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風邪と熱とクスリのせいでどうやらオレはとんでも無い事をしでかしたらしい…

記憶は曖昧…何か喋った気もするが夢うつつで良く憶えていない。
我ながら情けない…あの後…覚えて無い振りをしていつもと変わらない態度をとった…

全部憶えているかと言えば自信がないからここは記憶が無いフリをした方が賢明と判断した。
当の小夜子さんもそんなオレの態度に合わせてくれてるのか
多少ぎこちなさが漂いながら何事も無かったフリを通してくれてる…

オレのやった事にはお咎めなし!とみていいんだろうか…
ちょっと不安が過ぎる…

オレの曖昧な記憶によるとどうやらオレは小夜子さんに……キスをしたらしい…
救いは嫌がる小夜子さんに無理矢理!…と言うわけでは無さそうで…

とんでも無い事をしでかした…と言う反面小夜子さんとのファースト・キスを
良く憶えていないと言う方がオレにとっては重要な事だ。

「でもなんでそんな事になったんだ?」

記憶が曖昧だから何とも言えないがきっと何か理由はあったはず…
確かに小夜子さんの膝枕に浮かれてたのは事実だけど…だからって……

あの時の自分には自信がなくて…だから小夜子さんにキスをしたんだろうし…
まあしちゃったもんは仕方ない…その他諸々のせいで理性が飛んでたんだろう…

ただ1つ…朦朧としてた頭に残ってる記憶がある…
それはあまりにも…オレにとっては衝撃的な事で…
まるで録画されたTV画面の様に未だにオレの頭の中でリピート再生されている…

『 なんで?……そいつの事…好きなの? 』

そう訊ねたオレに小夜子さんはコクリと頷いた。


まさか…好きな奴がいるなんて…

「いつの間に…?高校の時は絶対いなかったと思うんだよな…
だとすると大学か…出版社の奴か…?
覚えて無い振りしをたから今更聞けないしな…はぁ……」

情けないやら不甲斐ないやら…男の嫉妬はみっともない……

「小夜子さんの相手って…誰なんだ…?」

まだ完璧でもない身体で仕事も手につかず……
オレは覚えてなくても小夜子さんにとっては紛れも無い現実だもんな…

「はぁ…お見舞い…来てくれるわけ無いよなぁ…小夜子さん…」


「先生お加減いかがですか?」

寝室兼仕事場の入口から片平さんがなんの躊躇も無く入って来る。
「なんだ片平さんか…もう少しこっちの様子伺いながら入ってこれないの?」
「あら…ご機嫌ナナメですね…まだ身体の調子悪いんですか?」
「身も心もね……ハァ…」
「どうしたんですか?」
「……片平さん…小夜子さんに彼氏っていると思う?」
「は?何なんですか?いきなり?」
「いいから…知ってる?」
「さぁ…聞いた事ありませんけど…」
「だよね…じゃあ好きな奴は?」
「それも聞いた事ありませんねぇ…でも…
いたとしても彼女そう言うのあんまり表面に出さない娘だから…何でですか?」
「………どうやら…好きな奴がいるらしいんだ…」
オレは至って真面目に話してる。
「なら本人に聞いてみればいいじゃないですか。」
「聞ければ苦労しない…」
「……何で小夜子ちゃんの事となるとそんなに消極的なんですかね?
もう3年ですよ?モタモタしてるから仕事繋がりみたいな関係になって
揚げ句の果てに他の男に取られて…最悪ですね。
で?馴染みのスナックのママさんとは大人の関係ですか?」
「あの人は友達!兼お客とファン。」
「どういう友達ですか?小夜子ちゃん何気に知ってるみたいですよ…
先生にお付き合いしてる人がいるって。」
「付き合って無いって…」
それは本当の事だ。
「小夜子ちゃんにそんな大人の付き合い理解出来る訳無いじゃないですか…
『 身体だけのお付き合いなんて信じられない! 』 って言われるのがオチですね。」

「…………」

「……私から小夜子ちゃんに聞いてみましょうか?」



「え?好きな人…ですか?」
「そう!もう小夜子ちゃんもお年頃でしょ?
大学でも相手はより取り見取りだし…どうなのかなぁって…」

いきなり片平さんに切り出された。

「そんな…より取り見取りなんて…」
「ね?いるの?」
何でそんなに聞く気満々?
「え?……あー…」
「いるのね?誰?」
「いえ……」
「大学の人?それともウチの出版社の人?」
「えっと……」
「まさか…先生?」
「ちっ…違います!!先生じゃありません!!」
「そう?」
「それに…先生にはお付き合いしてる人いるみたいだし…」
「付き合ってはいないみたいよ。」
「え?」
「お友達ですって。」
「え?そうなんですか?」
「ええ…先生がそう言ってたわ。」
「そうですか…先生…かわいそう…」
「え?何で?」
「片思いって事ですよね…もう何年も……」

「………」

確かに片思いは片思いなんだけど…ね…



「で?結局どうだったの?」

『はっきり答えてくれませんでした。いるはいるみたいですけど……』
「何だ…頼りになんないな…」

ボソッと呟いた。
まあ…あんまり期待はしてなかったけど…

『!!…先生じゃない事は確かですね!完全否定してましたから。』
「 !!! 」
『ちゃんとママさんとはお友達って言ったんですけど…』
「で?」
『片思いでかわいそうって。』
「!!!!!…何でそうなるの…なんか余計な事言ったんじゃないの?」
『言ってませんよ。ご自分の普段の態度が問題なんじゃありません?』
「………片平さんの所の仕事ボイコットしてやる!!」
ちょっと拗ねてみた。
『小夜子ちゃん担当から外しますよ。
他の先生で小夜子ちゃん気に入ってる方いるんですから。』
「小夜子さんをそんな奴の所に一人で行かせたら許さないよ!」
『行かせませんよ。
先生以外は女の先生の所と奥様がいつもいらっしゃる先生の所ですから。
とにかくあたしから言うわけにはいかないので後はご自分で。じゃ原稿お願いしますよ!』

釈然としないままオレは片平さんとの電話を切った。

「自分で…ね……はぁ〜〜小夜子さんの膝枕が恋しいなぁ〜〜」

諸々の立場を利用して初めて小夜子さんの膝枕をゲットしたのに…
まさかこんな事が待っていようとは……

また熱が出てきたのか…頭が何となく痛い様な気がして…

オレはベッドに潜り込んでしばらく出てこなかった…………