09





 慎二君と話をしてから二日が経った。
 オレを受け入れてくれたのが分かってオレはスゴク嬉しい気分だった。

 …数秒前までは。


 「 え? 」
 「だから…明日の夕方から親の所に行って来るから3日間いないからねって言ってるの。」

   ガ ー ー ー ー ン !!

 目の前が真っ暗になる…手の力が抜けて持っていた箸も茶碗も落とした…

 「なに?聞いてないよ…そんな事…じゃあ何?その間オレ一人?」
 「ごめん…2ヶ月に一度会ってるんだ…それが一人暮らしの条件だから…さ」

 何だか耀くんが辛そうに話す…きっと耀くんの母親が亡くなった原因が
  父親にもあるし再婚相手が一番の原因の愛人…
 耀くんの生みの親だもんな…あんまり会いたくないんだ…きっと…

 「オレも気が重いんだけど仕方ないから…」
 「…わかった…仕方ないよね…我慢する… グズッ…」
 「もー大袈裟だなぁ…」

 耀くんが呆れた様にオレを見てる…

 大袈裟なんかじゃない… 耀くんは分からないんだ…
 オレがどれだけ耀くんに癒されてるか…どれだけ耀くんが必要なのか…

 どれだけ耀くんの事…愛してるか…



  次の日の夕方夜行のバス乗り場で耀くんを見送った。
 電車と違って他人と接する事無く一人の世界になれるからいつもバスなんだそうだ。
 新城君も見送りに来ていた… いつもそうしているから…

 「じゃあな。」

 耀くんを見送って素っ気なく帰る新城君の後ろをついて行く。

 「 ? 何でオレに付いてくる?」

  あからさまに迷惑そうな顔でオレの方を振り向いた。

 「泊めてよ。耀くん帰ってくるまで。」
 「はあ?何言ってやがる?ふざけんな!誰が泊めるか!テメーの家で 耀が帰ってくるまで待ってろっ!」
 「えーっ!一人じゃ寂しくてオレ死んじゃう。」

 半分本当の事だ…耀くんがオレの傍にいないとなんだか言いようの無い不安がオレを襲う…

 「知るかっ!」
 「ホント…マジで死んじゃう…」
 ゴネてやった…

 ……こいつ……

 余りにもしつこくダダをコネ捲くったオレに呆れ果ててやっとOKしてくれた。


 ついて行った新城君のマンションはとにかく豪華な「億ション」と言われる所だ。
 最新のモデルでホント高そう…こんな所に住んでるとは…ビックリ。

 「うわっ!何?この嫌味なまでの豪華な部屋は?」
 「うるさいっ!嫌なら帰れっ!」

 部屋に入るなり勝手に口からそんな言葉が飛び出した。
 とにかく広い… リビングは50畳位ありそうだし展望もいい。
 テラスもテーブルと椅子のセットが置いてあるのにまだスペースに余裕がある。

 「ベッド一つしかないぞ?どーすんだ?」
 「一緒に寝るからいい。」
 「…あっそ。」
 即答された。
 「 ? いいのオレと一緒のベッドなんて…」
 「別に耀以外眼中に無い奴警戒したって 仕方ないだろ?コーヒー飲むか?」
 「え?あ…うん。ありがと…」

 意外に優しいんだ…

 コーヒーを淹れる仕度をする彼を眺めつつ話しかけた。

 「君って結構何でも受け入れちゃうんだね。」
 「 !? さあな…ただ色々な事考えるのが面倒なだけだ…」

 淹れ立てのコーヒーをオレに渡しながら言った。


 夕飯を食べた後テラスで夜風にあたっている…今頃耀くん何してるのかなぁ…
 さっきのメールでは何事も無く向かってるらしい…会いたいなぁ…
 新城君はお風呂に入っている。 おしゃべり好きと言うわけでは無いみたいだけど…
 暗い訳じゃないし話も合う…なんて言うかテンポが合うって言う感じ。
 喧嘩っ早いけど悪い奴ではなさそうだし…何より耀くんの友達 だから上手く付き合わないと…

 ヒ ュ ン !

