178





     * 時期は耀が女の子に戻った後あたり。*





「いらっしゃい。未理ちゃん!慎二君から聞いてるよ。ゆっくりしてってね。」

「はい…」


結局橘さんの言われるまま耀君と椎凪さんが暮らすマンションにやって来た。

「デュークは演奏旅行だって?」
「はい…橘さんが手を廻したみたいで…」
本当やる事が素早いったら…
「お腹空いたでしょ?未理ちゃん来るまで待ってたんだ。一緒に食べようよ。」
「はい…」

通されたリビングのテーブルの上には本当に男の人が作ったのかと思える料理が並んでた。
「洋食の方が良いかと思って。」
「あ…すいません…気を使っていただいて…」
「椎凪は何でも作れるし全部スッゴク美味しいんだ ♪ 」
「耀君その話しになると嬉しそうに話すわよね…クスッ」
とってもわかりやすい。
「え?…あ…」
「オレの料理は耀くんへの愛情表現だから ♪ ♪ 愛情たっぷりなんだ!」
「え!?」
私に向かって…恥ずかしげも無く…大胆な…
「ありがとう。椎凪 ♪ 」
そんなセリフに耀君がニッコリと答える。

「…………」

耀君は恥ずかしく無いらしい…

食事を食べて…椎凪さんの淹れてくれたコーヒーを飲んで(これまた美味しいコーヒーだった)
シャワーを浴びた。
確かに仲が良いとは思うけど…
橘さんが私を此処に泊まる様に言った事がまだ私にはわからない…



慎二君にいつものオレ達で過ごしてくれって言われてる。
オレと慎二君が心配した通り未理ちゃんはデュークの行動を持て余してる…
持て余してるそんな自分に自信が無くて…
それでも自分を求めてくるデュークを知らないうちに遠ざけようとしてる。

デュークはそんな事気にしないから彼女を求めて求め続ける…
だってそれがずっとデュークが望んでた事で……それがデュークの愛情表現なんだ……

ただ相手の…未理ちゃんの事を思ってあげられないだけ……



「おはよう。耀くん ♪ 」
おはようのキスをしながらそう声をかける。
「……ん…おはよう椎凪…もう起きる時間?」

耀くんとベッドの中…寝起きの耀くんが可愛く目を擦りながら…でもまだ目はつぶったまま。
「もう少し平気なんだけど…オレしたいなぁ〜ちょっとだけしてもいい?」
耀くんの耳元にそう囁きながらしっかりと片手は耀くんのパジャマのボタンを外してる。
「ちょっとだけでいいの?」
目をつぶったままオレの首に腕を廻して引き寄せてくれる…
「じゃあオレが満足するまでね…」
「大学間に合うならいいよ…」
「じゃあ楽勝!クスッ…」

「……椎凪…」
「ん?」
「オレ…幸せ…大好きだよ…椎凪…」
「まだ寝ぼけてるんでしょ…さっきから一度も目が開いてないよ…」
「ン〜〜そんな事無い…椎凪の意地悪…」
「その愛の言葉は信じるけどね。もうお喋りはおしまい。時間が足りなくなる…」

「あ……」

そう宣言して耀くんの鳩尾から下に向かって舌を滑らせた。


「ふぁ……」
何だか久しぶりにぐっすり眠れて目が覚めた。
1人のベッドが楽だった半面物足りないのも事実で…何だか変な感じだわ……
デューク…1人で眠れたかな…なんてそんな心配をしてた…

別に聞こうと思って聞いたわけじゃない…
リビングに向かうのに必然的に椎凪さん達の部屋の前を通らなくちゃいけなくて…
そしたら…結構な大きさの声で…中から声が聞えて来て……

確かに素通りすれば出来たのに……何故かドアの前で立ち止まってしまった。


「あっ!あっ!ああっ!!あっ……し…いな…」

「なに?耀くん…」

「好きだよ…椎…凪…愛してる……ンァ…ハァ…あっ!」

「オレも愛してるよ…耀くん……」

そんなセリフと…キスと弾む息の音と…ベッドの軋む音が延々と聞えてくる……
「……………」
結構な激しさで…そりゃ…私だってデュークと…その…朝からってあったけど…
疲れて仕事にならないから次の日からお断りした…

