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椎凪 過去編。 06



ホテルの一室…
オレはシャツのボタンを外したままどうしたもんかと考えていた…
一緒に入った女の子がシャワーを浴びて出て来たまでは良かったんだけど…
服を脱ぎ始めたオレとこれから起こるであろう事を想像してベッドを見た途端怖気づいたんだよね…

今日の相手はオレが声を掛けたんじゃない…
声を掛けられた…しかもどうみてもそんな事には縁遠い様な真面目そうな…女の子。
女じゃなくて女の子って言うのが似合う…でも22だって言ってた…

ベッドから目を離さず…その場に立ち尽くしてる…


「別に無理しなくていいんじゃない?」

オレは見かねて声を掛けた。

「えっ?」

その声にハッとする。

「しなくてもオレは構わないよ。
もう出よう。服着なよ。」



オレは本心で言った。
別にここまで来たからって何が何でも抱くなんて事はしない…
「あ…ごめんなさい…。大丈夫ですから…本当に…」
「無理しなくていいよ。 君すっごく無理してるでしょ?」
オレは笑ってそう言った。
「すみません…気を使わせちゃって…本当に大丈夫ですから…
お願いします…帰るなんて言わないで下さい。」
そう言って必死にオレの腕を掴む。

「…………本当にいいの?オレもう止めないよ?」

少し考えてそう言った。
オレはどうでも良かったけど彼女が 望むなら別に構わないと思ったから…
そこまで言うんだったらオレはもう気を使うつもりは無い。
「…は…い…」

今日は…覚悟を決めてきた…
街で…ハンカチを落として…拾ってくれた男の人と…ホテルに行こうって…
今時落としたハンカチを拾ってくれる人なんていないだろうと思ってたから…
拾ってくれたこの人は…きっと…優しい人なんだと思いたい…
思いを寄せていた人と…何度か…そう言う事をした…
相手は…私なんか女友達の一人としか思って ないんだろうけど…
何度目かの時…その人に言われた…
私を…抱いてても…全然楽しくないって…私が感じないから…
最後は不機嫌になって…怒鳴り散らされた…
好きな人と…してるのに…自分でも分からない…
どんなに触られても…攻められても…感じない…
だから…今日は他の人でもそうなのか…試すつもりで声を掛けた…
出会い系サイトって言う手もあったけど…
顔も知らない人と待ち合わせをするのも怖かったから…


ベッドで…2人横になった…

「そんなに硬くならなくてもいいよ。」
「 ! 」
「もしかして初めて?」
「……」
無言で首を振る。
「でもオレで2人目とか?」
「 コク… 」
「くすっ…じゃあ今日は一大決心して来たんだ。」
「は…い…あっ…いえ…その…」
「いいの?彼氏なんじゃないの? って言ってももう止めないけどね。」
そう言って彼はニッコリと笑う。
「あ…違います…彼…なんかじゃ…」
「そ?じゃあ期待に応えないといけないかな。」
「え?」

最初は…緊張して…やっぱり怖くて…でも…この人の手が…暖かくて…優しくて…

「ああっ…ハッ…ハァ…んんっ…」
なに…これ…? こんな事って…うそ…こんなに…感じるなんて…なんで?
今まで…こんな事…なかっ…うっ…
「ハァ…ハァ…だっ…だめっ…こんな…あっ…」
やだっ…こんな格好…恥ずかしい…でもっ…んっ…
彼の唇が私の身体に優しく触れる…なのに乱暴に押し上げられる…
身体の奥が…なんか…変…自分でも… 押さえられない…なに?…
「あっ…ちょっと…まっ…いやっ…!!」
初めて感じる感覚で…私…身体が変になちゃったの?
「もしかして…イクの初めて?」
「ハァ…えっ?…」
耳元で優しく囁かれた…それすらも今の私の身体には敏感に感じちゃう…
イク…?え?…これが… イクって事な…
「あっあっあっ……ああっ……んっ!!」

彼の口で…口を塞がれた…
初めての…感覚…自分の身体じゃないみたいに…
重さが…なくなっちゃったみたいだった…
だから彼に思いっきり抱きついた…



彼の唇にそっと指で触れた…
「彼と抱き合っても…感じないのは…自分のせいだと思ってた…
でも…違うってわかった…
あなたとだと…なんでこんなに感じちゃったんだろ…」
「オレ遊んでる から…色んな女の子知ってるからじゃない…」
オレはそう言いながら彼女の手をオレの唇から離した。


「次は感じるかもよ…彼氏とも。」

ベッドから降りながら彼女を見ないで言った。
「しない…」
「ん?」
「もう…彼とはしない…」

潤んだ瞳でオレを見つめる…




「ふーん。そう?」
オレは服を着ながら素っ気なく返事をした。
どう見てもオレに好意を抱き始めてる…

「あの…私…」








 「じゃあね。バイバイ。」










彼女が何かいいかけたのを無視してオレはホテルの部屋を出た。
彼女はまだベッドにハダカのまま呆然とオレを見送っていた。

……名前も…聞けなかった…


家までの帰り道。
今日は久々に癒し系の子だったな…
タバコを吹かしながらオレは暢気に考えていた。
慣れてなくて…たまにはあんな子もいいかもねぇ…
そう言えばオレって処女って相手した事ないんだよな…
でもその子の初めての相手になるって…一晩限りのオレじゃ相手が可哀想か…
でも…処女ってどんな感じ なんだろうな…今日の子より慣れてないよな…うーん…
なんてどうでもいい事を考えていた。

…まぁいいや。早く帰ってシャワー浴びよ。


それから数年後…耀と出会って耀の初めての相手になった椎凪でした。