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「ええっ!!妊娠2ヶ月!!」

祐輔が…いつもの如く…サラッと僕に言った…

『TAKERU』のビルの僕の部屋…
突然祐輔が訪ねて来て…話がある って言うから何かと思えば…なんて事…

「…って…婚約したばかりだろ?何それ?
大学だってまだ残ってるのに…!…2ヶ月?…
あっ!!2ヶ月前って… 婚約した直後って事?
まさか…祐輔!!…ワザと子供作ったんだろ!!」

「偶然だろ?」

とぼけてる…ムカッ!!

「んなわけないだろう? 今まで出来なかったのに婚約した途端
赤ちゃん出来るなんて変じゃないか!!」
「そんな事オレに聞かれても知らん。」
シレッと言い放つ…
「 祐輔ぇ…!! 」
僕は本当に頭にきて祐輔に詰め寄った。

祐輔が肩を掴んでいた僕の手首を掴んで引き離す…
そして僕に一歩近づくと顔を近付けて言った…

「何だよ…慎二は喜んでくれないのか?『オレの子供』が生まれるんだぞ…。」

…あの瞳で僕を真っ直ぐ見つめる…まったく…もー…

「なあ…?」
「ったくズルイんだから…嬉しいよ…嬉しいけどやり方が気に入らない…」
僕は祐輔の腕を振りほどいてソファに勢い良く座った。
もー…気分最悪…
「祐輔は時々僕の言う事聞かないよね…」
「そうか?殆んど聞いてると思うけどな。」
「そんな事無い…ま…仕方ないけどさ…もう大人だもんね…祐輔も。
知り合った頃は高校生だったのに…」
祐輔が僕の隣に腰を下ろした。
「慎二には感謝してる…」
「本当?」
「ああ…ホント。」
「じゃあ許す…本当は 許さないけど…」

僕はドッと落ち込んだ…本当に…ショックだったんだ…
祐輔は僕に気に入られてるのが分かってる。
だから自分の許容範囲内の事なら 何も文句は言わないし…
僕に逆らったりしない…その範囲は結構広いのに…
時々こうやって意固地になる…と言うか自分の考えを貫き通す…
誰に何を言われても もう変わる筈も無いし変えるつもりも無いんだ…
僕がどんなに頼んでも…

「結婚か…ついに祐輔がパパにねぇ…まだ21なのに…早すぎるよ…」

そんな独り言の様な事を言っている間に祐輔が立ち上がって…僕の目の前に立った。
「ん?なに?」
そう言った途端…祐輔の顔が近づく…

「  !!  」

10秒…?いや…もっと…か?
静かに祐輔が僕から離れた…

「 ……なんでキスしたのさ… 」
祐輔を見上げながら問い掛けた。
こんな事は初めてで 僕は顔では平気を装ってたけど
内心は祐輔が僕にキスしてくれるなんて心臓はドキドキ言ってた。

「これが一番いいプレゼントだと思ったんだけどな…
感謝の印…物の方が良かったか?」

そう言っていつもより優しい瞳で僕を見つめる。

「……もう…君って人は…まったく…」
苦笑いをしながら思わず溜息が出た…
「でも…祐輔のそう言う所…好きだよ。」
ホント…やる事がズルイんだから…

「機嫌…治ったか?」
「…はぁ……もちろん。」
僕は軽い溜息をついて 立ち上がった。
「そうか…」
祐輔がまた優しい笑顔を僕に向けながら頷く…
「さあ…今日はお祝いだよ。祐輔…」

僕は祐輔の肩に腕を回して… 2人で笑い合いながら部屋を出た…


こんな事って…妊娠…2ヶ月…なんて… 本当に赤ちゃんが…出来るなんて…

最近…と言うか婚約してから祐輔さんは変だった…
いつもは一週間会えなくても何も言わなかったのに…
都合を付けて自分の所に来いって言ったり…
時間的に難しいと祐輔さんが私の部屋に来たりした…

「…うっ…んっ…」
「 ? 何で声我慢してる? 」
祐輔さんがずっと私を抱きながら…そう尋ねた…
「だって…あっ…周りに…聞えちゃう…から…ハァ…」
私の部屋は祐輔さんの所と違って大きな音なら隣に聞えて しまうから…
「へー…余裕なんだな…和海…」
「ちがっ…あっ…やっ…祐輔さん…だめっ…んー…」
抱き起こされて…思わず大きな声が洩れそうになって… 両手で自分の口を塞いだ…
祐輔さんと向き合う様に…抱きかかえられて…
あ…だめ…すごく…感じちゃう…

