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「さて…夕飯何食べたい?耀くん。」
「え?今日は椎凪の誕生日だもん椎凪の好きなモノにすればいいよ。」
「オレの好きなモノ?ん〜〜〜…」
チラッと椎凪がオレを見た。

「…耀くん食べたいけど今夜のお楽しみだしなぁ……」

ってボソッと呟いてた…
すっごい期待されてるらしくて…でもオレはちょっと自信が…

「ん〜何にしようかなぁ…」
「椎凪料理上手なくせに食欲はあんまりなんだよね…」
「そうオレは耀くんに美味しく愉しく食べてもらえればそれで満足だからさ。」

「じゃあ…夕食前の軽い運動なんていかが?」

声のする方へ振り向くと…
ニッコリと笑ったルイさんがオレ達の後ろに立っていた。

「 !!!! 」
「 !?…えっ?瑠惟さん?? 」

「なっ!!…なんでルイさんがここにいんの??」
「なんで?あんたの後つけてたからに決まってんじゃない。」
「はぁ?どっから?」
「署を出た時から。」
「はぁ??」

なっ…信じらんねぇ…
そんな事もあろうかと周りには気を付けてたのに…全然わからなかったぞ…

「相変わらず仲いいわねぇ…お2人さんは…妬・け・ち・ゃ・う・わぁ……」
「………」
その 『妬けちゃう』 の言い方が気になった。
「耀君!見違えちゃったっ!!すっごく綺麗!!」
「わっ!!」
ルイさんがガバッと耀くんに抱きついた…いつもの事だけど…
ルイさんは初めて耀くんを見た時から耀くんがお気に入りなんだ…
『男の子なのに可愛い』って…
「話には聞いてたけど色々大変だったのね…その上こんな世話のかかる男まで…
わかるわ…大変よね…」
「…はあ……」
「女の子だって大丈夫!!あたしの耀君への想いは永遠に不滅だからっ!!」
「はあ……あ…ありがとう……」

「と!言う訳で今日は椎凪の誕生日でしょ?ちょっとしたイベント企画しましたぁ ♪ ♪ 」

「え?」
「はあ?」

またいきなりこの女はとんでも無い事を言い出す!

「そこのビルの上にボーリング場があるの。そこで椎凪の誕生日を祝って皆で
ボーリング大会を企画しましたぁ!!」

「はあ?みんな?皆って何だよ?」

何かヤな予感がする…大体ルイさんがオレの誕生日を祝うなんて事自体おかしい…

「我が署の交通課・庶務課・刑事課の人達。」
「はぁ??何それ?」
「いいでしょ?耀君。もうみんな上で待ってるんだ。後は椎凪が来るだけ。」
「オレは…別に…」
耀くんっっ!!ルイさんなんかに気を使う事なんてないんだよっ!!
「オレはイヤだね!!何かロクでもない事が待ってる気がする…」
「やぁね…人の親切無駄にする気?この恩知らず!」
「親切の押し売りすんな!普段の自分の行動わかってんの?怪し過ぎだろ!」
「仕方ないわね…」
ルイさんが溜息交じりで呟いた。
「諦めた?…ああ〜〜良かった。そう言う事で皆によろしく言っといて!」

よしっ!速攻この場から離れるぞっ!!

「実力行使あるのみっ!!皆っ!出番よっ!!」

「は?え?なに??」

「わっ!え?椎凪??」

何処に隠れてたのかルイさんの合図と共に一斉に数人の女の人が現れて
椎凪を取り囲んだ。

「せっかく準備したんですから!」
「もうみんな待ってますから!」
「楽しくお祝いしましょうよ!」

「え?何?君達…って…あ!交通課の…ちょっとルイさんまさか皆でオレの後つけてたの?」

どんどん離れる椎凪が後ろを振り向きながら叫んでた。
あっという間に通路のエレベーターに乗せられて…ドアが閉まった。
「…え?椎凪??」
「…ふふ…完璧!!」
「…瑠惟さん?」
もの凄い満足そう……
「どうせ夜は2人でラブラブに過ごすんでしょ?たまには一緒に遊びましょうよ。耀君!!ね!」
そう言って…ニッコリ笑った。

