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 君は男の子だよ…良かったね…お母さんを苦しめたあの人に似てるけど…
 男の子ならお母さんも少しは君の事許してくれるよ…

 本当?

 ああ…きっと許してくれる…だから君は男の子だよ…
 でもね…生まれた時君は女の子の身体だったんだ…
 それは君が受けなければいけない罰かもしれない…
 でも生きていく為には仕方ないね…君は女の子の身体だけど心は男の子だよ…
 周りがどう思おうと君は男の子わかってくれたかな?

 周りが耀の事女の子って言っても耀は男の子なんだよね?

 そうだね…でも身体は女の子だから周りには女の子ってなったしまうけど頑張れるかな?

 うん…耀がんばる…
 だってそうじゃないと耀は生きる事をお母さんに許してもらえないんだもの…
 耀…生きたい…から…死にたく…ない……



 「はっ!」

 また…あの夢…

 何の夢だったか思い出せないけど…この嫌な感じはまた同じ夢…
 良かった朝で…これが夜だったら一人じゃ耐えられない…
 時々…見る夢…
 必ず途中で目が覚めて言いようも無い不安な気持ちと恐怖が込み上げて来る…
 だからこの夢を見た後は……

 「おっはよー耀くん!!朝だよー。」
 突然勢い良く部屋のドアが開いて椎凪が掛け声と共に入ってきた。

 ド キ ン !!

 心臓が破裂しそうになる!!
 「もー椎凪は!ビックリするじゃないかっ!」
 思わず椎凪に八つ当たりしたしまった。
 「えーだって耀くんこれ位しないといつも起きないじゃん。」
 納得できないって顔で椎凪が反論した。

 いつもの様に椎凪が作ってくれた朝ご飯を食べ終わってコーヒーを飲んでる。
 まだ夢の影響で気分がブルー…
 「どうしたの耀くん?何か元気ないね?」
 椎凪がオレに気付いて声をかけてきた。
 「うん…きっと夢のせいだよ…」
 「夢?」
 「うん…時々見るんだ…内容はぜんぜん覚えてないんだけどさ…すっごく嫌な感じの夢」
 溜息出ちゃったよ…
 「何人もの男の人が何か言ってるみたいなんだけど 良く解んないんだ…」
 「男の人?」
 椅子に腰掛けながら椎凪もコーヒーを飲む。
 「うん…だからオレ知らない人嫌い…男の人って特に嫌い…って言うか 恐いんだよね…
 何だろう…」
 「そっか…」

 何か昔の記憶なのかな…でも耀くんにも分からないんだ…

 正面の椅子に座って一緒にコーヒーを飲む 椎凪を見た…
 本当どうして椎凪は平気だったんだろ…わかんないや…でも…

       あの時のあの笑顔がオレの気持ち…柔らかくしてくれたのかなぁ…

 夢…か…オレも耀くんの事言えない…最近見てないけど…突然襲ってくるあの夢…
 もし次に見たらオレは大丈夫なんだろうか…

 「おはよう。祐輔。」
 大学を入ってすぐ祐輔を見付けた。
 「おす。」
 機嫌は良さそうだ。
 祐輔とは同じ大学。いつも一緒にいる。
 「変な事されてねーか?耀。」
 微笑みながら言ってくる。
 「え?何?何でそんな事言うの?されてないよ…」
 「よっぽど我慢してんだな。椎凪のヤツ」
 「もー祐輔ってば…」
 「どう見たって手が早そうだぞ。」
 「変な事しないって約束だもん。」
 「でも耀にキスする事はあいつにとって変な事じゃないんだぞ。」
 クイッとオレの顔を自分の方に引き寄せて祐輔が言う。
 「もーそんなにオレと椎凪を くっ付けたいのっ?」
 「ははっ…さあな。」
 振り上げたオレの手をよけながら笑ってる。
 「でも…一番分かってるのはお前だろ?なぁ…耀。」
 「祐輔…」
 「ま!いいけどな。そんな焦んなくても。」
 オレの頭に手を乗せて言う。

 「ただオレは耀が傷つくのを見たくない…それに耀には 幸せになって欲しい…それだけだ。」

 優しく笑ってポンポンとオレの頭を撫でる…
 祐輔…
 オレの初めての友達…オレを初めて理解してくれた人…
 「ありがとう。祐輔…大丈夫心配しないで…」
 「そうか…ならいい。」



 いつもの夕飯時。
 ダイニングテーブルの上にはホットプレートの上で 美味しそうなお好み焼きが
 食べ頃になっている。
 椎凪は毎日夕飯には帰って来てくれる…仕事的に難しいと思うのにオレに気を使って
 くれてるのかな?
 「椎凪って彼女っていなかったの?」
 「いないよ。今まで彼女って感じで付き合った事ないかな…オレ浅く広くだから。」
 「そーなんだ…」
 「だって本当に好きになっちゃうとオレの愛って…」
 そっと『オレ』を出して耀くんを見つめた…
 「深くて重いから…」
 「 ? 」…今…何か感じが違った?
 「重すぎて受け止めてもらえないんだよねー」
  ! …いつもの椎凪だ…
 「何?それって?ウザイって事?」
 ズバリ聞いちゃった…マズかったかな?
 「ちっ…違うよ!一途って事!!」
 「じゃあオレも浅く広くの一人なんだね。」
 お好み焼きをほお張りながら呟いた。
 「 えっ!?ちっ…ちがーう!!」
 すごい焦ってる。
 「もーいいよ。ほらっそこ…焦げるよ。」
 「耀くん!違うからねーっっ!!」

 椎凪が今にも泣きそうな顔になった。


 その日の夜…オレは久しぶりに夢を見てしまった…いつもの…夢…

 「ん……」

 真っ黒い闇がうごめいてる…
 それは徐々にオレに近づいて…その闇が伸びてオレを捕まえ様とする…

                ダメだ…つかまるっ!!

