07





 「皆で食事?みんな?」
 耀くんからのメールにそう書いてあった。

 耀くんに指定された店に向かう。耀くんの好みの中華料理店だ。
 もう来てるんだろうか… なんて思っていると店先に耀くんの姿が…しかも男に絡まれてる!
 「またチョッカイ出されてんの?」

 耀くんは良くナンパされる…本人は気付いていないらしいけどかなり無防備 なんだよな…
 あーあ…遂には耀くんの顎まで掴まれて…オレは速攻耀くんの傍に駆け寄った。

 「ちょっと君!オレの耀くんに何してんだよっ!!」
 2人の間に割って入った。
 「椎凪?」
 「ああ?」
 相手の男は怯まなかった。

 「何でテメーの耀なんだよ!!ふざけた事言ってんじゃねーぞっ!!」
 凄まれた。その顔を良く見ると…

 「え?君…新城君?髪切っちゃったんだ。」
 感じが違くて分らなかった。

 「耀はお前なんかに渡さねーから!」

 そう言って耀くんの腕を掴んでサッサと店の中に入って行く。オレの事は完全な無視だ。

 「え?ちょっ…何言ってるの?君深田さんの彼氏だろ?何で耀くんまで…?」

 オレは慌てて2人の後を追った。

 「耀はオレの家族だからだよっ!誰がテメーなんかに渡すかっ!!」
 階段を上がりながらそう言った。
 「え?家族ってどう言う事?」
 「うるせー!テメーに話す事は無いっ!!」
 「ちょっと新城君っ!!」
 まったくちゃんと説明しろっての…その前に耀くん離せ!
 「いらっしゃい。椎凪さん。」
 店の階段を上りきった入り口の前でオレを遮るようにひょっこりともう一人が顔を出した。
 「うわっと!…あ…どうも…」
 ビックリした…
 「今日はゆっくりお話伺いたいですね?椎凪慶彦さん。
 勝手に耀くんと話進めてしまってちょっと僕達納得してないですよ。ふふ…」
 ふふ…って本当は笑ってないんだろ?その笑顔…怪しいんだよ…
 「楽しみだなぁ…僕…」
 あのホテルの事件の時と同じ瞳でオレを見つめて笑った。

 店に入ると個室に通された。 円卓のテーブル…オレは耀くんの隣に座る。
 「椎凪さんってお幾つなんですか?」
 「え?オレ?25だけど?」
 「じゃあ立派な成人男性ですよね?大人の男性 として未成年に手出すの止めて下さいね?」
 直球で言われた。
 「え?未成年?耀くんまだ未成年なの?」
 「うん…オレ12月でハタチ…」
 あと半年以上あるじゃん…
 「そう言う話ってしないんですか?」
 呆れた様に言われてしまった。
 「オレそう言うの気にしないし…」
 まぁそんな年下相手にしたの初めてだけど…
 「耀君も?」
 「あ…うん…だって刑事だって分ってるし…別に…」
 「耀はメシ作ってくれれば誰でもOKなんだよな」
 新城君が半ばムッとしながら突っ込んで来た。
 「そ…そんな事無いよ…誰でもなんて…」
 耀くんがチョット困った様に返事をした。オレは横から助け舟を出す。
 「そーだよっ!耀くんはオレじゃないとダメなの!」
 「耀!コイツに女がいたらどーすんだ?絶対遊んでるぞ!」
 でーっっ!コイツ何余計な事言ってんの!黙れっ!!
 「え?女?…」
 一瞬…えって顔をして耀くんがチラリとオレを見る…

 「別にいいよ…いたって。それはオレには関係ないもん…
 オレ別に椎凪の事何とも思ってないから…唯の下宿人だもん…」

 オレから視線を逸らして俯き加減でそう言った。
 「だってよ!」
 新城君が嘲笑うかのようにオレに念を押す。
 オレだって聞えてるよっ!!これでも軽くショック受けてるんだからなっ!
 耀くんってばまだそんな事 言うの?

 「耀くん!何でそんな事言うの?
 オレ女なていないし耀くんの事こーんなに好きって言ってるのに…」

 「だって…オレ男だって言ってるだろ…男の人と 付き合わないよ…女の人ともだけどさ…
 オレ誰とも付き合わないって決めてるんだ…」

 何だか辛そうに話す耀くん…そんな耀くんを2人も黙って見つめてる。何だ?空気が 変だ…

 「何言ってんの?耀くん!!それはオレに出会うまでの話。オレ以外とは誰とも付き合わなくて正解!」
 オレは自信満々で話し続ける。
 「でもオレと出会ったんだから…オレ耀くんのこと愛してるから!だからオレ達付き合うんだよっ!!」
 思いっきり愛の告白をした。2人の事はこの際無視だ。

