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「本当に珱尓さんにはいつも迷惑ばっかり掛けてごめんなさい…」

愛理さんが僕の胸に頭をくっ付けてそんな事を呟く。
寝る前に愛理さんが僕のパジャマの裾を掴んで

『 一緒に…寝てもいい? 』

って尋ねるから…僕は別に構いませんよ…って答えて…
今一緒のベッドの中で今日はお互い向かい合って…
僕より背の小さい愛理さんがスッポリと僕の胸の中に納まってるというわけ…

自分でも…こんなに急接近でいいのかとちょっとびっくりしてる所もある。
でももともと僕に対して積極的だった愛理さんと…
思いっきり愛理さんに向かって『結婚を前提のお付き合い宣言』をしたんだから
当たり前の成り行きなのかな…?なんて思ったりもしてる。

今日の愛理さんの家出騒動で自分の中で愛理さんの事が愛おしいと思う気持ちが強くなったし
やっぱり愛理さんの事が好きだったんだと今更ながら気が付いた。

なんとも情け無い事だけど……


「僕は何も迷惑だなんて思ってませんから…気にしないでと言っても無理でしょうけど
これから先ずっと一緒に暮らしていくんですよ?もしかして結婚して夫婦になるかもしれないし…
だったら愛理さんの家族の人の事だって僕の問題ですから。」
「あ…あの…珱尓さん…」
「はい?」
「本当にいいの?あたしなんかお嫁さんにして…良く考えた?」
「え?どうしてですか?愛理さんは今までそう言う事考えなかったんですか?」
「そりゃ考えたわよ!でも…現実になるなんて夢のまた夢だと思ってたし…
まさか…本当に珱尓さんが……プロポーズしてくれるなんて思わなかったし…」
「まだプロポーズはしてないんですけどね……」
思わず苦笑い。
「え!?違うの??」
「それを前提にお付き合いしましょうと言ったんですけど…」
「じゃ…じゃあ…無しになるって事?」
「そう言う場合もあると思いますよ。人間ですから…もしかして愛理さんが思ってた僕じゃ無いとか
思えば…結婚なんてしたく無いって思うかもしれない…」
「そ…そんな事思わないわよっ!!」
「そうですか?」
「そうですっ!!」
愛理さんがズイッと僕に顔を近付けて真面目な顔で訴える。
「でも…もし僕が変な性癖があって愛理さんにとっても恥ずかしい事要求したらどうします?」
「…え!?」
ちょっとだけ愛理さんの顔が引き攣った。

「どうします?もの凄いサドだとか…逆にものすごいマゾだとか…あり得なくないでしょ?」

「………そんな…おかしな所…あるの?珱尓さん…」

あれ??…もの凄い警戒し始めた…?

「まさか…ありませんよ。至って普通です。あ…と思いますけど…」
「そうよね…珱尓さんがそんな風だとは思えないもん…」
「でも今一瞬焦ってましたね?」

「そ…そりゃあ…ちょっとは…でもどんな事でも珱尓さんが求めるなら頑張る覚悟よ!
『 S 』だろうが『 M 』だろうが…コスプレだって頑張るし…『ご主人様』って言えって
いうなら言えるもの!!」

「え?ご主人様…ですか?」
「そうよ。今は色んな趣味の人がいるんだから。」
「へぇ…そうなんですか…」

「ねぇ……珱尓さん…」
「はい?」
「あの…もう一度…」
「もう一度?」

「 『 愛理 』 って…呼んで…… 」

「 !!! 」

「あの時…呼んでくれたでしょ?あたし…すごく嬉しかった…」
「……あの時は必死だったんですよ…」
「お願い……」
そう言って僕の首に愛理さんが腕を伸ばして絡ませる…
「いいですよ……」
「…………」

