06
耀くんのマンションに引っ越して最初の朝…
夕べ寝る前に耀くんが明日は7時に起きるって言ってたのに…起きて来ない…
今の時間は7時5分…これは…起こしに行った方がいいのか?
誓って言うがこれは決して下心からでは無いっ!!親切心からだ。
コン! コン!
「耀くん?起きてる?」
……しばらく待ったけど返事が無い…きっとまだ寝てるんだ…
オレはそっとドアを開けて部屋の中に入った…
カーテンが閉まってて中は薄暗い…ベッドにはスヤスヤ眠る耀くんがいたっ!!
…うわぁ…可愛い寝顔…
「…ん…」
寝返りをうって仰向けになった耀くん…
ひゃぁぁぁ…長い睫毛が…ピンク色の唇が…ヤ…ヤバイ…このままじゃ…理性の限界が…
「よ…耀…くん。起きて!遅刻するよ。」
何とか理性を保ちつつベッドの淵に腰を下ろして耀くんに声を掛けた。
「んーーーー…」
肩を揺すっても起きない…
仕方ない…最終手段だ…
オレは自分の顔を耀くんの顔に近付けた…あーこのまま…唇を奪いたい…
そんな衝動を抑えつつ耀くんの耳元に口を近付けて内緒話をする様に話し始めた。
「耀くん。おはよう。野菜たっぷりのサンドイッチにおいしいスープも作ったよ。
早く起きないとオレが全部食べちゃうよ。」
耀くんがピクッと反応する…
ホントご飯食べるの好きなんだな…
食べるのが好きな耀くんに料理作るのが好きなオレなんて…本当運命だよね。耀くん。
「んー…ダメだよ…オレが食べるんだから…」
耀くんが目を擦りながら起きた。
「おはよー。耀くん。」
「んー…椎凪?え?あー…おはよう…ん?」
寝起きでボケているオレの目に…椎凪の裸の上半身が飛び込んで来た…え…?
下は…ズボンを穿いてない…シーツを巻いてるだけだ…
「 !! うわっ!!何するつもりだよっ!!椎凪のスケベ!!」
ド コ ッ !
オレは思いっきり椎凪の鳩尾に足蹴りを叩き込んだ!!
「 が は っ !! げほっ… ごほっ… 」
無防備に耀くんの蹴りをマトモに喰らってしまった。
まさか足蹴りされるなんて思ってなかったから…
「耀…くん…ヒド…誤…解…」
椎凪がお腹を押さえてうずくまりながら言い訳をした。
「何が誤解なのっ!?なんでハダカなんだよっ!しかも寝てる所襲うなんてっ!!」
オレは椎凪の顔を足で押し戻しながら文句を言った。
「だって…耀くん昨日言ってたでしょ?7時に起きるって!起きて来ないから起こしに来ただけ!」
もっともらしいいい訳だ。
「じゃあ何でハダカなの?」
「ハダカ?ああ…オレ…ハダカ好きだから。寝る時ハダカだし仕事行くまでハダカでいるけど?
え?それが何か?」
ちょっと「心外」と言いたげな椎凪の顔を見ると…ホントにただ起こしに来てくれただけだったのかな…?
リビングで椎凪がオレに文句を言う…
「まったく…気を利かせて起こしに行ってあげたのに…ひどい目に遭った。」
「そんな格好で来るからだよっ!紛らわしいな!」
「耀くん襲うつもりなら声なんか掛けないよ!」
確かに…そうだけど…
「 襲うって何だよ?変な事しないって言っただろ?それにオレ男だからっ!!」
「変な事じゃない!愛し合ってれば当然の事だもん。
それにオレ男でも耀くんの事好きだからっ! へーんだっ!」
椎凪が腰に手を当てて勝ち誇ったようにオレに宣言する…
何で得意げに言ってんの?…訳わかんない…
「それ以上変な事言うと出て行ってもらうからねっ!」
「えーー?そうしたらオレの料理食べれなくなちゃうよ?いいの?」
「 ぐっ…それは… 」
確かに…椎凪の料理…昨日食べて信じられないくらい美味しかった…オレ好みの味だったし…
「耀くんの為にまだまだ作りたいの一杯あるのになぁ…残念だな…」
ワザとらしく両手を広げて残念がる椎凪…
「じゃ…じゃあ執行猶予つけてあげる…」
仕方なく折れた。
「えー?無実の間違いでしょ?」
「もー椎凪の減らず口…」
「だってオレ耀くんとずっと一緒に居たいんだもん!好きだよ。耀くん 」
ニッコリとあの笑顔だ…
「そんな事言ったってダメだよ…騙されないからね。」
オレはナゼか椎凪から視線を逸らした…なんだろ?ドキドキする。
「怒った顔も可愛いね。」
「…………」
またオレを見てニコニコしてる…もう…言ってもキリが無い…
でも…椎凪といると楽しいんだよな…あんな事言ってるけど…
オレに手を出したりしないし…
