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     * 時期は耀が女の子に戻った後あたり。*





「ちょっとデューク!違うそのカップじゃないってば!」
「わかんないよ!じゃあ未理が取ってよ!」
「…もう……」


デュークと未理ちゃんが祐輔の所に居候?し始めて1週間…
様子見と冷やかしを兼ねて祐輔のマンションに皆してやって来たんだけど…
何だか面白い事になってる。


「何あれ…どうしたの?何だかしっかりとデュークが未理ちゃんの尻に敷かれてるけど?」

オレ達の為にコーヒーを淹れてくれるというのでオレと慎二君は2人がいるキッチンを
そっと覗きに来てるんだけど…
未理ちゃんがデュークと中々の良い具合の関係になってて…

一体どんな変化が?


「未理ちゃんの方はどうやらデュークのピアノに惚れちゃったみたいなんですよ…」
「え?」
「デュークが練習でピアノ弾くのに付き合ったらしいんです…そしたら…」
「ええ?そうなの?」
意外な展開……
「デュークは何だかんだとああ言うお姉さんタイプに弱いらしくて…
あれこれ口出しされてるうちに慣れたらしいです。」

「…あちっ!!」

「あ!バカね!早く冷やして!!」

デュークの左手に沸いたばかりのお湯が跳ねた。
速攻で未理ちゃんがデュークの手を掴んで水道の水で手を冷やす。

「え?あ…あれ見てよ!慎二君!!デューク未理ちゃんに…女の子に触られてるのに
無反応だよ?嫌がらないし吐きもしない…!!!」

デュークは筋金入りの女嫌いなのに…
1週間前は未理ちゃんに抱きつかれて吐いてた……

こ…これは…もの凄い進展なんじゃないか??

「耀君も極度の人見知りだったのに椎凪さんだけは初対面でも大丈夫だったでしょ?
あれと似た様なもんなんじゃないですかね?お互いに心境の変化があったって事ですよ。」

「ふえぇ〜〜〜〜……」

オレは驚きの溜息が漏れた。
オレと耀くんは最初っから出会う運命で赤い糸で結ばれてたからなんだけど…

と言う事は…この2人も??



「祐輔…」
「ん?」
「夜ってどうやって寝てるの?未理さんがソファ?」
耀くんが祐輔に不思議そうに聞く。
祐輔の所はベッドが1つしかないから…どうしてるんだろ?
「でもそれじゃ未理ちゃんが泊まってる意味ないよね?」
こっそりと戻って来たオレがそう口を挟んだ。
「まさか3人でベッド?」
「まさか…オレとデュークがベッドで未理が下に布団敷いて寝てる。」
「何だか…不思議な関係だよね?」
慎二君が苦笑いでそう言った。
「でも…あと1週間だもんね。」
「ああ…」
「…………」

オレはノンビリとタバコを吹かす祐輔をじっと見てる…
祐輔が…女の子を家に入れるなんて信じられない事で…
一体どんな気紛れなんだろうと思ってたけど…でもこう言う事だったのかな?

2人がこう言う関係になるって…わかってて…
2人を一緒に居れる様にしたの?祐輔……


「はい。お待たせしました…すみません遅くなっちゃって…デュークがドジだから…」
「ドジじゃない!慣れてないだけだよ。」
言いながらデュークがさっきお湯の掛かった手の甲を何気に触ってる。

「やだ…痛いの?」
「ちょっとヒリヒリするだけ…じきに収まるよ。」
「ダメよ!ピアノ弾くのに差し障ったら大変じゃない!祐輔さん薬箱あります?」
「ああ…そこの戸棚の中に…」
何故か慎二君が即答する…まあその方が早いんだよね。
祐輔は薬箱なんて無縁だから…
「デューク来て。」
「うん…」

オレ達は無言でそんな2人を観察してる…
2人はそんな視線にも気が付かないらしい…ちょっとした2人の世界?

