169









「…………重い…」

「……うん……」

「……どけ……」

「……やだ…よ……」

「……ったく……」

モソリと祐輔が寝返ってオレに背を向けた。

「………う〜〜〜…」

オレは唸って背中から祐輔にしがみ付く。

「……苦しい…うっとおしい……邪魔……」

祐輔が目を瞑ってオレに背を向けたまま文句ばっか言う。

「……やだっ!!これで寝るっ!!」

オレは懲りもせず祐輔にしがみ付いて離れなかった。

「……これ以上……オレの…じゃま…すん…………くう……」

祐輔は耀くんと違う意味で良く寝る。
だから寝てるのを邪魔されるのが大っ嫌いだ…だけどオレの事はもう慣れっこだから
起こされながらもまたすぐ眠りについちゃう。

ここはオレ達のマンションから大分離れたリーゾート地の 『TAKERU』 の別荘。
今日から撮影のために泊りがけで来てるんだけど…

今回は耀くんが一緒に来れなくて…ナゼか慎二君からダメだしされた。
その代わり祐輔が一緒に来たからオレは1人寝の寂しさを紛らわす為に
自分の部屋を用意されたにもかかわらず祐輔の部屋に転がり込んで
ベッドに潜り込んでいつもの如く祐輔を耀くんの代わりに抱きしめてるってわけで…

祐輔は眠さに負け…いつもの事だと諦めてオレを追い出したりしない。

「優しいから祐輔って好き。」

オレは耀くん以外滅多に他人を好きだなんて言わない。
だけど祐輔は別だ。
何だかんだと怒ってばっかだけど耀くんみたいにオレを癒してくれて…
受け入れてくれるから…ここにいる間祐輔にベッタリとくっ付いている事に決めた!!

って言うか耀くんがいないからそうしないと持ちませんっ!!ってのが本音。



「…あふ…」
ぐっすりと眠って気持ち良く目が覚めた。
ご飯の支度をしなくていいから時間を気にせず寝てたし。
スゴイオレ!ホントに祐輔抱きしめて寝てた。

「……祐輔…」
「………」
ダメだ…起きない…
「祐輔起きなよ…」
上から覗き込むと気持ち良さそうに眠ってる。

「……ホント祐輔って身体の線が綺麗なんだよな…肌も女の子みたい。」

前々から思ってて…祐輔に言うと 『全然うれしくねー』 って言うけど
ホント祐輔ってば身体の線が綺麗なんだ。

「これじゃ周りが放っとかないよな…」
しみじみ思った。
「!!…フフ…ちょっと遊んじゃお〜〜〜 ♪ ♪ ♪ 」
なんて思ったのが間違いだった。

「祐輔〜〜オハヨー起きてよ…」
「……………」
このくらいじゃ起きないのはわかってる。
「祐輔〜〜〜起きなよォ」
そう言って頬を撫でる。
「………ン……」
お!起きたかな?

「祐輔…早く起きてよ…じゃないとほっぺにキスしちゃうよ。」

そう言って更に覗き込もうとした瞬間…

「 ゴ ッ ッ ! ! ! 」

「 ! ! ! 」

有無も言わさず祐輔の握った手の甲がオレの顔面に入った!!

「……!!!…フガッ!!痛ってーーーーーーっっ!!」

もろ入った!
「あにすんだよ!痛ってえなっっ!!」
オレは痺れてる自分の鼻を押さえながら文句を言った。
鼻血出るかと思った…何とかそれは平気だったみたいだけど。

「……眠ってるオレに変態な事しようとすっからだろ……テメェ昨夜っからうっせーんだよ…」

「!!!」

ありゃ…超不機嫌な寝起きで目が据わってるんですけど!!

「何だよ!起こしてやったんだろ!!」
メゲずに主張するオレ…
本当はからかってやろうと思って始めたんだけど…そんな事言えない。

「何でこんなに早く起きなきゃなんねーんだよ!バカ椎凪!」

人に起こされると超機嫌が悪くなる…
でも深田さんと耀くんは怒鳴られた事は無いって言ってたから人見てるのか?
慎二君はどうなんだろ?

「昨日慎二君が言ってたじゃん…朝早いって。」
「テメェに起こされると腹が立つ!」
「何それ?すごい差別!!……そんな事言ったっていっつも一緒に寝てくれるもんねぇ〜」
そう言ってワザと背中から抱きついた。
「引っつくなっ!!離せ!この変態野郎!!」
お!本格的に暴れ出した。

「お仕置き!!」

オレは懲りもせず祐輔に構ってもらうべくまた背中に飛びついた。


コ ン コ ン !! ガチャ !