出会って…まだ3日目なのに…ずっと前から一緒にいるみたい…変なの…
「ねぇ!ちょっと君!」
大学で講義が終わって帰ろうとした時…後ろから声を掛けられた…
…え?オレ?大学でオレに声を掛けてくる人がいるなんて珍しい…
「良かった。見つけた。」
うっ!知らない人だ!!何の用なんだろう…オレは一気に警戒態勢に入った…
「新城君は?」
ちょっと辺りを見回してそう言った。
「え?…今日は…休み…」
「え?そうか…んー困ったな…じゃあコレ教授から頼まれたんだけど…
新城君に渡してもらっていいかな?」
そう言うとプリントの束をオレに見せた。
ああ…そう言う事なら…
「わかった…渡しとくよ…」
それを受け取ろうと手を伸ばすと反対に彼はその手を引いてオレの伸ばした手を
反対の空いていた手で掴んだ。
「 !! えっ…? 」
一瞬何だか分からなかった…
「ねぇ?ちょっと付き合わない?前から声掛けたかったんだけどさいつも新城君が一緒だったからさ…
声掛けられなくてさ。」
掴まれた腕に力がこもる…
「…あ…や…ちょっと…離して…」
オレはやっとの思いで声を出して掴まれた腕を振り払おうとした…
「そんなに嫌がんないでよ。少しでいいからさ。ね!行こうよ。」
「あっ…」
更に強く腕を引っ張られて…反対の肩まで掴まれた…顔も覗き込んでくる…
どうしよう…怖くて…声が…出ない…
オレは他人が怖い…特に男の人…この人みたいに…知らないのに…何でオレに…触ってくるの…
やだ…オレに触らないで…近づかないで……誰か……助けて…!
そう思った時…2人の間に誰かが割って入った。
オレの目の前が少し暗くなる…
「 ちょっと…君さ!オレの耀くんに何してんの?」
「 ! 」
椎凪?椎凪の声だ…でも…何で?
閉じていた目を開けると…椎凪がオレを掴んでいた男の人の腕を逆に握り返しながら
オレから引き離した…
椎凪…どうして…?
…あ…目の前が…椎凪の背中しか見えなくなった…大きくて…広い…椎凪の背中…
「な…何だよ…男のくせに女みたいだからちょっとからかってやっただけだろう…」
オレに腕を強く掴まれた彼は慌てて言い訳を始めた…
「君が耀くんにチョッカイ出すなんて100年早い。一生ムリだから。」
「何ムキになってんだよ…バッカじゃねーの…」
「君なんかに耀くんの良い所なんて判んないんだからさ…」
オレは頭にきて耀くんに見えない様に『オレ』を出して相手の胸倉を掴んだ。
「二度と耀くんに手ぇ出すんじゃねーぞ!クソガキッ!!次は無いからな。」
そう言って思いっきり突き放してやるとそいつは慌てて走って行った。
オレはその時もう彼の事なんて気にしてなかった…椎凪が来てくれたから…
それに…椎凪の背中から目が離せなくて…
本当に…大きくて広い…抱きつきなる衝動を必死で押さえた…
オレ…どうしたんだろう…
「あ…」
「大丈夫だった…?耀くん…迎えに来たよ…」
そう言って椎凪が優しくオレを抱きしめてくれた…
あ…胸も…広くてあったかい…
椎凪って…オレの事すっぽり包めちゃうんだ…
背中も…胸も…広くてあったかい…不思議…オレこんな事されたら怖くて身体が震えちゃうのに…
でも…何でだろ?椎凪に抱きしめられると…気持ちがいい…それにすごく安心する…
オレは椎凪の胸の中が気持ち良くて…しばらく目を瞑ってそのまま
椎凪に寄りかかっていた…
…ん?
なんだ?なんか…身の危険を感じる…?
オレのセンサーが何かに反応した。
そっと目を開けると椎凪がオレに
顔を近付けていた…
「 !! 」
バ キ ャ !!
「 うわっ !! ドサクサに紛れて何しようとしてんの?椎凪!!」
「…………」
耀くんのアッパーがまたオレの顎に決まった。
耀くん…痛い…何でさっきの男にそれしないの…?それくらい痛いんですけど…
オレは顎を押さえてしばらく何も言えず呻いていた。
「何で?今のどう見てもキスする所でしょ?」
オレは痛む顎を押さえながら
主張する。
「しないっ!!絶対しないっ!!」
耀くんは完全否定だ!
「いや!するっ!!絶対にするよっ!!」
負けずにオレも言い張った!
絶対オレの方が正しい!
「うるさいっ!!」
そんなやり取りの繰り返し。もーキリが無い!全く…ちょっと気を許すとコレなんだから…
その後も散々文句を言う椎凪を無視して大学を後にした。