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「美味しいよ。椎凪!」
「ホント?よかった。」

この場所限定のソフトクリームを頬張りながら
耀くんが嬉しそうにそう言った。
オレはホントにホッとした。つい自分の気持ちに任せて
乱暴に耀くんを攻めまくって泣かせたから…
(感じ過ぎてだけど…)
絶対怒ってると思ってたのに記念の旅行のせいか
オレのする事と諦めてるからか寛大な心の耀くんは
オレを怒ったりしなかった。

それもこれもみんなあの二人のせいだ!!

(いや…あんたが正直に話さないからだと思う。)

「!…どうしたの?耀くん?」
ぼーっとしてる耀くんを見て声を掛けた。
「えっ?あ…ううん…今そこに右京さんと慎二さんに似た人がいた様な…」
「え?」
「まさかね…ゴメン…オレの見間違いだね。」
クスッと笑った耀くんだけど…オレは笑えなかった…アイツ等…


「気持ち良いね。椎凪!」
「うん。」
オレと耀くんは湖を廻る遊覧船に乗った。
外で風を受けてオレは後ろから耀くんを抱き抱えてる。
遠くに船着き場が見えて…どう見てもあの二人が立ってる様に見える…

「よっ…耀くんあっち!!なんかあの木陰に何かいたみたい!」

耀くんの視線を逸らす。
「え?本当?何か野生動物でもいるのかな?」
やった…成功。
誰がお前等に会わせるもんか!
多少優越感に浸りつつ…でもそんなオレの努力もあっという間に泡と化す…

「相席いいですか?」
「え?」

耀くんがいきなりそんな事を言われて慌てた。
相席ってこんなに他の席空いてんのに何で此処?
「…って慎二君!!」
「え?慎二さん?」

湖の近くの地元料理のレストラン…
何軒も他にいくらでも店はあるのに何でオレ達と同じトコに来る?
後つけてんのか?それとも右京君が生き霊でも飛ばしてんのか?

「あれ?耀君?え?偶然だねぇ…」
「え?何で?あ…右京さんもいる…」
「耀…元気かい?」

わざとらしいんだよぉぉぉぉーーーお前らぁっ!!!
あんだけ念を押しといたのに…自分達だって納得してたくせに…
やっぱチョットでも信じたオレが馬鹿だった…
疑う事を知らない耀くんは本当に偶然2人に会ったと思ってる…
甘いっ!!甘いよっ!!耀くんっ!!

もうこうなるとオレはお手上げ。
一緒に行動するしかない…お前らホントお邪魔虫だよ…
馬に蹴られて死ねっ!!!!

こいつらの目的がオレには分からない…
ホントオレの邪魔する為にここまで来たのか?そうだとしたら信じられん…!!
どんな神経の持ち主だ…こいつら…


旅行最後の夜…結局耀くんは右京君と夜のホテルの庭園を散歩に出てる。
ムカつく事にしっかりとオレ達の隣の部屋をとりやがって…
そんなにオレが憎いのか??溺愛の域超えてんだろう??

「そんなにオレの邪魔して愉しい?」
「はい?」
右京君と耀くんの帰りを慎二君と2人待ちながら思わずそんなセリフが出る。
「ああ…こんな所まで追い駆けてきたからですか?」
「当然だろ?一生に一度の婚約旅行なんだぞ…」
「旅行ならこれからだって出来ますよ。」
「意味合いが違う。」
「ふふ…右京さん心配なんですよ…」
「何が?」
「椎凪さんの事ホントに調べたらしいですから…生まれた時からの事…」
「プライバシーの侵害だっつーの!!」
「…で…あの右京さんですからね…
僕もチョットは助言したんですけどなかなか納得してくれなくて…
どうやらプロポーズしたらしいって分かったらいてもたっても
いられなくなったみたいで…」
「そんなにオレ信用されてないの?」
「信用は…してると思いますよ…でもそれとこれとは別なんじゃないんですか?
右京さんにとっても耀君は特別なんですよ…だから…
右京さんの気の済むようにさせてもらえませんかね?」
「…まったく我が儘な花嫁の父だな…」
「もう諦めた方が良いですよ。」
「…これって…結婚許してもらえるのかな?」
オレは一番肝心な所を確かめた。
「さぁ?それは右京さん次第じゃないですか?」
「えーーー!!ここまでされて反対されたんじゃ
オレ立ち直れないんだけど…」
ホントそんなの勘弁して欲しい…
「頑張って下さいよ。めげないのが椎凪さんの長所でしょ?
耀くんだってどんなに拒絶されたってめげなかったから
今があるんじゃないですか。」
「…なんかそれ褒められてるとは思えない…」
「そうですか?おかしいな?」

