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「いやぁ…またまた可愛くなってるじゃん。」

ここは祐輔の家…水希と水帆が2人並んでオレを見上げてる。
今日は慎二君も遊びに来てる。
祐輔が言った通り最初は怒ってた慎二君だけど水希と水帆が 生まれると
もうその可愛がり様と言ったら半端じゃない!
2人の事が可愛くて可愛くて仕方が無いんだ…
確かに1歳8ヶ月にもなれば丁度可愛い時期真っ盛りだもんな。
お祖父さんのたける氏も可愛くて仕方ないらしいんだけど
仕事の都合上ナカナカ会いに来れないから慎二君が2人の事を
携帯で撮ってたける氏に毎日の様に送っているという…


「そーでしょう?水希なんて昔の 祐輔にソックリなんですよ ♪♪ 」
「いやーうちも産まれたら可愛いよーきっと!なんせオレと耀くんの子供だもん ♪♪ 」
「産まれたら3人で写真撮り まくりましょうね!服なら『TAKERU』着放題ですよ ♪♪ 」
そう言って慎二君は水希と水帆を抱きしめた。
「そうだね。そうしようね ♪ 」

「 「 あはははははははは ♪♪♪ 」 」

2人して大笑い…そんな2人を遠くから見つめる祐輔と耀…
『 親バカ…2人…? 』



「 あっ! 」
「 何?どうしたのっ?何か変?お腹痛いのっ?? 」

オレが急に声を出すと椎凪がすぐオレの傍にやって来て心配そうにオレに声を掛ける。
「いや…動いた…」
「何だ…ビックリしたよ…」
オレはホッと胸を撫で 下ろす…
なんせあともう少しで予定日なんだもん…オレは毎日ソワソワ…ドキドキ…
何事も無く無事今日まで過ごして来た。
準備はバンタン。ちゃんと2人で出産の時の練習も参加してバッチリ!
オレはいつでもOKなんだけど…とにかく耀くんの事が心配で心配で仕方が無い…
だからチョットの変化もオレは過敏に反応してしまう…
「もー椎凪は大袈裟だな… そんなすぐ産まれないよ…」

耀くんはそう言ってニッコリと笑った。



「どう?もう産まれた?」

耀くんが通院していた病院の分娩室の前…
慎二君が息を切らして来てくれた…
今から2時間前…家で破水して…速攻病院にやって来た。
「まだです…でも初めてですから…時間かかるかもしれないですね…」
和海ちゃん(最近名前で呼ぶ事にした)が慎二君に説明する。

 「あれ?椎凪さん…ここ立ち会い出来るんじゃ
  なかったでしたっけ?」

 廊下の長椅子に崩れ落ちて
 凹んでいるオレを見て慎二君が言った…

 「それが…」

 「ったく…このバカ…
 あんまりにもウルサイから出されたんだよ…
 耀にも出てろって言われたらしい… 」

 「……椎凪さん…あなたって人は…」



「耀くん…大丈夫かなっ!? あんなに苦しそうで…辛そうなのに…!!」

「 !! 」
振り向いた椎凪さんが泣いてるっ…?うそ…
「大丈夫ですよ。だから落ち着いてください。」
そう言って和海ちゃんが椎凪さんの顔を優しく持ち上げた。
「本当…?」
椎凪さんは潤んだ瞳で和海ちゃんを見上げてる。
「はい。本当ですからもう少し ですからね。」
そう言って椎凪さんのオデコにキスをした…
「うん…わかった…」
椎凪さんはそれで少し落ち着いたみたいだけど…
それを見た僕は祐輔に話し かけた。
「なっ…何あれ…?いいの?祐輔…」
僕は信じられなくて…あんな事祐輔が許すわけ…
「ああしないとアイツもたねーからな…疲れる奴だ…」
祐輔が呆れた様に呟く…
「耀が右京の所に行ってた時もああやって慰めて
2ヶ月もたせたんだぜ…地獄だった…」
「和海ちゃんに?」
そんな返事を聞いて僕は ビックリ!!
「…………」
祐輔が黙った…
「え…?まさか…祐輔?」
「…ちっ…」
祐輔のもの凄い不貞腐れた顔が何もかも物語っていた…
耀くんの ためとは言え…大変だったんだね…祐輔…