「お願い…祐輔さん…違う…姿勢で…お願い…」
抱きかかえられてるだけで…こんなんじゃ…
祐輔さんが…動いたら…私…
「オレは和海の乱れてる姿…見てーな…」
「あっ…祐輔さ…」

きっと…周りの人に…聞えてる…でも…ダメ…もう声を…押さえきれない…


「和海?」
「……ひどいです…祐輔さん…私恥ずかしくて…外に出れない…ぐずっ…」
祐輔さんの胸に顔をうずめたまま…祐輔さんに文句を言った…
「なら…オレの所に来い…結婚して一緒に暮すぞ。」
「…え?」
私は泣きながら祐輔さんを 見上げた…
「和海には悪いが子供作る。」
「え?」
「それで慎二黙らせる。」
「………祐輔さん?」
「まあ…勝手に婚姻届出してもいいんだが… オレはそれはしたく無い…
ガキも同じ様なもんだけど…慎二の奴もそれなら黙る…
それに初めは怒るだろうけど…きっと喜ぶ…」
「…だから…最近…?」
「ああ…ただいつがそうなのか分かんねーし…聞く訳にもいかなかったからな…
とにかく和海の事抱いてたんだけど…そろそろ…出来たか?」
「…祐輔さん…」
もの凄く照れた顔して…祐輔さんが照れ臭そうに私に聞いた…こんな祐輔さん初めて…
「いいんですか?子供ですよ?祐輔さん…父親になるって事ですよ? 本当にいいんですか?」
私は必要以上に祐輔さんに確かめた…
「なんでだ?オレと和海の子供だろ?何か問題あるのか?」
キョトンとした顔してる…
「……ううん…ないです…」
「そーか…なら…いいな?」
「はい。」
「じゃあ…早めにオレの所に来い…」
そう言いながら祐輔さんがまた私に 覆い被さって来た…

結局…その後すぐに妊娠発覚!


この出来事の数週間前…草g邸では…

「おいで…雪乃。」
いつもの様に右京様が私を呼ぶ…
「はい…」
私は…何をしていても右京様の所へ向かう…
もう…何度…右京様に呼ばれたのか…数え切れない…
右京様のベッドの上…右京様が私の制服の…背中のファスナーを下ろす…

「あ…あの…右京様… 自分でやりますから…」
「いいんだ…たまには僕が脱がせてみたい…」
「…はい…」
制服を肩から脱がしながら…右京様の…唇が…背中に触れる感覚…
あたたかくて…優しい…
いつまで経っても…心臓が…ドキドキする…

…右京様…右京様…好きです…
…一度も口にした事は無いけれど…ずっと…昔から…

右京様に抱かれながら…今日はどうしてもお願いしたい事があった…
勇気を出して…言ってみた…
「右京…様…」
「なんだい?」
「あの…あの…右京様に 腕を…腕を廻しても…宜しいですか?」

雪乃が遠慮がちに僕に聞く。
もう何度も肌を重ねてるのに…まだ僕に気を使っている…
仕方の無い事だとは思うが… そんな事まで僕に伺いをたてるなんて…
なんとも可愛らしいと言うか…そんなに気を使わせてしまっているのかと少々落ち込んだ。
「構わないよ。」
「有り難う御座います。」
照れ臭そうにニッコリと雪乃が微笑んだ…
首に腕を廻されて…抱きしめられた…
その時…思い出したんだ…お母様の事…

…右京…右京…
…お母様…
…右京…好きよ…あなたを…愛してるわ…
…お母様…

子供の頃の記憶…僕を愛してると言ってくれたお母様…
そして… 抱きしめてくれた…
僕が4歳の時に亡くなってしまったけど…
何でだろう…雪乃に抱きしめられたら…思い出した…

ああ…そうか…愛おしいと思って…女性を 抱いたのは…雪乃が初めてだからか…


「雪乃」
「…はっ…はいっ!!」
最近僕が雪乃を呼ぶと雪乃は思いのほかビックリする…なぜだ?
「紅茶飲みたいな。」
「はっ…はい。只今。」

「ふー…やっぱり無理なのか…」
僕は雪乃が淹れてくれた紅茶を飲みながら考えていた…
あれから2ヶ月 近く経つのに全く妊娠の兆しが無い…
「ねぇ…雪乃…」
僕は雪乃を呼びながら振り向いた。

