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「え?小夜子さんに?男!!!」

思わず身を乗り出して片平さんに詰め寄った!!

「ですから…男が出来たんじゃなくて社内の同期の男の子ですってば。」
「同じ事だろ?なんで?いつの間にそんな事に??」
「いつの間にって…この前食事を1回しただけですよ。」
「1回でも大事件だろ?あの小夜子さんだよ!」
「小夜子ちゃんだってもう一人前の女性ですよ。同僚の男の子とランチぐらいしますよ。
まあ…今後はどうなるかわかりませんけどね。」
「……………」
無言で…明らかに動揺してる弥咲を横目に片平さんはお惚け顔。
なんせランチに誘われて断ろうとしていた小夜子さんをたまには行って来なさい!
と背中を押したのは自分だからだ。

そのままそれをキッカケにこの2人が付き合うも良し…
何も無くてもあの2人の間に何か進展があれば良し。

なんて思っていたのである。
特に弥咲のお尻を叩いたつもりなのだが…変な風に捉えなければいいのだが…
とは思っている。

案の定もう心ここに非ず…の様な顔をしている弥咲に一抹の不安が過ぎる……

「これは…小夜子さんに確かめなきゃ。一体どんなつもりなのか!」
「え?ついに決心したんですね!!それじゃそのまま告白して…」
「オレは小夜子さんのご両親から小夜子さんの事頼まれてるんだよ!」
「…は!?」
「1人暮らしをする時もオレと小夜子さんのお父さんでちゃんと話し合ったんだからっ!!
当然の権利だ!!」
「……あの…なんの権利です?」
「え?小夜子さんに確かめる権利ですけど?ああ…友達としても。」
「………はぁ…先生…」
「ん?」
「……いえ…何でもないです……」

これは一生この人はこのままなのかも……なんて思う片平さんでした。


片平さんにはあんな事を言ったけど…
どうやら小夜子さんに確かめるなんて事オレには無理な相談らしい。
どのツラ下げて聞くつもりなんだか…

小夜子さんと知り合って6年……6年か…長いような短いような…
確かにお年頃と言えばお年頃だよな…
オレ以外の男友達だっていたって不思議じゃないしましてや会社に勤めてれば尚更だ…
オレだって小夜子さん以外の女の人と付き合いくらいはある…
…けど!!


「どいつ?」
「えー……あ!あそこの…今コーヒー持ってる人と話してる…黒いシャツの…」
「………ああ…」

結局小夜子さんには聞けなかったが…なら相手の男を見ればいい事で…
早速出版社に押し掛けて片平さんに教えてもらってる。

「まったく…珍しくここに顔見せに来たと思ったら…こんな事の為ですか?」
もの凄い呆れられた。
「ちゃんと手土産持ってきただろ?」
「目的の事言ってるんです。ちゃんと顔見ました?」
「ああ…見た…なに?あんな体育会系みたいなのがいいの?小夜子さん…」
「先生だって空手やってるじゃないですか。同じ体育会系……って風貌じゃありませんね。」
「余計なお世話。見かけによらないってギャップがモテル秘訣なんだよ。」
「はいはい…で?どうするんです?一体どう言うつもりだって…彼を吊るし上げるんですか?」
「んな事するわけないだろ。顔見に来ただけだよ。」
「へぇー…それで満足なんですか?」
「とりあえずは…ね…」

そう片平さんには言ったけど…しばらく観察していくつもりだった。
どんな奴か見定めないと……
そして…納得したら……どうするつもりなんだ…オレは…

ちょっと観察してると…まあ仕事はソコソコ上手くこなしてるらしい。
職場の同僚とも上手くいってるらしいし…上司にもウケはいいらしいし…
なんて…オレは何してるんだか……ちょっと自己嫌悪?
さてさてそろそろ帰ろうか…小夜子さんに見付かったらコトだし…

最後に同じ部屋から出て来た男性社員を呼び止めて話を聞いて帰る事にした。

「え?諸星ですか?」
「そう…女の子に頼まれてさ。彼女とかいるのかな?あ!この事は彼には内緒ね!」
「ああ…はい…確か今はいないって言ってましたよ。ああ…でも…」
「でも?」
「今声掛けてる子がいるって言ってたかな?」
ああ…小夜子さんの事か…
「でもその子が小説家の『舷斗』のサインくれたら考えるって言ってるとかで
どうしようかって困ってたな…」

「!?」
なんだ?それ…小夜子さんじゃない?

