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 * ちょっとプレイバックで 『本編 95話』 の後のお話。 *



「…ん?」
ナゼか身体に違和感を感じて目が覚めた。
時計に目をやると…午前2時を過ぎたあたり…ウソだろ…
和海が泊まってる訳じゃないのに…でも… この感じは…

「テメェ!!いつの間に入って来やがったっ!!バカ椎凪っ!!!」

叫んで布団を剥ぎ取ると…
案の定椎凪の野郎がオレにしっかりと しがみ付いてやがったっ!!!!
寝る前にオレん家から叩き出したのに…まさか…

「お前ここの鍵勝手に作ってんじゃねーっ!!」

怒鳴りながら しがみ付いてる椎凪を剥がしにかかる。
耀に前からここの鍵は渡してあるが今はその鍵は耀が持って出掛けてる筈…
オレがそうしろって言って持たせたんだから 間違いねー…
こんな事が起こらない様にだ…だからこいつが持ってる訳ないのに…
持ってるって事は…そう言うことだろう?

「いいじゃん!祐輔だって オレんトコの鍵持ってるじゃんっ!!」
「やっぱこっそり合鍵作ってやがったのか…この…」
結構な力でオレにしがみ付いてる椎凪の腕を外そうとしてるのに… この馬鹿力…
「だって…1人じゃ寂しいんだよっ!!!1週間ももたないもんっ!!」
「だからっていつもオレの所に来んじゃねーっっ!!」
「いいじゃん! ご近所なんだから!!」 
「迷惑なんだよっ!!しかもこんな夜中に起こしやがって…
オレが寝てんの起こされんの一番ムカつくってテメェ知ってんだろうがっ!!
覚悟出来てんだろうな?」
「じゃあオレが責任持って祐輔の事寝かしつけてあげるっ!!
腕枕でも子守唄でも何でもOKだから。何して欲しい?」
「……テメェに永眠して欲しいな!!」
「えーーそれは無理!」
「だったら今すぐオレん家から出でけっ!!」
「えーーそれも無理!だから諦めてよ。祐輔。」
「…………」

チェーン掛けとくのすっかり忘れてた…くそっ…いつも掛けた事ねーし…
まさか合鍵まで持ってるとは…考えが甘かった…

耀が右京の奴と 北海道に1週間旅行に行ってる…
もうその前からコイツはグズグズウダウダ言ってたから
こっちにとばっちりが来んじゃねーかと思ってたんだよ…
だからずっと オレの所には来んなって言い続けてたのに…

やっぱ無駄な努力だったか…

余計腹が立ち…夜中に起こされて腹が立ち…まったく…
ホントコイツには いつも迷惑掛けられっぱなしだっ!!
ガキじゃあるまいし…何が寂しいだ!ふざけんじゃねーっつーの!
オレはお前の子守じゃ無いんだよ!!

「 ばしっ!! 」
「 いてっ!! 」

思わずムカついて椎凪の頭に1発入れてやった。
それでもオレの気は収まらないが…このまま朝までなんて勘弁して くれ…

「もう寝るっ!!テメェ朝オレが起きる前にコーヒー淹れとけよ!」
「うん!任せて!飛び切り美味しいの淹れてあげる!!」
「…ったく」
オレは諦めて布団に包まって椎凪の事はあえて無視して寝た。

祐輔は何だかんだ言っても優しい…いい感じでオレの事構ってくれるから…
ありがとう…祐輔…
諦めて布団に包まる祐輔を眺めながらそう思った…


「あ!」
「あれ?」

仕事が終わって帰り道…祐輔を待ち伏せして捕まえて一緒に歩いてたら
なんとも不思議な2人に遭遇した。

「慎二君に… 内藤さん?何だか珍しい組み合わせだね?」
「えー?時々ご一緒するんですよ。内藤さんには昔から
色々お世話になってますし。中学時代の祐輔の事も
色々教えて貰えますしね。ふふ。」
愉しそうに慎二君が笑う。
「人の過去詮索すんな!」
「照れない照れない!」
「照れてねー…」
「それにしても 椎凪さんまた祐輔の所に厄介になってるんですって?
いい加減に祐輔離れしたらどうです?」
もの凄い呆れた眼差しを送られた。
「いいの。祐輔は優しいから 気にしないんだもん。」
「耀君も今頃右京さんと楽しんでるんでしょうね…連絡ありました?」
「……ぐっ!!…昨夜…と今朝……あったよ…」

そんなの… いつもオレの傍にいてくれる耀くんがいない穴埋めにもなりゃしない…
あー…マズイ…落ち込んできた…

「え?あの子いないの?だから椎凪君最近態度変だったんだ?」
内藤さんが納得したようにオレに言う。
「……はあ…」
「大の大人が情けねー…」
「あれ?新城君は?深田今日は早く帰ったよ?」
「道場のガキの練習見てやるんだとよ…」
深田さんは子供の頃から 通ってる空手の道場を時々手伝ってる。
「振られたんだ… 祐輔?」
「うるせー!殴られてーか?慎二。」
「♪♪♪♪」
オレの携帯が鳴った。
「あ!耀くんからだ!」
オレは一気に気分上昇!
「もしもし!! 耀くん♪♪」

『僕だよ。』

「 !! 」
一瞬で冷水が頭から全身に落ちた。

「う…右京君?なん…で?」
『便利だね携帯と言うものは。 生まれて初めて使ったよ。
光栄に思いたまえ慎二君では無くて君がその第一号なんだから。』
「そ…そりゃどうも…嬉しくて涙が出そうだよ…そんな事より耀くんは?」
『ああ…今入浴中だ。』
「耀くんに変わった事ないだろうな…変な奴とか近寄らせてないよな?」
『君誰に向かって言ってるんだい。僕の目の前でそんな事させる わけないだろう。まったく…
君に心配される覚えは無いよ。』
相変わらず俺様な態度だ。
『…右京さん?電話ですか?』
!!…耀くんの声だ!!
「ちょっと右京君耀くんに代わっ…」
『何も心配する事は無い。こっちは愉しく過ごしている。
慎二君に宜しく伝えてくれたまえ。ブチッ!』
「…!!」

なっ…切りやがった……

「ツー…ツー…」
虚しく通話の切れた音が響く…
「切れましたね。」
慎二君がオレのすぐ横から顔を出してワザとそう言った。
それが余計追い撃ちをかけた。

「……!!!」
「ああ!椎凪さんそんなんで携帯投げてたら携帯幾つあっても足りませんよ。」

以前同じ様に右京君に 頭にきて慎二君の携帯を投げ付けてぶっ壊した事がある。

「愉しくやってるみたいですね。」
これまた爽やかな笑顔だ!


「公道で何馬鹿な事やっ てんの慶。恥ずかしい。」

オレの後から聞きたくもない声がした。
「…げっ…亨?なんで?」
「ここから僕の職場すぐそこだろ。」
そうだった…
亨は駅前の中学生対象の結構有名な進学塾の講師だ。
噂じゃNO1講師だって言うけど…オレには理解不能だ。
「でも今の時間仕事じゃないの?」
「ちょっとね。……慶!」
いつもの見下した眼差しで睨まれた。
またオレに何か命令するつもりか?この変態野郎!
「何だよ…」
思いきり警戒した。
「ちょっと付き合いな。刑事として。」

「は?」

亨に初めてそんな事を言われて…オレはちょっとびっくりだった。