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「ちょっと椎凪!」

朝ご飯の支度をしていた椎凪のオデコに有無を言わせず手を当てた。
「あ!」
「やっぱり熱がある!」
「………」
不意をつかれてオレにオデコを触られた椎凪がバツの悪そうな顔をした。
「まさか…無いよ。熱なんて…オレ病気なんてしないし…」
耀くんの腕を握って外し ながらそう言って誤魔化した…ヤベ…バレた…
「じゃあ熱!測ってみて!」
耀くんがオレの顔をジッと見つめてそう言った。耀くん…今日は手強い…

「38.7度…やっぱり凄い熱…」
「………」
耀くんが体温計を見つめて呟く…
チクショー…耀くんが出かけるまで知られない様にって思ってたのに…
どうせ今日休みだし…
「もー何してんの?朝の支度なんていいから寝ててよ!」
耀くんがオレの腕を引っ張る。
「え?大丈夫だから…本当平気だからさ…」
まいったな…こんな筈じゃ…
「平気じゃないだろっ!!ダメ!早く寝てよ!」
オレの部屋まで連れてこられた…
「本当に大丈夫なのに…」
ブツブツ言い続ける オレ…
「椎凪!!」
「…はい…」
大人しく従う事にした…
「もうどうして無理すんの?早く横になって!」
「え?…だって耀くんの為に朝ご飯作って あげたいんだもん…」
「もー調子悪い時は無理しなくていいよっ。ほら!椎凪!」
耀くんがベッドの用意をしてくれてオレに横になれって催促する…
「…ちぇ…」

……いっ!!……

椎凪が突然腰に巻いていたシーツを外した!オレの正面に立って!!
オレの心臓はドキドキ…椎凪ったら…ワザとやったな…

「……いい?ちゃんと寝ててよ。今薬持ってくるからさ…
オレ今日午前中で授業無いからすぐ帰って来るから。」
もう…オレ顔が…真っ赤だよ…きっと…
椎凪がキョトンとした顔してる…椎凪のせいなのに!!

授業が終わるとオレは急いで家に帰った。
そっと椎凪の部屋のドアを開けて中を覗く…
…あっ! もー椎凪ってば薬飲んで無いじゃんっ!!
朝渡した薬がそのまま部屋の机の上に置いてある…
「はぁ…はぁ…」
椎凪は眠ってるけど…ハァハァと荒い息ずかいが 聞える…椎凪…辛そう…

「椎凪…椎凪…」
「あ…耀…くん…おかえり…」
無理してニッコリ笑ってくれる…
「ごめんね…寝てる所…でも椎凪何で薬飲まないの?ダメだろ…」
小さな声で椎凪に話かけた。
「あ…ああ…ごめん…忘れて…た…」
「それだけ辛いんだろ?もー本当無理するんだから…」
オレは薬と飲み物をもってベッドに 腰を下ろした。
「はい!飲んで。」
「んーオレ薬なんて飲まないから…」
「椎凪!!だめ!!」
メッって顔で睨んだ。
「…うん…」
もの凄く… 渋々飲んでる…
「何か欲しい物ある?椎凪。」
「んー…大丈夫…ありがとう耀くん。ここにいるとうつっちゃうから向こう行ってて…」
そう言って優しく笑う 椎凪…

「やだ!ここに居る!だって…きっとオレのせいだもん。
椎凪疲れてるのにオレのご飯の支度…無理して作ってくれたから…
疲れが溜まっちゃったんだ!… ごめんね…椎凪…」

