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「………えっと……」

「……………」

愛理さんが富田さんに締め出されソファで寝るには布団も無し…
しかもその原因は僕のお断りしたお見合い相手で……

ソファで寝せるなんて申し訳ない………なんて思ったらつい…

『一緒に寝るわけにはいきませんし……』

なんて口走ってしまって…
そこでソファで…なんて言えなくなってしまった…



さっきから僕の部屋で2人…閉めたドアの前で動こうとしない。
きっと愛理さんは平気な様な気もするけど…
僕が動こうとしないからどうする事も出来ないんだろう。

「……………」

本当に…これしか方法は無いのかな???
でもどんなに呼んでも富田さんは返事をしないし鍵も無い…ドアを蹴破る訳にもいかず…
しかももう深夜と呼べる時間だから騒音を立てる訳にもいかないし…
ベランダから…なんて思ったけど僕の部屋からは繋がってないし…
ガラスを割るわけにもいかないからやっぱりお手上げか…

「ああ!僕がソファで寝ればいいんですね!」

名案だ!

「じゃああたしも一緒にソファで寝る。珱尓さんの掛ける布団無いし。」
「……………」

それじゃあ意味が無いじゃないですか……
「はぁ………いつまでもこんな事してても仕方ありませんから…寝ましょうか。」

また諦めだ。
最近…特に今夜は諦めが多い……

「本当にいいの?」
案の定愛理さんは何気に嬉しそうだ。
「場合が場合ですから…なるべく離れて寝ますから。」
「え?なんで?」
「何ででも…です!!」


「……………」
僕はちょっと緊張。
「珱尓さんのベッドちょっと大きい?」
「あ…セミダブルですから。背だけは大きいんで…」
「丁度いい沈み心地。ふふ…」
「そうですか?結構使い込んでるんですけどね…」
「それにあったかい。」
「……はぁ…」

背中を向けて寝るのも何故か失礼かな…なんて思って…いつもは左を下に寝てる。
それが僕の寝る時のクセらしいんだけど今夜は意識して上を向いた。

いつもの様に寝たら愛理さんの方を向く事になるから………

「珱尓さん…」
「はい?」
「8年前に付き合ってた人も…このベッドで寝た事あるの?」
「え!?…え?あ…いや…それは…」
「あるんだ…あるよね…大人の男と女だもん。」
「愛理さん…あの…そう言う話は…この状態では…」

別にだからってその気になるとかじゃないけど…
何だか色々想像されてそうで恥ずかしいと言うか…

「いいじゃない。こう言う時じゃないとそんな話聞けないもん。」
「………いやぁ……」
「ねえ…珱尓さん。」
「はい?」

「やっぱり女の子は自分が初めての子じゃないと…なんて思う?
自分以外の男の人知ってるなんてって…」

「え!?」

随分ストレートな話になってきましたね…こ…これはどう答えたらいいんでしょうね…
多分自分を引き合いに出してるんでしょうか…
これは…慎重に言葉を選ばないと……


「いえ…別にそんな事は思ってませんよ…年齢や人生経験なんかで変わってくるだろうし…
現に8年前付き合ってた女性は僕が初めてではありませんでしたし…」
「そうなんだ…じゃあ逆にもし珱尓さんがその女の人の初めてになったとしたら?」
「え?僕がですか?」
「責任感じる?」
「……ん〜〜…どうでしょう?そう言う状況になるとしたらお互いがって事でしょうから…
そう責任を感じると言う事は無いかもしれませんけど…
でも僕から求めてしまって…相手が初めてだったら責任感じてしまうかもしれませんね…
実際そうなった事ありませんからわかりませんけど。」
「ふ〜ん…そっか…」
「男より女性の方がそう言うの気にするんじゃないですか?」

