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     * 時期は耀が女の子に戻った後あたり。*





「どうしたの?未理…何か元気ないね?」

2泊3日の北海道の演奏旅行から帰って来たデュークが私の顔を覗き込んで心配そうに聞く。

「そんな事無いよ…ちょっと疲れてるのかな…」
「そう?……僕がいなかったから淋しかった?」
「……うん…淋しかったよ…デューク…」
「本当?」
「うん…本当…」

そう答えた未理だけど…やっぱり何処かいつもと違くて…

   僕はとっても不安になる………



椎凪さん達の所から戻って…じっくりとデュークとの事を考えた。
椎凪さんの言う通り……私はデュークを支えてあげられるのかしら…?
ずっと自問自答……

「未理っ!!」

「え?」

デュークの声で我に返った…
食事に出掛けたレストランの開け放たれた入り口のドアが風にあおられて
勢い良く閉まる所だった。
私は考え事してたから閉まってくるドアに気付かなくって…

デュークに呼び止められて気付いた時には目の前にガラスが迫ってた。

「!!!……きゃっ!!」

どうする事も出来ずにただその場で立ち尽くした。

ガ シ ャ ン !!!

「 ……っつ!! 」 

「……え?…あ…」

身体が押された感覚と思い切りドアが閉まる音と…今のは…デュークの…声?

「デューク!?」
「………って……」

見るとデュークが右手を押さえて苦痛に顔を歪めてる…うそ…
デュークは私の身体を押しのけながら閉まって来るドアを止め様と手を出して
勢いに負けて思い切り手を挟んだ!

「やだっ!どうして?デューク…ねぇ大丈夫?デューク?」

私はパニックで…どうしよう…デュークがピアノ弾けなくなったら…

「ごめんねデューク!!私がボーっとしてたから…今救急車…」
「……未理は…?」
「……え?」
「未理は…大丈夫?怪我…してない?」
「……もう…デュークのバカッ!!私の事より自分の心配しなさいよっ!!」
「……ごめん…」
「謝るのは私の方でしょ!!」
「…良かった…未理に怪我無くて……っつ…」
「デューク!!!」

その後お店の人が呼んでくれた救急車に乗って病院に駆け込んだ。



「骨には異常無いって…1週間もすれば治るって。」

「本当?骨に異常無いのね?ちゃんとピアノ弾けるのね?」


救急で訪れた病院の廊下で治療を終えて出て来たデュークに畳み掛ける様に聞いた。
どうやらドアの周りに怪我防止の為に付いていたパッキンで大事には至らなかったらしい…

「大丈夫だよ…ごめんね…心配かけて。」
「……何で謝るのよ…悪いのは私じゃない!バカデューク!!
ピアノ弾けなくなったらどうするつもりだったのよ!私の事なんて良かったのに…!!」

私はいつの間にか泣きながらデュークに訴えてた…
だってこれが原因でデュークがピアノ弾けなくなったら…私は……

「良くないよ…」
「……!?」
「未理が怪我したら僕心配だもの…自分が怪我するより辛い…」
「え…?」
デュークがとっても辛そうに話してる…

「未理は僕の大切な女の子だから…未理の代わりなんていないから…
未理がいなくなったら僕は毎日誰にキスしてもらえばいいの…?」

「……デューク…」

「未理は僕のモノじゃないの?僕のモノじゃなかったの?
未理には僕はもういらない?僕…また1人になるの?」

デュークの瞳に涙が溢れて…今にも零れそう…

「もう僕にキスしてくれないの…?もう僕のこと……いらないの?」

デュークは私の態度がおかしい事を敏感に感じ取って…不安になってる…でも…

「だって…デュークはキス出来るから…
女の子に触れる事が出来るのが私だから私の事が好きなんじゃないの?
だから…他の女の子で私と同じ様にキスも抱き合う事も出来るなら私じゃなくたって…」

「 やだっ!!! 」

「 …!!! 」

病院の廊下にデュークの声が響いた。

「未理じゃなきゃやだっ!!未理の事が好きだよ!誰よりも未理が好きっ!!」

「……んっ!!」

そう叫びながらデュークが私の顔を押さえ付けて強引にキスをした…

「未理……未理…僕…女の子と付き合った事無いから…未理には物足りないの?」

デュークが唇を離さずにそんな事を聞く…

「そ…んな事無いよ……デュークこそ私の事好きなの?本当に私の事が好き?」

初めて…聞いた様な気がする…


「うん…好き……未理が好き…未理だから好きだよ…ちゅっ…」

「デューク…ん…」

場所も気にせず…2人でお互いを求めるキスを延々としてた…

まだ…私の中の不安が完全に消えたわけじゃないけど…
でも…きっとデュークは真っ直ぐに…そしてとっても一途に…
私の事を好きでいてくれるんだろうなって…思うから…

「ん…んっ…未理……ちゅっ…」

デュークのキスが段々エスカレートしてきて…
そのまま廊下に押し倒されるんじゃないかと思えるほど抱きしめられた。

「…………!!!」
ちょっと…デューク……

「あのぉ〜〜…」

「ん?」

後ろから遠慮がちに声を掛けられた。

「治療終わりましたら帰って頂いて宜しいですかね?他の人達に刺激強すぎますので…」

「!!!!…あっ!ご…ごめんなさいっっ!!!」

救急の受付のおじさんが申し訳なさそうに声を掛けて来た!
もう私は恥ずかしくって…顔が真っ赤!!

