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 * 116話よりチョット前のお話です。 *  



学校の帰り道…ふと前を見ると見慣れた後ろ姿が視界に入る。
そう…あれは椎凪の後ろ姿だ…

外で偶然椎凪を見掛けるなんて珍しい…
と言うか初めてに近い…だから家とは反対の方角だったけど
椎凪の後をついて行く事にした。

椎凪は勘が鋭いからつけて行けるギリギリのところまで離れて歩く。
だから見失いそうになって何度も焦った。
「何処まで行くんだ?」
ちょっと…段々息が上がって苦しくなってきた…
椎凪ってば歩くの早っ!!…コンパスの差??

それからしばらくして椎凪が右手を上げて誰かに合図する。
その先に視線を向けると…やっぱり…彼女さんだ!
椎凪の顔が途端に優しくなる…ニッコリ嬉しそうに笑って…

あたしは椎凪のそんな顔が大好きで…自然に顔がニヤけてきちゃう。
傍から見たら気色い女子高校生だ。

今日はラッキーだった…2人が近くのコーヒーショップに入った。
しかも窓際に座ってる…だからあたしは気付かれない様に近付いて
2人をじっと眺める…

初めて椎凪の彼女さんをじっくりと見る事が出来た…
肩まで伸びた髪に…ちょっと痩せてる印象を受けるのに…
ナカナカのナイスバディさん…背はあたしくらいかな?
確かにあたしの方が体重ありそう…椎凪がダイエットしろって
言ったのはあながち当てずっぽうじゃ無かったって事?…ちぇっ…
でも…やっぱり前チラッと見た時と同じ…
優しそうで…綺麗な人だった…

2人共…すごく楽しいそう…
あたしは何時間でもそこにいて2人を見ていられる勢いだった。

その後も更に後をつけた…これって一歩間違えればストーカー??
間違えなくてもストーカー?もう自分でも良く分からない…
2人は買い物をして…この道のりはマンションに向かってる…
そうだよね…もう辺りは日も沈みかけて薄暗くなって来てるし…って…あ…

手を繋いで歩いてた2人が…ううん…椎凪が彼女さんの方に屈んで…
ちゅっ!って…唇にキスをした…

ドッキーーーーーーン!!!

あたしは心臓が爆発しそうなくらい大きくなってドキドキバクバク…
痛いくらい…ダメ…もうクラクラして立ってられない…

あんな椎凪初めてで…もうあたしは今まで以上に椎凪にメロメロになった。


「椎凪ぁーーーオハヨっ!!」
いつもの如く出て来た椎凪に思いっきり抱きついた。
「なんだよ…なんか気持ち悪ィぞ??何ニヤニヤしてんだよ?」
思いっきり椎凪が引いた。
「昨日…見ちゃった。」
「何を?」
何だ?彩夏の態度が何とも怪しい…
「フッフッ〜椎凪の彼女さん見ぃちゃったぁ!!」
「は?」
「昨日2人で歩いてたでしょ?見かけたんだぁ。」
「…見かけたんじゃなくて後つけてたんだろ?」
「そうとも言う!」
「…ったく…」
「減らなかったでしょ?」
「これ以上減ったら困る。」
「何?それ?」

椎凪はいつもそんな事を言う…

そんな事があってしばらく経った頃…学校帰りにふと目が留まる…
あの人…椎凪の彼女さんだ!見間違える筈が無い!
ちゃんと記憶のメモリーに保護付きでインプットされてるんもん。
でも…その隣には…椎凪じゃない…
でもなかなかのイケメンさんが一緒に歩いてた…
仲良さ気で…いい雰囲気…え?どう言う事???…思わず後つける。

しばらくしてハタと気付く。
この道って…マンションに向かってる??なんで?
不思議に思ってると本当にウチのマンションだ。
しかも2人共一緒に入って行く…私は2人がエレベーターを待ってる間に
階段を駆け上った。

椎凪の部屋はここの最上階。しっかり調べてある。
だから椎凪って結構なお金持ちなの??刑事なのに?
だって最上階なんてウチなんかよりも目が飛び出るほど高いはず。

…なんて考えながら階段を一段飛びで駆け上がった。
もう心臓バクバク…途中エレベーターが上がってくるのを確認して
途中の階でエレベーターのボタンを押しておいた。
これで少しは時間が稼げるはず…でも…現役女子高生でもこれは厳しいっ!!
死ぬかと思ったけど椎凪の為に頑張った!!褒めて!!椎凪っ!!