思わず愛理さんは?
……と聞きそうになって思い止まった。
そんな事聞いちゃいけないのに…

「そうね…まあ女の場合も人によりけりなんじゃないかな…
最悪な男ならサッサと忘れたいもんよ。」

「サッサとですか……」
忘れたいのかな?なんて思ってしまった。

「さあ…もう寝ましょう。明日が辛くなりますよ。」
「はぁい…でももっとこうやって珱尓さんと話してたいなぁ…
だってこんな事滅多に無いもの!!」

いえ…もう2度と無いと思いますよ…そう心の中で呟いた。

「あ!2度と無いとか思ってるんでしょ?」
「え?あ…いや…でも何度も何度もこんな事があったら困ります。」
「あたしは大歓迎なのに…」
「まさか2人で僕を嵌めたんじゃ無いですよね?」
「そんな事しないもん!そう言う事珱尓さん嫌いってわかってるから…そんな事しない…」
「あ…すみません……疑ったりして…」
「ううん…仕方ないよ。あたし前科有りだから。」
「……もうあの時の事は気にしてませんから…」
「……うん…」

「おやすみなさい…愛理さん。」

「おやすみなさい…珱尓さん……」


それからしばらくは眠れなかった…
いつもと違う雰囲気と寝方とベッドでの位置と…何もかも気なる…
愛理さんは全く気にしてる様子も無く…思った通り僕の方を向いて寝てる…

どのくらい経っただろう…
ウトウトもしてたし…きっとあんまりにも長い時間気にしすぎて無意識に寝返りをうった。
いつもの…愛理さんが眠ってる方に!!!

しまったと思った時には遅くて…
かといって直ぐにまた反対に寝返るなんて何故か気になって出来なくて…
仕方なくしばらくそのままでいようと決めた。

なにもこんなに緊張する事なんて無いのに…って自分に言い聞かせてた。
眠気といつもの自分の寝方のせいか落ち着いてさっきよりも睡魔が襲う…

流石にもう限界?
夢うつつの状態で愛理さんが動いたのが分かる…僕を…見てる?


珱尓さんがあたしの方に寝返りをうって…あたしに向かい合った。
一緒に寝れるだけでも嬉しくて心臓がバクバクだったのに…
こんなに近い位置に珱尓さんがいるなんて……

触れてはいないけど珱尓さんの温もりが伝わってくる…
ああ…幸せ…

もっと寄り添えたら…もっと幸せなのに…

だから寄り添ってみた。
珱尓さんはもう眠ってるみたいだし…ちょっと胸に頭を近付けてみた。
もっともっと…近付けてみたら…珱尓さんの胸に頭がちょっとだけぶつかった。
だからちょっとだけ手を近付けて…珱尓さんのパジャマを掴んでみた。
自分の胸の前にあった手は…珱尓さんのパジャマの前をほんのちょっとだけど掴めた。
だから珱尓さんのパジャマを掴んだまま…ゆっくりと顔を上げたら…
目の前に珱尓さんの唇があったの…

だから…ちょっとだけ伸びをしたら…
珱尓さんの唇に…あたしの唇が届いて……だから掠める様な…キスをした…

おやすみなさい…珱尓さん…大好き…


愛理さんがだんだん僕に近付いて来てたのは気が付いていた。
だからってあからさまに拒否反応をするのも悪いかな…なんてジッとしていた。

たしかにシングルよりは広いベッドでもやっぱり狭いのかな…なんて思ったし
いくら僕でも(?)男と一緒なんて気にならないわけがないと思ったからで…


でも…そっと近付いて来る愛理さんが掠める様に僕にキスをしたのには驚いた…

でも僕は……眠ってる振りをして…目を明けなかった。


「あら鳴海さん寝不足?」

「…………富田さん…」
「おはようございます。鳴海さん。」
嫌味なまでの爽やかなニッコリ笑顔だ……
「おはようございます。富田さん!ゆうべの事じっくりと僕が納得いく説明をしてもらいましょうか。」
僕もニッコリと爽やかな笑顔で挨拶を返した。
「あらお2人の仲を深めて差し上げたんですよ。」
またニッコリ笑顔で返された。
「あのですね……」
「彼女嬉しそうじゃない。」
「は?」
そう言って僕の代わりに植物にお水をあげている愛理さんを見る。
僕もつられて視線を向けると本当に嬉しそうに微笑んでる…

