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「…あ…あ…」

ベッドが激しく軋む…もう…ずっとそんな状態…
椎凪が…動く度に…オレの身体は激しく動いて…
もうこれ以上…動かない様に…
シーツをしっかり…掴む…

「椎…凪…そんなに…乱暴に…しないで…オレ…慣れてないのに…」

椎凪に…抱かれるのは…これで3度目…
初めての時は… 朝まで…抱かれて…
2度目は…同じ日の…夕方から…
これで3度目だけど…ずっと…椎凪に抱かれてる様な気がする…
時間の感覚が…殆んど… 無くなって来てる…

「乱暴じゃないよ…これは…激しいって言うの。」
余裕の椎凪が…オレの両腕を掴んでさっきと変わらずに…オレを攻めながら言う…
「は…げしい…?うー…わかった…から…もう…やめ…あ…」
オレは耐えるのに必死…
「何で?止めるわけないでしょ?」
「だって…オレ…このままじゃ…」

今まで感じた事の無い感覚が…身体に走る…それが…怖い…

「やだっ…だめっ…あっあっ…」
「逃げないで…耀くん…怖くないから…受け入れて…そして… オレで…イって…」


「 ……はっ! 」

目が覚めた…
…何で…あんな夢…見たんだろ…
椎凪と…愛し合う様になった頃の夢…
「あふ…」
あれから…もう1年以上経ってて…今じゃ……
ホント…慣れてなかったんだな…あの頃のオレって…
思い出して思わず赤くなる…夕べも…椎凪と……
隣を見ると もう椎凪はベッドにいなかった…朝ご飯の支度してるのかな…
そんな事を思っていると部屋のドアが開いた。
「おはよう。耀くん朝だよ。」
「おはよう…椎凪…」
「あれ?もう起きてたの?ご飯の支度出来たよ。」
「うん…んー…ん?」
なかなかキスしてこないから…おかしいと思って目を開けると…
あれ?椎凪がいない…?

えー…何で?何でおはようのキス…してくれないの?

「 ドス ドス 」
オレは不機嫌を思いっきり表現してキッチンへ 向かう…

「椎凪!」
「え?どうしたの?耀くん?」
「どうして…ん?あれ?」
怒りながら…髪をかき上げると…何で?何でこんなに髪が… 短いの…
肩よりも…長いはずなのに…首辺りまでしかない…
「ん?」
部屋の中を良く見ると…あれっ!?…どうして?ここって…

前住んでた… マンションじゃないかーーーー!!

椎凪に駆け寄って耳を思いっきり引っ張った。
「いてててて…」
「ピアスが…無い!!それに…痛いの?椎凪…」
「オレピアスなんて開けて無いじゃん。ホント痛いって…耀くん。」

痛いなんて…そんな…これって…そうすると…夢じゃないの?
ええっーーーうそぉ…


オレは…洗面所の鏡の前に立って…マジマジと自分の顔を見た…
「髪が…短い…それに…ホントにここ…前のマンションだ…」
どうして…何が何だか… 分からない…
夢…そう…コレは絶対夢だ…絶対有り得ない…自分の頬をつねろうとして止めた…
もし…痛かったらと思うと…怖くて出来なかった…

…夢…これは…絶対…夢…!!
「どうしたの?耀くん?大丈夫?」
椎凪が心配して洗面所のドアを開けて覗く。
「あっ!…うん…あのさ…椎凪…今日って… 何年の…何月何日…だっけ?…」
「えー?ホントどうしたの?大丈夫?」
「うん…大丈夫だから…教えて…」
「○○年の9月24日だけど?」
「…○○年の 9月24日…?」

うそぉ…1年以上前じゃん…何で…

朝ご飯を食べながら…頭の中で色々考えていた…
…と言う事は…椎凪が下宿し始めて… 4ヶ月位経ってて…オレは大学2年…
しかも…まだ自分は男だと思って生活してるって事だよな…
…色々思い出さなくちゃ…えーっとえーっと…
と言う事は… オレと椎凪は…まだ…付き合ってなくて…
オレは…椎凪を…受け入れ様としてなかった時…

オレは真正面に座って一緒にご飯を食べてる椎凪を…ジッと見つめた…
「ん?どうしたの?オレに惚れちゃった?」
「…!ち…違う…よ…」
そうだ…この時のオレはことごとく椎凪のアプローチを粉砕してたんだ…
まずい…ついつい… 椎凪を受け入れそうになる…
今のオレは絶対椎凪に甘えちゃいけないし…キスしたり…抱きついたりしちゃいけないんだ…
気をつけないと…でも…夢なんだから… いいか?
ダメダメ…万が一って事もあるし…って万が一の時って…なに?
とにかく…この時のオレと同じ様に…過ごすのが…賢明だよな…

