05





 「はぁ?同居する?」

 祐輔と慎二さんが同時に返事をした。
 「あ…空いてる部屋…貸して欲しいって言うから…」
 オレは2人の視線に負けそうになりながらも答えた。
 「大丈夫なの?耀君。昨日会ったばかりの人でしょ?」
 「そうなんだけどさ…何か色々あって…断れなくなっちゃったって言うか…」
 「色々って何だ?」
 祐輔が明らかにムッとしながらオレに聞いた…怒ってるのかな…?
 「ちょっと変わっててさ…昨日会ったオレに
 『オレの為に生まれて来てくれてありがとう』なんて言うんだよ…変だろ?」
 オレは一生懸命説明した。

 ……はあ?愛の告白されたんだ…でも本人は全く気付いてないみたいだけど…

 「それに料理得意だから美味しいご飯作ってくれるって言うしさ…」

 ……あと食べ物で釣られたのか…

 「何かあったら出て行ってもらうけどさ…」
 「まぁ…耀君が平気ならいいけどね…」

 2人は疑いの眼差しをオレに向けて納得出来てないって顔してた…
 オレだって何でこんな事になったのか…未だに不思議なんだから説明の仕様が無い…
 結局あの後どうしても断る事が出来なくて押し切られちゃったんだもん…



 その日の夕方…本当に彼は引っ越して来た…
 荷物と言ってもダンボール箱が少しとボストンバック一つ…なんて身軽…
 断ろうと思えば断れたのかも知れないけど…前の部屋を引き払ってきたんだろうから…
 そんな無責任な事は出来ないと思って言えなかった…
 でも彼は荷持つの片づけを後回しにして夕飯を作ってくれた…
 約束通り…酢豚…テーブルの上が光り輝いて見えた…
 お店以外で酢豚を見たのは今日が初めてだったし…何より……美味しそーーーーっ!!

 「なっ…なっ…なんでーーーーっ!?うそっ!!お店のやつみたいっ!!」

 彼はオレのそんな姿を見てまたニコニコしてる…しかも…エプロン姿が妙に似合ってるし…
 「いただきまーす!」
 遠慮も何もせず一口頬張った。

 「うわ…おいしーーー!!オレ幸わせ!」

 思わず叫んでしまうほど美味しかった。

 耀くんが本当に美味しそうに食べてくれた。
 そんな耀くんを見て…オレも幸せな気持ちが込み上げる。
 今まで誰かに喜んでもらう為に料理なんて作った事なかったから…
 「凄いね。椎凪!もー天才的!!」
 「ありがとー。耀くん。」

 って…あ…初めて…名前で呼んでくれた…うれしー…!!

 次から次へと食べてくれる耀くん…
 「でもさ耀くん。初めて会った時は物凄く警戒してたけど今は全然だね。嬉しいけどさ。」
 「んー自分でも良く分からないんだ…いつもはこんな風じゃないんだけど…
 椎凪は違うんだ…何でだろう…良くわかんない…」
 「それって愛の力?」
 椎凪がズイッとオレに詰め寄って来た…
 「ちっ…違うよ…きっと…あ!そーだ…椎凪…あのさ…」
 耀くんがちょっと困った顔でオレを見た。

 「オレに変な事したらすぐ出てってもらうから…ね…」
 「変な事?変な事って?」
 ワザと聞いた。
 「だから…その…オレ…男だからね!」
 「うん。知ってるよ。でもオレ耀くんが好きだから男でも関係ないからね!」
 間髪を入れず返事をした。
 「だから…オレに変な事しないでね…椎凪言ったろ?オレの嫌がる事と怖がる事しないって…」
 「うん。分かってるよ。オレが耀くんにそんな事するはず無いだろ?」
 ニッコリ笑って両手で耀くんの顔を持ち上げた。
 「 ! だから…こーゆー事しないでって言ってるのっ!」
 耀くんが暴れだした…あら?ナゼ?
 「えーー?でもこれ変な事でも…怖がる事でも…嫌がる事でもないでしょ?」

 オレはごく自然に…

 「愛情表現だもん!」

 耀くんの唇に…キスを…

 「 う わ っ !! 」

 「 が っ !! いでっ!! 」

 耀くんのアッパーがオレの顎に思いっきり入った。
 「なっ…いたい…ひどい耀くん… 」
 「な・ん・で・キスしなきゃいけないのさっ!! 」
 耀くんがもの凄く怒ってる…でもオレはめげない。
 「何で?耀くん!?オレの事好きじゃないの?」
 「い・つ!だ・れ・が!椎凪の事好きなんて言ったのさ?もー信じらんないっ!!」

 「 !! 」

 椎凪が物凄いショックを受けてた…なんで?
 「じゃ…じゃあ…」
 「な…なに?」
 思わず警戒する…だって椎凪ったら変な事ばっかり言うんだもん…
 「オレが耀くんの事すっごく好きって事だけは憶えててね!!」
 「もー昨日会ったばっかりなのに何でそーなの?」
 「時間なんて関係ないっ!!深さの問題!!」
 「 深さ? 」
 椎凪が何だか熱のこもった話をし始めた…
 「耀くんの事オレのここの奥の方で好きになったの!胸の一番深い所!わかった?」
 「分かったけどさ…それってオレの気持ち全然考えて無いよね?」
 「考えてるよ。耀くんオレの事好きだもん。」
 平然と言った…何の躊躇も無く…
 「どっからくるの?その自信…?」
 オレは呆れて聞き直した…
 「昨日確信した!」
 「昨日?」

