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「椎凪カッコイイ〜♪」

彩夏が両目にハートを浮かばせてオレを見つめてる…
「そりゃどうも…」
オレは適当な返事をする。
此処は彩夏の高校の大講堂。
まあ金持ち学校のせいか無駄に広くて豪華。
オレはそんな場所でしかも正装して立っている。
何故かと言うとこの高校の創立記念パーティーに
彩夏のパートナー して参加する事になってるからで…
何でオレがこんなガキンチョの集まるパーティーに参加してるかと言うと
ちょっとした事情があるからで…
こんなパーティー やるくせに参加条件は厳しくて
会場に入れるのはパートナーと身内だけ…

「金持ちのやる事はわからん。」
オレは呆れた様に呟く。
「仕方ないよ。 防犯上変な奴入れない為にはさ。」
「変な奴ねぇ…」
「椎凪分かってるよね?」
彩夏がオレを覗き込む。
「はいはい…」
オレは最初っから諦めてる。
「ねぇ椎凪どう?」
彩夏がオレの前でくるっとターンして自分の姿をアピールする。
短い丈のピンクのワンピース。
薄く化粧までして生意気にイヤリングと ネックレスまでつけてる。
しかもどれも高そうだ。
「馬子にも衣装。」
正直な感想を述べた。
「もう椎凪のバカ!!似合うって言えないの!!」
彩夏がプウっとふくれてオレをバシッっと叩いた。
「あー似合う似合う。」
そっぽを向いてどうでもいい様に言った。
「そんなの全然嬉しくないっっ!!」
「言えって言ったの彩夏だろ?オレお世辞言えない性質で。」
「ブーー!!」


生演奏で音楽が流れる…
立食式の料理まであって高校のクセに生意気っ たらありゃしない。
世の中間違ってる。


見上げると椎凪の顔がものすごく近くにある。
椎凪とダンスを踊ってるからだ。
片手は椎凪の片手と繋いで 椎凪のもう片方はあたしの腰に回されて
軽く椎凪の方に引き寄せられて…もうあたしは倒れそう…
いつも椎凪に飛び付いて抱き着いてるのに今日はいつもと違う。
だって椎凪ってば最近少し髪を伸ばしてるし
私服しか見た事無かったから正装姿の椎凪は初めてで…

もうカッコ良すぎっっ!!

周りの女子達は椎凪を 目で追ってる。
当の椎凪はと言うとそんな視線なんて全く気にもしない…
それがまた椎凪のいいトコなんだよねぇ…

「あの…私と踊ってもらってもいい ですか?」
何人かの女子が遠慮がちに近付いて来た。
「喜んで。」
椎凪がニッコリと笑ってその子に手を差し延べた。
大人のパートナーを連れて来てる人は 何人かいる…
でも椎凪はその中でも群を抜いてる。
だからあたしはとっても気分がいい。

他の子と踊ってる椎凪をぼんやりと眺めちゃった。
何人かと 踊って椎凪が帰って来た。
「はぁ…疲れる。」
「でも上手だよ。椎凪。」
「一夜漬けで叩き込まれた。」
慎二君に…厳しいったら…
「あたし達は授業で やってるからね。」
彩夏が得意げに話す。
「変な学校…」
正直な感想だ。
「セレブには必要な教養なんだって。」
益々変な学校だ。

「遠藤!」
見れば顔を赤くした男子が一人。
「!…綾瀬?」
「俺と…踊ってくれ…」
余計顔が真っ赤になった。
「………」
彩夏がオレを振り向く。
オレは 頷いて無言でどうぞと合図した。


「誰なんだよ…あの男…」
踊り出して直ぐ言われた。
「あんたには関係ないでしょ。」
あたしはそっぽを向いて 答えた。
「か…彼氏なのか?」
「だったら何よ。」
「べ…別に…」
「あんただって彼女なんでしょ!今日のパートナー。」
「ち…違うよ!あれはお互い パートナーがいないから仕方なくで…」
「フーン…」

コイツは綾瀬愃珸あたしと同級だ。
お互いの父親が親しくて幼なじみみたいな関係。
中学・ 高校と一緒で何かとあたしに突っ掛かかって来る。

同級生らしき男と踊ってる彩夏…
フーン…そう言う事…ちゃんといるんじゃん…彩夏はどうだか知らない けどね。

「歳離れすぎだろ?」
「そのくらいの方が頼りがいあるじゃん。ガキはお断りなの!」
「ガキって…お前だってガキだろうが!」
「あんたもね!」

もうホントに何なのこの男?あたしは曲が終わった途端椎凪の所に飛んで帰った。
「何だよ?」
いきなり腕にしがみついたあたしに 椎凪が不思議そうに聞いて来た。
「アイツがくだらない事ばっか言うから!」
ふて腐れた彩夏を見て思う…コイツ自分の事には鈍感なのか?
視線を感じて目を やるとさっきの彼と視線があった。まぁ頑張って。