「おはようございます。早いですけど…朝食……」

「 「 ハッ!!!! 」 」

3人で固まった。
親切にも起こしに来てくれた 『 TAKERU 』 のスタッフの女の子が
ベッドを凝視して動かない。
オレと祐輔は2人してベッドの上でくだらない小競り合いをしてた真っ最中で
上半身裸のオレに(祐輔にズボンはけって言われたから…)両腕をベッドに
押さえ付けられてる祐輔………こ…これは見様によっちゃ……

「いや…これは…」

「あ…あ…す……すみませんっっ!!!」
「あっ!!ちょっと…君っっ!!」
「失礼しましたっっ!!」
 バ タ ン !!!
思いきりドアが閉まった。

「…………」

気まずい沈黙が部屋の中を占める……
ちょっと…殺気が立ち上がってるんですけど……

「誤解…されちゃった…かな?」
「…………」
うひゃあああ〜〜〜不気味な沈黙!!!

「……この手を離せ……」

「ひっ……」
オレは小さな悲鳴をあげてイヤイヤと首を振った。

「この手を離せっつってんだろうがバカ椎凪………」

「…………」
オレはイヤイヤを繰り返す。
「今離せば半殺しで許してやる…」
「いや…ちゃんとさっきの子に誤解解いてくるから許してほしいな〜〜」
「そんなの当然だろうが…だけどなそれじゃオレの気持ちは収まんねーんだよっっ!!!」
「え〜〜〜美味しいコーヒー淹れるから許してほしいな………」
「………」
祐輔が黙って何か考えてる。
「仕方ねーな……」
目を閉じてため息と一緒にそんなセリフを吐き出した。
「ホント?!」
「ああ…」
「良かったぁ〜〜〜」
オレは安心して押さえ付けてた祐輔の両腕を離した。
「……………」
ゆっくりと祐輔が起き上がる…

「やっぱ優しいなぁ祐輔は……って!!う わ っ !!!」

「 ビ シ ュ ッ !!! 」

気配に気付いて振り向いたら祐輔の廻し蹴りがオレの鼻先を掠めた!

「!!!びっくりしたぁ!!大人げ無い!それに嘘つき!!!」
「チッ…よけやがったか……」
「何そのマジで残念そうな顔はっっ!!」
「さぁて…美味いコーヒー飲ませてもらうか。」

何事もなかった様に祐輔がドアに向かって歩き出した。

「イジケてやるっっ!!!」

オレはそう叫んで祐輔の後を追って部屋を後にした。



「あ…椎凪さんその鼻の頭どうしたんですか?赤いですよ?もう…
これから撮影なのに気をつけて下さいよ!!メイクで隠せるかな?」

って会うなり慎二君に怒られた。
祐輔にチョッカイ出して殴られたなんて言ったらもっと怒られそうだったから
それは黙っておく事にした。


撮影は順調。オレはと言うと海を一望出来るテラスに面した窓を
開け放ったこの別荘の部屋でキングサイズの真っ白なベッドの中で
モデルの女の子とほとんど裸に近い状態で写真を撮ってる。
恋人同士と言う設定だから仕方ないけど慎二君がオレに要求する事は
こう言ったパターンが多い。
祐輔は絶対こう言うシチュエーションはやらないから。
オレはあんまり気にならないし慎二君が言うには

『椎凪さんって男の色気があるんでこう言うテーマの時は持ってこいなんですよね。
裸見られるのも見せるのも好きでしょ?』

ごもっともで……
『変態だからな。』
って祐輔は言う…それはちょっとヒドイ…
流石にそんな撮影現場を耀くんに見せるのは…と言う事で耀くんは今回お留守番。
だからって仕上がった写真を見て耀くんが怒る事は無い。
仕事と割り切ってくれてるし慎二君絡みだから心配しない。
慎二君を信用してるんだよね。


「お疲れ様です。流石椎凪さん短時間で終われましたよ。」
「なんか愉しくてさ。乗っちゃうよね ♪ ♪ これで耀くんがいれば言う事無しなんだけどさ。」
「今回は我慢して下さい。耀君も右京さんの所で愉しく過ごしてるみたいですね。」