ゼイハアと息をしながら何とか2人が部屋に入る前に追い付いた。
彼女さんは最上階が自分の部屋なんだからいいとして…もう1人は?
何でここまで一緒に付いて…ああーーー!!

なんて思ってたら2人仲良く椎凪の部屋の向かいの部屋に入って行った。
パタリとドアが閉まってガチャリと鍵の掛かる音がした…

えええーーーーーっっ!!??浮気?浮気なのっ???
椎凪の彼女さんが???しかもお向かいさんとデキてるの???
うそぉぉぉぉぉっっ!!椎凪可哀想ぉぉぉ!!!

あたしはもう打ちのめされて…その場に崩れ落ちた!


重なる時は重なるモンでその後また椎凪の彼女さんに会った。
マンションの入り口の真正面に黒の高級外車が止まってた。
どこぞの金持ちさんだ?なんて見てたらそこから降りて来たのは…
またもや椎凪の彼女さん!!
思わず眺めてると中から1人男の人が降りて来た。
20代後半くらいの…凛々しい感じのこれまたなかなかのお顔立ち…
当然椎凪じゃない…知り合いなのかな?
なんて思ってたらそっと彼女さんに手を伸ばすと優しく抱き寄せて
ホッペにチュッ…って!!!

ええーーーーー??!!また浮気?浮気なのっ???
2人目??椎凪の他に2人も付き合ってる男がいるの???

しかも堂々とマンションの前で???
もうあたしの思考回路はショート寸前…一体…どう言う事なんだろう??
どうでも良いけど…椎凪可哀想ぉぉぉぉ!!!!

どんな巡り会わせか…どう言う訳か今まで会いたくても会えなかった
椎凪の彼女さんにまた出くわした。
街中の歩道を高校生と歩いてる…どう見ても彼女さんより年下っぽくて
男の子だとは思うけどなかなか可愛い顔した子…
あたしと同じくらいか?髪は金に染めててヤンチャっぽい…
あー言うのが好みなの?

流石にあたしの堪忍袋の緒が切れた!
3人だよ?3人も椎凪以外の男の人と付き合ってるなんて!!
誰が許してもあたしは許さないんだから!!

おもむろに彼女さんの方に歩き出して真正面に立った。
「…?」
彼女さんがあたしを見てキョトンとした顔してる。
初めてこんな近くで彼女さんの顔が見れたのに…
綺麗と言うか…可愛いと言うか…流石椎凪が選んだ人だと思った…
って…ううん!!ダメダメ!今はそんな事…

「何だよ?お前?」
一緒にいた男の子があたしを睨んで凄む。
何気に彼女さんを自分の後ろに隠す辺りが余計あたしをムッとさせた。
それはあんたがする事じゃなくて椎凪がする事でしょ???
心の中で叫んでた。

「そんな…ヒドイじゃない!!!椎凪の心弄ばないでっ!!!」

力一杯叫んで猛ダッシュで逃げた。
何で逃げたのか…だって…涙が次から次へと溢れて来て…
きっとあのままいたらあたしは泣き叫んじゃうから…

椎凪…椎凪…可哀想……




「え?女子高生に怒鳴られた??」

シャワーを浴びて髪を拭きながら耀くんが今日の出来事をオレに話してくれた。
「うん…今日一唏君と歩いてたらいきなり面と向かって…」

今日耀くんと一唏は一緒に慎二君の所に行ったんだよな…
ボディガードも兼ねて時々一唏に頼んでるんだ。

「どんな子?」
聞くのも怖かったけど…
「んー髪は短めで…活発そうな女の子。オレは初めて会ったと思うんだけど…
向こうはオレの事知ってるみたいだった…どっかで会ってるのかな?」
「…へーー……」

オレは顔が引き攣った…彩夏だ!絶対断言できる!!

