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「し…慎二君?」

オレは自分の目を疑った…だってここは旅先のホテルで…
ここに来る事は誰にも言って無くて…誰も知らないはずで…
オレの頭の中はもうパニックっ!!

「ここじゃ何ですからラウンジに行きません?
どうせ耀君裸で寝てるんでしょ?」
「…うっ…」
鋭い…
「…椎凪さん…肩に歯型ついてますよ…いくらホテルの従業員だと
思ったからって恥ずかしくも無くそんなの見せたらダメですよ…もう…」
もの凄い落胆された……なんで??
何でここまで来てそんな事言われなきゃなんないんだよ??
オレの方が納得出来ないって…!!!


しっかり着替えて慎二君と下に降りる。
「何でオレ達がここにいるってわかったの?」
ホントに知りたい事だ。
「え?ああ…簡単な事ですよ。泊まってるかどうか調べただけです。」
「調べたって…全部のホテル?」
「まさか!そんな遠出はしないと思って関東内のホテルに…」
「…な…何でそんな事…?どうして?」
「椎凪さんウチで指輪買いましたよね?」
「え?…ああ…うん…」
一応お店の子には内緒って口止めしといたのに…
「僕の社内の影響力バカにしないで下さいね。
椎凪さんとの約束より僕のお願いの方が強いんですよ。」
「ああ…そう…だから何?指輪くらい買ったって…」
「そう指輪くらい…なんですけどね?何で僕の留守を狙って
買いに来たのかなぁって…事前に僕がいないか確認してますよね?」
「…えっ!!??」
そうか…口止めが効かないんだから全部バレてるのか…
「い…やぁ…何か恥ずかしくて…さ…はは…」
こうなったら笑って誤魔化せっ!!
「そしたら今度は僕達に黙って2人で旅行でしょ?おかしいじゃないですか?」
ニッコリと笑ってる…ウソだ…絶対笑ってねーー…
「い…いいじゃん…2人で旅行くらいするよ…久しぶりだし…」
「そう旅行くらいなんですけど…誰にも言わずに内緒って言うのが
引っかかりましてね…おかしいでしょ?今までそんな事1回も無かったですし
逆にうるさいほど僕や祐輔に自慢する椎凪さんがですよ??」
ジイィィィィィィって見つめられた…
自分では自然を装ってたつもりなのに…やっぱり普段と違う事をするもんじゃない。
「いやぁ…気にしすぎだよ!いっつも自慢ばっかして迷惑かなぁって…さ…」
「随分大人になったもんですねぇ?」
「大人だって…」
「何かありましたね?」
ズバリと聞かれた。
「……………」
しばし無言!……一瞬で色々な事を考えた。
何を知ってる??いや何も知らないはず…いや…慎二君の事だから…

「…耀くんにプロポーズしたんだよ…で…OKしてくれたから
それを記念に2人で旅行しようって…」

今更隠すのも悪あがきだから正直に答えた。
「え?そうなんですか?良かったですね!ついに婚約ですか?」
「え?…あ…うん…」
あれ?なんだ?意外な反応??
もっと突っ込まれて何か言われると思ったんだけど…
「じゃあ右京さんにも報告したんですよね?」
「う…え…?あ…いや…その…」
「え?」
「いや…帰ったら…報告に…行こうかなって…思ってるよ…」
それは本当だ…でもなかなか足が向かなかったのは事実で…
「なんだそうなんですか?」
「…うん…」
「じゃあ帰ったらなんて言わずに今報告したらどうです?」
「へ?」
何言ってんの?
「いや…こう言う事は…電話じゃ…ねぇ…」
「いえ!そこに来てますよ。右京さん。」
「ええっっっ!!!!」
慎二君が振り向いたロビーのソファにいつの間にか右京君が座ってるっっ!!
「うそぉ!!!!!だって…そんな…」
マジックか?え?イリュージョン??瞬間移動???今いなかっただろ??そこに???
「やあ…久しぶりだね。椎凪君。」
足と腕を組んだままソファに深く座ったいつもの…
いや…いつも以上の態度のデカイ右京君がもの凄い横目で
オレを睨みながら挨拶をしてくれた。
「なに?耀にプロポーズしたんだって?」
「ああ…それにOKしてくれた。」
「ふぅん…やっと言えたのかい?軟弱な…」
「…ぐっ!!あのねぇ…」
「で?ナゼ指輪を買った?」
「なぜって…プロポーズOKしてくれたって事は結婚するって事だろ?」
「そう…結婚を前提に指輪を送るものだ…君は結婚できるのか?耀と?」
「なっ!!するよっ!!するに決まってんだろ??」

「僕の許しが無いのにかい?」

ズッコーーーーーーンッッ!!!!

