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ここは草g邸…浴場…

「結婚か…」
右京が髪を雪乃に洗ってもらいながら湯船に浸かって呟いた…
「慎二様のお友達の方ですよね…先日ご婚約されたのは…」
「僕も結婚しようかな…」
「右京様?」
「だって僕29だよ…別におかしくないだろう?」
「そう…ですね…草g家の流れで…朱音家の翔湖様が右京様に
お似合いだと思いますけど…何度か一緒にお出掛けにもなられてますし…
お年も確か近かったと思いますけど…お話も合うんじゃありませんか?」
そっと右京の髪に お湯をかけながら言った。
「……」
右京は湯船の淵に両腕を掛けて仰向けに雪乃に髪を洗ってもらっていたので
必然的に雪乃と目が合った…
「あ…申し訳あり ません…出すぎた事を申しました…」
少し下がって深々と頭を下げる。
「別に…気にしてなんかいないよ…雪乃…顔を上げなさい…
それより…髪拭いてくれないと 僕は起きれないんだが…」
「あっ!もっ…申し訳ございません…い…今…」

雪乃は15歳で草g家に使用人として勤め始めた。
雪乃がいた街では草g家に お使えする者が多く雪乃もその流れで幼い頃から
15になったら奉公に上がると育てられていたせいで何の迷いも無く草g家に来た。
初めて右京に会ったのは この屋敷に来て最初の日。
既に両親が亡くなっていた右京が当主として雪乃の前に現れた。
その時から雪乃は右京にずっと恋心を抱いている…
でも…叶わない 恋だと思っているので
身の回りの世話が出来るだけでも満足なのである。

「子供も欲しいな…でも…今まで誰も僕の子供を産んでくれた人はいないんだよね…」

突然ポツリと右京様が言った。
「は…い?」
「結構いろんな人で挑戦したんだけど…でも…ダメだった…
僕の体質のせいなのか…まさかね…」

右京様の 所に時々見た事の無い女性が来ていたのは知っていた…
でも…使用人の私にはどうする事も…何も言う事も出来なかったから…

「そう言えば雪乃の故郷は 僕の母と同じだったよね?」
湯船に浸かったまま片肘を付いて私を見上げながら訊ねた。
「あ…はい…同じ郷里ですが…右京様のお母様は生まれも育ちも
私とは 比べ物にならない位…立派な方で…
お小さい頃からオーラと言うか…気と言うか…
とにかく普通の方とは違っていたとか…」
「そう…」
右京様はお母様の話に なると…とっても優しい顔になられるのよね…

「じゃあ同じ故郷の雪乃とだったら僕みたいな子供が出来るかな?」

「…は?」

私はしばらく右京様 が何を言っているのか分からなかった…
「どうだろうね?」
右京様が悪戯っぽく私の顔を覗き込んだ…
「だっ…駄目ですっ!私なんて…
ただ故郷が同じ だけで特別な能力もありませんし…
私は使用人ですから…右京様には相応しくありませんっ!!
それに万が一女の子を産んだら…私…生きていけません…」
なんだかムキになちゃった…右京様が本気な訳…無いのに…
「女の子か…いいね…僕女の子が欲しいな。耀を見てそう思うよ…」
笑いながらそんな事を言う…
「とんでもありませんっ!!草g家の当主は代々男と決まっています。
草g家を潰すおつもりですか?右京様!!」
「そう…僕の代で…終わりにするんだ…
そして僕の 子供が初代になって…新しい草gの歴史を創る…」
「右京様!!」
「いいんだよ…雪乃…もう時代が違うんだ…」
「でも…」
そう言いかけて思いとどまった… 右京様がジッと私を見つめてる…

「雪乃…僕は誰?草g家の当主だよ。この僕が決めた事に逆らうのかい?」

そう言って『あの瞳』で私を見つめる。
「いえ…申し訳ありませんでした…」
私は後ろに下がって頭を下げた。
もう…すぐ『あの瞳』を使うんだから…
絶対こちらの言う事なんて聞き入れてもらえない…
今までだって何度そうやって誤魔化されたか…色々な事で…

「じゃあ早く制服脱いで。」
「……はい?」
え?何…言ってるのかしら…?右京様?
「だから脱いで。」
「…?…!!えっ?なっ…まだそんな事おっしゃってるんですか?」
「僕は本気だよ。雪乃。」
「だっ…駄目です…そんな…」
もうそんな事…何言い出すのかと思えば…や…心臓がドキドキ言ってる…

「これは命令!雪乃!」

「………」
右京様がジッと真面目な顔で私を見つめる…
そ…そんな…うそ…こんな事って…
でも…右京様の…命令は絶対…逆らう事は許されない…

「わ…わかりました…」
私は仕方なく…エプロンに手を掛けた…
そんな私を右京様がジッと見てる…右京様の視線が痛い…
「あ…あの…右京様…そんなに見られていると…恥ずかしいのですが…」
耐え切れなくて…進言した…
「ああ!…悪かったね。向こうに行っていよう。」
そう言って右京様は奥の方へ移動してくれた…