「ここの出版社から彼の本出てるでしょ?ただ極端な人見知りらしくて…
それにちょっと変わってるらしくてさ。」

変わってるって何だ?人見知りと言うか面倒くさいだけなんだけど…
これは片平さんに一言言わなくては…!!ってじゃなくて…

「その人のサインってなかなか手に入らないらしくて…
部署も違うし…担当の人は話す前にそう言うの嫌いらしいって
聞いちゃったから頼むに頼めなくなって…どうしようって言ってたけどどうしたかな…」

どうしようって…小夜子さんに狙い定めたってことか??



「何ですか?」

先生がさっきからジッと私を見てる。
「……小夜子さんオレに何か報告する事あるんじゃないの?」
「え?報告する事ですか?………別に?」
しばらく考えてそう答えた。
「……………」
でももの凄い不服そうな顔の先生……
「何ですか?先生の方が知ってるなら言って下さいよ。」

仕事用の机の上に淹れたてのコーヒーを置きながら聞き返した。
「会社で…同期の異性の友達が出来たんだってね。」
「え?何ですか?それ…ああ…片平さんですね?もう…何で先生に言っちゃうんだろう…」

最後の方は呟く様に小さな声だったけどしっかりと聞えましたよ!!

本当は小夜子さんに聞くつもりなんて無かったけど…
あんな話を聞いたらそう言うわけにはいかない…

友達として…小夜子さんのご両親の信頼の為…ここは一言。

「小夜子さんは彼の事どう思ってるの?」
「え?どう?……んー同期としてお互い頑張りましょう。って相手ですかね?」
「ふ〜ん…」
「?…何ですか?さっきから…」
「いや…ただね…男は皆オオカミだ!!って事…小夜子さんわかってる?」
「…はい??」
「いくら相手が仕事できたり上司と上手くやってたりしてるからっていい人とは限らないって事!」
「…??…!!…先生…彼の事調べたんですか?」
「!!!…えっ!!??」
やばっ!!もの凄い疑いの眼差しで見られてるっ!!
「まっ…まさか!!か…片平さんだよ。彼女に聞いたの!」
「へえ〜〜そうですか?」
「そうそう……あちっ!」
誤魔化すために飲んだコーヒーはまだ口を付けるには熱かった。
「……怪しいですけどそう言う事にしておきましょう。いい人ですよ彼…
優しいですし…しっかり自分の考え持ってるし…仕事に意欲持ってるし…
誰かさんとは大違いです。」
「…え?オレと比べてるの?」
「だって先生からは意欲と言うものが伝わってきませんから。
なんかノホホ〜〜ンとしてて…何考えてるかわからないし…それに…」
「それに?」
「人のプライベートにズカズカ踏み込んでくるし。親しき仲にも礼儀あり!ですよ。先生!」
「だって友達なんだから当たり前だろ?小夜子さんのご両親からだって
小夜子さんの事頼まれてるし…心配してるの。」
「それはそれは有り難う御座います。」
「あ?何その態度?反抗期?」
「そんなんじゃありません。〆切あと3日ですよ…大丈夫なんですか?」
「いきなり仕事の話?もう…小夜子さんは…大丈夫だよ。今回短編で短いし。」
「…………」
「?…なに?」
「いいえ…ただ…」
「ただ?」
「先生とこんな風に原稿の話ししたり…生の原稿一番に見れたり…嬉しいなぁって…夢みたいです。」
「…小夜子さん……」
「それに昔に比べて作品の発表が増えたから…初めて先生の小説知った頃は
次の作品がなかなか出なくて…首を長くして待ってたから…」
「それは…小夜子さんのお陰かな。」
「…え?」
「小夜子さんって言う素敵な友達が出来たから。創作意欲湧くんだよね。」
「……先生…」
「あ!そうだ。前から小夜子さんが観たいって言ってた映画の招待券貰ったんだ。行こうよ小夜子さん。」
「え?あのフランスの恋愛映画ですが?」
「そう。だからいつ行く?」
「え?あ…えっと…」
「金曜の夜は?次の日会社休みだし。」
「あ…金曜は先約があるんで…すみません…」
「え?そうなの?」
「諸星さんに食事誘われてて…ってあ!仕事の事で聞いて欲しいこともあるって…それで…
だから…次の日の土曜日じゃダメですか?……?…先生?」

「……………」

オレはもう小夜子さんの言葉も耳に届いて無かった…
あの男…ついに動き出したか!本命の女の子を落とす為に小夜子さん利用しようなんて…

「先生?」

「え?あ…いや…いいよ…土曜日で。じゃあまた間近になったら連絡するね。
多分その前にも会えるだろうし…」

「…はい…じゃあ次に原稿頂く時にでも…」
「うん。」
「…………?」


何だか…先生の態度が少しおかしいと思ったのは気のせいかしら?