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「ふあぁぁぁ〜〜〜」

ぐっすり眠って気持ちよく目が覚めた。

「…ん…ちょっ…椎凪…やめ…んっ…」
「しっ…耀くん静かに!!葵くんが目覚ましちゃうよ。」

すぐ隣のベッドからそんな声が聞えて来て
清々しい目覚めのひと時が一瞬で壊れた。

「お父さんお母さん嫌がってるよ。」

見ればお父さんがお母さんを押さえ付けて無理矢理唇を奪ってる。
まあ…いつもよりちょっと上級版のキスかな?

「!!…あ…葵くんおはよう。」

お父さんは慌てる事も無く平然と朝の挨拶をする。

「もー椎凪は!!葵の教育上良くないっていつも言ってるだろ!!」

お母さんはそうじゃなくて顔を真っ赤にしてお父さんを怒るけど…
「 えーこれも教育だよ ♪♪ 」
お父さんはまったく聞いちゃいない。
「最後までするつもりだっただろ!!」
お母さんが更に文句を言う。
「え〜〜まさかぁ♪♪でも葵くんもオレと耀くんが仲がいい方が嬉しいよねぇ〜〜」
そう言ってお父さんはまたお母さんに抱きついてた。
「うわっ…ちょっ…椎凪!!」

「はいはい。」

僕はいつもそんな返事をする。
だってこんなのいつもの事で…日常で…
僕も2人が仲が良いほうが嬉しいし楽しいし……安心するから…

「だって旅先の別荘だよ?オレがハイテンションにならないわけ無いじゃない!」
お父さんが開き直った。
「時と場合を考えてって言ってるの!」
流石にお母さんがキレた。
「あ!何か耀くんその言い方教育ママみたい!!なんかヤだな!」
お父さんがイジケたらしい…
「なんだよ!オレが悪いの?ただ時と場合を考えてって言ってるだけなのに…」
今度はお母さんがイジケた。
「!!…えっ?あ…悪くない!耀くんは悪くないよ!ごめんね…ごめんなさい!!」

まったく…お父さんはお母さんには勝てないんだから…
素直に謝ればいいのに…

なんて思いながら僕は部屋のカーテンを開けた。
海辺の慎二さんの別荘で…窓の下には真っ青な海が広がってた。

「わぁ…」
僕は思わず声が漏れた。
「いい眺めでしょ?」
いつの間にかベッドから降りて来たお父さんが僕の後ろから話しかけて来た。
「お母さんに許してもらったの?」
「はは…許してもらったよ。」
「良かったね。」
「うん…良かった。」

そう言って僕の頭に手を乗せてポンポンって撫でてくれた。


「おはよう。葵君!」
着替えてリビングに行くと水希君達が先に起きていた。
「おはよう。水希君水帆ちゃん。」
僕は小走りで2人に近付いた。
「おはよ!」
水帆ちゃんがなんだかムッとした言い方で挨拶した。
まあいつもの事って言えばいつもの事だけど…
「? 機嫌悪い?」
僕は水帆ちゃんに聞こえない様に水希君に聞いた。
「あー…夕べお父さんと一緒に寝れると思ったらさ…結局断られて…
僕と一緒に寝たから機嫌悪いんだ…ハァ…まったく…」
呆れた様に言ってる…なんだかその時のやり取りが目に浮かぶ…
水帆ちゃんはお父さんの祐輔さんの事が大好きだからきっと本当にがっかりしたと思う…

「おはようございます。」
僕達に琴乃ちゃんが挨拶した。
琴乃ちゃんは1人で来てて…後からお祖父様も合流するって言ってた。
「あ…おはよう…琴乃ちゃん…」
僕はいつ会っても緊張する…
1つしか違わないのに琴乃ちゃんは僕のおばさんにあたるわけで…僕は甥っ子…