「あの子本当に鳴海さんの事が好きなのよ。」
「……………」
「鳴海さんの事だからわかってるんでしょ?」
「……告白されました。」
「へぇ〜なのに付き合ってないんだ。しかも一緒暮らしてるのに?」
「暮らしてると言うか…色々事情があるんですよ…愛理さんには…
だから放っておけなくて……大分歳も離れてますし…
親心みたいなものでウチに下宿を勧めたんです。」
「ふぅ〜ん…親心ねぇ…」
「保護者の代わりです。」
「そうやって自分の事押さえるストッパーにしてるんだ。」
「はい?」
「もしかして鳴海さんが1番分かってないとか?」
「何をですか?」

「あの子の事が気になるって事!もちろん恋愛感情の方よ。」

「そ…そんな事無いですって…本当にそんな下心無く…」
「ホント男の1人身は鈍いわねぇ…自分のそんな恋愛感情までわからなくなるのねぇ〜…」
「って話を逸らさないで下さい!」
「逸らしてないわよ。正直に話したじゃない。2人の仲を深める為よ。」
「…………」
僕は呆れて…何も言い返せない…
「もう…二度としないで下さいよ。」
それだけ言うのが精一杯…何だか情けない…
「そうねぇ…後は鳴海さんの手腕次第かしら?今までの恋愛経験がモノを言うんじゃない?」
「か…関係ありませんよ。そんなの…」
「そう?まああたしがいる後2日間で進展してくれると楽しいんだけどなぁ〜」
「進展なんかしません!これ以上も以下もありませんから。」
「へぇ〜以下は無いんだ。」
「……………」

もう…ああ言えばこう言う……



「あはははは…」

仕事が終わって部屋に戻ると玄関を入った途端に富田さんの笑い声が聞えた。

「楽しそうですね。」
「あ…お帰りなさい珱尓さん。ごめんなさい…気が付かなくて…」

普段は愛理さんが先に帰ってると僕が玄関を開ける音を聞き付けて
開けた瞬間ニッコリと笑って僕を出迎えてくれる。

『 お帰りなさい。珱尓さん。 』 って…

「お帰りなさい鳴海さん。」
「少しは会社探せたんですか?」
「今の所偵察中って所かな…実際のお店見たり店員さんの態度見たり…」
「一体どんな仕事探してるんですか?」
「アパレル関係。」
「へぇ…」
「やっぱり都会は違うわよねぇ…」
「2人共食事は?」
「済ませたわよ。」
「じゃあ紅茶飲みますか?僕淹れますけど?」
「珱尓さんの淹れてくれる紅茶美味しいのよ。」
すっかり仲良くなったらしい…歳は近いんだし当たり前か…
それに何気に僕への後押し協力してるみたいだし……
「じゃあミ…」
「種類はこっちのお任せね!ほら珱尓さん…あたしも手伝うから。」
「…?」

僕の言葉を遮る様に背中を押してキッチンに押し込まれた。



「じゃあ愛理さんと同じミルクティーで良いですかね?」
紅茶の缶を取り出しながら愛理さんに聞いたら…
「ダメ!」
って即答でダメだしされた。
「え?」
「珱尓さんのミルクティーはあたし専用なの!他の誰にも飲ませちゃダメだから!!!」
「…だからさっき僕の言葉遮ったんですか?」
「そうよ。」
そう言って照れ臭そうな顔で僕から視線を逸らしてカップを弄ってる…だから…
「…………くすっ…」
「あ!何?なんで笑うの?」
「いえ……そんなに気に入ってもらえて光栄です。」
そう言って頭をペコリと下げた。
「だって…あたしにとって珱尓さんのミルクティーは特別なんだもん…」
「特別…ですか?」

「そう…ここで…初めて珱尓さんがあたしに淹れてくれた紅茶だから…」

「…………愛理さん…」


本当は…

照れ臭そうな顔で…カップを弄ってた愛理さんが…可愛いいなって思ったから………