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 * ちょっとプレイバックで 『本編 95話』 の後のお話。 *



ゾロゾロと野郎が5人で歩いてる。
内藤さんは刑事として慎二君は面白そうだからと
祐輔は慎二君に言われて渋々と…

「何処まで行くんだよ?」
しばらく歩いた所で亨に話し掛けた。
「ほらこれ。」
「ん?」
そう言って携帯を見せられた。

『先生助けて 駅前のゲーセン 和哉』

「?助けて…」
「ウチの塾の子でね…最近成績が下がって来てたから気にはなってたんだけど…
どうやら性質の悪いのに引っかかってるらしくて…」
「それで亨が出張るの?珍しい…」
よっぽど関心がある子なのか?
「本来はそこまで僕の関知する事じゃないんだけどこう直接言われたんじゃね…
それに彼最近頑張っててメキメキ成績が上がって来たところだったのに…
そんな事で僕の苦労を水の泡にされてたまるかって言うの!」
なんだ自分の為か… やっぱなぁ…
「警察呼ぼうとしてたら慶がいたから来て貰ったんだよ。」
「めんどくせーな…んなの亨1人で十分…!!」
いきなり立ち止まって振り向かれて もの凄い目付きで睨まれた。

「はぁ??何?国民の安全を守るのが慶の仕事だろ?黙って給料分働きなよ。
それとも何?僕だから協力できないって言うの? 慶彦?
いつから僕にそんな態度取れる様になったの?言ってごらんよ!」

「…………だ…誰もそんな事言ってないだろうが…」
なんでそこまで言われなきゃ なんないんだよ…

「椎凪君仕事仕事!」
内藤さんにポンと肩を叩かれた。
「まったく嘆かわしいですね…」
慎二君が首を振りながらオレの横を通り 抜ける。
「情けねぇな…」
祐輔がボソリと呟いてオレを追い越していく…

情けないって…何が?仕事愚痴った事?亨に言い返せなかった事??
何なんだよっっ!!ちくしょーーーーっっ!!ホント亨に関わるとロクな事がない!

「役立たず!!」
「……ぐがっ!!」
亨がトドメの一言をオレに突き 刺した!!
唯でさえ耀くんいなくて弱ってるって言うのに………


「どの子です?」
内藤さんが店内を見回しながら亨に聞いた。
「………あ!あそこ…」
一通り店内を見回して対戦ゲームの一角を指差した。
6人程のグループで中学生から高校生位の子達だ。

「和哉くん!」
そいつらに囲まれる様に小さくなってる男の子が1人…
亨に呼ばれて顔を上げると目に見えて分かるくらい明るい顔になった。
「真鍋先生!」
「なんだ? お前ら?」
亨が近付くと2人ほどズイッと前に出て凄んだ。
「彼を迎えに来たんだ。退いてくれないか?」
「こいつは自分から俺達と遊びたいって言った んだぜ?なぁ?」
「……うん…でも…もう……」
「何だよあんなに楽しく遊んだじゃねーか?」
「先輩にだって失礼だろうが?しかも先公なんか来やがって!」
こう言う奴らは教師を敵視してる…亨は教師と言う訳では無いけど…
それにナゼか上下関係に煩い。
「和哉くん行くよ。」
そんな彼達の言葉を無視して亨が 教え子に手を伸ばした。
相変わらず興味の無い奴はまったくの無視だ…ただ時と場合を考えろっての。
「ふざけんなっ!!」
その手に向かって1人が蹴りを 入れた。

ば し っ !!

「 !! 」

「……慶…」
亨に当たる寸前にオレがその足を掴んで止めた。

「いい加減にしとけよ クソガキ共!!」

『オレ』で睨んだ。
「…………」
「うるせー!!」
足を掴んでるオレにもう一人が殴りかかる。
そいつの腕を祐輔が掴んだ。

「やられる覚悟出来てんだろうな?」
ニヤリと笑って見せた。

「………くっ…」

「これ以上騒ぐなら署の方に来てもらうけど?田神君。」
内藤さんのいつもと変わらない声がした。
オレと祐輔はヤル気満々だったのにその一言で気を削がせられた。
「…うっ!内藤さん?!」
6人の中の1人が焦った 声を出す。
「知ってるんですか?」
慎二君が内藤さんに訪ねた。
「少年課にいた頃ね…高校生が中学生イジメてんじゃ無いよ。」
「……いや…そう言うわ けじゃ…」
途端に素直になってる…相当内藤さんにお世話になってるのか?
「それにこの人覚えてないの?中学の頃散々やられただろ?腕まで折られて…」
「…え?」
言われたその子が祐輔をマジマジと見た。
「げっ!!お前新城!!!…やべ…」
「なっ…新城??」
2人ほど祐輔を見て焦り出した。
「祐輔知ってるの?」
オレは祐輔の耳元に囁いた。
「知るか!やり合った相手なんかいちいち覚えてねー」
相手は未だに覚えてるらしいけど…地元じゃ有名 だったて言ってたからな…
「もうこの子の事勘弁してやってくれる?田神君?」

いつもと同じ言い方だったけど…どこか違う内藤さんの言葉だった。


連れ戻された和哉くんという子がシュンとしてる。
「何でこんな事?今回はこの人達のお陰で大事に至らなかったけど…」
「だって…」
「だって…なに?」
「だって真鍋先生最近僕の事全然気に掛けてくれなかったじゃないか!!」
「?」
…はぁ?
オレ達はみんなキョトンとなった。
当の亨はと言うと一瞬 キョトンとした顔をして直ぐにニッコリと微笑んだ。
「そんな事は無いよ。嬉しかったよ君がどんどんやる気なってくれて…
成績も見る見る上がっていったし… だから君はもう大丈夫だと思ってたんだよ。」
「じゃ…じゃあ僕の事見捨てたんじゃ…」
「何言ってるの…君は大事な僕の塾の生徒じゃないか…見捨てるわけ 無いだろ?」
そう言って亨は彼の頬にそっと手を触れて微笑んだ。

…ってオレは騙されねーぞ…
亨はこう言う自分への気持ちまでも成績アップに利用する…
まあ実際それが原動力になってる子もいるから分からない…
『僕の生徒』じゃなくて『塾の生徒』って言ってる所がミソだ。
こんな変態野郎の何処が良いんだか… みんな騙されてる!!!



「どうもお世話様…助かったよ。」
亨がオレ達に向かって頭を下げた。
オレに対しては態度デカイくせにちゃんとこう 言う事はわきまえてる。
流石塾の講師と言ったところか…親の対応に慣れてるって事か…

「…慶」
「ん?」
何気に紛れて呼ばれて腕を引き寄せられた。
「さっきはありがとう。嬉しかったよ。」
耳元に囁かれた。
「べ…別に亨を庇ったわけじゃ…!!」
亨の手が伸びて…優しくオレの頬を撫でる…
「また今度ね…今日は会えて嬉しかった。」

ニッコリ微笑んでそう言うとオレに背を向けて亨は帰って行った…


オレは亨にはナゼか昔から勝てない… 強く出られると尚更だ…
こう言う時…ふと出会った頃の事が頭をよぎる…
記憶の奥に仕舞いこんでる筈なのに…

あーやだやだ…耀くんがいないとオレは ホントに腑抜けになる…
耀くん…早く帰って来てっっ!!!
でもまだまだ先は長い…この寂しさを埋めるには…
…ジィィィ……っと祐輔を見つめた。
勘のいい祐輔がオレを見て引き攣った顔をした。



オレはそんな事お構い無しにニッコリと祐輔を笑い返した。