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葵くんは今6ヶ月。
オレも耀くんも働いてるから保育園に通ってる。
そこには祐輔の双子ちゃんも通っててウチが後から入った。

「今日の夕飯は何にしよう かね?葵くん。」
保育園の帰り道…スーパーに寄って夕飯のオカズを買いに来た。
葵くんをカートに乗せて品定め。
「あ!サラダうどんにしようか?サッパリ してるし…葵くんトマト好きだもんね。」
「あー」
葵くんが賛成した。

買い物を終えて外に出ると同じ保育園で同じクラスの「加賀さん」と出くわした…
以前加賀さん上の子が(年中さん)が熱を出して困ってた時に
下の子を(葵くんと同じくらい)預かってあげた事があったんだよな…

「あ!椎凪さん。 良い所に…あの少しお時間ありません?この前のお礼したくって…」
「え?いや…そんな…お気遣いなさらずに…」
「そんな事言わないで下さいよ!他のお母さん 達もいますから。
2人っきりじゃ無いですから。安心して下さい!!」
…って…それも勘弁して欲しいんですけど…
「いや…オレ…急いでるし…」
「もー本当に少しだけですからっ!お礼させて下さいよ。あ!矢部さん!あなたも誘ってよ!」
後ろから同じ保育園らしい母親がやって来た。


……ハメられ た…ような気がする…

「葵くんパパはお幾つなんですか?」
「え?ああ…29です…」
「お仕事は?」
「保険の調査員です。」
刑事って言うと 何かと面倒くさいからいつもウソをつく。
「へー…珍しいお仕事ね…」

結局2人のママさんに強引に連れて来られて…
やっぱ…一晩限りの女の子とは違う… このオレが…断りきれないなんて…
しかも…店の中には同じ保育園のママさん達が8人…
確かに2人っきりじゃないけどさ…これも…また…キツイだろ…?
まいったな…どうやってここから逃げ出すか…
葵くんはオレの膝の上で一生懸命にお手拭のタオルと格闘してるし…
そろそろ耀くんも帰って来る頃なのに…
大体なんで母親だけなんだよ?…子供はどうしたっっ!?お迎えに行ってサッサと帰れ!

そんな時一人のママさんが声を上げた。
「あら?あれって… 双子ちゃんパパじゃない?」
皆が一斉に店の外を見る。
オレもつられて見ると…なんだ…やっぱ祐輔じゃん…
「あの一緒に歩いてるのって…奥さん?」
「ううん…違う!あたし知ってるけどあの人じゃないわっ!!」
「えーでも随分親しそうよ…あんなに微笑み合っちゃって…恋人同士みたいじゃない?」
「えーじゃあ…不倫?不倫なの?」
ママさん達は一気に盛り上がる…
「えーでも結構若そうだから…ほら今出会い系サイトとかあるから…そっちじゃない?
奥さん何だかホワンとしてて浮気されても気が付かないタイプよ!きっと。」
凄い…言いたい放題だ…
祐輔も保育園の父兄の中じゃ結構目立つだろうし…話題に なるか?
「でも…こんな真昼間から…あんな堂々と…ねぇ…」


もう…不倫決定の気配…参ったな…
…オレの奥さんだなんて…言えないよな…って言う つもりも無いけどさ…



「…ふぁ…ぁ…ぁ…ンッ…」
「?」
「………ぅ…ぁ……」
「?…耀くん?」
「……ン?」

寝室のベッドの中… 最近耀くんの様子がおかしい…

「なんかさ…耀くん最近あんまり感じない?」
「…え?」
椎凪がオレを抱きながらそんな事を言い出した。
「だって前はあんなに感じて声出してたのに…今は全然じゃん…」
「…?」
オレは椎凪が何の事言ってるのか意味がわかんなかった。
「………オレの事… 飽きちゃたの?」
「え…?…あっ!!」

「オレの事飽きた?」
「椎…凪…!?」

椎凪が乱暴にオレの両腕を押さえ付けた。
見上げると 『あっちの椎凪』だ。

「ええ?飽きたって…?どういう事?」
「オレに抱かれたくないって事!!」
「え??何で?」
「耀くんの態度見てれば分かる。」
「オレの?」
「何だか上の空だし…誰か他の男の事でも考えてんの?」
責める意味でそんな事を言った。
「…うん…」
「なっ!!!耀くんっっ!!」
マジか?
「あ…違くて…男の人って言うか…葵の事…」
「葵くんの事?」
2人でオレ達のベッドの隣のベビーベッドで眠ってる葵くんを見た。
「葵くんが どうしたの?」
「だって…気になるんだもん…オレ声…いっぱい出ちゃうから…
それで前起きちゃた事あるし…だから前みたいに自然に声出せなくて…」
「……じゃあリビング行く?」
「そうすると葵が泣いてないか気になる…
葵オレ達の気配無くなると結構起きちゃうから…」
「耀くん…」

う〜ん …子供が出来ると変な所で気を使うんだな…
流石に『見られても気にしないで』とは言えず…
結局リビングに移動したけど耀くんはやっぱり上の空で…

どうしたもんか…



「耀くん!」
「椎凪?」

会社の出口で椎凪が待っていた…しかも1人でだ。
「葵は?これから迎えに行くの?」
椎凪はいつも葵を迎えに行く…どうしても無理な時はオレが行くけど
相変わらず人が苦手なオレの代わりに椎凪は色々と保育園の方も
やってくれる…ホント椎凪って ば『主夫』だ。