「……うあ……」

軽く眩暈が……忘れてたよ……
まぁ…右京君の所にいれば何も心配する事無いから良いんだけど…さ…

「祐輔の方も終わったかな?」
「どうでしょうね?時間的にはまだだと思いますけど…」
「まあいいや。ちょっと覗いてくる。」
「あ…じゃあ僕も行きます。」

「でもさ…あの祐輔が良く黙ってモデルの仕事してるよね?不思議でしょうがない…」
祐輔の撮影現場に向かいながら慎二君に話し掛けた。
「祐輔…負けん気強いから…正当な勝負で社長に負けてるから仕方ないんですけど
喧嘩で負けて…その上負けた時の約束を破るって事は二重に社長に負けるみたいで
許せ無い事なんでしょうね…」
「ホントに祐輔その人に勝てないの?」
「はい。今まで1度も。」
「気を使ってるとかじゃなくて?」
「はい。まったく…」
「へー…オレも前1度しか会った事無いし…ろくに話もしないまま別れちゃったから
良くわかんないけど…そんな風には見えなかったけどな…」
去年の 『 TAKERU 』 主催のカウント・ダウンパーティでチラッと会っただけなんだよな…
「社長も若い頃は結構暴れてたらしいですから…」
「へー…じゃあ祐輔の気の短さはお祖父さん譲り?」
「そうかもしれませんね。くすっ…」

祐輔はお祖父さんの 『 新城たける 』 と昔勝負をして負けたら何でも言う事をきくって
約束をしたらしい…
何でもあの祐輔が何度も投げ飛ばされて勝てなかったとか…まさかの祐輔の敗北で…
それから何度も再戦しても同じく1度も勝てず…
負けた回数だけ言う事をきいているらしい…今回もいつの負けた分なのか……

「祐輔には内緒なんですけど今夜此処に社長が来るんですよ。」
「え?そうなの?」
「はい。やっと調整がついて1週間ほどこっちに滞在出来る事になったんです。」
そう言った慎二君はスゴク嬉しそうで…ニコニコだ。
「嬉しそうだね?慎二君…」
「はい!僕社長の事尊敬してますから。祐輔のお祖父様でもありますし…」
「ふーん…」

「ただ祐輔がねぇ…素直じゃないから…」



「なんでテメェが此処にいんだよ!!!」

打ち上げと称してくり出したお店に新城たけるが現れた途端
慎二君の言う通り祐輔は拒絶反応を示した。

「なんだ?孫に会いに来てはいかんのか?しかも数ヶ月振りだと言うのに…
照れるのはわかるがな。」

お祖父さんはそんな事に慣れっこなのか全く動じずニコニコな笑顔だ。
逆に突然のサプライズとでも言いたげな態度だし…

「照れてなんかいねぇ…黙れクソジジィ!!!」

「祐輔!!!」

見た目は確かに若い…
染めた短い髪に口髭を生やして耳にはピアスが何個も光ってて…
結構な年だとは思うのにそんな風には全く見えない。
それにこの祖父さんが祐輔よりも強い?なんか信じられないな…
でも…どことなく祐輔の面影がダブる…特に瞳が…
オレはちょっと離れた所からそんな様子を見守ってた。

お店の中はオレ達の貸し切り状態だ…
人数も多いって言うのもあったけど一際目立ってたのは 『新城たける』 氏…
華があるというか…オープンと言うか…職業柄のせいかもしれないが…明るい。
お店に来てた他のお客も巻き込んで…女の子とも仲良くなって一緒に騒いでる。
本当にこれが祐輔と血の繋がりのあるお祖父さん??ギャップが……

「社長祐輔に会えてよっぽど嬉しいんですね…ふふ…」

慎二君も上機嫌…

「おじ様ノリが良くて最高!」
「そうか?実は嬉しい事があってな…まあ君達も愉しんでくれ!!さあ飲んだ飲んだ!!」
「わぁ〜〜〜太っ腹ぁ ♪ ♪ 」

「……………」
もう…収集がつかない程騒いでる…オレは唖然…もうどんだけ金掛かってんだ??
「凄いね…祐輔のお祖父さん。元気だし明るいしノリが良いし…ホントに祐輔のお祖父さん?」
「間違いだったらオレは死ぬほど嬉しいけどな!!」

