな着物成人式だけで十分だっての!」

「…………」

「お見合いなんてしたいはず無いでしょ?まだ22よ?」
「じゃあナゼ?」
「…大学入って遊び過ぎちゃって。あ!単位はちゃんと取って留年はしてないわよ
そしたら親が怒っちゃって…このままならあたしに一銭もお金出さないって喚かれて…
お見合いでもして婚約でもすれば少しは落ち着くだろうって…
ホント単純なんだから!だからお見合いするしかないじゃない?
するだけでとりあえず満足するんだもの。結果がどうであれ…ね?」

「はあ……」

「あなただって同じでしょ?親が満足する為にお見合いOKしたんでしょ?」
「まあ…そんな所です。」

何だかホッとした…相手も同じなら僕も気が楽だ。

「………でもお見合いなんて…って思ってたんだけどぉ〜〜年上もナカナカいいもんね。」
「は?」
彼女が僕の顔を覗き込んでニコッと笑った。
「もっとオヤジ臭いかと思ったけど…結構イケてるわよ。貴方!」

「!!!」
嫌な感覚が身体を走った…このパターンは愛理さんの時に似ている!!

「…ちょっと…待って下さい!!」
僕は思いきり焦る!

「ねえ…お互い協力しない?」
「え?」
「だってこれでこのお見合いが上手くいかなかったらまたお見合いさせられるのよ?
冗談じゃないわよ。だから…」
「だから?」

「お互い気に入ったって言う事にして付き合ってる振りするのよ。形だけ!
そうすれば親は黙るしお見合いもしなくて済むでしょ?ね!コレ名案だと思わない?」

本当に名案だと思ってる顔だった。

「本当にそう思ってるんですか?」
「え?」

「申し訳ありませんけど僕はその提案に同意する事は出来ません。」
彼女をまっすぐ見つめてそう答えた。

「…………やぁね…やっぱりおじさんだわ!何真に受けてんのよ。」
バツが悪そうにプイと横を向かれてしまった。
どうやら怒らせてしまったらしい…

「そうですか…それならいいんですけど…
確かに煩わしいかもしれませんが親のする事ですから…
多少目を瞑ってあげてもいいんじゃないですかね。
…なんてこの歳だから言えるのかもしれませんけど…
千紘さんももう少し真面目に色々な事を考えてみたらどうですか?
結構後で後悔するものですよ…僕もこの歳になって後悔する事ばかりで…
学生時代にやっておけば良かったって思う事沢山ありますしね…
って遊びの方じゃ無いですよ!!…その…真面目な話の方で…」

「…………」

うわぁ〜〜彼女が呆れた眼差しの余計なお世話的な目で僕を見てる…
江里さんが言ってた様に…僕も年下相手だとお説教になるんだな……
最近そんな年頃ばかりの子と接する事が多いからか…そう感じる…

歳も感じる……


「そう言う風にヤンワリ来られると結構堪えるのよね。」
「はい?」
「親って言うのもあるけど頭ごなしにガミガミ言われると余計反発したくなるわけ!
他人って言うのもあるんだろうけど…貴方みたいに言われるとそうかなぁ〜
なんて思っちゃうわけよ!」
「はあ……」
良く分からないけど僕の言う事をちょっとは理解してくれたのかな??

「あな…鳴海さん此処に住んでるんじゃないのよね?」
「はい…生活は東京です…」
「…………ふ〜ん…そう…」
「え?何ですか?」
「ううん!まあ最初のお見合いにしてはまあまあだったわね。」
「…………」
「このまま鳴海さんと初デートと行きたいけどこの格好じゃ苦しくて無理だわ。」

「え?」
今…僕と『初デート』って言いました??

「改めて鳴海さんのお家にお邪魔させて頂きますので!
その時は案内の方宜しくお願いします。」

そう言って頭を下げられた!!??