 「だから勝手にそう言う事言わないでってば!」
 「勝手じゃない!耀くんだって分ってるくせに…何でワザとそう言う事言うの?」
 「ワザとじゃないっ!! 椎凪オレの事何にも分かって無い!!分ってないからそんな事言うんだっ!!」
 耀くんも急にムキになりだした。でもオレも止めるつもり無い。
 「なに?分ってないってどう言う事?」
 思わず席を立って耀くんに近付いた。
 「言わないよっ!椎凪には絶対教えないもん!」
 オレの方を見もせずに耀くんは言い続ける。
 「あっ!何それ?すっごいヤな感じ!」
 「何だよ…だったら怒ればいいだろ?椎凪なんか恐くないもん!」
 更にオレとは反対の方を向いて耀くんは言い続ける…
 「うわっ!すっごく可愛くないっ!可愛くないよ耀くん!!」
 もう売り言葉に買い言葉だ。お互いムキになってる。
 「別に可愛くなくたっていいもんっ!!べーー!!」
 「 !! 」

 あっかんべーって…ちょっと耀く…  ズ ド ッ !!

 「……っ痛っっ!!!!!」

 脳天に衝撃が走った…この感覚…頭に踵落しされたのかっ!! マジかよ…容赦無しかい??
 オレは一撃入れた張本人を振り返った。

 「いい加減にしやがれっ!喧しいんだよ!」

 …すごいイライラしてる。
 「耀はっきり決めろ! 本当にコイツと一緒に暮していけるのかどうか。
 耀が本当にいいならオレ達は何も言わねーよ。」
 「はっきり…?」
 「ああ。」
 耀くんが少し困惑してる…何て言うんだろ…

 もし今ここで嫌って言ったら…椎凪と離れるって事…?また…一人で暮すって事…
 やだ…そんなの嫌だ…でも…
 オレは思わず椎凪を見てしまった…椎凪は心配そうにオレの答えを待ってる…

 ここ数日間の事を思い出す…毎日楽しくて…椎凪の作ってくれた料理も美味しくて…
 椎凪はオレを…守ってくれた…

 …オレ…もう一人は…嫌だ…

 「…椎凪の料理…毎日食べたい…」
 思った以上に小さな声になちゃった…
 「耀くん…」
 椎凪の顔が一瞬にして明るく輝いた。わかり易い…
 「耀くんっ!!」
 「うわっ!!」
 いきなり抱き付かれたっ!!
 「ちょっ…やめっ…!!」
 「オレの事好きって事だよね?ね?」
 すっごいニコニコ顔…
 「誰もそんな事言ってないだろっ!!」
 必死に椎凪の絡みつく腕と身体を引き離そうとしたけど無理だった…苦し…
 「もー耀くんは素直じゃないんだから。」
 違う!椎凪が誤解してるだけだって…むー…

 「耀君もあんな風に言い合ったりするんだね。」
 じゃれ合う2人を見ながら祐輔に話し掛けた。
 「ふん…そうらしいな…」
 「暫くは様子…見てみようか?祐輔。」
 「…お前…何か企んでんだろ?」
 祐輔が僕に疑いの眼差しを向けて来た。
 「え?やだな…今は何もしないよ。今は…ね。」
 くすっと慎二が笑った…その笑顔が怪しいんだよ…
 「まあいいけどな…オレも今は黙っててやる…」

 オレと椎凪を眺めながら2人はそんな事を話してたらしい…
 オレは椎凪から何とか逃げ出そうと悪戦苦闘してたから気が付かなかった。

 「ごちそう様でした。美味しかったぁ!」
 耀くんが上機嫌で笑う。オレはその顔を見てるだけで機嫌が良くなる。不思議だ。
 「今度はうちの会社の方にも遊びに 来て下さい。椎凪さん。」
 そう言ってニッコリ笑う…一体どうしたんだ?最初の態度とはエライ違う…何か魂胆でもあんのか?
  「取り合えず耀がいいって言うんだから暫く様子見ててやる。
 まあ精々追い出されない様に気を付けんだな。じゃあな。」
 そう言うと2人はオレ達とは反対の方向に帰って行った。

 耀くんと2人っきり…暫くお店の前で佇んでしまった。

 「なんか…一応オレ合格?」
 そんな言い方もおかしいけど…そんな感じだった。
 「みたい…」
 耀くんがオレを見上げて肯定してくれる。
 「耀くん…」
 「なに?」
 「オレの事好きって言って。」
 「言わないってば…」
 「意地っ張りだな…」
 「だから違うってば…ご飯の為だよ。」

 ちょっと拗ねたような顔を する耀くん…そんな耀くんを見て思わず微笑んでしまう…
 まあいいか…時間はたっぷりとある…これから毎日覚悟しててね耀くん…

 そう思いながらオレはふと昔の事が 頭をよぎる…輪子さんには重いと言われ拒絶された…
 耀くんは…オレを受け入れてくれるんだろうか?



        胸の奥が少し重くなった…