03





「高田先生の後輩なんですか?」
「そう大学のね。」
「大学…ねえ…」
出てるんだ…
「あ!なんか疑がってる?」
「いえ…高田先生に聞けばすぐバレる様なウソついても仕方ないから…」
「あ!ホント小夜子さんは賢い!」
「これくらい少し考えればわかりますから。」


あれから1週間後の土曜日…約束通り?図書室で2人きりの集会?
彼は弥咲憂也28歳独身の…彼女はいないらしい…
知りたくないって言ったのにベラベラと身長体重血液型まで教えてくれた。
空手有段者で後輩のこの人に高田先生が顧問をしてる空手部にコーチとして
引っ張られたそうだ。
大学出てたのもびっくりだったけどこの人が空手の有段者なんて…それもびっくり。
こんないい加減で訳わかんなくて頼りなさげだから私は個人情報を簡単に教えたりしない。
名前だけ…って言うか名前だけで十分でしょ?

「ホント小夜子さんって真面目。」
「あの…いい加減本読ませてもらってもいいですか?会員番号2番の弥咲さん。」
さっきからずっと話してばっかり…もう30分は過ぎてる。
「え?オレ2番なの?」
「当然でしょ!私は1番で会長ですから私の言う事が聞けないなら退席して下さい。」
「あ!厳しいな…小夜子さん…」
「はい余計なお喋りはオシマイ。」
「マイペースだな…」
「他人に流されないんで。」


「………」

「なんですか?」

さっきから私の真正面の席に座って机に両腕とその上に顎を乗せてジィ……
と私を見てる。

「気になるんで止めてもらっていいですか?」
「小夜子さんって好きな作家とかいるの?」
「え?何ですか?いきなり…」
「いるの?」
「……時々しか本出さない人だから…知らないかもしれないけど… 『 舷斗 』って人…」
「 『 舷斗 』 ?」
「恋愛小説で…淡くせつない恋の話なんですけど…私大好きなんです…
本が出ればいつも人気で…」
「そんなに好きなの?」
「え?」
「だってすごく嬉しそう。」
「そりゃ…何ですか?からかうんですか?」
そんな顔してる。
「まさか…」
「でも名前と性別以外謎の人で…男性なんですけどね…
男性であんな小説書けるなんて憧れちゃう…」
言い終わると同時に目も前の男に視線を向けた。
「?…何?何でそんな目でオレを見るの?」
流石に感じ取ったらしい。
「同じ男なのになぁ…って…はぁ…」
「あ!何それ?セクハラだ!セクハラ!!」
「貴方はどんな作家の方が好きなんですか?」
言われた文句をあっさりと無視した。
「オレ?オレは 『 道場刀史朗!! 』 やっぱ男はハードボイルドだよね!うんうん!」
「………はぁ…私貴方とは絶対合わないと思う。」
「え?何で?」
真面目に悩んでる…
「考えなくてもわかると思いますけど?」
「え〜〜何で?」
「もう道場戻った方がよろしいのでは?」
冷めた眼差しでそう言った。

「えっ?!何で?」



「まったく…ロクに読めなかった…」

家のリビングのソファに座りながらそんなグチを零す。
リビングと言っても築25年にもなる木造の家じゃ茶の間と言いたくなるけど
私はソファが置いてあるからリビングと言い張る。
あの後も何だかんだと話し掛けられて集中出来なかった…

「小夜子またお父さん飲みに出掛けるんだって何か言ってやってよ。」
身支度を整えながらお父さんが出掛ける気満々なのがわかる。
「明日は店も休みだし俺の息抜きなんだからいいじゃねーか!」
私の家は自家製のパン屋…
近所ではなかなかの評判でそれなりに儲かってるらしい…
私は後は継がないけど…ごめんねお父さん…

「何だか最近愉しそうなんだよね…」
お母さんが疑いの眼差しを向けてる…
「馬鹿野郎…変な勘繰りすんじゃねーよ!最近店に来る若いアンチャンが面白くてよ。
なかなかの男前で店の女の子皆掻っ攫っちまうんだがそいつが憎めない奴で…
そいつと呑むと愉しくて…んじゃ行ってくる。」
そう言ってイソイソと出掛けて行った。
「まったく怪しいんだから。」
「…………」

私とお母さんは閉まる玄関のドアを2人で見つめていた。


ドタン!ガシャ!

「!!…え?なに?」
時計が12時を回った頃下で物凄い音がした。
「…ちょっとお父さんしっかりしてよ!」

階段を途中まで下りて覗くと廊下でお父さんと…
誰?誰かもう1人お父さんの肩に凭れ掛かったまま2人で倒れ込んでた。
「…いやぁ呑み過ぎたぁ…ウィ〜」
「お父さん!ほらしっかり!それにこの人誰?」

ホント誰なの?その人!!

「アンチャンだよアンチャン!!今夜は呑み過ぎて動けなくなっちまって…
店の女の子の所に泊まるってんで家に連れて来たのよ…」

店の女の子に預けちゃえば良かったのに…
まったくこれだから若い男は…イヤラしいな!!

「アンチャン…じゃないれすよぉ〜〜みしゃきれす!みしゃき!!」

ん!?何ですって?今聞き覚えのある名前と声が…?
遠巻きに顔を確認すると…真っ赤な顔でだらしなくニヤけているのは………
紛れもないっ!!彼だっ!!

「わかったわかった!とにかく今日はもう寝ろって!」
「どっ…何処に寝かせるの?」
なんか嫌な予感が…
「2階の小夜子の部屋の反対が空いてんだろ?」
「え?2階?や…嫌よ!2階で男の人と2人きりなんて…」
しかも知ってる人だし…知られちゃ1番マズイ相手だし……
「こんだけ酔ってんだ平気だろ。文句言うな。」
「ええ〜〜〜」
「すみましぇん…」

すみましぇん…じゃないわよ!もーー…一体どんな巡り会わせなのよ……