「おはよう葵。よく眠れた?」
稟とした態度と言い方だ。
僕は思わずシャキっと背筋を伸ばす。
「うん…」

「お子様は皆早起きだね ♪♪ 」
お父さんがお母さんと入って来た。
「椎凪もね…!!」
いつもなら寝てたお母さんもお父さんに寝込みを襲われて起こされたから
言い方に刺がある?
「おはようございます。コーヒーどうですか?子供達は紅茶?それともココアにします?」
いつも優しい慎二さんがワゴンを押しながら入って来た。
「おはよう慎二君僕手伝う!」
「ありがとう水希。祐輔は?」
「まだ寝てる。お母さんも付き合わされてる。」
「まったく…祐輔もなんだかんだ言って和海ちゃんと2人になりたいんだから…
相変わらず仲良いね…クスッ」
「そのせいで僕は水帆に八つ当たりされっぱなしだよ…やんなっちゃうよ!」
「フフ…水希も大変だね。」
「女の子ってめんどくさい…」
「水希…今からそんな事言って…」

水帆ちゃんのせいもあるのかな…?水希君が慎二さんを好きなわけ…
って言うか女の子に興味ないって言ってた…なんて思ってたら…

「ほら祐輔だってイチャイチャしてんじゃん!!オレだけ怒られるの不公平だよ。」

お父さんが納得出来ないって顔でお母さんを見た。
「きっと祐輔は水希達の前で和海さんを襲ったりしないよ!!」
お母さんも負けてない。
「だからこれも教育だって ♪♪ 」

「椎凪さんの教育は偏りすぎですからっ!!子供達に変な事教えないで下さいよっっ!!」

慎二さんまでにそんな事言われるなんて…お父さんってば………はぁ…


「じゃあ自由に走り回っていいからね!」
慎二さんが遠くの方で叫んでる。
「は〜い♪」

僕達は慎二さんからモデルの仕事を頼まれてその撮影の為に此処に来てる。
子供服のカタログに載るらしいんだけどそんなにはっきりと
顔が出る訳じゃ無いらしいからみんな気楽にOKした。
林の中を4人で走り回ってはしゃいで…
木の実を拾ったり木の幹の中を覗いたりして…すごく愉しい。
琴乃ちゃんも最初は遠慮がちだったけどだんだん馴れて愉しそうだ。



「…はっ…はっ…あっ…椎…凪…もう…行かなきゃ…あ…」
「もうちょっと…」
「あっ…あっ…ンア!!」

誰もいなくなった別荘のオレ達の部屋…
皆が出掛ける寸前椎凪がオレを部屋に連れ込んだ…
入った途端ベッドに押し倒されて剥ぎ取られる様に服も脱がされた。

「朝お預け食らったからね…」

オレの身体を抱え込みながら押し上げてそんな事を言う…
根に持ってるな…椎凪ってば…
「うぁ…や…あっ…あっ…」
腰を押さえられて無理矢理後ろ向かされた!
遠慮無しで椎凪が後ろからオレに入って来る…
「ふぁ…やっ…椎凪…誰か…来ちゃう…ヤダ…」
こんな所…誰かに見られたら…オレ…

「葵…が…来ちゃう…」
「大丈夫だって…後から行くって慎二君に言っといたもん ♪♪ 」
「ええ…じゃ…じゃあオレ達がこんな事してるって…知ってる…の?」
「さぁ…良いじゃんそんな事!」
椎凪は気にせずオレを攻め続けてる…

絶対ワザと慎二さんに言ったんだぁ!!
オレ達がこんな事してるって知ってる人がいるってわかってて
余計その気になってるんだ…椎凪ってば!!

「やだ…恥ずかしいじゃん…もー…あっあっ…しい…な…ああっっ…」
「でも…身体は正直だよね…耀くん!」
うつ伏せの身体に腕を廻して顔を強引に椎凪の方に向かされた。
「…はっ…はっ…」
「そんな事言ってもオレを拒まないから…耀くんって好きさ…フフ…
それに誰かが入って来るかもしれないなんてさ…スリルがあって燃えるよね!」
椎凪がホントに愉しそうな顔でニッコリと笑った。
「…も…う…椎凪ってば……うっ…ア…やだ…椎凪やぁ…
オレ…後で…動けなく…なっちゃう…椎凪…身体…変になる…アッアッ…」
椎凪の言う通りオレも普段以上に感じてたのは事実で…
誰もいないって言うのが…オレをいつもより大胆にさせてた…