「お世話様でした!!ほら!デューク行くわよ!」
そう言ってデュークの腕を掴んで引っ張った。
「え?未理?」
当のデュークは何で?と言う顔で私に引っ張られるまま歩き出す。

これからちょっとデュークには教育が必要かも……

なんて心の中でそんな事を思う私……
流石に所構わず…なんてのは無理だし…そんなに…その…体力無いし……
耀君の様にはいかないけど…

私なりにデュークと向き合う事と受け止める事を決めた。

だって…ちゃんと私の事好きって…私だから好きって言ってくれたから…



2人で手を繋ぎながらホテルまでの道を歩いてる…

「デューク…」
「ん?」
「もう今日みたいに無謀なことしないでね…」
「え?なんで?未理が危ない目に遭ったら僕また助けるよ。」
「ダメだよ。今日はたまたま怪我も大したこと無かったから良かったけど…
もし私のせいでデュークがピアノ弾けなく無くなったら今度は私が悲しい…
私が悲しい思いしてもいいの?デューク?」
「え?やだ…」
「でしょ?私もこれからは気を付けるから…」
「うん…わかった…」
「ねえ…デューク…」
「ん?」

「もう一度…私だけが好きって…言って…」

思わずおねだりしてしまった…

「……未理………うん!未理だけが好き!」

ニッコリと満面の笑みでデュークは言ってくれた。

「私も……デュークの事好きよ…」

だからこれはそのお返し。

「……ホント?…うわ…もしかして初めて未理に好きって言ってもらえたかも?」
「え?そうだったかな?」

ホントそうだっけ?あんまりわからない…?
そう言えばあえて言ってなかった気もする…
だって自分の気持ちに自信無かったし…デュークの気持ちもわかってなかったから…

「僕嬉しい!」
「わっ!きゃっ!ちょっとデューク!!」

デュークがいきなり私を小さな子供を抱き上げるみたいに
脇の下に手を入れて抱き上げた!

「ちょっと…デュークやめてよ!恥ずかしいし…手の怪我にひびく!!」
「大丈夫!未理チビで軽いから!」
いくら言っても下ろそうとしない…もう……

「ははは ♪ ♪ 嬉しいなぁ…」

デュークはそう言って…しばらくの間私を抱き上げてた……


「……ねぇ…デューク…」
「ん?」

何だかんだと時間を掛けながら…やっとホテルに戻って
2人でシャワーを浴びて…今はベッドの中…
当然の様に2人共裸で…デュークはしっかりと私の上に当たり前の様に陣取ってる。

「あの…なるべくデュークの意向にはそいたいと思ってるけど…その…あの…
ちょっとは加減してくれる?私…そんなに体力無いし…無理な時もあると思うの…」

「…………」

デュークはちょっとビックリなのか…キョトンとした顔してる…
理解してもらえなかった……かな?

「うん。わかった!」

これまた子供みたいにニッコリと頷いてくれたけど…
本当にわかってくれたのか疑問だ…でも…

1つ1つ…こうやってデュークと決めていけばいいんだよね…
ちゃんと言葉にして…話せば良い事なんだもん……



「椎凪〜〜〜〜 ♪ ♪」

後ろの方からデュークがオレを呼ぶ声がして振り返った。
「おっと!」
相変わらず加減無しでオレに抱きついて止まる。

「会いたかったよ。」
「お帰り。デューク…未理ちゃんと仲良くやってる?」
「うん。未理がね僕の事好きって言ってくれたんだよ。へへ…僕嬉しくってさ!」
「そう!……そっか…良かったねデューク…」
「うん。僕すっごく嬉しいんだ。だから本当は未理にピアノ弾いてあげたいんだけどさ…」
「怪我…大丈夫なの?」
デュークの右手には包帯が撒かれてる…
「ああ…怪我はねたいした事無いんだけど無理しちゃダメだって未理と約束したから…」
「…?どうしたの?」
何だかちょっと溜息混じり?
「うーん…未理がねもう無理して助けなくていいって言うんだ…
でも僕そんな時は未理の事守りたい…」

「………じゃあ次からは足出せばいいよ。」

「え?」

「手よりも力入るしリーチも腕よりあるじゃん。」

「あ!そっか!!」

「ね?」

デュークがなるほど!と言った顔して…それからニッコリと嬉しそうに笑った。



「未理ちゃん年末は向こうに行ってデュークと一緒に過ごすんですって。
新年を2人で迎えるそうですよ…だから今仕事頑張ってますよ。」

「ホント?良かった上手くいってるんだ。」

デュークが帰国てもう2週間…
心配してた2人の関係は何気に上手く行ってるらしくオレ達は一安心。

「そう言えば未理ちゃん言ってましたよ。」
「え?」
「あれから椎凪さん見る目が変わったって。」
「は?」
「絶対椎凪さんは二重人格だって!赤ちゃん願望がある!って言ってました。」
「え?何それ?そりゃ耀くんに甘えたりはするけど赤ちゃん願望なんて無いよ!」
「まあ前から怪しいとは思ってましたけどね…ふふ…」
「あ!なに?その含み笑い!!慎二君がいつもの通りって言うから
オレと耀くんの甘ぁい生活を包み隠さず見せたんだろ!それなのにその態度はヒドイな。」

「調子に乗っていつも以上にベタベタしたんじゃないですか?僕はそこまで頼んでませんからね。」

「…………うっ…」

確かに…調子に乗ったのも無きにしも非ずで……

「まあそれでデューク達の仲が上手くいったんなら文句無いでしょ?」
「そりゃそうだけどさ…」


オレはちょっと納得できず……
『TAKERU』のオフィスの廊下で帰り際未理ちゃんと出くわした。
デュークの事も聞きたかったからオレの方から声を掛けた。

「あ!未理ちゃん!」



その時振り向いた未理ちゃんの引き攣った顔を…オレは一生忘れない……

デュークの初恋の為に犠牲にしたオレの信用は…(初めからあったかは疑問だけど…)

かなり大きな代償だった…………