「……うん…」

オレはそう返事するしかなかった……



「え?」

ボーリング場に入ってビックリ…そこで待ってたのは全員女の人……

「ちょっとルイさんこれって…」
先に来てた椎凪の顔が珍しく引き攣ってる……
「なんて顔してんのよ…いいじゃない!ハーレムよハーレムっ ♪ ♪ 」

何がハーレムだよっっ!!耀くんがいるんだぞっ!!耀くんがっ!!

「椎凪さんっていつも優しいんですか?」
「普段本当に裸で寝てるんですか?」
「知り合ったキッカケは?」
「どっちから交際申し込んだんですか?」

「えっ?えっ?えっ…?」

って耀くんが…女の子達に囲まれて質問攻めに合ってるっ!!
まあ囲んでるのは女の子だから耀くんは何とか平気らしいけど…
良くないだろっ!!オレっ!!

「ちょっ…ルイさ…」
「さて!今日は椎凪の27回目の誕生日!
今から 『椎凪誕生日記念!椎凪とのデートを掛けた1本勝負杯!』 を始めるわよっ!!」
「 「 「 は〜〜〜い!! 」 」 」
「は?何それ??」
「今日の優勝者には椎凪とディナー付きのデート出来る権利をゲット!!」
「 「 「 「 やったぁ!! 」 」 」 」
「ちょっと待てっ!!何勝手に…」
「お黙りっ!!せっかくみんなあんたの為に集まってくれたのよ?
そのくらいの誠意見せなさいよっ!!」
「ふざけんなっ!!なんでオレがそんな事…オレには耀くんがいるんだぞっ!!
他の子とデートなんて…誰が…」
「だったらあんたが優勝すればいいのよ!」
「は?」
「このゲームはサバイバルっ!!あんたが自分の全てを賭けてこのゲーム勝てば
何の問題も無いんだから。」
「え?いいの?それで?」
「そう!椎凪が優勝したら賞品無しになるからその分みんな本気出して張り切るって訳!!
盛り上がるでしょ?まあハンディはもらうけどね。」
「…………でも…」
オレは耀くんに視線を向けた。
「………頑張ってね…椎凪…絶対優勝してね…」
すっごい引き攣った笑顔でかえして来た!!
「……………」

もう…オレに拒否権は無いらしい……
だから…この勝負…何が何でも必ず勝つっ!!

「女の子はハンディ50貰うわよ。」
「……え?50?」
「気合入るでしょ?頑張んなさいよ…椎凪。耀君のために!!」

テメェが言うなっ!!

「………」
オレは…今のこの状況が何が何だか良く分からず…どうしたらいいんだろう?
絶対そんなのイヤだって…怒った方がいいのかな?
本当に椎凪が他の誰かとデートになったら…オレは……

「心配しないで!耀君。」
「 !? 」
瑠惟さんがニッコリ笑ってオレの隣に座った。
「ちゃんと考えてるから!」
「え?」
「女の子とデートになんかさせないから。」
「……瑠惟さん……」

「椎凪ちゃん!!!」

そんな話を瑠惟さんとしてたら椎凪を呼ぶ声がした。
「げっ!!お前……」
椎凪は露骨に嫌がってる…
「来た来た ♪ ♪ 」
「え?」

見れば嬉しそうにこっち向かって誰かが走って来る。
結構背の高い…髪の長い…お…男の人!?

