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「本当に大丈夫ですか?右京様…」
車に乗り込もうとする右京に向かって雪乃が心配そうに声を掛ける。
「大丈夫だよ。これでも僕は琴乃の父親だよ。」
「そうですけど…」
「それに向こうにはちゃんと子守もいる。」
「え?」
「それからいつも言っているだろう?雪乃…」
そう言ってニッコリと微笑む。
「あ…」
「じゃあ行ってくるよ。琴乃お母様に行ってきますって…」
小さな手を取り雪乃に向かって『バイバイ』と手を振る。
そんな二人を見て思わず顔がほころぶ。

「いってらっしゃい…あなた…」

言った瞬間顔が真っ赤になる。
そんな雪乃を見るのが楽しみの一つになっている右京だった。

「可愛いですね〜琴乃ちゃん。右京さんにそっくりですよね〜」

慎二君がさっきからニコニコの顔でそんな事を言う。
此処は慎二君の部屋…右京君が遊びに来ると言うので
慎二君の部屋に集まってると言うわけなんだけど
右京君が子供を連れてくるなんて珍しい。

「どうでもいいけど右京君赤ん坊の面倒なんてみれるの?」
オレは不思議で聞いた。
どう見ても右京君と赤ん坊なんてミスマッチだ。
「これでも僕は琴乃の父親だよ。それに此処には子守もいるじゃないか。」
「は?子守?何処に?」
オレは慎二君を見た。
慎二君はオレを見てる。

「え?オレ?」
何でだ?

「君は新城君の所で子守には自信があると豪語していたらしじゃないか。
光栄に思いたまえ僕の琴乃の相手が出来るんだよ。」

「は?」
何でそうなる?



「泣かせたら許さないよ。」

そう凄まれて外に出された。
『 日光浴は大事だからね。 』
だったら自分で行けっちゅーのっ!!人に押し付けやがって…
まぁあそこにいてもあの3人の中には入れないからま…いいか…
その辺一回りすりゃ…
オレは生後5ヶ月の右京君の子供を抱いて外に出た。

『 琴乃は僕の子供だからね。 』

右京君が出掛けにそんな言葉をオレに言った。
何だよ…大事に扱えってか?
オレがこんな赤ん坊に何かするとでも思ってんのか?
そこまで人間腐ってねーよ!
「はいはい…」
オレは適当に返事をして玄関のドアを閉めた。

「おーいい天気。」
秋晴れの爽やかな空気だ。
「琴乃ちゃん気持ちいい?」
「………」
オレのシャツをギュと握ってジッとオレを見上げてる。
あんまりこの子と一緒にいた事が無いから泣くかな…
なんてちょっと心配だったけど流石右京君の子供か…
ホント右京君に似てる…こんなチビのクセにオレにガン飛ばしやがって…
飛ばし…ジィ…っと見つめられた…
意識が…吸い込まれ…る…

「 めっ! 」

危うく意識が飛ぶ寸前『オレ』を出して踏ん張った。
オレに言われて琴乃ちゃんは一瞬ピクリとなったけど
直ぐに普通の瞳になってオレから視線を逸らした。

「まったく…こんなチビ相手に何で『オレ』にならなきゃいけないんだよ……」
そう愚痴りつつ出掛けの右京君の言葉を思い出す。

『 琴乃は僕の子供だからね… 』

ったくこう言う意味かよ…ちゃんと説明しろっての!
「しかし…こんな赤ん坊のクセに『邪眼』使えるのかよ…」
オレはウンザリして呟いた。


「はぁ…」
オレはため息をついた。
此処は公園の一角…休みの日で家族連れも多く
目の前を子供が何人も走り抜けていく…
「お子ちゃまは元気だね…」
琴乃ちゃんを膝の上に乗せてボーとしてた。

「何ヶ月ですか?」

「!」
急に声を掛けられてハッとした。
見れば犬を連れたオバサマがオレ達の前に立っていた。
「え?ああ…えっと5ヶ月?かな?」
確かそうだったよな…
「あら…かななんて…しっかりして頂戴よね。パパったら!クスッ」
「あー違うから!オレの子じゃないんで…」
怖い事言わないでくれ!
「あら…じゃあ姪っ子さん?」
「え?」
そういや考えた事なかったな…右京君の子供としか思ってなかった…
んーーえっと一応耀くんの妹になるわけで…と言う事は…