 捕まりそうになった瞬間目が覚めて飛び起きた…全身から冷や汗が流れてる…
 あ…何で…?くそっ…だめだ…オレの胸の奥の暗い穴が広がっていく感覚…
 何でだ?…毎日…耀くんと一緒にいるのに…なのに…なんで……息が出来なくなる…身体が震える…

     恐い…

         耀…くん 
             耀くん…

 オレを…助けて…このままじゃ…オレ…

              自分の胸の闇に呑み込まれる… 


 一人では耐えられなくて… 倒れそうになる身体を引きずって耀くんの部屋の前に来た…
 でも…ドアの前で座り込んでしまう…バカだな…耀くんの部屋に…入れるわけ無いのに…

 耀くんの部屋のドアに向き直ってじっと見つめた…まだ身体が震えてる…

 …耀くん…助けてオレを…助けて!!

 …って…気付くわけ…ないよな…そう…気付くわけ…ないんだ…
 床に着いた手をぎゅっと握りしめた…

 ガチャ

 その時部屋のドアが開いて耀くんがそっと顔を覗かせた…
 「耀…くん…!?」
 「どうしたの?椎凪?」
 優しい…いつもの耀くんの声…
 そう…そうだ…なんて言えば…?なんて言えば耀くんにわかってもらえるんだ…?
 「恐い夢…見ちゃったの?」
 「!?」
 「いいよ…一緒に寝ても…
 恐い夢見た後は一人で寝るのつらいもん…でも変な事しないでね?」

 これは…夢?耀くんが…一緒に寝てくれるって…言ってくれた…?
 その言葉を聴いただけで…胸の奥に何か灯った…安心して…ホッとして…涙がこぼれた…

 「え…いいの?耀くん?」
 「だって…恐いんでしょ? 一人で寝るの…オレ…わかるから…」
 そう言って優しく笑ってくれた…


 耀くんの部屋…耀くんのベッド…あったかいなぁ…

 「ごめんね…耀くん…」
 「ううん。」
 「でも何でわかったの?」
 「ん?何か…椎凪が呼んでたみたいだから…」
 目を合わせずに照れながら答える…
 「え?」
 オレの呼ぶ声…感じてくれてたの?耀くん…
 「おやすみ椎凪…もう恐くない?」
 「うん…大丈夫…ありがとう…耀くん…おやすみ…」

 本当にありがとう…オレうれしい…こんなに安心できたの初めてだ…

 オレは闇が恐い…闇がオレと同化してオレを飲み込んでしまいそうで恐い…
 明かりをつけてもダメだ…電気の明かりは無いのと同じ…いつもその恐怖が過ぎ去るのを
 ずっと耐えて待っていた…でも…今日は…
 耀くんが…オレを優しく照らしてくれた…やっぱり…耀くんはちがう…
 オレをわかってくれる…初めての人…好きだよ…耀くん…

 愛してるよ…


 「あ!目覚まし止まってる?何で?」

 いつにまにか朝になってた…いつもは目覚ましで起きるのに…
 って…鳴った記憶があるだけでいつもは椎凪に起こして もらってるけどさ…
 「え?」
 身体が重い…思うように動かないって…
 「ちょっと!!椎凪!?何でオレにしがみついてんの!!離してよっ!」
 見れば椎凪が両腕を回してしっかりとオレを抱きかかえている。
 「んー…やだ…もう少しこうしてたい…」
 そう言ってオレの身体に擦り寄ってくる…
 「もー朝だよ!起きて!!あっ!もしかして目覚まし止めたの椎凪?」
 「さあ…どうだったかなぁ…」
 もーとぼけちゃって…絶対椎凪だよ…
 「もー遅刻だよ2人共!!早く起きてよっ!!」
 「オレ今日休み。」
 「え?」
 今…何て言った?ジッと椎凪を睨んでしまった。
 「オレ今日休みなの。」
 「……バカ椎凪!!オレは大学あるんだよっっ!!もーっ」
 思いっ切り布団を剥いで飛び起きた。
 「いいじゃん。遅刻ついでに休んじゃえば」
 超ご機嫌な笑顔で…本気で言ってるな…!
 「もー絶対椎凪に優しい言葉なんて掛けてあげないっ!!」
 「えーヒドイ。でも次からは勝手に入っても いいよね。」
 子供みたいな無垢な笑顔でニッコリと笑った。

 バ キ ッ !

 「ふざけるなっ!!」
 「いてっっ!!」

       耀くんにオレの笑顔作戦は効かなかったみたいだ…思いっきり頭を殴られた…