「どう?椎凪…」
あたしは小さな声で椎凪を見上げながら聞いた。
「今の所変わった事は無い…」
「そう?」
そんな話しをしながらあたしと椎凪の視線はある人物に向けられる。
英語教師の上石先生に…
上石先生は20代後半の独身の先生で女子にも それなりに人気のある先生だ。

1週間前偶然廊下で聞いてしまった携帯電話の会話。

『何言ってるんだよ…お前とはもう終わっただろ…え?
何だよ… 創立記念パーティーがどうしたって?
…お前…何考えて…おいっ!!おっ…くそっ切りやがった…
パーティーで何かするつもりなのか?…まさか…な…』

相手は誰だか分からないし先生に確かめるわけにもいかず…
だから私は椎凪に相談した…けど当の椎凪はと言うと…


「自業自得だろ?そいつがどうなろうと オレには関係ないから。」

って…
「もう椎凪刑事でしょ??もしかして事件が起こるかもしれないんだよ?
未然に防ごうって気無いのっ!!」
彩夏がもの凄い剣幕で怒る。
「お前…それ正義感じゃ無いだろ?好奇心だろ?」
横目で見つめて言われた。
「…!!うっ…そ…そんな事ないもんっ!!」
ナゼかうろたえるあたし…そう正義感だもん!…多分…
「それに本当に何か起きるって訳でもないんだし…」
「そうだけどさ…ねぇ…椎凪ぁ!!どうせ椎凪だって そのパーティーに
参加するんだからいいじゃん。」
「は?何で?いつそんな話になった??」
「だってあたしのパートナーに椎凪選んだから。来てね!」
「行くわけ無いだろ!」
言い切られた。
「来てね!!じゃないと椎凪の部屋に押し掛けるよ!
毎日ピンポンダッシュしてやるっ!!」
「何それ?小学生 じゃあるまいし…」
「…………」

オレを見つめる彩夏の目は『マジだから!!』…と訴えていた…


「別れた相手なら女の人でしょ?それに今日は 参加できる人は
限定されるから…学校関係者の身内って事かな?
自分の学校の生徒の身内に手を出すなんて…
なんか先生の好感度一気に下がったな…」
「大人なんてそんなもんだよ。まあキッカケはどうだったか知らんけど…」
「椎凪はそんな事してないよね?別れた相手に恨まれる様な別れ方?」
「オレの初めて付き合った相手は今の恋人。」
「え?うそっ!!椎凪ってそんな純愛さんだったの??えーやだ!嬉しいっ!!」
「なんでお前がそんなに 嬉しがる?」
「だって…なんかさ…もう椎凪の好感度更にアップだよっ!!」
またもや彩夏の瞳はハートマークが浮き上がってる…
「あっそ…」

まさかそれまでは一晩限りで遊びまくってたなんて言ったら…
オレのコイツの中でのランクは英語教師よりも下がるのか?
なんてナゼかオレの隣で照れまくってる 彩夏を眺めながら考えてしまった…

「!?」
1人の女が英語教師に近付いて行く…
「椎凪!あれ…」
「ん?」
見れば英語教師の顔が引き攣ってる… って…
「あ!おい!彩夏っ!!」
彩夏が既に行動を起こしてた…英語教師に向かって走り出す。
「ったくあのバカ…!」

あれほど勝手に動くなって 言ってあったのに…好奇心には勝てなかったか?

ど ん !

「きゃっ!」
彩夏に体当たりされて女がよろめいて倒れた。
「やったね。」
あたしは椎凪を振り返った。
「ばかっ!そいつじゃない!!」
「え?」
言われて…でもそんな椎凪の言葉が理解出来なくて…

上石先生の前に立ってた あたしの視界に照明の明かりに照らされて
キラキラと輝くナイフの刃が見えた…

ぐ い っ !!

「わっ!」
思い切り腕を引っ張られて横に 飛んだ。
よろめいて…気が付けば誰かの腕の中…椎凪の筈が無い…
一体…誰?
見上げると…見慣れた顔…
「大丈夫か!?彩夏!!」
「…愃珸?」
「何やってんだよ!」
「何って…あ!そうだ!先生!!」

バ シ ッ !!

「 !! 」

掴んでたナイフが手刀で叩き落された。
「残念でした。甘いわね坊や!」
「…うっ…」
手首を押さえながらその場にうずくまる女の人…ん?
女の…人??