それから…数時間後…オレは1人中に呼ばれた。

「はいお父さん男の子ですよ。おめでとうございます。」

「……あ……」


オレの腕の中に…今…生まれたばっかりの…小さな赤ちゃんがいる…
軽くて…ふにってしてて…静かに…眠ってる…男の子…

オレの…子供…オレに…この…オレに…子供が生まれた…

オレは…赤ちゃんを起こさない様に…優しく抱きしめて…頬ずりをした…
嬉しくて…嬉しくて…感動して… 涙が出た…

オレ…幸せだ…


「そう言えば右京の奴来てねーな?珍しい…
アイツの事だからずっと付きっ切りかと思ったんだけどな。」
廊下に戻ると祐輔が不思議がって慎二君に聞いた。

「ああ…退院したら自分の所に来るからって…それまで楽しみに待ってるってさ。」

「 ええっ!!オレ何も聞いてないよっ?? 」

「一ヶ月健診まで 置いておくって言ってましたよ。まあ最初は大変ですものね。
実家に帰るの…当たり前じゃ無いですか?」
「ええーーー…うそ……」

オレは一瞬にして 喜びの中から冷たい水の中に放り込まれた気分だった…
大体何でオレが知らないのに慎二君が知ってるんだよ…


「可愛くて元気な男の子だったよ… ありがとう。耀くん…」

病室のベッドに横になってる耀くんに心の底から…ありがとうって言った…
「もー椎凪ってば…すぐ泣くんだから…」
見上げた耀くんが クスって笑ってそんな事を言う。
「だって…すごく…嬉しいんだもん……」
オレは指先で零れそうな涙を拭いながら返事をする。
「愛してるよ…耀くん…」
オレは耀くんに近付いてそっとキスをした…
「オレも愛してるよ…椎凪…」


オレと耀くんとの愛の結晶…名前は葵くんに決定…

     椎凪 葵…


2人の退院の日…
病院に右京君の所の車が迎えに来た…右京君も一緒に…
オレは耀くんと葵くんが右京君の所に行くなんて聞いてなかった から…超不機嫌。

「耀と葵に何かあったらどうするんだい?君だって仕事があるだろう?
1ヶ月健診で何も心配ないと言われるまで僕の所で2人を休ませる。
何か言いたい事があるのかい?」
確かに…昼間2人の事が心配だから右京君の所にいるなら…安心だけど…

「じゃあオレも一緒に泊まる。」 

当然だ! オレは旦那で父親なんだから!!
強気で言い切った!!!

「 ! 君は来なくていい。君が一緒だと耀が休めないだろう!」

本気で…しかもすっごく 迷惑そうな顔で言ってる…ふざけんなっ!!負けるもんかっ!

「何で1ヶ月も耀くんと葵くんと離れ離れにならなくちゃいけないんだよっ!!
絶対オレも一緒に 行くからっ!!ヨロシクね!!右京君っ!!!」

有無も言わさない言い方で押し切った!!やった!勝ったっ!!!


耀くんと葵くんとオレと…3人の初めて の朝…
耀くんがソファに座って葵くんに母乳をあげてる…
オレはそのすぐ横でその様子をジッと眺めて…顔がほころんでる…はにゃぁ〜

…オレが葵に 母乳をあげてるのを……椎凪がジッと見てる…
その顔が…あまりにも…ほころんでて………コワイっ!!!

「オレすごく幸せだよ…耀くん。」
「オレも…幸せだよ…椎凪…」
言いながら耀くんにキスをして耀くんもオレにキスしてくれた。
ああ…ホント幸せ……

ガチャ!!
その時ドアが開いて 右京君が入って来た…ノックぐらいしろっての!!

「お早う。耀…葵…」
「お早う御座います。右京さん。」
耀くんがニッコリと挨拶をする。
「ああ…椎凪君も…いたんだっだね…」 
「おはよう。右京君…いるに決まってるだろ…」
すっごく嫌な顔をしてオレに挨拶をしながら近づいて来た。

「あっ!!ダメだよっ!!今耀くんミルクあげてるんだからっ!!」

耀くんの胸…右京君に見せるわけにはいかないからっ!!
オレは右京君の行く手を阻んだ。
「 ? 何を言ってるんだい?相変わらずうるさいね。君は。
耀の裸なんて耀が中学になるまで一緒にお風呂に入っていたんだから今更だろ?」
サラリと右京君が… 凄い事を言った!?

「ええっ!?いっ…今何て言った!!!」

「いいから君は早く仕事に行きたまえ。」

慌てふためいてるオレの事なんか全く お構い無しにそう言う。

「行けるかっ!!まだ7時だよっ!!」

本当にいつもいつも…そんなにオレをイジメて面白いのかっ!!!
これから1ヶ月 この男にイビられながら過ごすのはちょっと気分が重いけど…
耀くんと葵くんの為にも頑張る覚悟だっ!!いつか…シメてやるっ!!

…そう…いつ…か…多分…