どうしよう…何で…?こんな事に…?
きっと…気紛れよ…右京様が…私なんか相手になさるはずないもの…
そう …深い…意味なんて無い…
いいじゃない…ずっと右京様の事…好きだったんだから…
そう…これは…嬉しい事なんだから…
私は自分にそう言い聞かせて… 静かに湯船に入った…
そしてなるべく…身体が見えない様に腕で胸を隠して…
身体を低くして湯船に入って右京様の所に近づいた…

私が近づいたのに気付いた右京様が…こっちを向く…
恥ずかしくて…まともに右京様を見れない…

「おいで…雪乃。」

右京様の伸ばした手が… そっと私の唇に触れる…
私は…恥ずかしかったけど…
「は…い…」
って言って…右京様の傍に少しだけ近づいた…
「ん…」
右京様が…優しく私に キスしてくれた…
私は…緊張して…恥ずかしくって…ずっと震えていた…
肩を抱かれて…引き寄せられる…
バランスを崩しそうになって…胸を隠していた手を 着いた…
きっと…右京様に…私の身体…全部見えてるんだわ…
そう思うと…余計恥ずかしくなった…

2人共…湯船から上がって…そのまま床に横になった…
右京様の…顔が…裸の身体が…こんなに…近くに…やぁ…どうしよう…

「雪乃はいくつになった?」

右京様が私の首筋に顔をうずめながら優しく聞いた…
「あ…21…になりました…」
両腕はしっかりと右京様に押さえられてる…
「ふふ…ここに来た時はまだ少女だったのにね…
それから雪乃はずっと僕の傍にいて くれたね。」
「…?」
右京様が何をおっしゃってるのか…その時の私は聞こえてなかった…
だって…これから起こる事を考えたら…
「あ…あの…右京様…」
「何だい?」
「少し…怖いです…」
「そうか…雪乃は初めてか?」
「…はい…」
「じゃあ手を繋いでいてあげよう。」
ニッコリ微笑んで右京様が私の 手を握って下さった…
「あ…有り難う御座います…あの…」
「何?」
「やめるとは…言って下さらないんですね…」
「言わないよ。そんな事。」

「…はぁ…はぁ…あっ…」
私の胸の上に右京さまの濡れた髪が優しく動いてる…
私が…洗ってさしあげた右京様の髪…そんな事を考えてた…
「…!!…ンッ…」
自分の身体に右京様の手が…舌が…優しく動いていく…
本当に…私なんかでいいんですか?右京様…
私なんか…右京様に抱いていただくほどの存在じゃ…
「雪乃…」
耳元で右京様が私の名前を呼ぶ…
「…は…い…んっ!!…あっ…」
返事をした瞬間…右京様と繋いでいた手に力がこもった…
「…あっ…うっ…」
そんな声を出してはいけないと思って必死に堪えた…でも…
「あ…右京…様…んっ…」
「すぐ…楽になる…」
「…は…い…」
ぎゅっと瞑っていた目をやっと の思いでゆっくりと明けた…
私を見つめてる右京様と視線が合う…
そしてそっと私に近付いて優しくキスをして下さった…

私は最後まで…右京様の手を 握りしめていた…


「大丈夫かい?雪乃…」
「…はい…ハァ…ハァ…」
ダメ…恥ずかしくて…目を…開けられない…

右京様が…私から静かに離れていく…
「これで子供が出来たらいいな…」
そんな事をポツリと…小さな声で言っていた…

私は…ゆっくりと起き上がって… 右京様の後姿を…いつまでも見つめていた…

次の日…
「雪乃。」
右京様に呼ばれた…
「はい。」
「おいで。」
そう言って強引に私の腕を 引っ張って歩き出す。
私は持っていた荷持つを床に落としてしまったけど…右京様は気にせず歩き続けた…
「右京様…?」

「僕は…以前は草gの家の為にそれ 相応の相手と結婚しなくてはと思ってた…
でも…慎二君達と知り合って…耀を育てて…椎凪君の耀を思う一途な気持ちに触れて…
少し変わったんだよ…自分の為に 相手を選ぶのもいいかなって…だから僕は雪乃を選ぶ。」

「…!?右京…様…?」

「ずっと…僕の傍にいてくれただろ…どんな時も…
僕の事…一番知っている 女性は雪乃なんだよ。」

「……」
色々な事を言われて言葉が…出てこない…

「僕は絶対子供が欲しいんだ…だから…それに一度じゃ出来ないと思うんだ。」
「はい?」
「だから出来るまで挑戦することにした。」
そう言って連れて来られたのは…右京様の…寝室…
「僕が決めた!わかったね。雪乃。」
「…………え?…」
私は…自分でも分かる位…顔が真っ赤になった…

「おいで…雪乃…」

そう言って右京様が私に手を差し出す。
…ここで… このお屋敷で…右京様の命令は絶対…逆らう事は許されない…

だから私は…「はい…」って言って頷いた…