オレの身体に右京君の言葉が突き刺さる…
確かに…右京君と慎二君の許しが無いと結婚は
許さないって言われてるけどさぁ…
今更だろ??どう見たってそれ意味ねーだろ??
反対されたってオレは耀くんと絶対結婚するんだし…

「あ…あのさ…」
「今君…僕の事なんて関係ないって思ってるだろ?
僕の許しが無くたって結婚できると…?」
「当たり前だ。」
「僕の力…まだ分かってないようだね…」
「は?」
右京君が意味ありげな言い方でオレを見ながらそう言った。

「役所で届けが受理されればいいけどね…クスッ…」

あの…妖しい瞳で笑う…
「なっ…そんな事出来っこ…」
「…フッ…」
更に深い妖しい瞳で笑う。

そんな事は無理だと思うのに右京君なら可能なのか…
なんて思ってる自分がいる…

「…冗談はこのくらいにしておこう。」

「は?」
「何だい?本当にやって欲しいのかい。」
「ま…まさか…」
オレは慌てて否定する。
ホントにやられたらたまったもんじゃない!
「耀に無理させていないだろね?」
ジロリと睨まれた。
「大丈夫だよ…」
余計なお世話だっちゅーの…
まあ…ちょっと大丈夫じゃないかもしれないけど…
「まさかホントにこの事だけに此処に来たの?」
「ああ…君が僕の所に来る手間を省いてあげたんだろう?
感謝したまえ。鈍いな。」
呆れた顔で言われたぁ…ムカッ!!
「 ……ぐっ!!!…」
ホント余計なお世話に金持ちの暇人がっ!!
「そりゃ…どうも…気ィ使って頂いて…」
そんな事思ってもいなかったがうるさいから一応言っとく。
「じゃあもう用事済んだんだろ?」
「ん?」
何だ?なに?その何言ってんだの顔は??
「まさか…このままオレ達に合流しようなんて思ってないだろうな?」

冗談じゃねーぞ…
折角の2人の旅行邪魔されてたまるかっつーの!!

「まさか…そこまで僕達も邪推じゃない…ねえ慎二君。」
「はい。僕達はここから別行動ですよ。そんな2人のお邪魔はしませんって。ねぇ右京さん。」
「ああ…久しぶりの慎二君との旅行だ…こちらも2人で愉しむ事にしよう。」
そう言って2人がお互いに向かってニッコリと笑った。
「へー…そうなんだ…じゃあお互い良い旅を…」
「ああ…耀には僕達の事は内緒で構わない。」
「わかった…」

って誰が言うかっ!!悪夢だよ!悪夢っ!!
見なかった…オレは誰にも会わなかった…そう記憶を修正しとく…

「ふう…」
部屋に戻るエレベーターの中で溜息を吐く…
朝っぱらから嫌なもん見ちまった…早く記憶から消さなきゃ…
そんな事を思いつつ…ふと思う…
あの2人がこんなに簡単に引き下がるのか?なんか…怪しい…
そんな事を思いつつ自分の部屋のドアを開けた。

ベッドにはまだ耀くんがスヤスヤと眠ってる…
昨日から殆んど抱きっぱなしだもんな…無理…させてるよな…きっと…
…ギシッ…
四つん這いになりながら耀くんの上に覆い被さる…
肘をついて両手で耀くんの顔にかかる髪の毛を優しく指でどかしていく…
それでも耀くんは起きる気配が無い…
頬をそっとなぞって…唇にそっと触れた…
淡い…ピンク色の唇…そそられて…そっとキスをした。
「 ちゅっ! 」
我慢出来なくてそのまま耀くんの首の下に腕を入れて
深い深いキスをする…
「…んっ…ん…椎…凪?」
「耀くん…んっ…ちゅっ…」
「ま…た…?」
「うん…抱きたい…」
オレは…さっきの出来事を忘れたかった…
折角の愉しい旅行が…旅行が…旅行がぁぁぁ!!!
「…くそっ!」
「…え?…あっ!!やっ…」
椎凪が思いっきりオレの脚を広げて持ち上げた…
「ちょっ…椎…凪…乱暴…んあっ!!ああっ!!」
いきなり深くオレに入ってくる…こんなの…刺激…あり過ぎ…
「やぁ…しい…な…まっ…ンアっ!!うっ…!!」


思わず…耀くんに八つ当たりをしてしまった…

くったりとベッドに埋もれてる耀くんを見てもの凄く…反省した…