「もう赤くなってるじゃない…私の事なんて庇うから…」
「だって未理に掛かりそうだったから…」
「そんなの平気だから…デュークの方が気をつけなきゃ…
ヒドイ火傷してピアノ弾けなくなったらどうするのよ!」
「だって…未理が火傷したら僕イヤだもん。」
「………デューク…」

どうやら未理ちゃんを庇ってデュークが火傷したらしい…
ホント…意外な展開だ!

「デューク未理ちゃんに触られても平気になったんだね。」
「え?…ああ!本当だ!?」
「え?デューク気が付かなかったの?ホント?」

デュークもかなりの天然なんだよな…
天然と言うのか…幼いと言うのか…

「うん…全然気にしてなかった…」
「気分悪くないの?」
「うん…全然…」
「へぇーーー……」

これは…ひょっとするとひょっとするのかな?



「……………」

昨日椎凪に言われて初めて気が付いた…
そう言えば僕…未理に触られても平気だ…いつの間にそんな事になったんだろう??

暇を持て余し遊びに来た『TAKERU』のオフィスで回転する事務用のイスで遊びながら
そんな事を考えてた。

「平気になったのかな?」

試しにすぐ傍にいた女の子の手を取って握り締めた。
「はい?」
女の子は顔がほんのり赤くなってる…
「デュークさん?何か?」
「…………」
あれ?やっぱり平気に……
なんて思ってたらムカムカとした感じが胃の辺りから湧き上がって来た!

「 !!!! 」

ぱっと握り締めてた手を離した。
「!?…デュークさん?」
「あ…ごめんね…ありがとう。」
「 ?? 」

不思議そうな顔の彼女を残して僕は早歩きで歩き出した…そして…

「未理っ!!」

「!?…デューク?来てたの?…って何よ!いきなり??」

見付けた未理の手を取ってさっきの子と同じ様に握りしめた。

「……………あれ?」

どんなに待っても何とも無い……
「何よ?何してんのよ?」
「ううん…何でもない…椎凪の所に行って来る…」
「椎凪さんの所って…椎凪さんも仕事中だってば…ちょっとデューク!!」

僕はそんな未理の言葉を聞きながら…でも…椎凪に会いたくて…
早々に『TAKERU』のビルを抜け出した。


「椎凪ぁ〜〜〜〜!!ド カ ッ !!」
「うわっ!デューク…いきなり体当たりしてくんなよ…」

さっき何処にいるか携帯で聞かれて…待ち合わせした場所に現れたデュークが
オレを見付けた途端突進して来て加減もせずにオレに抱き付いて来た。

オレと同じ様な体格だから結構響く。
それでも何とか倒れずよろめいた程度で踏ん張った。

「僕なんか変なんだよ…椎凪ぁ!!」
「落ち着けデューク…どうしたんだよ?」

「僕女に触ったり触られたりするとダメだったのに未理に触られても触っても平気なんだよ!!
それって変だよね?」

ものすごく慌ててる…

「デューク…」
「あ!そうか!椎凪のモノなんだ!」
「はあ?」
「だって僕椎凪のモノなら平気なんだもん!だから未理も椎凪のモノなんだろ?」
ニッコリ笑ってとんでもない事言うなっ!
「んな訳ないだろ!オレのモノは耀くんだけだよ!!」
「えー!?おかしいな?耀君は椎凪のモノだから平気なのに…?なんで?」

