130





「うわぁ…すごい…」

耀くんが屋敷の窓から外を見てそう言った。
確かに窓の外にはパノラマで緑に茂った山々が並んで湖も見える。
障害物が何も無いって言うのもすごいけどこの眺めが
一般の個人の屋敷から眺められる所がスゴイ。

「ホテルに泊まるより僕の屋敷の方が気兼ねしなくていいからね。
眺めもいいし…何より子供達が伸び伸び出来る。」

ここは右京君の数ある屋敷の1つ。

耀くんと祐輔の大学卒業が決まり皆で卒業旅行ならぬ
家族旅行に来たと言うわけ…

珍しく奥さんお子様連れ。
なので色々融通の利く尚且つ回りに観光なんか出来る
右京君の屋敷に泊まりに来たんだけど…

オレとしては変な気を使うからちょっと考えものなんだけど…
まぁ…皆で来れて楽しいと言えば楽しいからいいか…

慎二君は仕事の関係で後から合流する事になってる。
3人の子供達も大分大きくなって可愛いさかりだ。

普段拝めない2人のパパ振りが何ともおかしくて…
でもオレがクスクスと笑うと2人のパパがギロリと睨むんだよな…
2人共眼力半端じゃ無いからそんなに一緒に睨むのは
勘弁して欲しいんですけど…

観光を楽しむと言うより風景を楽しむと言うか…
のんびりした雰囲気が何とも言えず…

しかも右京君の屋敷の使用人はみんな完璧で
必要な時しか現れない…いつも何処で待機してるんだと
思うほど…まるで忍者みたいでチョット怖いくらいだ。


「たまにはいいね…こんなのんびりするの…」
「そうだよね〜耀くんはオレの事相手に出来ない位
忙しかったモンね。」
各々割り当てられた部屋で今はユッタリと過ごしてる。

明日の夜には季節外れの花火も上がると言う…
耀くんはそれも楽しみにしてる。
オレとしてはそんな花火を見ながら愛し合うのも
いいんじゃないかと思ってるけど…
なんせあのメンバーだもんな…
きっとチャンスが無くて儚い夢で終わるんだろう…
ああ…悔しいったらありゃしない…
当の耀くんは何気にホッとしてる所が無きにしも非ずで…

「いい加減しつこいよ!椎凪!ちゃんとその後埋め合わせ
したじゃん…あんな格好までしてあげてさ…ううっ…」
最後は耀くんが顔を真っ赤にして呻いた。
「ごめん。ウソだよ…もう気にしてないよ。
あんなに耀くんにサービスしてもらったもん。」
オレはその時の事を思い出して顔が緩む。
なんせ超ミニのスカートにナース姿にetc…
最後に猫の格好までしてくれたんだもんね。
感じまくって乱れた耀くんの姿がもう脳裏に焼き付いてる…
しかも感じてる時の声が全部『にゃあ』だもん。
最高だったなぁ…
オレは耀くんに近付いて後ろから抱きしめた…
「好きだよ…耀くん…愛してる…」
抱きしめた腕に力を込めて更に抱きしめた。
「オレも愛してるよ…椎凪…」
耀くんが抱きしめたオレの腕に頬を摺り寄せた。
「じゃあ次はバニーガールがいいな。耀くんウサギ似合ってるし。」
そっと耳元で囁いた。
「あ!女子高生の制服なんかもいいかも!オレ耀くんの制服姿
見た事無いし…なんならオレも学生服で…」
「椎凪っ!!もう…」
耀くんが怒った顔でオレを見上げた。
「ふふ…いいじゃん。2人だけの秘密なんだから。」
「そう言う問題じゃないっ!」
「そう言う問題だよ。ははっ!!」

オレは頭の中で制服姿の耀くんを攻めるのもいいなぁ…
なんで想像して楽しくなった。



「ちょっといいかい。」

右京君に呼び出され2人で庭に出た。
庭と言ってもどこかの式場を思わせる広大な広さの庭園だ。
ほんと右京君ってばどんだけ金持ちなんだ…溜息が出る…
耀くんは祐輔達と子供の相手をしてるからオレが右京君と出た事に
気付いていないみたいだった。