 とっさに避けた。
 でも左の頬をかすめたらしく一筋切れ目が入り血が滲んできた。

 「良くよけたな…」

 いつの間にか新城君がオレの後ろに立って微笑んでる…右手にナイフを持って…

 「オレ本気だからお前も本気出さないと体中 切り刻まれるぞ…」

 本気なのが分かる…殺気…出まっくてるし…

 「わかってんだよ。お前それ本当の姿じゃないだろ?本気出せよ。」

 「なんだ…やっぱりバレてた?ヤバイと思ってたんだ…」

 しばらく黙って彼を見つめてたけど…思わず笑いがこぼれた…もう隠すつもりは無い。

 「やっぱりな…ワザと手ぇ出さなねーからおかしいとは思ってたけどな…
 お前だって殺気出まくってるぞ。」
 「仕方ないだろ…耀くんにこのオレを見せる訳には いかないんだよ!マジでオレとやんの?」

 一応聞いてみた。

 「ああ。やっておかねーと耀の事許さねー」

 ニヤリと笑った…やる気満々だ。

 「じゃあやるしかないか…」

 何だろ?思わず笑いが出た…


 どのくらいやり合ったろう…お互い相手に一発入ればやり返して一発相手に入れる… その繰り返しだ。
 何発目かオレの蹴りをよけた彼の合間に滑り込んで肘鉄を入れてヨロけた彼を掴んで
 鳩尾に膝蹴りを入れた。
 いつもならこれでKOなんだが…彼は違った。
 さっきよりも瞳に殺気が増してる…どうやら何かのスイッチが入ったらしい。
 左に一発食らって腹に膝蹴りを受けて思わず手を着いた。
 何だろ?こんなの初めてだ…オレと互角?珍しい…何だか笑える…

 「あー楽しい!! ねぇ?新城君?」

 オレはナゼか上機嫌だった。

 「上等だよ!椎凪!テメー殺す!」

 あれ?ホントにマジになってる?

 「それは勘弁!やっと耀くんに出会えたんだからヤダね!」
 「耀にはオレから 言っといてやるよ。オレに負けて尻尾巻いて逃げたって…」 

 しまった!胸倉を掴まれた!

 「なっ!」 

 背負い投げで投げられて思いっきり背中から床に 叩き付けられた。

 「 が は っ ! 」

 息が詰まる…見上げると微笑んでる彼が見えた。

 オレはその顔めがけ足を蹴り上げて彼がヨロめいている間に起き上がった。

 「冗談か?誰が負けて逃げるかよ。」

 ホント…冗談じゃない。

 「………」 「………」 

 お互い動かずに相手を見詰め合っていた。


 「もうやめっ!きりがねー…」
 「!」

 彼が急にそう言って溜息を吐いた。

 「別にお前と勝負決めるつもりは無い…お前の『ソレ』が見たかっただけだからな。」

 突然彼の殺気が消えた…どうやら止めるのは本当らしい…

 「耀に知られたくないって言うなら別にかまわねー
 でも知られたからって別にたいした事じゃないんじゃねーの?」

 「それでも…オレは恐い…耀くんには絶対知られたくない!!」

 そう…こんなオレを知ったらきっと…オレの事嫌いになる…
 そんなオレの事を察したのか…

 「わかった…耀には黙っててやる。」

 そう言って彼はタバコを吸い始めた…



 シャワーを浴びて寝室に行くと新城君がもうベッドに横になっていた。
 さっきの彼とは別人の様に穏やかでここに来た時の彼だ。

 「新城君?もう寝た?」
 「祐輔。祐輔でいい…」

 ゆっくり起き上がるとけだるそうにそう答えた。

 「何だ?そのままでいいのかよ?」

 『オレ』のままで話しかけたからそう言われた。

 「もう君の前で作ったって意味ないだろう?」
 「そりゃそうだな。」 

 髪をかき上げながら笑ってる…

 「絶対耀くんには秘密だからなっ!」
 「わかってるって…しかし耀が女と付き合うとは思ってなっかたが…まさかお前みたいのが相手とはな…
  だからってお前との事オレは認めてねーかんな…勘違いすんな…」

 まったくと言う様に溜息をつかれた。

 「オレじゃ何か不満でも?」

 睨んでやった。

 「思ってること全部言ってやろうか?」
 「…いや…いい…なんか落ち込みそうだし…」
 「賢い選択かもな。聞きたきゃいつでも言ってやる。」
 「オレが猫被ってるのが 気に入らないのか?」
 「別に…ただ慎二といい一人二役なんて良く疲れねーよな…?めんどくせーっ…」
 「慎二君か…彼にもバレちゃったんだよな…!?慎二君の事も知ってた?」
 「ああ…あいつお前よりも区切りハッキリしてねーからいつの間にか切れモード入ってたりすんだよな…
 タチが悪い…あいつは怒らせると面倒だから気を付けた方がいいぞ。」
 「うん…わかった…ありがと。」

 素直にその忠告を聞いた…オレも何となくそう思うから。


 それから耀くんが帰って来る3日間…不思議とオレは楽しく…寂しい思いもせずに過ごす事が出来た。