「何て言ってたの?」
頼むから変な事言ってんなよ…オレは内心心臓がバクバク。
「 『ヒドイ!!』って…あと何か言ってたけどオレ一唏君の後ろにいたし
周りも煩くて良く聞き取れなくてさ…」
「…………」
ヒドイ??一体何言ったんだよ…アイツ…
「オレさ…その子に何かしたのかな??全然覚えが無いんだけどさぁ…
もう気になって気になって…知らないうちにその子に何かしちゃったのかな???」
耀くんがもの凄く困った顔で真剣に悩んでる…あのバカ……
「気にする事無いよ。きっとその子の勘違いだよ。耀くん普段から滅多に他人に
関わる事無いんだからさ。会ってるはずないよ。その子とは。
だから気にしないで?ね?」
オレは耀くんを抱きしめた。
「うん…やっぱりそうかな?その子の勘違い…だよね…きっと…」

耀くんは納得してなかったみたいだけど…オレは勘違いで押し通した。


次ぎの日の朝オレはいつもとは逆に彩夏を待ち伏せた。
なのにその日に限って会えなかった…アイツ…オレの事避けてんな…
だから学校帰りに待ち伏せてやった。

「椎凪…どうして?」
学校からちょっと離れた所で声を掛けた。
「どうしてじゃ無いだろ?お前オレの恋人に何言った?」
「え?」
「昨日会ったんだろ?しかも初対面で文句言ったんだってな?
ちゃんと説明しろ。じゃないと…オレ…怒るぞ?」

思わずビクリとなった…こんな椎凪今まで見たこと無い…
もの凄く暗い瞳で…じっと睨まれた…

「……うっ……だって…」
「は?」
いきなり彩夏が泣き出した。

「だって…椎凪可哀想ーーーーーっっ!!」

「はぁ??」
そう叫びながら彩夏がオレに抱きついた。
「ちょっ…何だよ??」
「だって…だって…椎凪…裏切られてるんだよぉ…」
「はぁ??」
ますます訳が分からん???
「だって彼女さん椎凪の他にも沢山男の人と付き合ってるんだから!」
「ばっ…何言って…」

「だってあたし見たもんっ!!彼女さんが椎凪の部屋のお向かいさんの
部屋に入って行く所!!それに椎凪くらいの人とイチャイチャしてたし
昨日は高校生の男の子と楽しそうに歩いてたんだよ!!!
椎凪浮気されてるんだよ!!裏切られてるんだってばっ!!!」

思いっきりの誤解を泣きながら大声で喚かれて抱き付かれた。
お向かいさんは祐輔だしオレくらいの男は右京君だし昨日の高校生は一唏だ。

「ばか…それ誤解だって…」
「何が誤解なの?椎凪こそ騙されてるんだよ?」
涙で濡らした顔でオレを見上げながら言い続ける。
「だから…」

「彩夏っ!!??」

聞き覚えの無い声がしてオレはその方に視線を向けた…
男の子が1人仁王立ちで立ってる…あれはいつぞやの彩夏の学校の男の子。

「あんた一体彩夏に何してんだっ!!」
「え?」

泣きじゃくる彩夏がオレにしがみ付いて…何?何か誤解してる??
「彩夏から離れろ!!」
「だから…ちょっと待てって…」
勢い良くオレの所に走りこんで来るなりオレの胸倉を掴んで押して来た。
一体何なんだ??2人して誤解しやがって…ったく…
オレはちょっとムカッと来て…思わずそいつの顔面に1発…

バッコーーーーーン!!!