それとなく椎凪に 今日は大学に何時に行くか聞き出した。
「じゃあ…行って来るね…」
思わず…椎凪の行ってらっしゃいのキスを待ちそうになる…
「……耀くん…?」
どきっ!「な…なに?」
オレ…何かヘマやった?
「それで…行くの?耀くん…」
「え?なんで?」
普通だよ…な?え?
「…えっと…その…胸…」
「え?」
ああっ!!そっか…この時のオレって…サラシ…巻いてたんだ…
しまった…今は…巻いてないから…そんなの…
「そっ…そうだよね。やだな…オレ… ボケちゃって…」

部屋で…サラシを巻きながら…何とも言えない気分になった…
そう…だよな…この頃のオレって…こんな事してたんだよな…

椎凪……そんなオレを…椎凪は…

「じゃあ気をつけてね。」
「うん…」

キスしたい衝動を…必死で抑えた…
本当は…椎凪にギュッと抱きしめて 欲しかった…
抱きしめてもらって…深い深いキスをして…
「愛してる」って耳元で言って欲しかった…


大学は今も通ってるから…何の心配も無い…
祐輔さえ気をつければ…

何とか無事に一日を過ごして家に戻る…
危うく祐輔と一緒にマンションに帰る所だったけど…何とか誤魔化した…
途中で迎えに 来てくれた椎凪と会った。

「お帰り。耀くん。会いたかったよ。」

そう言ってオレをギュッと抱きしめる。
ああ…椎凪…思わず…気持ち良くて…

「…?耀くん?嫌じゃないの?」
「はっ!!」
そうだ…もーややっこしい…でも…いいか…
「今日は…特別だよ。」
「ホント??うそ…マジで?じゃあ… もっと抱きついてもいいの?」
「うん…今日だけ特別。」
「やったーー好きだよ。耀くん。」

…オレもだよ…椎凪…心の中でそう言った…

自分が…こんなにも椎凪を求めるなんて…分かってはいたけど…
今まで…オレがそう思う暇も無いほど…
椎凪がオレの事を…愛してくれてたんだ…

どうしても… 椎凪に…甘えたい…
どうやったら怪しまれずに…椎凪に甘える事が出来るか………あっ!!

「椎凪一緒に飲もう。」

お酒に弱い椎凪を酔い潰す作戦。 開始!

「ほら…もっと飲んでよ。椎凪。」
「飲んでるよ。耀くんこそ全然呑んで無いじゃん。うー…」
「飲んでるよ。ほら。」
空き缶を見せる。 椎凪が飲んだ空き缶だけど…
「……なんか…今日の耀くん…変…だよ…」
もう少しだ…
「変じゃないよ。もう少し飲んで。椎凪。ね?」
そう言って椎凪を 上目遣いに見上げる…これでバッチリのはず…

「じゃあ…もう少し…ね…」
やった。

椎凪がソファにもたれかかって…ウトウトしだした…
「…椎凪…」
オレはそんな椎凪に近づいてそっと抱きついた…
「…ん?耀…くん?」
トロンとした目で椎凪がオレを見る。
「椎凪…これは…夢なの…夢… 分かる?これは夢。」
暗示にかける様に何度も何度も囁いた。
「夢…?ああ…そうか…だか…ら耀くんが…こんな近くにいるんだ…」
椎凪がトロンとした顔で ニッコリと笑う。
「うん…椎凪…好きだよ…愛してる…」
オレは椎凪の首に腕を廻して椎凪にキスをしながら囁いた…
「わぁ…本当に夢だ…耀くんが… オレの事…
好きって…愛してるって言ってくれた…」
「何回でも言ってあげる…椎凪…愛してるよ…」
「嬉しいなぁ…覚めないで…欲しいなぁ…」
そう言ってオレをギュッと抱きしめてくれた…
椎凪の…感触…安心する…

「椎凪…椎…ん…」
深い…深いキスをして…椎凪がオレをリビングの床に押し 倒した…
「あ…だめ…椎凪…」
「何で?夢なんでしょ?…大…丈夫…夢…だもん…」
目をつぶって…もう少しで寝ちゃいそうな椎凪…
でもしっかりとオレの パジャマのボタンを外しにかかってる…
どうしよう…この時のオレは…まだ…椎凪を知らない…
このまま…椎凪に…抱かれるわけにはいかないんだ…けど…
頭ではそう思っても…いつもの感覚がオレに戻る…
「あ…あ…椎凪…」
椎凪の舌と…手が…オレの身体を…確認し始める…
オレも椎凪を抱き寄せた。
「やっ!…椎…凪…そこは…ダ…メ…あ…」
酔ってるせいか…椎凪は大胆にオレの身体を触り始めた…
このままじゃ…本当に…最後まで…許しちゃいそう…だ… 計算…外…
「耀くん…好きだよ…愛してる…」
「オレも…愛してるよ…椎凪…でも…でも…最後まで…しないで…お願い…椎凪…」
「なんで?オレ…もう… 止められない…諦めて…ん…」
「…は…あ…ちゅ…」
思いっきり舌を絡めたキスをされて…オレも…段々…自信が…無くなる…
「だめっ…椎凪…そんな事 したら…椎凪の事…嫌いに…なるからっ…あ…」
夢中で咄嗟に叫んだ。
一瞬…椎凪の身体がピクリとなった。
「じゃあ…最後までしなければ…何してもいい? ヒック…」
「え?…うん…いいよ…」