「えっ!?ちょっと待って下さい!!断って頂けるんですよね?さっきそう…」
「さっきはさっき!時代は刻々と動いていくのよ!鳴海さん!」
「ええ??」
「感じちゃったんだ!」
「な…なにをですか?」
聞くのも怖い気がするけど…聞かないわけには……

「鳴海さんが私の運命の人だって ♪ ♪ 」

「ええっっ!!!こっ…困ります!!僕はお断りするつもりで…」
「別に構わないわよ。あたしが勝手に追い駆けるだけだから!」
「それも…困ります!!僕はあなたとお付き合いする気なんて…」
「だからあたしが勝手にって言ってるでしょ?鳴海さんは気にしなくていいわよ。」

「気にしますよっっ!!!!」

なんで………なんでこうなるんだ???



「ありがとうございました。」

バイト先で帰って行くお客さんに頭を下げながら
さっきからお店の時計を見るのが今日の日課になってる。

今は午後の1時半……
今頃珱尓さんお見合いの真っ最中なのよね……

キュッと唇を噛み締めた。
引き止める事も出来なかった…
まあ親の言う事だしまだ珱尓さんと付き合ってるわけでもないし…

はぁ〜〜〜あ……
一体いつになったら振り向いてくれるのかな……

キスだって何だかんだ理由をつけてこっちから強引にするばっかりで…
珱尓さんからは1度もしてくれないし…

その気にならないのかな??
あたしってそんなに魅力無いかしら??
思わず自分の身体を上から下まで眺めてしまった。

でも珱尓さんにお色気作戦は裏目に出るし…
すがる様に迫ると邪険にはしないけど…保護者オーラ出まくるし…

1人の…異性として見てくれないかなぁ……
キスも本当に子供の…挨拶程度のキスとしか思ってないもん…

あたしがこんなに好きってアピールしてるのに……なかなか手強いのよね…はぁ…

昨夜は珱尓さんのベッドで眠った…
流石に布団の中に入れなくて…(珱尓さんに怒られる気がして…)
自分の布団に包まって…ベッドの上で眠った。

淋しくて…会いたくて…珱尓さんを感じたくて…
早く会いたいよ…珱尓さん……

そう思いながらもう何度目かの時計を見た…
あれから5分しか経ってない…確か夕方には帰るって言ってたっけ…

お迎えは学校があるから行けないし…だから授業が終わったら速攻で家に帰る!!!!



「何ソワソワしてんの?浜南さん?」

隣の席のあたしよりちょっと年上の『東海林さん』が不思議そうにあたしに聞く。

残す所授業があと1時間になった所であたしはソワソワのウキウキで…
だってもう家に帰れば珱尓さんが部屋にいるんだもん ♪ ♪

7時頃家に着いたってメールが来たからそれは絶対なの!!

「人に会うの!」
「恋人?」
「んーー近いかな?」
「へぇ〜〜最近服装が変わったのってその人のせい?」
「そんな所!」
本当は元々今のカジュアルな格好が好きだったけど
事情があって派手な服を着てたから皆急に今の服にしたら驚いてたっけ。
「いいわねぇ〜」
「東海林さんは?」
「募集中!なかなかいい男はいないわよ。」
「そうだね…あたしもやっと見つけたんだもの…」
「そうなんだ…上手くいくといいね。」
「うん。頑張る!」

そう…絶対珱尓さんを振り向かせるんだから!!頑張るもん!!!



「浜南!」

「え?」

速攻で帰ろうとしたら昇降口で声を掛けられた。
同じクラスの『大多喜 竜二』だったっけ?
今時の男の子で確か歳は21だったっかな?ガソリンスタンドで働いてて…
ちょっと突っ張ってるような所があって…
時々教室で話した事があるけど最近はあんまり話さなくなった。

こっちのあたしより派手な服のあたしの方が気になってた男…
だから相手にしてなかったのよね…

「なに?急いでるんだけど?」
「ちょっといいか?」
「今じゃないとダメなの?」

思わず冷めた言い方になる…だってなんで今日の今??
急いでるのわからないのかしら??

「すぐ済む…」
「……………」

仕方なく廊下に戻った。

「なに?」
「お前さ…」

お前??なんであんたにお前なんて呼ばれなきゃいけないのよっ!!
なんて更にムカッときてた。

「俺と付き合わね?」
「は?」

いきなり何言い出すんだろ?この男は??