「義理の妹?」
「え?妹?」
「はぁ…」

だよな?あってるよな?
「まぁ…こんなに歳が離れた妹さん?」
「はぁ…」
思わず知らないオバサマと驚いてしまった。
「お兄さんですって。びっくり…ね…」

「!!」
ヤベッ…オバサマと琴乃ちゃんが見つめ合ってる!!
「琴乃!ダメ!!」
叫んで抱き上げた。

「…!!」
オバサマがキョトンとした顔してる。
「ハハハ…」
オレは急いでその場から立ち去った。
「危ない危ない…」
加減知らないから相手がどうなるかわかんねーもんな…
さっきの場所から少し離れたベンチに座ってオレと
向かい合う様に琴乃ちゃんを膝の上に乗せた。

「お前って…オレの妹だったんだ…」

さっきあらためて理解した事を呟いた。
別に血が繋がってるわけじゃないけど…戸籍上近い将来そうなるんだよな…
そう思ってマジマジと小さな義理の妹を見つめてしまった…
生まれて初めてオレに妹が出来るんだ。
なんか…変な感動が込み上げて来た。

「ヤベ…なんかスゲー可愛く思えてきた…」

右京君の子供なのに…
「…あー」
「お!」
初めてオレに話し掛けてくれた。
「そろそろ帰るか?ん?」
「だー…」
「?…嫌なのか?」
「あー」
「ふうん…」
『邪眼』のせいなのか何だか見つめ合ってると
何となく言いたい事が分かるのが怖い…
オレと未来の妹はそれからしばらく公園で遊んで
芝生で寝っ転がって昼寝までして帰った。
グズリもせず流石右京君の子供か…と思わず関心。


「君は一体何時間琴乃を連れ出せば気が済むんだいっっ!!」

玄関を入った途端右京君に怒鳴られた。
「椎凪さん携帯置いて行ったでしょ?連絡も取れなくて心配しましたよ!」
危うく警察官総動員だったと怖い事言われた。大袈裟な…
「ああ…ゴメン…なんか2人でのんびりしちゃって。」
ってか散歩に連れてけって送り出したのはテメェ等だろうがっ!
「さぁおいで琴乃。」
右京君が手を出すとちらっと琴乃ちゃんがオレの方を向いた。
「ン?」

偶然か…故意か定かではないがたまたま抱いてた高さがそうだったからか
オレの頬に琴乃ちゃんの口が付いた。

「!!!!!」

もう一瞬でその場が沈黙。
オレは別に気にもしなかったのに…

「こ…琴乃っっ!!」

右京君がこの世の終わりかと言う様な叫び声を出した。
叫ぶなりオレから琴乃ちゃんを引ったくる様に抱きしめた。

「君は一体琴乃に何を教え込んだっっ!!
こんな純真無垢な赤ん坊に何て事するんだい!!僕は許さないよ!!」
瞳まで変わってる…
いや…ちょっと…勘違いすんのもいい加減にしろっ!
「そんな事するわけないだろ?考えればわかんだろーが…」
「慎二君許せるかい?」
人の話しは最後まで聞けっ!!!

「女性としてのたしなみをチョット…手取り足取り…」
頭にきたから思わずふざけてそんな事を言ってみた。

「 !!!! 」

言った相手がマズかったとすぐ後悔した。
「君は…僕の娘になんて事っっ!!!」
マジに受け止めるとは思わなかった。
「いや…冗談…」
「ウルサイっ!!!許さないよっ!!」
もう人の話を聞いちゃいない…瞳がマジだ…
『邪眼』発動してるんですけどっっ!!!
「ちょっ…本気にするなって…ウソだよ!」
「あー…」
「琴乃もそうだと言っている。」
「違うって言ってんだよっ!!親のクセにわかんないのかよ!!」
その一言が余計シャクに触ったらしい…口は災いの元だ…深く反省!

「覚悟したまえっ!!!」

それからもう慎二君と耀くんが止めに入って散々な目に遭った!
二度と右京君の子供なんか預かるもんかっ!!
感謝の一言も無く10倍返しくらいの仕返しされてオレはもう気分は最悪!!

でも…心の片隅に自分に妹が出来る事がちょっと嬉しかったりする自分がいる…
その事は…しばらく誰にも言わずに自分の胸に仕舞っておこうと決めて…

キョトンとオレの事を見つめてる琴乃に右京君には分からない様に微笑んだ…