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どうも昨夜からおかしい…
「どうしたの?珱尓君なんか心此処に非ずって感じよ?」
「え?」
いつものランチタイムで真正面に座って僕の顔を覗き込みながら江里さんが
疑いの眼差しを向けてる。
「……いや…なんでしょう…なんか若い子のパワーに押されっぱなしと言うのか…」
「ああ…あの子?」
「いえ…愛理さんは別に…もう一人の方が……」
「もう一人?」
「あ!」
そうだった…江里さんにはお見合いの事話してなかった………
「白状しなさい!!」
「……………」
結局洗いざらい話させられた。
「へぇ〜〜〜それはそれは大変ねぇ〜」
「あ…なんですか?その言い方…話せって言うから話したんですよ。」
「もう羨ましい限りだわ。」
「江里さん…」
「きっと珱尓君の恋愛運今がピークなのよ!」
「今がピークってこの先は無いんですか?」
「どんだけ若い子に好かれてると思ってるのよ!
そう何度も何度もあってたまりますかっ!こっちの恋愛運が下がるじゃない!」
「どんな理屈ですか…」
結局最後はいつもこんな感じで…僕が責められて終わる。…はぁ…
「何だか悪かったわね。お見送りまでしてもらっちゃって。」
「いえ…無事に帰る所見届けないと安心出来ないので。」
「やぁね…相変わらず信用されてないわけ?ああ!心配性なんだっけ?」
駅のホームで富田さんを見送りに来てる。
ゆうべは何事も無く平凡な夜を迎える事が出来てホッとした。
「愛理ちゃんもワザワザありがとう。バイト大丈夫だったの?」
「お昼休みちょっと多めに取っただけだから大丈夫。
それにあたし真面目だから融通聞いてもらえるの ♪ 」
「へえ…なぁんて本当はあたしと鳴海さんの事が心配だったんでしょ?
あたしが最後に手を出すんじゃないかって?」
「え!?」
「まぁ…多少は…」
「そんな心配いりませんよ!もう…」
「フフ…愛されてていいわね ♪ 鳴海さん。」
「ですから……」
「愛理ちゃんあと一押しよ!」
「………富田さん…いい加減その勘違いどうにかして下さい。」
「勘違いって思ってるのは鳴海さんの方なのよ!自覚しなさいよ!!」
最近ずっとこんな風に言われっ放しだった……
「就職の方は?」
「色々情報仕入れたわよ。やっぱり直接お店見れるのっていいわよね。
パソコンでも見れるけどやっぱり実物の方がわかりやすいし…色々聞けたしね。
だから今度こっちに来た時はまたお邪魔させて頂きますので。
ヨロシクネ!保護者様 ♪ ♪ 」
「ちゃんとご両親の許可と前もって連絡頂ければ構いませんよ。」
「本当?やったぁ〜 ♪ ありがとう。鳴海さん!」
その時発車の音楽とアナウンスが流れた。
「じゃあ…突然押し掛けてスミマセンでした。元気でね…2人共。」
「富田さんも…ご両親にも宜しく…」
「は〜い。なんかお見合いダメになったのに変なの。ふふ…」
「楽しかった…また来てね。」
「あたしも楽しかったよ。愛理ちゃんも元気でね…もっと迫っちゃいなよ!」
「余計な事言わないで下さい!!」
「はは…じゃあね!!」
元気一杯な富田さんは沢山手を振って帰って行った。
僕と愛理さんは電車が見えなくなるまで見送った…
「帰っちゃったね…」
「はい…元気な人でしたね…」
「……やっぱり…淋しい?あの人がいなくなって…」
「淋しいとは思いませんけど…きっと今夜から部屋の中が静かだろうなぁ…って」
「やっぱり…珱尓さんはああ言う明るい人がいい?」
「え!?……いえ…そう言う意味ではなくて…いつも愛理さんと2人で仄々と
生活してるじゃないですか…だからあんまり騒がしいのって僕疲れてしまって…
昔から騒がしいのってちょっと苦手で…のんびりと紅茶飲みながら読書してたい性質なんで…」
「珱尓さん…」
「はは…つまらない男ですから…インドア派なんですよね…」
「……あたしとは…疲れないの?」
「え?愛理さんと…ですか?」
「そう…もう大分経ったでしょ?珱尓さんの所に来て…」
「そですね…疲れるなんて思った事無かったですね。