「………デューク…それは未理ちゃんはデュークのモノだからじゃないの?」

「え?」

「きっとデュークの中で自分のモノになりつつあるんだよ…」

「???え?言ってる意味が分かんないよ?椎凪?」
「………今にデュークにもわかるよ…」

「????」

オレがそう言うとデュークはますます訳がわからないと言う顔になった。
でも…きっとすぐにわかる…

デュークの…たった1人の人がやっと見付かったって事に……
ただ…問題は未理ちゃんの方かもな……



「だからそうじゃないって…今のタイミングでタッチするの……
もう…デュークってばリズム感あるくせになんでこんな簡単なゲームが出来ないの?」

とっても不思議そうな顔で未理がゲームの機械と僕を交互に見る。
女の人とこんな近くで話す事は前からあったし話すくらいなら平気だ…

触れたり…触れられたりする事は…ダメだったのに未理なら平気だと今日わかった。

「…………」

「デューク?」

持ち主の祐輔さんがいない部屋の中で…
デュークと2人ソファに座ってゲームを教えてた…
何度言っても上手く出来ないデュークをちょっとからかいながら
もうずっと2人で過ごしてもうどれくらい時間が経ったんだろう…
そんな中デュークが黙りこくってじっと私を見つめて動かない…

ハーフのデュークは父親のアメリカ人の血を濃く引いていて綺麗な金髪に真っ青な瞳…
そんな瞳で見つめられると……

「も…もう!そんなにジッと見ないでよ!照れるでしょ!!」
「なんで?」
「…なんでって…じゃあデュークはなんでそんなに私の事ジッと見るの?」
「え?…ああ…未理は何処が違うのかなぁって…」
「は?」
「だって未理は女なのに僕未理なら触っても触られても平気なんだ…
これって変だろ?」
「……別に私に慣れただけでしょ?長い時間一緒にいたから。」
「!?…そっか!そうなんだ…なんだそうだったんだ…」
納得!と言いたげなデュークの顔。
「そんな簡単な事もわかんないの?」
「だって初めてだったんだもの…そっか慣れたからか。はは ♪ ♪」
「ちょっ…やめてよ…」
笑いながらデュークが私の頭と顔をクシャクシャとこねくり回す。

「ホントだ。全然平気!じゃあキスも平気かな?」

「は?…え?ちょっと…デューク!?」

「ちゅっ…」

揉みくちゃにされたまま顔を挟まれてそのまま上を向かされてキスされた。
とっても軽い…一瞬のキスだったけど…

「……………」 「……………」

2人でしばらく無言…
きっとデュークは自分の反応を待ってる…でも私は…違う理由で動けなかった。

「あ…平気だ。はは ♪ ♪ 未理ってスゴイね!もしかして男なの?」
「!!!…ばっ!!ばかっ!!そんなわけあるはずないでしょっ!!!」

「生まれて初めてあの女以外とキスしたよ。」

「…!!……デューク…」

デュークの事は慎二さんから聞いてる…
辛い経験したはずなのに…デュークはそんな事微塵も感じさせないくらい明るい…


「祐輔ぇ〜〜〜 ♪ ♪」

ガバッと夜中に帰って来た祐輔に抱きついた。
「やかましいっ!!」
「あのね!さっき未理にキスしたのに吐かなかったんだよ。」
「は?」

とっても自慢げに話すデュークに思わずビックリした。

「ちょっとデューク!何恥ずかしい事言ってんのよっ!!」
「何だか唇って柔らかくて気持ちいいんだね。僕今まで知らなかった。」
「だから何だよ?」
祐輔さんが何かわかった様な顔でデュークを見てる。

「祐輔の唇も気持ちいい?してみてもいい?」

「このどあほっ!!ダメに決まってんだろーがっ!未理としてろ!未理ならいつでもさせてくれるぞ。」

「え?ホント?」

「なっ!!ちょっと祐輔さん!!変な事言わないで下さいよっ!!
ってデューク何なのよその目はっ!!
……あ…あ…きゃああああーーーーー!!!んっっ!!!」


子供みたいなデュークは『キス』と言う行為を遊び感覚で愉しんでる…

ちょっと…これは…早急やめさせないと…私の身体がもたない…
今だってガッシリと抱え込まれて好きな様に唇を奪われてる……


もう…変な事覚えちゃったな……ホントデュークってば手がかかる!!!

祐輔さんをデュークの魔の手から守る為に始まった短い共同生活が…
いつの間にかデュークの子守になってる気がしてるのは……

      私の気のせいなんだろうか???