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「小夜子さん…」
「…………」

朦朧とする頭で呼ばれてるのに気が付いた。

「大丈夫?」
「………コクン…」

無言で頷いた…誰?お母さん?心配して来てくれたんだ…
ああ…でも…私いつの間に連絡したんだろう…
まあいいか…今はそんな事考えるのも面倒くさい…

「……ん…熱い…」
身体が汗で気持ちが悪い…
「着替える?」
「うん…」
「じゃあ今タオル持ってくるから…」
「うん…」

そう返事をして起き上がった…視界に氷枕が目に入って…
ウチには無かったからわざわざ買って来てくれたんだ……ん?氷枕??
あれ?何だっけ?誰が買って来るって言ってたっけ??

「はい。オレが身体拭いてあげようか?」

「 !!!!!…きゃあああああああ〜〜〜〜〜!!!!…んぐっ!! 」

「ちょっと小夜子さんいきなり叫ばないでよ!!もう夜中なんだからさ!」
素早く口を軽く手で塞がれた…たしかこれで2度目…?
「…ふぐっ…み…みふぁきせんせ……!!」
「目が覚めた?もう大丈夫?叫ばない??」
「コクコク…」
「ふう…もうビックリしたよ…いきなり悲鳴上げるんだもん…」
「だって…まさか弥咲先生がいるなんて…」
「看病するって言っただろ?」
「もう夜中ですよ?帰ったのかと思いましたよ…」
チラリと見た時計はもう午前1時を指してる…
「だからこんな小夜子さん残して帰れないって言っただろ?」
「…………」
「少しは楽になった?」
「あ…はい…身体はちょっと変な感じしますけど…頭は大分…」
「そう?良かった。じゃあはい!タオル。オレ向こう行ってるから。」
「はい…すみません…ありがとうございます……」

もう心臓がドキドキ……

「先生…何か食べたんですか?」

脱いだパジャマを洗濯機に持って行きながら訊ねた。
「うん。適当にね。氷枕買いに行った時に。」
「そうですか…なんかすいません…ご迷惑かけちゃったみたいで…
それに窮屈じゃないですか?うち…部屋狭いから…」

一応2DKにはなってるけど置いてあるソファは2人用のだから…
男の人がずっと座ってるには小さいかも…
「それに暇だったんじゃ…?TVでも見てたら良かったのに…」
「全然暇じゃ無かったよ。小夜子さんの所に来るの久しぶりだったし…」
「引越しの日以来でしたっけ?」
「そう…あの日はサッサと外に出されちゃったからね。こんなゆっくり出来なかった。」
「だって先生ってば人の荷持勝手に片付け様とするから…」

下着が入ってる箱に手を掛けた時表に叩き出したんだった…

「初めて2人だけでこんな夜遅くまで一緒に過ごしたね。」

深い意味なんか無いのはわかってたけど…ドキンとした…

「変な言い方しないで下さい!もう…イヤラシイです!!」
「え?そう?意識し過ぎだよ小夜子さん。言っただろ?友達には手は出さないって。」
「………」

そんなニッコリと笑って言わないで下さいよ……

「さてと…小夜子さんもう大丈夫そうだから帰ろうかな。」
「え?今からですか?」
「うん…だって迷惑だろ?」
「もう今更ですよ!それにこんな夜中に先生帰せません!何かあったらどうするんですか?」
「え?まあそんな事無いと思うけど…それにオレ空手やってるし。」
「そりゃそうですけど…やっぱり心配です!」
「じゃあ小夜子さん公認でお泊りOK?」
「……嬉しそうに言わないで下さい。仕方なくですから!!」
「ありがとう。小夜子さん!」


どうしよう…折角下がった熱がまた上がりそう……



「このソファに寝るなんて…先生には無理ですね…」

彼の身長は180は越えてる…2人掛けのソファは120センチ弱……絶対無理!
その前に予備の布団が無かったんだ…そんな物を置いておくスペースなんか無いし
誰も泊まりになんて来ないから。

「………どうしよう…」


無謀だったと…後で後悔した…
ソファで適当に寝るからと言った彼に自分だけがベッドに寝てるのは気分が悪いと
交代を申し出たら病人そんな事させられるかと怒られた。
ごもっともなんだけど…こっちだって譲れなくて…結局最終的には2人でベッドで寝れば
お互いに文句はないんじゃないかと言う事になって…思わず頷いてしまった!

もう心臓はドキドキ…

「友達には手を出さないよ!」

って今日何度目かの決まり文句をまた面と向かって言われた。
そりゃ…わかってるけど…そう何度も何度も念を押さなくても……

シングルのベッドで大人2人はちょっとキツイ…
だから何気に端に端に寄って行った…ら!?

「きゃっ!!」

ドテンっ!!!っとベッドから落っこちた。

「いてててて…」
「大丈夫…小夜子さん?」
ベッドの上から彼が覗きこんでる。
「はい…大丈夫です…」
「やっぱりオレソファで寝るよ。」
「だ…大丈夫です!それじゃまたさっきの繰り返しじゃないですか!」
「そうだけど…無理してるだろ?小夜子さん…」
「し…してませんっ!!大丈夫って言ったら大丈夫です!!」
「…ホント小夜子さんって真面目だよね。くすっ…」
「仕方ないじゃないですか!そう言う性格なんですから。」
「じゃあもうそんな緊張しないでよ。」
「先生は女性と一緒のベッドなんてもう慣れたもんなんでしょうね。」
「……まあ…それなりに…これでも独身の大人の男だからね。」
「…………!!!」
「そんな顔しなくたっていいってば。大丈夫!誓って小夜子さんには手を出しません。」
「わかってますよ……そんなに何度も言わなくたって…」
「じゃあ大人しく布団に入って。まだ熱下がってないんだから…ぶり返したらどうすんの?」
「……!!」
すごい真面目な顔で言われちゃった…
「はい…」
もう大人しく言う事を聞くしかない…
オズオズとベッドに戻って横になった。
「身体…冷えちゃうからちゃんと布団掛けて…はい。」
そう言ってポムポムと掛け布団をしっかりと私の上に掛ける。
「もう…子供じゃ無いんですから…そこまでしなくても大丈夫です。」
「そう?じゃあおやすみ。小夜子さんが眠るまでオレ起きてるから。」
「え?何でですか?イヤですよ!恥ずかしいじゃないですか!!」
「何が?」
「寝顔なんて見られるの恥ずかしいですっ!!」
「向こうむいて寝ればいい…雰囲気で寝たかわかるから大丈夫。」
「それじゃ背中見られるじゃないですか!!」
「じゃあどうやって寝るの?」
「先生が先です。寝るの…」
「くすっ…いいよ…じゃあオレが寝たらちゃんと寝るんだよ?」
「はい…約束します。」
「約束ね。じゃあおやすみ。」
「おやすみなさい……」


あっという間に彼の寝息が聞えて来た…
流石遊び人…こんな状況でも簡単に寝れるものなのね……
変な所で感心してしまった…

彼の寝息を聞いたせいか無理をしてたせいかあっという間に眠りについた。
私も彼の事言えない…な…なんて思ったのもわからないくらいに…