「俺さ…今月で学校辞めんだ…やっぱちょっと自分的に無理みたいでよ…」
「それがあたしに何の関係があるの?」
「……相変わらずキツイな…だから…そしたらこうやってお前とも会えなくなるじゃん…」
「あたしは別に何とも思わないけど?」
「………考える…余地も無しって事か?」
「そうね。あたし今好きな人いるから。」
「でも…まだそいつと付き合ってはいないんだろ?
お前の事相手にしない男なんて放っといてよ…俺と付き合えよ。
俺なら今すぐにOKなんだぞ!」

「…………」

呆れて…何も言えない…何なの?コイツは!!!

「悪いけどあんたと付き合う気なんて無いから!こっちは本命なのよ!だから邪魔しないで。
話はそれだけ?じゃああたし急ぐから。学校辞めても頑張りなよ…じゃあね。」

「おい…」

そんな声にも振り向かずサッサと学校を後にした。
もうあたしには珱尓さんの顔しか思い浮かばない…早く会いたい!!


「珱尓さん!!」

勢い良くリビングに飛び込んで名前を呼んだ。

「おかえりなさい。愛理さん…」

「…………」

いつもの…昨日出て行ったままの珱尓さんの笑顔が出迎えてくれた。

「うわっ!」

ガバッと珱尓さんの胸に飛び込んで珱尓さんをギュッと抱きしめた。
「ちょっと…愛理さん…苦しいです…」
「あたしだって珱尓さんに会えなくて苦しかったんだから!お相子でしょ!!」
「何ですか?それ?」
「いいの!しばらくこのままでいて…お願い…」
「…………」

前と違って珱尓さんはあたしを引き離したりはしなくなった…
ちょっとは進歩してるなかな?
それとも更に子ども扱いが進歩したのかな??そうだったら嫌だな…

でも…今は…そんな事いいや…

ギュウっと腕に力を込めた。

「痛いですって…愛理さん…でも何事も無かったみたいで良かったです。」
「……連絡欲しかった?」
抱きついたまま珱尓さんを見上げた。
「連絡の無いのは何も無い証拠ですから。」
「そう?あたしは珱尓さんからメールくらいは来るかなって思ってたのに…」
「すみません…実家で酔い潰れてしまって…」
夕飯の後兄に勧められて思わず飲み過ぎちゃったんですよね…
「寛いでたのね…」
「はあ…一応自分の実家ですからね…久しぶりでしたし…」
「いいわ…許してあげる。」
「はあ…僕も愛理さんからメールくらい来るかなぁって思ったんですけど…
大丈夫だったんですね。」
「もしかして待っててくれたの?」
「そう言う訳では…」
「……もう子供じゃありませんから!それに恋人でも無いし…でしょ?」
「別にそんなに意固地にならなくても…」
「いいわよ…もう…そんな事よりお見合いは?」
「はい…まあ滞り無く済みましたよ。」
色々ありましたけど…
「ちゃんと断って来た?」
「親にはちゃんと伝えましたよ。今日お断りの連絡するのも失礼ですから
近いうちにちゃんとするんじゃないですかね。」

両親にはちゃんと初めからの約束で断る様に伝えてきた。
彼女の方も最後はちゃんと断ってくれると約束してくれたし…

ただ…一抹の不安が過ぎるのが否めないんだけど…
彼女の…あの態度…
お見合いは断るって言ってたけど僕の事は気に入ったの一点張りで…

本当に大丈夫だろうか……?
不安なんですけど……


「相手の子可愛かった?」
「え?まあ写真通りの人でしたよ。着物も似合ってましたし。」
「……そう?」
「何ですか?」
「別に…もう二度と会う事なんて無いんでしょ?」
「はい…多分…」
「多分って何??どう言う事なの?珱尓さんっ!!」
あ…失言!
「いえ…もう…無いです。はい…」
「本当?」
「本当です。」

「じゃあそう言う事にしてあげる…お帰りなさい珱尓さん。」

そう言ってニッコリ笑ってくれた…だから僕も

「ただいま愛理さん。」

って答えた。