「オレを焦らした罰…だから変にしてあげる…わけがわかんなくしてあげる…」
汗でしっとりと濡れてるオレの頬を…椎凪が優しく撫でながら囁く…
「…あ…」

オレはまた仰向けにされて…
本当にわけがわからなくなるまで椎凪に抱かれ続けた…


「じゃあちょっと休憩しようか。」
「お父さんあたしどうだった?」
水帆ちゃんが祐輔さんにしがみついて見上げる。
「愉しそうだったな。」
「うん。愉しい!」
「そうか…ならいいじゃんねーの?」
「うん。」
水帆ちゃん嬉しそう…あ!そう言えば…
「お父さん達がまだ来てないや…」
「後から来るって言ってましたから…今に来ますよ。」
「まったく…何してんだろ…」
「…にこっ…」
慎二さんの笑顔がちょっとぎこちない??どうしたんだろう?


「 ♪ ♪ 」

オレは鼻唄交じりで皆が撮影してる林に向かってる。
「もう…椎凪のばか…」
オレに手を引かれる様に歩いてる耀くんがブツブツと文句を言う。
「なんで?」
「だって…あんなに激しくしないでって言ったのにっ!!
オレもうクタクタだもん…キスマークだって一杯付けるし…
葵に見られない様に気をつけなくちゃ…だから!!!」
そう言って睨まれた。
まぁ耀くんに睨まれたってオレはビクともしないけどね。
「全然反省してないだろうっ!!椎凪ってば!」
「する理由が見当たらないもん!!」
「理由なんてありすぎるくらいあるだろっっ!!」
「無い無い!」
「…もう…椎凪ってば…ん?椎凪?」
「…しっ!耀くん後ろ下がってて…絶対オレの方に来たらダメだよ!」
「え?…椎…んっ…」
いきなりキスされて黙らされた!!
一体どうしたんだろ…?
椎凪が足音もたてずに道から逸れて林の中に入って行く…

…椎凪…

「そんな所で何やってる?覗きか?お前子供好きなのか?そう言う趣味か?」

ビクンっ!!!

木の陰から撮影してる様子を覗き込んでる全身黒尽くめのサングラスかけた
いかにも怪しげな男にオレは後ろからいきなり声を掛けた。
思いっきり驚いてる…笑えるくらい。

「お前…子供達に何かしようってんじゃねーだろうな?」

普段あんまり気にもしてないが今此処にいるのは結構な金持ちの身内なんだよな。
祐輔は『新城たける』氏の孫で水希と水帆はひ孫…
慎二君も相当な資産家の1人息子で琴乃は『草g家』の現当主の娘だし…次期当主。
耀くんだって右京君は草g家とは切り離してるって言ったって…右京君の娘だし…
葵くんだって右京君の孫になるわけだし…

だからこの中の誰でも誘拐されて身代金なんか要求されたら
どんだけ莫大な金額になるのか…
狙われてないとは言い切れないもんな…

オレなんかが誘拐されても誰か金…払ってくれんのかな?
なんて時々思う時がある……何か虚しいけど…

だから怪しげなコイツを見過ごす訳にはいかないってわけで…

「いや…私は…」
「私は何だよ?ああ?痛い目みないと喋る気になんねーか?」
「ちがっ…違います…!!」



「柳田っ!!」

琴乃がそいつを見るなり凛とした顔と声で男の名前を呼んだ。
「琴乃様…」
柳田と呼ばれた男は24歳の草g家につい最近入った使用人だそうだ。

「なぜお前が此処にいるのですか?」
「…あ…あの…右…右京様が一緒に来れないと言う事でしたので…
琴乃様お1人では心配で…お付の者も付けずに…外出なされるなんて…」
「この事はお父様もご存知の事です。お父様が大丈夫だとご判断されたから
私は1人でここにいるんです。柳田!お父様の決めた事に従えないと言うのですか?」