えーーーーっ!?どう見ても 男の人だっ!!しかもウチの男子生徒!!!
どう言う事??

「サンキュ瑠惟さん。」
床に落ちてるナイフを椎凪が拾いながら『るいさん』と呼んだ人に 近付いて行く。
パーティーのスタッフの制服着てる…
「大した事無いわよ。だけど…まさか男が相手とはね…
しかも自分の学校の生徒なんてさ。大した 色男な先生だこと。」
「…………」
半ば放心状態の上石先生に向かって呆れた眼差しを送ってる。
あたしだってそうだ!ちょっとどう言うことよ??
「大丈夫か?彩夏。」
「 …!!…椎凪ぁ!!」
あたしは支えられてた愃珸の腕を振り解いて椎凪の元に走った。
ガバッッと椎凪に抱きつく。
「まったく…早合点しやがって…余計な事すんなって言っただろ?」
「ごめん…だって…でもこの人は?」
「同じ署の瑠惟さん。」
「どうも。」
「って言う事はこの人も刑事さん?」
「そ!オレ1人じゃ万が一の時カバーしきれないからさ。
先生の傍に瑠惟さん張り付いてれば心配する事ないし。」
「信用されてるんだ…刑事さん…」
椎凪に信用されてるなんて…なんか尊敬。
そんな言葉に女刑事さんはニッコリと笑った。

「わぁぁぁぁ……だって… だって…あんなに優しかったのに…
男同士だって…関係ないって言ってくれてたのに…」

床の上に座り込んでる男子生徒が泣きながら叫んだ。
「どっかの社長令嬢と結婚の話が進んでるのよね?色男さん。
だからボクが邪魔になった?ま!これでその話もオシャカかしらね?」
いい気味と言いたげな 言い方と眼差しだった。
「…………」
上石先生がバツの悪そうな顔を逸らした。
椎凪がへたり込んでる彼の前に膝を付くと優しく顔を持ち上げた。

「あんな最低な男君からフッてやれ…あんな男より優しくて
君の事愛してくれる奴なんてこの世の中沢山いるから…ね?」

椎凪ぁ……何その優しい 笑顔はぁ???
「……は…い…」
ほら何だかホワンとなっちゃったじゃない…!!
「うん。」
「椎凪っ!!誤解を招く様な事しないっ!!」
あたしは思いっきり椎凪を引っ張って立たせた。

「いや…ちょっと可哀想かなぁって…他人事じゃ無いような…」
ちょっと懐かしい気分になったような 気がして…

「それよりも彩夏彼にお礼言ったのか?
彼が居なかったらお前刺されてたかもしれないんだぞ。」
そう言って椎凪が愃珸の方を向いた。
「え!…ああ…あ…ありがと…」
もの凄い素っ気ない言い方だ…
「え?…あ…いや…えっと…」
2人共照れてんのか?お子ちゃまは可愛いねぇ。

「でももう余計な事しなくていいから!
あたしは椎凪に助けてもらうからいいの!」
ズバリとトドメ刺した。

「……ぐっ!…」

…まぁ…頑張れ ……


内密に警察が呼ばれバタバタと事が進んで
今では何事も無かった様にパーティーは進行してる。

「ところで椎凪?この子あんたの愛人?」
「え?」
あたしは『愛人』の言葉にピクリと反応する。
「んなわきゃ無いだろ!同じマンションの住人。」
「また誤魔化さない。確か一唏って言う高校生の 男の子の
愛人もいたわよね?何?耀君に何か不満でもあるの?」
「ちょっ…!!変な言い方すんなっ!!一唏だって愛人じゃ無いし
彩夏だって違うからっ!! それに耀くんに不満なんてこれっぽちも
あるわけ無いだろうっ!!」

初めて椎凪の口から聞く2人の名前…『いっき』と『ようくん』…

「椎凪!『いっき』と『ようくん』って誰?
彼女さんの他に付き合ってる人がいるの??そんなの最低だよ!椎凪っ!!」
しかも両方とも男の人なんて…
「だから…違うって…もう…余計な事言いやがって…」
瑠惟さんが悪戯っ子みたいな顔で笑ってる。
「ねぇ椎凪ってばっ!!」

それからしばらく椎凪を 問い詰めたけど何も話してくれなかった。
いいもん!時間をかけて今度ゆっくりと問いただしてやる!

そんな事を思いながら…また椎凪はあたしの言った事を 信じてくれて
ちゃんと対応してくれた事に嬉しさを感じつつ…

『愛人』って呼ばれるのも何か良い響き…なんて思ってる自分がいて…
ますます椎凪に 惚れ込む自分がいた…