こんなのって…絶対仕事に差し支えると思うんだけど……



「あ!おはよう未理ちゃん。早いね」

あれから30分程して椎凪さんがリビングに入って来た。
私は何だか頭がボーっとして…ソファに座ってたらしい…
考えてみたら他人のそんな行為の声を生で聞いたの初めてだったし…
しかもその本人の1人が今目の前にいるなんて…何だかまともに椎凪さんの事が見れない…

「おはよう…ございます…」
「コーヒー飲む?」
「はい……あ…耀君は?」
「え?まだ寝てるよ。耀くん朝弱いから。」

きっと疲れて寝ちゃったんだ…って私は思ってた。

それから更に30分後耀君が起きて来て私の事なんて眼中に無い様に
椎凪さんと朝のキスをする。

「おはよう椎凪…ちゅっ ♪ 」
「おはよう耀くん。愛してるよ ♪ ♪ 」

まあ…そうよね…
朝のキスはデュークもするし…それは当たり前か……

いつの間にか2人を観察してる自分がいた。



「 耀く〜ん ♪ ♪ 」

夕食も終わりそれぞれがリビングで自分の時間を過ごしてる。
私はダイニングテーブルにパソコンを持ち出してソファに座る2人をこっそりと見ていた。
こっそりと言っても目の前にいるからイヤでも視界に入って来て…
仕事をしてるフリをして何気に2人を観察してる…
刑事という職業の割には椎凪さんは私よりも先に帰宅してた…
もっと刑事の仕事って忙しいんじゃ無いのかしら…なんて思ったけど椎凪さん曰く…

『オレ昼間真面目に働いてるからね!それにオレにとって耀くんとの時間も大切だから!』

そう言う問題なのかしら???

「んー?何椎凪?」
見ればソファで読書中の耀君にガッシリと抱きついてる…
そうそう…デュークもあーやって人が何かしてるとすぐ傍に来るんだよね…

本当行動パターンがソックリ!

「ねぇキスして ♪ 耀くん ♪ ♪」
「はい。 ちゅっ ♪ 」
「ふふ…♪ ♪」

耀君も私の事なんか眼中に無い様に椎凪さんに言われるまま軽いキスをする。
客観的に見ると…椎凪さんの行動が本当にウザく見える…

傍から見たら私とデュークもあんな感じなのかしら???

「もっともっと ♪」

そう言って椎凪さんが耀君の正面に回って耀君の事なんてお構い無しに軽いキスを繰り返してる。
耀君はそんな椎凪さんを気にしながら本を読んでる…

「耀く〜ん…耀く〜ん!」
「ん?何?椎凪…」
本から目を離さずに耀君が椎凪さんの呼び掛けに返事をする。
「呼んだだけぇ〜〜 ♪ ♪」
「そう?…くすっ…」

やっとキスを止めて膝の上に上半身を乗せて下から耀君を見上げてる椎凪さんが
今度はそんな言葉のやり取りを始めた。

でも…何なの……アレは……耀君にベタベタイチャイチャ纏わりついてるし…
そんな姿が永遠と続いて凄くムカついてくるし…ウザイ……!!!
私なら耐えかねて文句言っちゃう……

それ程椎凪さんの行動は私の目を釘付けにした。

「ねー耀くん耀くん!!」
今度は耀君の膝の上でうつ伏せになってゴロゴロと動いてる…
そんな椎凪さんの頭を耀君は本を読みながらクシャクシャと弄ってる…

まるで膝の上にいる猫を撫でるみたいに……

でも…あの椎凪さんは一体何なの??
いつもの椎凪さんからは想像出来ないほどの甘え振りに…あの幼さ……

人格が入れ替わってるとしか思えない……

「コーヒー飲む?」
「うん。飲む!」
「じゃあ待っててね ♪ ♪ ♪」

そう言って耀君の膝の上から起き上がると私の横を鼻歌交じりで通って行った。

その姿はいつもの椎凪さんだった……