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 「 げっ!!ルイさん!?うそっ!!」

 見間違えるはずが無い…あれは…瑠惟さんだっ!!何で?こんな所に…
 忘れもしない…やっと縁が切れてホッとしてた のに…何でまた…?

 きっと短い時間だったはずなのに長い時間今までの悪夢を思い出していた様な気がする…

 「何よー?そんなにうれしい?」

 ニコニコと意味ありげに笑ってオレの顔を覗き込んでくる。

 「これが喜んでるように見えるの?」

 ホント目がおかしいんじゃないの…

  「いやーこれから楽しみー。あんたもいるし可愛い女の子もいるしぃ…」

 そう言いながら深田さんを弄くり回してる…あーあ深田さんがさっそく餌食になってるよ…

 「オレは憂鬱だよ…最悪…」
 「また可愛がってあげるわね。椎凪。」

 そう言ってオレにウインクして見せた…オレにはそれが呪いをかけられた様に見えた…

 「余計なお世話だよ…やめてよね…」

 ホント勘弁してくれ…
 遠巻きに見ていた堂本君が不思議そうにオレの所に来た。

 「椎凪さん逆帋さんの事知ってるんですか?」
 「何年か前に居た所で一緒だったんだけどさ…もー散々だった。
 仕事は出来るんだけどさオレの事引っ掻き回すんだよ… 疲れる…」
 「椎凪さんをですか?」
 「そう…同い年なのに姉貴みたいでさ…折角転勤になって縁切れたと思ったのに…
 何でまた同じになんだよ…信じらんねー…」

 そう話しつつ堂本君に哀れみの目を向ける…

 「堂本君…君きっとルイさんにいじめられるよ…ルイさんトロイ子嫌いだから…」
 「ええっ!!マジっすか!?」

 そんな話を聞いて堂本君が青ざめる…ご愁傷様…堂本君…ってかトロイって自覚してたんだ…


 ルイさんがここに来て2日…怒鳴り声が響く。

 「堂本ぉー!! あんた何やってんのっっ!!ちんたらやってるから逃げられんのよっ!!」
 「すっ…すいませーん!!」

 あーあ…さっそくやられてるよ…
 オレはそんな2人を横目になるべく離れた所に居るようにしてた…触らぬ神に祟りなし…だ。


 「相変わらずあんたって手際いいわよねぇ…」

 オレの左腕に腕を回しながらニコニコ言う…まるで恋人みたいに…結局捕まった…
 何処に居ても同じだった…はぁ…

 「褒めたってだめだよ…」

 あーホント前と同じだよ…

 「深田も使えるし内藤さんも出来る人だし。ここ気に入っちゃた!」
 「そりゃよかったね。」
 「なによ?ホントにあたしと一緒嫌なの?冷たいわねー…」
 「…… ちょとは嬉しいよ…本当…こんだけ…ね」

 右手の親指と人差し指を5ミリ程広げた… あーやだなぁウソつくの…
 でもそー言っとかないと煩いからなぁ…

 「もー照れちゃって。」

 照れてないって…

 「ねえ…椎凪。今日飲みに行こうよ!ね?」
 「………」

 ほらきた…悪夢のようなお誘いだよ…
 断る権限が無い事をオレは知ってる…いつもそうだった。
 その証拠に『絶対行くのよ!』と 決めているルイさんの笑顔と一緒に
 オレにまわしている腕の力が一段と強くなっていた…


 「しかし…またあんたと同じ署になるなんてねー」

 居酒屋のテーブル席…もうルイさんは焼酎2杯目に手を付けている…
 既にその前に酎ハイも何杯か飲んでたよな…

 「ルイさん。あんまり飲まない方がいいよ…」
 「え?何でよ?」

 自分の事分かってないのか?

 「酒癖悪いから…」

 軽蔑の眼差しに近い目でそう呟いた。

 「んなっ!失礼なっ!」

 どうやらオレのそんな視線に気が付いたらしい…怒ったかな?

 「だってルイさんキス魔じゃん。酔って何度キスされたか…」

 頬とかにする生易しいもんじゃない! 思いっきり舌を絡ませたディープキスだ…

 「あら?あたし酔ってても美形としかしないのよ!喜びなさいよ。」

 また変な理屈こねてるよ…

 「断ると今度はすごい泣きまくるしさ…凄くウザイ…」

 何言ってんのよ!って顔でオレを眺めつつお酒を飲み続けてる。


 「ルイさん。オレ人と待ち合わせしてるからもー行くよ。」

 そう耀くんと待ち合わせ。
 慎二君の所に行っていた耀くんを迎えに行くんだ。

 「えー?誰よ?また新しい女?」

 またって何だ?失礼なっ!今まで女なんて作った事無いだろうが…!