全然おかしくないと思ってる慎二君の顔だった。



「あの…右京さん…」
「なんだい?耀。」

庭園を歩きながら右京さんに遠慮がちに声を掛けた。
「あ…あの…椎凪の事なんですけど…」
「ああ…僕がどう思ってるか心配かい?」
「…はい…」
「フフ…心配する事は無いよ…わかっているよ…僕も慎二君もね…
耀を女の子に戻して欲しいって決断したのは彼だからね…
慎二君ですら迷ったのに…でも彼の決断は正しかった…
だから今僕は耀とこうして一緒に歩いてる…」
「じゃあ…」
「でもね…大学はちゃんと卒業して欲しいんだ…
それに子供は今の耀達にはまだ早いと思うよ…
だから椎凪君にはクギをさす意味でああ言ってるだけだから…
耀が心配する事では無いよ…」
「良かった…右京さんに許してもらえないのかと思ってたから…」
「大丈夫…時期が来たらちゃんと話すよ。」
そう言って右京さんはオレを抱きしめてくれた…
「…はい…」

椎凪とは違う安心をくれる右京さん…オレの…過去も何もかも全て知ってる人…

「まぁ彼をからかうのも愉しいって言うのもあるんだけれどもね…
それにこれだけやっておけばそうそう無茶な事はしないだろう?」
本当に愉しそうに微笑む右京さん…
「……右京さん…」
オレはそんな右京さんに何も言えず…
椎凪…頑張ってね…って心の中でそう思った。



「うっ…あっ!…あっ!…くぅ…!!ハァ…ハァ…」
椎凪が…激しくオレを攻める…

「椎…凪…まっ…苦しい…息…できな…ああっ!!」
オレは両腕を後ろ手に縛られてて…何の抵抗も出来ないから…
椎凪のされるがままだ…だから…
「だって…もう最後の夜だよ…」
「そう…だけど…少し…休ませて…ンア…」
無理な体勢で押し上げられて…ベッドに身体が沈む…
椎凪が右京さん達の事で機嫌が悪いのは分かってた…
だから…激しくなるのも仕方ないと思って諦めてたんだけど…
こんなの…ちょっと…刺激が強すぎる…もうオレの限界はとっくに超えてる…のに…

「ん…チュッ…クチュ…ンア…」
舌を絡めたキスの後…そのまま椎凪の舌がオレの身体をなぞっていく…
それが…何とも言えない感触で感じ過ぎて…変になりそう…

「…耀くん…」
「ハァ…ハァ…椎…凪…あっ…」

うつ伏せにされて椎凪がオレの身体を押さえつけて後ろから入ってくる…
「んああ…やっ…!!」
がっちりと押さえつけられて…身動きがとれなくて…
椎凪は深く深くオレに入って来た…オレは身体が仰け反る…

「また…外の露天風呂でしようか…」
オレはその言葉にビクリとなる…だって隣には右京さん達が泊まってるのに…
そんなの恥ずかしくって…絶対無理…!
そう思って顔だけ椎凪を振り向くと…椎凪は『あっちの椎凪』だった。
「…椎…凪…?」
オレは心臓ドクンとなる…

「なんでそんな顔するの?外でするの嫌?それともオレとするの嫌?」

「ちが…そんな事…うっ…うっく…」
「え?…耀くん??」
椎凪が突然泣き出したオレに慌ててる。
「うっ…うえっ…ひっく…」
「え?え?何?どうしたの?耀くん??なんで??」
「…だって…だって…椎凪の意地悪ぅぅーーーー!!うわぁぁぁーーー!!」