「…ブッ!!!」
「え?」

「椎凪に何すんのよっ!!このバカ愃珸っ!!!」

そう叫びながら振り回した彩夏の学生鞄とセカンドバッグが
ものの見事に彼の顎を直撃した。

「大丈夫か?」
「いて…はい…」

やっと落ち着いて近くの公園で彼の怪我の手当てをしてる。
「まったく…彩夏謝れよ。一応お前の事助けようとしたんだから。彼…」
「…何であんな所にあんたが来るのよ?おかしいじゃない?
何?あんたあたしの事つけてたの?何ストーカー?ちょっと怖いんですけど?」

こらこら…それって謝ってないだろ?

「……お前が…彩夏が最近元気無かったから…心配で…
特に今日もっと元気無かったし…」

俯いたままボソボソと話し出した。
「だからってあんたには関係無いでしょ?バッカじゃないの?」
「…お前が元気無いの…目立つんだよ…いつもバカみたいに
元気だから…だから…気になって…
別に何事も無く無事に家まで辿り着けば俺はそのまま
帰るつもりだったんだけど…お前が泣いてたから…つい…」
「だから大きなお世話だって言うの…まったく…でも一応お礼は言っとく…
椎凪が言えって言うから…」
その一言は余計だっての…
「あ…ありがと…」
「…うん…俺の方こそ…ごめん…なんか勘違いしちゃったみたいで…」
「そうだぞ。元は彩夏のいつもの早とちりだからな!反省しろっ!」
「だって…」
「お向かいさんはオレ達の知り合いでオレくらいの男は彼女の父親で
昨日一緒にいた高校生はオレの代わりに一緒に出かけただけの
オレの知り合い。分かったか?」
「え?…なに?みんな椎凪知ってる人なの??」
「ああ…」
「だって…すごく仲良さそうに歩いてたし椎凪と同い年位の人なんか
彼女さんのホッペにキスまでしてたんだよ?」

「…昔からなんだよ…2人共…愛されてんの…オレの彼女は…そいつらにも。」

彩夏がキョトンとした顔でオレを見上げてた…


「この子が遠藤彩夏…ここのマンションの5階に住んでる高校1年生。」

此処は椎凪の部屋のリビング…今日初めてお邪魔させてもらった。
しかもあたしの前には…念願の椎凪の彼女さんが座ってる…

「で…こっちがオレの恋人の耀くん。お互い顔だけは知ってるか?」
「初めまして…望月…耀です。」
そう言ってちょっと戸惑った様にニコッと笑った。
「あ…初めまして…遠藤…彩夏です…椎凪にはいつもお世話になって…
って…あ…いえ…その…」
あたしはもうシドロモドロ…キャァーーー恥ずかしいっ!!!
って…ん?『耀君』??
「え?あの…今耀君って??」
何で?どう見てもこの人女の人なのに…?
「もしかして…元は男の方…とか??」
今は男の人でも女の人より綺麗な事があるから…なんて考えちゃった…
「違うよ。耀くんは正真正銘の女の子。ちょっと色々あって昔からそう呼んでるの。」
「それにオレ…自分の事『オレ』って言うから…」
そう言って今度は照れた様に笑う…
もうその顔が同性のあたしから見ても可愛い…小動物の可愛さ??ぎゅうううってしたい…
「昨日はごめんなさい。あたし早とちりしちゃって…」
酷い事この人に叫んじゃったんだよね…しかもその後逃げちゃったし…
「あ…気にしてないから…良かった誤解解けて…」

そう言ってまた笑った顔が何とも優しくて…
ああ…椎凪ってこの笑顔に癒されてるんだなぁ…なんて納得してしまった。

そんなあたしを見て椎凪がクギを刺す。

「オレみたいに飛び付いて抱きついたりするんじゃないぞ。
ホント耀くん減っちゃうから!わかったな?」

「…うん。」

どうして椎凪がいつもそんな風に言うのか分からないけど…
一応素直に返事をした。
まぁそんな約束も今度彼女さんに会ったら…
自分を押さえる事が出来るか自信は無いんだけどね……