逆に夜仕事から帰って来て玄関で出迎えてくれる人がいるって言うのが嬉しいって言うか…
ホッとするって言うか……灯りの点いてる部屋に帰るって言うのがいいかな。」
そう言って珱尓さんがにっこりと笑った。
「……嬉しいな…珱尓さんにそんな風に言ってもらえると…ふふ…」
「そうですか?なら僕もお話出来て良かったです。」
「……うん…」
「さあ…もう行きましょうか。そうだ愛理さんまだ時間大丈夫ですか?」
「うん…まだ平気。」
「じゃあちょっと何処かでお茶でも飲んで行きましょうか?」
「え?本当?珱尓さんは平気なの?」
「はい。」
「行く!行く!何処にでも行く!!」
「ですから喫茶店ですって…」
そんなに喜んでくれるなんて…思いませんでしたよ…愛理さん。
「いやぁ〜ん…幸せ。」
「……はは…」
駅から程近いデザート中心のお店に入った。
見た目本当に若い女の子の好むお店で僕にはちょっと恥ずかしさが込み上げるけど…
愛理さんが此処のお店の苺のタルトが食べたいって言うリクエストだったから。
「そんなに美味しいですか?」
「ケーキも嬉しいけど珱尓さんとこうやって向かい合って座ってる事が幸せなの ♪ ♪」
「はい??」
「だって珱尓さんとこうやって外でお店に入るなんて初めてなのよ!デートみたい ♪ ♪」
とっても嬉しそうに笑う愛理さんだけど…デートじゃないですから……
流石に本人には言えなかったけど…
「そう言えば愛理さんとは外で食事した事も無かったですね。」
「なかなか時間合わないし…夕飯も殆んど2人別々だもの…仕方ないよ…」
「今度休みが合ったら外食でもしますか?」
「え?」
「愛理さんが良ければですけど。」
「…いい…いいです!!大丈夫だから!!
あたしが珱尓さんの休みに合わせる!!合わせてみせる!!」
「……そんな意気込まなくても…バイトのシフトって今度いつ出すんですか?」
「今度の日曜。」
「じゃあ……来週の土曜の夜を空けて頂けると大丈夫かな?」
「本当!!わかった!ちゃんと休み入れる!!」
「じゃあ来週の土曜日で。」
「うん!!!」
「…ふふ…ふふふ…」
「どうしたんですか?」
「だって…嬉しいんだもの…デートよ!デート!!!珱尓さんと初めてのデート!!」
お互いの職場に向かって歩いてる間愛理さんはずっとニコニコだった。
「約束破らないでよ!!珱尓さん!!」
「破りませんよ。何が食べたいか考えておいて下さいね。」
「わかった。…あの…珱尓さん……」
「はい?」
急に愛理さんがしおらしくなって僕に話し掛ける。
「あ…あの………あの信号でもう別々の方向じゃない…」
愛理さんが2つ先の信号を見てそんな事を言い出した。
「はい…そうですね…僕は愛理さんとは反対の方向ですから…それが?」
「あ…えっと…だから…」
「はい…」
「あの信号まで…手を繋いでも……いい?」
「 !!! 」
最後の方は小さな声で…聞えないくらいだった。
「……構いませんよ。僕なんかでいいんですか?」
「いいに決まってるでしょ!!!珱尓さんがいいの!!」
「…はいはい…」
「……本当に…いいの?」
不安そうな顔で愛理さんが僕を見上げてる…
「?…愛理さんって時々わからない時がありますね。」
「え?」
「手を繋ぐより大胆な事たくさんしてると思うんですけど…手を繋ぐ方が恥ずかしいんですか?」
「………そ…それは…その場の勢いって時もあるし…でも今は改まってだから…その…」
「…くすっ…」
「あ!今あたしの事子供みたいって思ったでしょ?」
「そんな事ありませんよ。」
「うそ!笑ったもの!!しかも鼻で!!」
「本当に思ってませんって。じゃあいいんですか?繋がなくても?」
そう言って愛理さんの目の前に僕の右手を広げてかざした。
「あ!!やっ…だめ!良くない!!!繋ぐ!!繋ぐから!!」
そう言って両手で僕の手を握り締めた。
「でも…あっという間ですよ。」
「いいの…それでも……」
「そうですか?」
「うん。」
子供だなんて…思って笑ったんじゃ無い…
この前と同じ…
僕と手を繋ぎたいと言った愛理さんがとても可愛かったからなんですよ……