オレは急に悲しくなって泣かずにはいられなかった。


「ごめん…ごめんね…耀くん…オレ…耀くんに八つ当たりした…」
「うっ…ひっく…」
オレはベッドの上で耀くんを膝に抱っこしてギュッと抱きしめながら耳元で囁いた。
耀くんはやっと泣き止んでくれて…オレに凭れ掛かってる。
「耀くんのせいじゃ無いのに…ホントにごめんね…」

オレは最低だ…今朝だって耀くんに八つ当たりして反省したばっかなのに…

「折角の旅行なのに…ホントごめんね…オレ耀くんの事泣かすつもりなんて…」
「…もう…いいよ…大丈夫…だから…オレの方こそ泣いちゃってごめんね…」
「耀くん…」
「右京さんの事も…ごめんね…
でも…右京さんオレの事…大事に思ってくれてて…だから…」
「わかってるよ…右京君がどれだけ耀くんの事大事に思ってるか…
だからちょっとヤキモチ妬いちゃった…」
「椎凪…オレ右京さんの事も大切だけど…
椎凪の事は好きだし…愛してるし…それにオレ椎凪に恋してる…
だから椎凪の事考えると胸がドキドキして…ワクワクしてウキウキして…
だから椎凪にもオレの事好きでいてほしくて愛してほしくて…オレに恋しててほしい…」

耀くんが真っ赤になりながら照れた顔でそう言ってくれた!!
オレは嬉しくて嬉しくて…今日あった右京君達の事なんてどっかに飛んでった!

「オレだって…ずっとずっと耀くんの事好きで愛してて恋してるっ!!」
「ありがとう椎凪………もう一度…オレの事抱いて…」
そう言ってオレの首に耀くんが腕を廻して顔を近付ける…
もう少しで唇がくっ付きそうなくらい…
「いいよ…朝まで抱いてあげる…」
「…もう…意地悪しなでね…」
「…しないよ…もう…しないから…」
「うん…椎凪…愛してるよ…」
「オレも愛してるよ…耀くん…」
「旅行に来れて…オレ嬉しかったよ…」
「オレも…嬉しかった…また来ようね…」
「うん…」


今度は本当に優しく耀くんを抱いて…朝までオレ達は愛し合った…



「もう少し…考えましょうよ…椎凪さん…」

朝オレ達に会うなり慎二君が言い放った一言…
右京君は顔に怒りマーク浮き出てるし…耀くんは顔を真っ赤にして俯いてる。
「いやぁ…その…」
オレは2人から視線を逸らすしかない…

どうしても耀くんの服で隠しきれない首筋のキスマーク…
しかも1つや2つじゃない…
ついつい調子に乗って無意識に付けたらしい…何ともいい訳のしようが無い…
だって昨夜後半は2人で盛り上がっちゃって…お互いキスマーの付け合いして……

「まぁ…恋する2人だから…」
なんてわけの分からないいい訳をした。

「君って…男は……」

右京君が我慢の限界とでも言う様にワナワナ震えながら言葉を搾り出す。
「ちょっ…右京君…ストップ!大体そもそもの原因は右京君達なんだし…」
「なんだい?僕が何をしたって言うんだい?」
ゲッ…やべっ…余計な事言ったかな?
「何だい?はっきり言ったらどうだい!!」
「いや…だから…もういいって…」
「何だい?気分が悪いな!言いたい事があるなら言いたまえっ!!」
「もう…だからいいってば…!!」

そんな事の繰り返しでしばらくホテルのロビーでもめていた。
時々常軌を逸した行動を起こす右京君だけどこれも愛情の裏返しなのかと
思える自分がいたりして…

耀くんともまた一層お互いの気持ち深められたのもこの2人のお陰なのかな…?
なんて自分としては何とも寛大な気持ちなんだろうと関心しつつ…
一生に一度の婚約旅行の幕が下りた。