「 愛理… 」

まっすぐ瞳を見つめて呼んだ…
呼んだ瞬間…愛理の瞳がキラキラと潤んだ……そんなに…嬉しいのかな…

「……はい…」

涙が零れそうな瞳でニッコリ笑って返事をした。

「すぐ泣くんだね…どうして?」
「だって……嬉しい…から……」
「そんなに?」
「そんなに…」
「泣いちゃうほど?」
「泣いちゃうほど……ん……」

愛理を抱きしめて…ちょっと乱暴に唇を重ねた…

「…ン……ぁ…んっ…」

お互いがお互いを求めるキスをして…今までした事が無い様なキスをずっとしてた…



「ん……ァン……あ…珱尓さん…」

「愛理……」

何度目かの名前を呼んで…そっと口付ける…
着ていた服を一枚ずつ脱がしていくと…愛理はちょっと震えているみたいだった…

「大丈夫?嫌ならやめるけど…」
「……ううん……大丈夫…嬉しくて…」
そう言って僕の顔を両手でそっと触れる…

「……あっ…」

愛理の首筋から鎖骨に…鎖骨から…鳩尾に舌と唇を這わせると
そんな声を漏らしながら小さく仰け反った…

弾力のある身体に…張りのある素肌…
滑らかで…柔らかくて……それに…綺麗だ…

片腕は愛理の背中に…もう片方の腕はずっと愛理の身体を確かめてる…

頬に唇に…肩に…形の良い胸に…引き締まった腰に…滑らかな腿に…手を這わせる…

「んっ……あ…ん……」

右手の掌でそっと柔らかな胸を持ち上げながら…胸の先に唇で触れた…
その途端小さな声を漏らしてギュッと愛理が僕の頭を抱きしめる…

「あ…あ…ああ…」

少し体勢を変えて背中に腕を潜り込ませたままもう片方の腕で愛理の腿をそっと押し広げた。

「……珱…尓…さん……」

それに気付いて愛理が僕の名前を呼ぶ…

「…愛理…」

愛理の名前を呼びながらゆっくりと愛理をちょっとだけ押し上げた…

「……ン……」

僕の身体に廻された愛理の両方の手に力が篭った。
ゆっくりと愛理の身体をまた押し上げた…さっきよりちょっとだけ体重を掛けて…

「あ……あ……」

愛理の指先に力が篭る…
その後は一気に愛理の身体を押し上げた。

「……んあっっ!!ああっ…………」

愛理が身体全体で僕に抱きついて大きく仰け反る…

ちょっとだけ様子を伺って…動き出す…
僕が動く度に愛理の身体が上下に揺れて…小さな声が漏れる……

「あっあっあっあっ……ああっっ…やっ…んんっ…」

仰け反る愛理を追い駆けて口を塞いだ。

「はっ…はっ…はっ…ああっっ…ンン…珱尓さん…!!!!あっ…だめ……」

今まで見た事の無い愛理の顔だ…
辛い訳じゃ無いだろうに…ぎゅっと目をつぶって耐えてる……何を…?

押し上げる力も…速さも…だんだんと早まる……
愛理の背中に廻してた腕は今は腰に宛がわれて押し上げた愛理の身体を引き戻す…

「…珱尓さん…!!珱尓…さ…あっ…あああんっ!!!」

ビクンと愛理の身体が大きくのけ反って…掴んでた僕の腕に思い切り爪を立てた…



「……ん…ぁ……はぁ…はぁ…」

未だに目をつぶったまま浅く早い呼吸を繰り返す愛理の頬を優しく指先で撫でた。

「大丈夫?」
僕も早い息遣いを押さえながら愛理に声を掛けた。
「うん…大丈夫……あ!まだ動かないで…まだ…珱尓さんを感じてたい…」
そう言って愛理の胸に抱き寄せられた。

「珱尓さん…」
「ん?」
「前聞いた事…覚えてる?」
「え?」
「初めての相手に責任感じるかどうかって…」
「!!ああ…それが?」
「今日って…珱尓さんもその気になってくれたって事でしょ?」
「はあ…そうですね……」
彼女が何を言いたいのか分からない?
「だから少しは責任感じてるでしょ?」
「?…ちゃんと愛理さんの事考えてますけど?え?なんですか?」

「あたし…今が初めてなの。
だからちゃんと責任とって絶対あたしを珱尓さんのお嫁さんにしてね。」

にっこりと飛び切りの笑顔付きだ。

「……え?」

ちょっと…理解出来てない?

「珱尓さんあたしが男性経験あると思ってたでしょ?」
「はい…って!あっ…ごめんなさい…」
「良いのよ。だってそう言う風に見せてたんだもの。」
「え?な…何でですか?」

「だって初めてより男性経験あった方があたしに手が出しやすいかなぁ…って…」

「え?」

「初めてってわかったら珱尓さん遠慮すると思ったから…
まさかこんな展開になるなんて思わなかったけど…嬉しい誤算だわ。」

「…………」

た…確かに今もすでに男性経験があると思ってたから何の躊躇も無く……思い切り……

「って…大丈夫でした?僕…何も気にかけず…その…」
「…珱尓さんって結構激しいのね…びっくりしちゃった。」

「えっ!?あ…いや…その…」

僕はもうしどろもどろ…バツが悪いと言うか恥ずかしいと言うか……

「ってあたし他の人がどうだか知らないけど…
ものすごく珱尓さんの事あたしの身体の奥で感じたもん……きっとそうなのよね…」

「…………ノーコメント…です……」

実際どうなのか正直僕にも分からない…他人と比べた事なんて無いから…
でも未緒にもそんな事言われた事があったな……じゃあそうなのかな?

「……好きよ…珱尓さん…大好き。」

僕を潤んだ瞳で見上げながら愛理が言う…

「!!…僕も好きですよ……愛理。」


だから僕も言ってあげる…

今までずっと自分を騙して考え無い様にしてた言葉…

気付かないフリをして…目をつぶってた言葉…

でももうそんな必要無いから…



僕のその言葉に愛理がとても幸せそうな顔でにっこりと僕に笑い返してくれた…