「何?何か文句でもあるの?」
オレは自分から切り出した。
大体右京君がオレに話しかけるなんて説教に決まってる。
いい話のためしがない。
「君はまた何か僕に文句を言われるような事したのかい?」
「まさか!いっつも文句言うのはそっちじゃないか…だからだよ。」
オレは不貞腐れた顔で言う…じゃなきゃ一体何なんだ…

「耀の事だけどね…」
「耀くんの事?」
「耀には草g家の事には一切かかわらせるつもりは無いよ。
草g家の当主の娘ではなく『草g右京個人の娘』だと言う事を
憶えておきたまえ…だから草gの方で何かあっても耀の関知
する所ではないから安心したまえ。」
「…え?」
「でも僕の娘である事には変わりない…だから耀に困った事があれば
僕は全力で耀を助けるし琴乃と同じ様に耀の事も愛している…」
「…………」
じっと優しい瞳で見つめられた…こんな右京君の眼差しは初めてだ…
「僕と耀は普通と違う親子関係だと言う事はわかっている…
草gの方でも色々言われたが僕にはそんな事関係ない…
耀は僕が育てた…その事で他人にとやかく言われる筋合いは無いからね。
初めは人に怯えて…僕にだけ心を開いてくれて…とても愛おしかった…
片時も離れず…耀も僕を慕ってくれた…耀は…僕の娘だ…だから…」
「だから?」
なんだ?誰にもやらねぇとか言わねーよな??

「 耀の事をよろしく頼む。 」

そう言って深々と頭を下げた…あの…右京君が…

「君となら耀は幸せになれる…君なら耀をずっと愛し続けてくれる…」

「右京君…」
「君となら幸せな家庭を持つ事が出来るだろう…」

そう言ってニッコリと笑ってくれた…


オレはいきなりの事で…何だか訳がわかんなくて…
頭の中が…真っ白だ…

「なんて顔してるんだい…マヌケな顔が余計マヌケに見えるよ。」
「…え?…え?ちょっ…右京君…もしかして…結婚許してくれたの?ねぇ?」
「…何だい許して欲しくなかったのかい?」
いきなりいつもの右京君だ…なんだ一瞬かよ…
「そんなわけ無いだろっ!!まったく………でも…ありがと…許してくれて…」
ボソリと呟いた…オレだって恥ずかしいという感情はある。
「式は自分達の好きな日にするといい…まぁ耀が勤めに慣れてからにしてくれると
ありがたいがね…耀に仕事と主婦の兼任は難しい様な気がするからね。」

鋭い所を突いてくる…確かに耀くんに主婦なんて無理だ…
今だって家事全般全てオレがやってるんだから…
ってオレそう言うの楽しくてやってるんだけどさ…
耀くんの為なら全く苦じゃないし。


「子供達はオレが見てるからたまには夫婦水入らずで過ごしたら?」

夕食までにはまだ数時間…間があるという時刻…
外から戻って来たオレはそんな提案をした。
「!!」
「ああ?テメェ一人で面倒見れんのか?」
祐輔が速攻文句を言う…祐輔も負けず劣らず親バカだ。
…とオレは思う。
「だってもう3人共眠っちゃってるししばらく起きないでしょ?大丈夫だよ。」
昼間はしゃいでたお子ちゃま達はチョット前からお寝むに入ってる。
「…怪しいね。君がそんな事を言うなんて。」
右京君が疑いの眼差しでオレを見る。
「あ!人の親切は素直に受けなよ。2人っきりなんてしばらくなかったでしょ?
オレはいつも耀くんと2人きりだからさ。せっかくの旅行だし外見てくれば?
まだ色々お店も開いてるみたいだよ。」

とにかく色々言って早くコイツ等を追い出したかった。
オレの努力が実ったのかやっと2組の夫婦が出て行った。