「雪乃!!」

振り向いた僕の目に飛び込んで来たのは… 床に倒れている雪乃だった…


「おめでとう御座います。右京様。ご懐妊でございます。」
「え…?」
主治医の川神が僕に告げた。
客間のベッドの中… 雪乃が顔を真っ赤にして布団で顔を隠してる…
僕は静かにドアを開けてベッドに近づいた。
「雪乃」
「右京様…」
「良くやったね雪乃…体調が良くなったら 式を挙げよう。」
「!…そ…そんな…いけませんっ!」
雪乃が慌てて布団から起きて僕にしがみ付く。
「子供だけ…草g家に入れて頂ければ…私は…いいんです…」
瞳に涙を浮かべて必死に僕に訴える…そんな雪乃を落ち着かせて僕は言った…

「だめだよ雪乃…僕はね家族を作りたいんだから。
父親がいて母親がいて子供がいて…
僕が一番欲しかったもの…お金では手に入れられなかったものだよ。
誰が何と言おうと絶対手に入れる。
だから雪乃は僕の奥さん…子供もたくさん欲しいな。
一人っ子は淋しいからね…これは命令だよ。」
「…は…い」

雪乃は小さな声で…涙をポロポロ零しながら…頷いた。


次の日の早朝。
草g家の 大広間に使用人が集まっている…200名と言った所か…
全員が見渡せる場所に大きな椅子が置いてありそこには右京が座っていた。
あの瞳で…

「知ってる者もいるかと思うが雪乃のお腹には僕の子供がいる。
よって本日より及川雪乃は草g右京の妻となった。
これより一切の仕事から雪乃を外す。
僕同様雪乃が不自由な生活を送らぬよう心して勤める様に!」

「 承知致しました!右京様! 」
一糸乱れぬ言葉が大広間に響いた。


「え?」
祐輔が何か言った…思わず耀くんと 聞き返した。

「だからガキが出来た。和海の体調が良くなったら式挙げる。お前ら出ろよ。」
「 え っ ?! 」
照れもせずサラリと祐輔が言った。
ホント…祐輔にはいつも驚かされる…

家に帰って耀くんとコーヒーを飲みながら話をした…
「右京君の所もオメデタだもんな…
雪乃さんの体調良くなったら 式挙げるって言ってたし…祐輔もだろ…」
「 ? 」
椎凪が…落ち込んでる?
「いいなぁ…右京君も…祐輔も…
右京君なんてオレには赤ちゃん作っちゃダメって言うくせにさ…ハァ…」
「ごめんね… 椎凪…」
「耀くんが謝る事じゃ無いよ…オレこそゴメン…
大学…ちゃんと卒業するって右京君との約束だもんね…」

……結局オレは…未だに耀くんに プロポーズしていない…この前もタイミング逃したし…
なんか言わなくても…結婚するって…話に進んでるから…(2人の間では…)
最大の理由は…右京君と慎二君を 納得させる事…何だかんだと遠ざけて…
今なんて…2人に言う時期じゃないもんなぁ…

「そう言えばさ…祐輔まだ学生だろ?生活費なんかどうすんのかな?
当分の間深田さんが働くのかな?」
「ああ…祐輔ね…結構お金持ってるんだよ。」
耀くんが楽しそうに話す。
「え?そうなの?」
「うん…家族が亡くなった 時家を処分したから…家のお金と…
あと…使いたくないって言ってたけど…生命保険もおりたし…
今の生活に必要なお金もお祖父さんが全部出してるから祐輔って
タバコと食事位しかお金使わないし…服もTAKERUの着放題だろ?
毎月残ってるんじゃないかな?生活費受け取らないとお祖父さんがうるさいんだって。
それに慎二さんに株も教えてもらって結構儲かってるみたいだよ。」
「ええっ?株?祐輔が?」
「うん。慎二さんに…強制的にね。はは…」
「へー…! まさか…耀くんも?」
「え?……あー…チョット…ね。」
「うそ…」

「あ!祐輔の所ね…双子なんだって。さっき慎二さんからメールが来た。」
「 ええーーっ!!そうなの?ウソっ!! 」

…ホント祐輔には驚かされる…