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     * 時期は耀が女の子に戻った後あたり。*





「え?!未理ちゃんとキス?」

「そうなんだよぉ椎凪ぁ ♪ キスってあんなに愉しい事だったんだね ♪
あの女とした時は吐き気がするほど嫌だったのに未理とは何だか愉しいんだ。」

「……きっとそれは未理ちゃんだからだよ…デューク…その事わかってる?」

「え?」
「デュークは未理ちゃんの事が好きになったんだ。」
「え?好き?」
「そう…もしかして初めて?女の子好きになったの?」
「女の子を…好き?僕が?」
「そう。自分では気が付いてないみたいだけど…」
「僕が…未理を…好き?」
「だから触られても触れても平気だしキスも愉しいんだ。」
「え?違うよ椎凪…未理に慣れたからだよ…未理だってそう言ってたもの。」
「…………」

まさかお互いが自分の気持ちに気付いてないのか?
………ああ…そう…

「…そう?じゃあもう少しでデュークは向こうに帰るけど…
未理ちゃんと会えなくなっても平気なんだ?」

「え?」
「だって来週帰るんだろ?」
「……そうだよ…帰る…」
「しばらく会えないね…デューク…」

「……………」

未理と…別れる…未理に会えない?
何?この気持ち…祐輔や皆に会えないと思ったのとは違う…
この…重くてモヤモヤした気持ち…なに?気持ち…悪い……

「…………」
僕は黙って…いつの間にか胸を押さえて椎凪を見つめてた…

「そう言う事だよ…デューク…胸が苦しいんだろ?
それが恋ってもので人を好きになるって事だよ……
祐輔の事を好きって言ってたのとは違うだろ?」

「人を好きになるって…こんなに…苦しいの?」
「時と場合によるけど…デュークは未理ちゃんに会えなくなるって言う
現実があるから…だから苦しんだ…」
「僕…どうしたらいい?」
「デュークは…どうしたいの?」

「………僕…?僕は……」

しばらくデュークは考え込んでいた…でも顔を上げてオレを見つめた。

「僕は……僕の傍に未理にいて欲しい…いつも未理と一緒にいたいよ…椎凪…」

「じゃあそう未理ちゃんに伝えればいい…」
「……未理は…なんて言うかな…?」
「さあ…それはわからないけど…
なんて言われてもちゃんとその言葉を受け止めなくちゃダメだよ…」
「椎凪…」

「逃げないでね…デューク…」



「どうかしました?」

椎凪と別れた後街をブラブラして…慎二に紹介してもらったスタジオで
何時間もピアノを弾いて…それでも帰れなくてまた『TAKERU』のビルに戻って来た。

もう未理はいなくて…僕はそのまま慎二部屋に転がり込んだ。

「え?」
「あんまり飲んでないみたいですから…」
「あ…ごめんね…せっかくお酒付き合ってくれてるのに…」

何だか飲まずにはいれなくて…でも全然飲む気がしなくて…

「何かあったんですか?」
「……もうすぐ…帰るんだなぁって…何だかそう思ったら淋しくなっちゃって…
皆とも会えないしさ…」
「こっちが愉しすぎました?」
「うん…だって此処では僕は1人じゃないもん……」
「そうですね…でも仕方ないですよ…もともとデュークの拠点は向こうなんだし…
本当にこっちに来るつもりなんですか?」
「今すぐは無理だけどね…いつかはそうしたいと思ってるよ…」
「そうですか…」
「ねえ慎二…」
「はい?」

「未理が一緒に来てくれたらいいのにって思う事は僕のわがままなのかな…」

「………デューク…それは未理ちゃんの事が好きって事ですか?」

「…昼間椎凪にも言われて…ずっと考えてたんだけど良く分からない…
僕今まで女の人嫌いだっただろ?なのにそんな急に大丈夫なのかなって…
女の人を好きになった事なんて無いから…これが好きって言う気持ちなのかも
良く分からないんだ…自信無いし…それに…ちょっと怖い…」

「そうですか…僕は大丈夫だと思いますけど…デューク自身がそう思うならそうなんですかね…
じゃあ1人で帰るしかないですね。」

「ええ〜〜!!慎二何でそんなにアッサリ言うの??」

「だってそんな不安定な気持ちで未理ちゃん連れてかれたら困りますからね。
彼女はウチの大事な社員で戦力ですから。それに彼女が泣く様な事僕が許しませんよ。
顔洗って出直して来て下さいね。デューク!」

「ええ〜〜〜何?それ?」

「日本では相手の父親に許してもらえないとお付き合い出来ないんですよ!」
ピッと人差し指を立てて慎二がもっともらしくそう言った。
「本当??でも慎二未理のお父さんじゃ無いじゃん?」
「『TAKERU』で預かってる限り子供同然です。」
良く聞くと訳のわからない自論なのだかデュークに理解出来る訳も無く…

「……ちぇ…厳しいな……はぁ……」



「行っちゃったね…」
「…………」

空港でデュークを皆で見送ってオレは溜息。
結局デュークは未理ちゃんに何も言わず帰って行った。

「上手く行くと思ったんだけどな…一緒にいれば何とかなると思うのに…」

「もう少し時間掛かるんじゃないんですか?それにデュークも問題ありですけど
未理ちゃんだってきっとついて行かなかったと思いますよ…」

「そうかな…まあ…確かに未理ちゃんにもちょっと不安はあるんだけどね…」


未だに飛行機が見えなくなった空を見上げてる未理ちゃんを2人で見つめながら
そんな事を話した。

きっとオレと慎二君は同じ事を思ってる…


それは2人が付き合っていく上で…とっても大事な事になること……