この騒ぎの中でも呆れ顔の祐輔…冷静だ。


「おいっ!じいさんっ!!」

そんな中で明らかに場違いの声が上がった。
「ん?」
ほろ酔い顔のお祖父さんが肩を掴まれて強引に声の方に振り向かされた。

「 「 「  !!! 」 」 」

いつの間にか店の中に新顔の男達が5人ほど…あの騒ぎで気が付かなかった。
店の中が一瞬で静かになった。

「随分愉しい事やってんじゃねーの?」
どう見てもこの状況が気に入らずに絡んで来たに違いない人相の男…
「ああ…君達も一緒にどうだ?」
空気が読めないのかそんな相手にお祖父さんは相変わらずニッコリだ。

「そうだな?だがよ一体誰に断ってこんな派手な事してんだ?
ここは俺のお気に入りの店なんだよなぁ…
俺に断りも無しで随分好き勝手にやってんじゃねーの?」

どう見てもこの店のオーナーでは無いと思うけど…
どうやらこの店の常連で尚且つ普段からこの辺りで顔を効かせてる奴らしい。
何処にでもいるもんなんだなぁ…なんてオレはそんな事を思ってたけど…
どうすんだ?ここは出張った方がいいのか??
ただ祐輔はいいとして慎二君までもが黙ってるって言うのが何とも不思議で…
真っ先に割って入るかオレ達に何か言ってくると思ったんだけど…

「今日はお祝いなんだよ。君達も一緒に愉しんでくれ。」

ポン!と相手の男の両肩に手を乗せて微笑んだ!
更に空気読んで無いだろ??お祖父さんっっ!!!
長い外国暮らしで 『K・Y』 と言う言葉が日本に誕生してる事も知らないか…??

「調子に乗ってんじゃねーっつてんのが理解できねーのか?この老いぼれっ!!!」

また肩を掴まれて力任せに引っ張られたお祖父さんの服のボタンが何個か弾け飛んだ。
ありゃ!!これは流石にヤバイんじゃないの?
立ち上がろうとしたオレを祐輔が止めた。

「ジジイに任せとけ。」
「は?…え?でも…」

「……………」

俯いて身体がフルフルと震えてる。
「あ〜?何だ?今頃ビビッたのか?やっと酔いが醒めたのかよ?じいさんよぉ??」
「……貴……様……」
「あ?」

「 貴様ぁ!! よくも私の服を破きおったなあああああああっっーーー!!」

叫んだ途端相手の男の胸倉を両手で掴んで持ち上げた。

「 !! 」

「へ?」
オレはいきなりの事で目が点……

「この大馬鹿もんがああああああっっ!!!」

ド ッ  シ  ャ  ン  っ っ っ   !!!!!!!!

「ぐはっ!!!」

「……うそ…」
「ふん…」
「流石ですね!社長 ♪ ♪ 」

もの凄い素早さでお祖父さんの背負い投げが決まった!
きっとあれじゃ受け身が取れず思いっきり背中から床に叩き付けられたに違いない…
コンクリートの床に…息…出来てんのか?あの男…

「私が作った服を破くとは言語道断!!!そこでしばらく反省せいっ!!」

ビシリ!!と床にノビてる男に向かって人差し指を指さした!

「さあ!仕切りなおしだっ!!酒持って来いっ!!飲むぞぉぉぉぉ!!」

また一気に店の中が盛り上がる。
根っからの陽気男なんだ…この人……

「オラっ!!お前らも一緒に飲まんかっ!!私の奢りだぞ!奢り!!」

男達がノビてる仲間を起こしながらそう言われてビクリとなってる。

「はぁ……何とも豪快なお祖父さんだね…」
「社長自分が作った服愛してますから…
でも相変わらず切れの良い一本背負いだったなぁ…フフ…ね?祐輔!」
「うるせー!!」
「!!…もしかして祐輔っていつもあの一本背負いに負けてんの?」
「捕まったら絶対逃げらんねーんだよ…よける暇も無く投げられる…くそっ!」
「確かに…素早かったもんな…あれ…」

オレは改めてマジマジとお祖父さんを見た。
さっきの事が嘘の様にお酒を飲んで周りと一緒に騒いでる…
祐輔が勝てないと言った事が今なら納得できて…頷けた。
きっとオレも捕まったらよける暇も無く床に叩き付けられるだろう……

恐るべし…新城たける…流石祐輔のお祖父様!!!!


その後…全員で明け方まで騒ぎまくって…
次の日…飲んでなかった祐輔といつもの如くお酒に強い慎二君をのぞいて…

オレを含め全員が二日酔いで死にそうになっていた。