 「オレには耀くんが必要で…耀くんにはオレが必要なんだって…」

 オレは耀くんを真っ直ぐ見つめて言った。
 「 ? わかんない… 」
 耀くんが首をかしげて理解不能といった顔をする…
 「 !?… んなっ!! 」
 何でだ?何で分かってくれない?
 「まあ…もういいや…ご飯たべよ…冷めちゃうよ。」
 そう言って耀くんは何事も無かった様にご飯を食べ始めた。

 「 もーっ!!耀くんってばっ!!」


 オレはキッチンでタバコを吸っていた…耀くんは今お風呂に入ってる…
 くそー…結構手強いな…かと言って今までのオレで迫ったら一発で
 嫌われそうだし… 少し考えないとな…
 でも…すっごく楽しいや…演じてるのが…苦じゃないし…
 オレはここに来てから耀くんと過ごした時間が楽しくて楽しくて仕方なかった。

 「ガチャ」

 耀くんがお風呂からあがって入って来た…
 「椎凪もどうぞ。」
 「 !! 」

 お風呂上りの耀くん…髪が…濡れてて…髪の毛から…滴が…落ちる……かわいい…
 オレは耀くんから目が離せなくなった…

 「はーさっぱりした。」
 そう言って耀くんがオレの横を通って冷蔵庫から飲み物のペットボトルを出す。
 「 ん… 」
 飲み物を飲む音が…何でだ…そんなので…そそられるなんて…

 オレは耀くんを後ろから抱きしめた。

 「耀くん!」
 「 あっ…」
 耀くんの持っていたペットボトルが床に落ちる…
 「ちょっ…椎凪…やめ…」
 オレは耀くんをキッチンの床に押し倒して耀くんの上に覆いかぶさった…
 「あ…やだ…」
 耀くんが顔を赤くする…でも…嫌がるそぶりは無い…
 「好きだよ…耀くん…」
 耳元で囁く…
 「やめて…椎凪…」
 そう言いながら…オレをどけようとはしない…
 「本当にやめていいの?」
 「ん…あ…や…」
 喋れない様に耀くんの口をオレの口で塞いだ…

 「ハァ…だって…床の上なんて…やだよ…」

 オレの舌を逃れて耀くんが呟く…
 「じゃあ…ベッド…行こう…」
 オレがそう耳元に囁くと…耀くんが
 「…うん…」
 って返事をした…


 椎凪が何やらニヤけた顔で一人の世界に浸ってる…
 何か一人で想像してるな…付き合ってらんないよ…

 「じゃあね。椎凪。おやすみ。」
 オレはさっさと自分の部屋に行こうと椎凪に声をかけた…椎凪がハッと我に返る。
 「え?もう寝ちゃうの?耀くん…」
 「だって明日早いし…やる事あるしさ…」
 冗談じゃない!こらからだって時に…オレはこの時の為の作戦を決行した。
 「せっかくデザート買ってきたのに…」
 耀くんの前に箱ごと出した。
 「え?デザート?」
 よしっ!思いっきり感心持ってくれた…視線はもうデザートの 箱に釘付けだ。
 「もー仕方ないな…少しだけだよ…」
 やった!作戦大成功!

 「んー美味しい!」
 耀くんが満足そうにプリンを頬張る。
 「ここのプリンってなかなか手に入らないんだよ。限定品でさ。良く買えたね?」
 「ちょっとしたコネで…」
 本当は売り子の女の子にせまって… 優しく耳元で取っておいてってお願いしたんだけどね…
 耀くんには内緒。
 「明日早いって何時?」
 「んー7時には起きないと…かな?」
 「7時で早いの?」
 「だってオレ…朝にが……いてっ!」
 「?どうしたの?」
 「うーーいたいっ!!舌噛んだっ!!いたいっ!!血出たっ!!きっと…」
 口を押さえて物凄い痛がり様だ…よっぽど強く噛んだのかな?
 「もーどうやったらプリンで舌噛むの?」
 オレは様子を見に椅子を立って耀くんを覗き込んだ。
 「大丈夫?」
 「うーーっ!!痛い!痛い!すごく痛いっ!!」
 口を押さえてずっと目をギュッと瞑ったままだ…それがあまりにも可愛くて…笑えた…
 「見せて…」
 そう言って顔を近付けた…
 その時耀くんもオレに向かって顔を向けた…

 「あ…」

 ほんの…本当に一瞬だったけど…耀くんの唇が…オレに…
 耀くんは気が付かなかったらしい…オレはそれだけで…動けなくなった…

 …?なに?なんか…気配が…近くに感じる…?
 オレはそっと目を開けてみた…
 「 え…? 」
 椎凪の顔が…物凄く近くて…あと数センチと言う所でオレにくっ付きそうだった…!

 「うわっ!ちょ…なにっ?椎凪!!」
 「え?オレじゃないよっ!!オレ何もしてないよっ!!」

 って!思わず変な事口走ってる!!
 何言ってんだ?オレっ!!舞い上がって…訳わかんねー…

 「………」  「………」

 オレと耀くんはお互い真っ赤になってしばらく黙って見詰め合っていた…
 急に耀くんが残ってるプリンを物凄いスピードで食べ始めて…
 「ごっ…ご馳走様…おやすみ…」
 そう言って自分の部屋に行ってしまった…
 「お…やすみ」
 オレは…今度は引き止めなかった…


 キスなんて…今まで数え切れない程してきた…さっきのだって…キスなんて言えないけど…

 …こんなにも…ドキドキしてる……胸の奥が…ドキドキしてる…


        耀くんは…オレの事…どう…思ってるのかな…