「椎凪ちゃ〜〜ん!!」
ガバッと椎凪に抱き着いた!周りにいた女の人を跳ね飛ばして!
「馬鹿っ!!くっつくなっ!!!」
「お誕生日おめでとう!」

すごい…椎凪が両腕ごと抱きしめられて捕まってる…

「特別参加のオカマバー『フェアリー』の渚ちゃん!彼女も同じ条件で参加だから!」
「バカ!コイツにハンディは要らないだろっっ!」
身体は男なんだから!しかもオレよりもガタイがいいくせに…
「いいわよそれでも!!それでも賞品は必ずゲットするからっっ ♪ ♪ 」
「…………」

誰がさせるかっ!!必ず阻止してやる!!

「ちょっとそこのオカマ!あたし達だって負けないからね!!」
「あぁら…無理しちやってぇ〜〜あたしに勝てるワケ無いじゃない!
あたしの愛の力甘く見んじゃないわよ!」

って愛なんてねーからっっ!!

「…………」
ああ…耀くんがあまりの事に呆然となってる……
お前等耀くんの存在忘れてんだろ!!
オレは何とかオカマ野郎から逃げ出して耀くんの傍に駆け寄った。

「椎凪…」
「耀くんあんなオカマ野郎の事なんか気にしないでね!ただの情報提供者だから!!」

それは本当だ。
以前事件で情報を提供してもらって…それから時々他の事件でも情報を提供してもらってる。
何でだかオレはコイツに気に入られて…事在るごとに引っ付いてくる…
ただコイツの情報は結構確かで役立ってるのは確かだから…そうそう邪険にも出来ず…
それが余計コイツを助長させてるらしいが…何でコイツを呼ぶっっ!!ルイさんっ!!

「…うん…」
そんな返事をしても耀くんの顔から不安な表情は消えない…だから…

「愛してるよ!チュッ!」

「 「 「 「 ああっっ!!! 」 」 」 」

椎凪が皆の前でオレの唇に触れるだけのキスをした。

「必ず勝から!!」
「…うん」
「何なのっっ!!あの女っっ!!」
奴が目の色変えてオレに食って掛かる。
「オレの恋人!」
オレは適当にあしらってそう受け流した…構ってられんっ!!
「何ですって!あたしと言う者がありながら…椎凪ちゃん浮気は許さないわよ!」
「何が浮気だ!!ふざけんな!!」


「これで事実上2人の対決になったわね…フフ…ね!耀君大丈夫でしょ!
万が一椎凪が負けても相手はオカマだから!」
「え!?あ…うん…まあ…」

って納得していいのかな?何だか良くわからない???



瑠惟さんの読み通り椎凪と渚さんの1対1の勝負になった。
しかもほんのちょっとの差で椎凪が負けてる…

「椎凪ちゃぁんデートしてもらうわよぉ ♪
恋人がいたって関係ないわっっ!このデートであたしのモノにしてあげるっっ!!」

「!!」

ふざけんな!冗談じゃねー…でもこのままじゃ……
…最後の10フレーム2投目…スペア取られたらオレが負ける!!

「椎凪さぁん頑張って!」
「そんなオカマ野郎なんかに負けないで!!!」
完全に自分達の優勝が無くなった署の女の子達が応援し始める。

「お黙りっっ!!ピーチクパーチク喚くんじゃないわよ!!
椎凪ちゃん…恨まないでね…ンフッ ♪ 」

そう言ってウインクされた。
恨むに決まってんだろっっ!!クソッ…こうなったら…こんな事はしたくは無いが…
この際そんな事は言ってらんねー……
「…おい…渚…」
オレはイソイソとボールを抱えてレーンに向かう奴を呼び止めた。
「…え?」

奴が振り向いた瞬間ウインクと満面の作り笑いをしてやった。

「 !!! ド ッ キ ーーー ン !! 」

思った通り奴は一瞬で真っ赤になってヨロめいて…
そのままボールが転がって案の定ガーターだ!!ふん!やった!