本当に酔ってるの かと思えるほど…椎凪はオレの身体で遊び始めた…

「椎…椎凪…そこ…は…ダメ…あっ…」

椎凪の舌が…オレの全身を舐める…
オレが…舌で攻められて… 一番弱い所を…ずっと…舌で攻められた…
「あっ…あっ…うっ…」
思いっきり舌を絡ませたキスをされながら…椎凪の指がオレの身体に入ってくる…
「…ンッ…あんっ…」
邪魔出来ないように両腕をしっかりと椎凪に押さえ付けられた。
「あっ…あっ…」
椎凪がオレの胸で遊びながらもっと深くオレに入ってくる…
「やぁ…だめ… 椎凪…」

本当は…オレの方が…最後まで抱いて欲しかったのかもしれない…
そう…言いそうになるのを必死で堪えたから…

酔った椎凪が激しいのを すっかり忘れてた…
以前酔った椎凪に身体中キスマークと歯型を付けられた事があった…
縛ったオレを担いで全部の部屋でオレを抱くって言って…本当に実行した。
目が覚めると椎凪は何も憶えてなかったんだけど…
最近はそんな事は無かったから…すっかり忘れてた…
「椎凪…好き…大好き…愛してるよ…」
本当のオレが 言ってあげるにはもう少しかかるけど…
今のオレなら何度でも言ってあげられる…
「…椎凪…愛してる…」
「…うん…オレも愛してるよ…耀くん…」

椎凪は約束通り最後までオレを抱かなかった…
でもその代わり椎凪の舌と指で何度も何度も頭を真っ白にさせられて…
オレは…殆んど裸に近い状態で…椎凪と抱き合って眠った…


部屋の中が明るくて…目が覚めた…
「ん…」
あれ?…いつの間にか…ベッドで寝てる… パジャマも…ちゃんと着てる…
「目が覚めた?」
カーテンを開けながら椎凪が声をかけた…
「んー…おはよう…椎凪…」
「おはよう。耀くん。愛してるよ。」
そう言ってオレにキスをした椎凪…
「 !! 」
「?…どうしたの?耀くん?」
「え?ああ…ごめん…オレも愛してるよ。椎凪。」
慌てて椎凪におはようのキスをした…
戻ってる…

見回すと…いつもの寝室…いつもの部屋…
良かったぁ…やっぱり夢だったんだぁ!!!
ひゃービックリしたよー…それにしても…
「ん?なに?どうしたの?耀くん…」
ジッっと見つめるオレに気が付く…
「椎凪って…やっぱり…エロかったんだ…」
「ええっ??何?いきなり何なの???」

だって…舌と…手だけで… オレの事…あんなに………


一方では…

「ん…眩し…いててて…」
見ればリビングの床の上で寝てる…
椎凪がオレの隣で同じ様に寝てる… なんで??
身体が…重いし…何でこんな所で寝てる……

「 し い な ぁ っ っ !! 」

ド コ ッ !!

「 が は っ !! 」

思いっきり椎凪のみぞおちにオレの足蹴りを入れてやった。
「げほっ…何?ヒド…イ…耀くん…いきなり…」
「何がヒドイだっ!!椎凪!!椎凪の方がもっとヒドイだろっ!!
オレの事…酔い潰して…こんな…こんな…」
涙を浮かべてる…え?なに?どうし…
「え?…ああっ!!」
見れば耀くんは殆んど裸に近い状態…
オレは…いつもの如く上半身は裸で…でも…ちゃんとズボン 穿いてるし…
周りは…ビールの空き缶だらけ…
「ちがっ…オレじゃ…」
「じゃあ誰がやったって言うんだよっ!!椎凪しかいないだろっ!!」
「でも…そうかも…しれないけど…オレ…そんな事した…記憶…無いし…」
オレは自分の無実を訴えたつもりなんだけど…
「こんな事して!!記憶ないだってぇ!!」

「あっ…そんな…いや…でも…ホントに…えーーー???どうなってんの???」

「 椎凪なんて大嫌いだぁっ!!もう椎凪のバカッ!!! 」

「 耀くんっ!! まっ…」

このせいで椎凪を受け入れる事を拒む理由が増えたのでした……