言いながら柳田と言う男を見つめる眼差しは右京君の眼差しに似てる…
そう言えば琴乃も 『邪眼』 使えるんだった…
赤ん坊の頃は自分でコントロール出来なかったけど…今は出来んのか?
出来なかった事を考えるとちょっと面倒な事になるな…
なんてオレは考えながら成り行きを見守ってた。

「とっ…とんでも御座いませんっ!!けしてその様な事では…」
「ならば直ぐにお帰りなさい。お父様も夜にはこちらにおいでになります。
それならば心配無いでしょう?」
「え?右京様が…ですか?」
「そうです。知らなかったのですか?」
「あ…はぁ…琴乃様がお出掛けになられた後直ぐに私も屋敷を出たものですから…」
「まったく…貴方はいつもそうですね…その直ぐに慌てる性格…
どうにかした方がよろしいのではなくて?」
「…はぁ…申し訳ありません…」

見てるこっちがわかるくらい…シュンとなって…3回りくらい小さくなったみたいだ…

「まぁまぁ…彼も琴乃ちゃんの事が心配だったんですよ。
だから居ても立っても居られなかったんでしょう?仕事熱心で良い事じゃないですか。」
「…そうですけど…もう…恥ずかしいです…」


そんなやり取りを僕はお父さんの横でずっと見てた…
琴乃ちゃんは僕と1つしか違わないのにとってもしっかりしてて大人で…
お祖父様の後に家を継がなくちゃいけなくて…

なんか…僕は尊敬の眼差しで琴乃ちゃんを見つめてしまった…

「末恐ろしいガキ。」
「祐輔…」
「はは…」

祐輔さんと慎二さんとお父さんがそんな会話をしてた。



「…あ…しい…な…ダメ…だってば…うっ…」

オレは裸の椎凪の背中に腕を廻してしがみついてる…
だって…そうしないと立ったまま椎凪に押し上げられてるのに耐えられないから…

「何がダメなの?」
椎凪はいつもの如く余裕で…オレを攻め上げて愉しんでるんだ…
「だって…はぁ…葵が…いるのに…こんな…ンア…」
「だからシャワー出しっぱなしにしてるじゃん…
後は耀くんが大きな声出さなければ平気だって。
オレ達仲が良いってわかってるんだから…」
「それとこれとは違う…気が…」
オレは目をつぶったまま呟いた。
「大体…昼間も…いっぱいしたのに…」
「昼間は昼間!夜は夜!」
「だったら…葵が…寝た後だって…」
「そしたら耀くんも寝ちゃうじゃん。自分の事わかって無いね…耀くんってば。」

確かにきっとシャワー浴びてベッドに入ったら完璧に寝ちゃう…
今だってもう身体は限界でクタクタだもん…

「もう…椎凪…そんなに 『H』 したいの?」
「耀くんと今ここでしたいの!二度と同じ時間…来ないんだよ…
だから今の耀くんとしたいからするの…誰にも邪魔させない…」
「…うぁ…あ…あ…」
椎凪がオレの胸を乱暴に揉みながらオレを上へ上へと押し上げたから…
我慢出来ずに声が出ちゃた…

「葵くんなら大丈夫だから…」

椎凪がオレの耳元にそんな事を囁く。
「なんの…根拠…が…あって…そんな事…言う…の…?」
オレはそんな椎凪が不思議でしょうがない…

「だって…オレの子供だもん…」

椎凪がクスッと笑った。


お父さんとお母さんが一緒にシャワーを浴びてる…
家でも時々一緒に入ってるから僕は気にしない。
でも少し暇になって水希君達の所でも行こうかと思ってる。

「どうしよう…お父さん達に言っておいた方がいいかな?」

なんて思ったけど止めておく事にした…言わなくてもいいかな?
とも思うしなんか今お父さん達の所に行っちゃいけない気がするから…

お父さんはどんな時でもお母さんにベッタリ。
祐輔さん達は呆れてるけど僕はそれでも全然構わない。

だってお母さんの事が大好きなのがお父さんで…それが僕のお父さんだから…



僕は静かに部屋のドアを閉めてみんなの声がするリビングに歩き出した。