「…しっ…椎凪ちゃんってば…」
「甘いぜ渚…」

耀くんにはオレの背中しか見えてないはずだからOK!
オレはヘタリ込んでる奴の隣のレーンで悠々と逆転のターキーをたたき出して
圧倒的な勝利でこのどう見てもオレには嫌がらせとしか思えない誕生日記念企画の
幕を自分で下ろした。



「…ン…ふぁ…椎凪…」
「…ん…耀くん…」

あの後ギャイギャイと喚くあいつらを何とか丸め込んでやっとの思いで帰って来た。
渚はいつまでもウットリとした顔してたな…また次に会った時うるさそうだ…
逃げ込む様にマンションの近くのファミレスに入った。
せっかくのオレの誕生日のディナーが自宅近くのファミレス………
自分の予定では食事の後お散歩デートで耀くんと夜景を見ながら歩くはずだったのに…
寒くても2人で歩くのはお互いに好きだったし…別に苦じゃないから…
だからそんな大幅な予定変更にオレは納得がいかない…
ルイさんめぇ〜〜〜明日憶えてろよ……
どう見てもオレに対する嫌がらせだっっ!!
昼間オレが上機嫌でニコニコしてたのが気入らなかったんだろう……まったく…

「…椎凪…今日はオレが…」
「ん…今はオレが抱きたい…」
縺れ合う様に寝室に耀くんとなだれ込んでベッドに倒れ込んだ。
「ンア…あ…椎凪…」

椎凪の手がオレの身体を撫でていく…
外から帰って来たばっかりなのに…ほんのりとあったかい…

「スカートだと脱がせやすい…ふふ…」
スカートの裾から椎凪の手が入って来る…
そんな事を言いながら一向に服を脱がせる気配がない…
「…椎凪?」
「着たまま…耀くんがイクとこ見たいな…」
言いながら椎凪がゆっくりとオレに挿入ってきて…優しく押し上げた…

「あっ!あっ!あっ!」

耀くんがオレに抱かれて乱れて…淫らになっていく…
わざと着たままの女の子らしい服も今にも脱げ落ちそうだ…
約束通り…耀くんはオレに攻められながら大きくのけ反って…
浅い息をしながらしばらくオレの下で動かなかった…


「…耀くん…大丈夫?」
目を閉じたままの耀くんの目元から頬にかけて啄む様にキスをした。
「ん…くすぐったいよ…椎凪…」
「一緒にシャワー浴びようか…」
「…うん…」
「そしたら耀くんにプレゼントも〜らおう ♪ ♪ 」
「…………」
耀くんがじっとオレを見つめてる。
「?…なに?」

「椎凪って…モテるんだね………」

「…………」

シーーーーン……

「え!?…もっ…もしかして耀くん怒ってる?」
「……怒るって言うか…びっくりした…椎凪の周りって色んな人がいるんだなぁって…
色んな人に好かれてるんだなぁ…って…」
「好かれてるって…そんな…は…はは…」
「瑠惟さんも相変わらずだったけどちゃんとオレに気を使ってくれたんだよ。」
「あれで?」
オレはそんな事信じられなくて…疑いの眼差しだ…
「うん。」
耀くんはそんな風には思って無いみたいだから…良かったと言えば良かったのか?
「今日は何かバタバタしてごめんね。」
「いつもの事じゃない…なんか2人の記念日って何かとあるよね…」
「ホント…」

オレ達の周りには暇人が多いんだ…きっと…

「そうだ…オレとのデートの権利耀くんにあげる。オレからのプレゼント。」
「え?プレゼント?椎凪の誕生日なのに?」
「うん。その分耀くんからはちゃんと貰うから。」
そう言って椎凪が意味ありげに笑った。
「………うん…」
オレはそう返事するしかなくて……

椎凪がオレを抱き上げて浴室に連れて行ってくれる…

『今日』 はまだ時間が残ってる…だからまだ椎凪の誕生日は終わってない…
きっとオレが椎凪にプレゼントをあげると言うよりも…
椎凪がオレからプレゼントを奪っていくんじゃないかと思うけど…

それでも…オレからのプレゼントだって…思ってくれるかな?

……ねぇ…椎凪……