「今日は祐輔に頼んだ。」
「え?祐輔に?」
祐輔の所も一緒の保育園だから…でもそんな事珍しい…
「なんで?どうしたの?」
オレは不思議でしょうがない…

「久しぶりに2人でデートしよう。」

「え?」
「たまにはいいでしょ?久しぶりだよ…2人で出かけるなんて。」
「そうだけど…急にどうして?」
椎凪は葵の傍をいつも離れたりしないのに…

『 耀くんと思いっきり 『H』 したいからっ!! 』
ニッコリ笑った かと思うと耳元でそんな事を囁かれた。
「ええっ!!」
「くすっ…まずはデートデート!!」
「あ!」
そう言って椎凪はオレの手を繋いで歩き出した。


「わぁ…まだここあったんだ…」

オレはそのビルを見上げて呟いた…
ここは椎凪と付き合う前に来た事のあるプラネタリウム…
「結局あの後 来れなかったからね。」
そんな話をしながら中に入って席に腰を下ろす。
また来ようって言ってて来れなかったんだ。
「変わらないね…あれから4年くらい 経つのかな?」
「耀くんは変わったけどね。オレのお嫁さんになって子供まで産んでさ。」
「…そうだね…初めて此処に来た時はそんな風になるなんて想像もして 無かった…」
「出来てたらすごいよ。」
「そっか…そうだよね…」

しばらくして上映が始まると真っ暗な中で椎凪がオレを呼ぶ。
あの時も椎凪に 呼ばれて…無理矢理椎凪がオレにキスしたんだ。
でも…今日は…お互いに近付いて…キスをした…



「あ…あっ…椎…凪…」
「耀くん…」
「…はっ…うぁ…あっ…あっ……」

プラネタリウムが終わった後…何処にも寄らずに真っ直ぐホテルに入った…
ラブホテルなんて久しぶりで…滅多に入らない から何だか変に緊張する。
でも今日は…緊張よりも誰にも気兼ねしなくていいって言う…開放感の方が強い…

椎凪もいつもと違う場所で気分が盛り上がってる らしく…オレに遠慮が無い…
だからお互いが激しく相手を求め合って…2人で燃え上がって…
ベッドの上を2人で絡み合いながら動き廻った…

「椎凪…しい…な…あっ…あっ…」

こんな風に抱かれながら椎凪の名前を呼ぶのは久しぶりだ…
名前を呼びながら椎凪の身体にしがみ付いた。
椎凪はオレを支えながらオレを攻めあげていく…乱暴で…激しくて…
ああ…きっと今椎凪は『あっちの椎凪』なんだ…何だか…嬉しい…

見つめ合う瞳がもの凄く 近い…
オレは椎凪の膝の上に抱きかかえられてて…お互いに正面を向いてる…
ああ…やっぱり『あっちの椎凪』だ…椎凪の瞳がとても暗くて重かったから…
「椎凪…」
椎凪の肩に腕を廻してオデコをくっ付ける…
「…あっ…」
椎凪がオレの身体に腕をまわして引き寄せるから…
深く深く椎凪を身体の奥で感じて 仰け反った…
「…んっ…」
仰け反ったオレの首筋を椎凪がゆっくりと舐め上げていく…
「あ…だめ…そんな所に…キスマーク…付けないで…」
首筋がチクリと 疼いたから…思わずそんなセリフが零れた。
「愛し合ったっていう印だろ…皆に見せつけて…」
「…そんな…事…出来な…んあっ!!あっあっ…」
オレに 言わせない様に椎凪がいきなり動き出してオレを押し上げた。
「オレにもつけて…耀くん…」
「……ん…椎凪も…つけて…欲しいの?」
「…オレは耀くんのもの だから…」
「椎凪…」

言われた通り…椎凪の首筋から胸にかけてたくさんオレの印をつけた…
明日の事なんて考えてなくて…洋服で隠れるかな……?


「はぁ…はぁ…はぁ…」

2人でベッドの上で喘いでる…こんなになるまでしたのは…本当に久しぶりだった…
「今日の耀くん激しかったね…」
椎凪がうつ伏せになってるオレの背中にキスをしながらそんな事を言う。
「…やだ…ハァ…ハァ…恥ずかしいから…そんな事…言わないでよ…」
「なんで?オレは 嬉しいよ。」
「…オレは恥ずかしいもん…あ…もうこんな時間…葵迎えに行かなきゃ…」
ベッドに付いてるデジタルの時計を見てそう思った。
もう8時を 過ぎてる…
「もーせっかく久しぶりの2人っきりなんだからさ。
もうチョットオレ達だけの時間浸ってようよ…ね?」
椎凪がオレの身体に腕を廻して抱き寄せる。
「椎凪…なんか珍しいね…」
「ん?」
「だって葵の事いつも優先してるのに…」
「そりゃ葵くんの事も大切だけどさ…耀くんの事だってオレは大切に思ってるよ。
それはずっと変わらない…葵くんの事愛してるけど…耀くんの事愛してるのとは少し違うから…
葵くんはオレと耀くんの子供で愛してる…耀くんはオレの奥さんで 葵くんのお母さんで
オレがずっと探してた…オレの唯1人の人だから…愛してるし…いつまでも耀くんに…
 
恋してる…」

「椎凪…」
オレは椎凪に抱きついた…胸の中が暖かくなって…くすぐったくて…ワクワクしてくる。
「たまにこうやって思いっきり愛し合おうね…」
「うん…今日は… ありがとう椎凪…」
「ううん…オレも今日は楽しかった。ふふ…」


オレ達はしばらくお互いを抱きしめたまま笑いあった…

それから2人で葵を 迎えに行って…3人で家に帰った…