 「…違うよ。…じゃあまたね。気を付けて帰んなよ。」

 余計な事は言わない方が身のためだ…オレはサッサと席を立った。

 「何よー…送ってくんないのぉ?女一人夜道帰すつもり?」
 「ルイさんなら襲われたって平気でしょ?返り討ち出来るじゃん…
  こっちはね可愛いウサギちゃんなの!じゃあね!」

 まったく…自分の事判ってないのか?犯罪者に容赦ないくせに…

 「はいっ!!椎凪!あたしも行く!」

 思いっきり手を上げてそんな事を言い出した!
 もう顔真っ赤にフラフラじゃんかよ…思いっきり酔ってんな…

 「はぁ?」

 あーもう…本当どこまでオレの邪魔すんだよ…

 こんな不満を抱いてるルイさんだけどオレは邪険には出来ない…
 ルイさんはオレの初めての 相手に似てる…性格もチョトした仕草も…
 本当は別れた元カレの事が忘れられなくて…会いたいくせに自分から別れ話切り出したのと
 ルイさんが言うには 相手が浮気性だったらしいので会いたくないそうだ…
 だからオレを見てるとその元カレを思い出して余計絡みたくなるらしい…
 オレはルイさんの元カレじゃないっつーの。


 「椎凪!」

 耀くんの呼ぶ声がする。

 「耀くん!!」

 思わず顔がほころぶ… やっぱりいいなあ…会いたかっ…え?何?
 ルイさんがオレを突き飛ばし耀くんに近づいていく。

 「え?男の子?うそーかわいいー!!」

 「はぁ?」

 突然の出来事に耀くんが驚いている。

 「きゃーあたしのタイプー!!いやーうれしー!!」
 「え?ちっょと…」

 見ればルイさんが耀くんに抱きついて顔を近づけている!
 ヤバイ!!今完全に酔ってる上にキス魔だ!

 「ルイさん!オレの耀くんになにしてんのっ!」

 オレは慌ててルイさんと耀くんの間に割り込んだ。
 ああっ!!耀くんがあまりの出来事にフラフラ状態。

 「なによ?オレのって…あんた達付き合ってんの?」
 「付き合ってはいないけど…いずれは…」

 くそぉっ!はっきり言えないのがくやしーっ!!

 「だって…男の子でしょ?なんであんたが?」
 「いいの。男の子でも!」
 「何言ってんのよぉ。あの女好きのあんたがさ。」

 あ…嫌な目つき…それに何そのニヤケた顔はっ!!

 「毎日の様に女と遊んでたじゃないのよー… それが?」

 げっ!ちょっと何言い出すのこの人!!耀くんが見てんだよっ!

 「街で声かけてさぁ…」

 「わーわーっ!余計な事言わなくていいからっ!!」

 「ふーん…」

 ってナニ!その明らかに邪な笑顔はっ…

 「あたし耀君の事気に入ったからぜーったい耀君の彼女になるっ!」

 はあ?…また変なこと言い出す。
 耀くんの目が点になってるよ…耀くんの困った顔わかんねーのかな?
 一体オレの事どんだけ引っ掻き回せば気が済むんだよ…イヤガラセですか?

 「いいから元カレとより戻しなよ。」

 何度も繰り返してる言葉…ルイさんには禁句なんだけどそんな事気にしない。

 「はぁ?何か言った椎凪?」

 思いっきり横目で睨まれた…酔っ払ってるから据わってるし…

 「………」


 まったく…まさかこんな所にライバルがいるとは思わなかったよ…
 オレとしてはルイさんなんて眼中に無いけど敵に廻すと結構面倒い相手…
 なんせオレの遊んでた過去を知ってるんだよな…
 この酒癖の悪いのがいつ耀くんに 余計な事口走るか分かったもんじゃない…

 同じ職場ってだけでも気分重いのにこれからまたどんだけ迷惑掛けられるんだ…



          そんな事を思いながら結局耀くんと3人でルイさんの家に向かって歩き出した…