椎凪が腕を伸ばしてオレの頬に触れた…

「違うよ…耀くんのせいじゃないよ…堂本君が風邪ひいてて昨日ずっと一緒にいたから…
ごめんね…耀くんに心配かけちゃって…明日堂本君シメとくから…許して…」

真面目な顔でそう話す椎凪…
「いや…別に…シメなくても…」

でもきっと明日 椎凪はその堂本という人をシメるんだろうと確信出来た。

椎凪のオデコをタオルで冷やしてあげた…
オレはベッドに腕を乗せて…椎凪の顔をじっと見つめてる…
…椎凪…椎凪が病気なんて初めてだ…辛そうだし…オレ…すごく…心配…
ジワっと…涙が出て来た…目に溜まって…今にも零れそうだ…
椎凪が…感じ取ったのか… ゆっくりと目を開けてオレを見た…
「そんな…顔…しないで…耀くん…大丈夫だから…」
優しく…椎凪の指がオレの目に触れて…涙を拭ってくれる…
その手が… すごく熱い…
「…う…だって…」
オレの方がグズグズだ…
「ただの風邪だから…大丈夫だから…ね?」
きっと辛いのにまたニッコリと笑ってくれる…
「う…ん」
オレに伸びた椎凪の手を握って頬ずりをした…
本当に熱い…熱が高いんだ…どうしよう…

…くそー堂本…憶えてろよ…耀くんにこんなに心配かけ させやがって…
…熱の…せいかな…耀くんに甘えたくなっちゃったぞ…
そう思ったら無意識に…口走ってた…

「キスして…耀くん…」
「えっ!!」
椎凪…何言い出すんだろ…熱で頭おかしくなっちゃったの?え?え?
「キスしてくれたら…きっと早く治る…」
「ええっ!!」
耀くんが 思いっきり焦ってる…
「お願…い」
ニッコリ笑った…
「ほ…本当に…早く…治るの?」
顔を真っ赤にして…潤んだ瞳でオレを見つめながら耀くんがそう 聞いた…
「うん…治る…」
「本当…?」
「本当だよ…」
そう言ってる間もオレは親指で耀くんの唇を撫でていた…
「じゃ…じゃあ…早く …治るなら…」

そっと…椎凪の唇に…触れた…
柔らかい感触と…とっても熱い…椎凪の唇…
早く治るって…言われたからって言うのもあるけど…
椎凪との キスは…初めて…すごくドキドキして…
でも…変なんだ…
椎凪とのキスはこれが初めてのはずなのに…
もう何度も…してるみたいに思える…何でなんだろう…

その時…椎凪の腕が伸びて…オレの頭を強く押した。
「 !!…んっ… 」
ビックリして椎凪の手を掴んで離そうとしたけど…
後頭部と顔をしっかりと椎凪の手に 掴まれて動けなかった。
「 んっ…んっ…んっ…んんーっ…」
椎凪の舌が…すごく…強引に…オレを攻める…
「…あっ…ちょっと…椎…凪…ん…」
やっとの思いでチョットだけ唇を離した。
「ん…もっと…して…耀くん…」
ほとんど唇がくっ付きそうな距離で椎凪が囁く。
「もっと…って…だめ…やめ…て…」
そう言いながら拒む腕の力が抜けていく…キスってスゴイ…
「お願い…耀くん…」
オレはそのまま椎凪に頭と顔を掴まえられてるから椎凪の顔が…凄く…近い…
「お願い…」
椎凪の瞳が…熱のせいなのか…潤んでる様に見える…
オレは心臓がずっとドキドキしっぱなしだ…
「椎凪…熱い…」
「耀くんの…キスで…オレの熱…下げて…ちゅっ…」
「…ん…」
またキスされた…
息が出来なくて…恥ずかしくて…心臓がバクバク…凄い事になってる…椎凪…

…こんなチャンス…滅多に無い…
初めて…耀くん とキス出来てる…起きてる…耀くんと…
逃がす…もんか…このキスを…耀くんにとって…忘れられない…キスに…

オレは耀くんが逃げない様に…しっかりと 耀くんを掴んで離さないでいる…
「ん…」
耀くん…好きだよ…
耀くんは…オレにされるがまま…嫌がって…ない…嬉しいな…
嬉しくて…つい…余計な 事を考えてしまったらしい…後から後悔。
「汗かくと…もっと早く熱…下がるんだよ…」
誘うように耀くんに囁く。
「汗…?どうやって…?」
耀くんが真っ赤になりながら潤んだ瞳で聞き返してきた。
オレはもうその気になりまくってた…
「こうやって。」
耀くんを布団に引っ張り上げて抱きしめた。
「うわあ…ちょっとっ!!」
耀くんが暴れて叫んだ。もの凄い慌ててる。
「 椎凪のばかっ!! 」
  バ シ ッ !!
「 い っ て …!! 」

思いっきり頭を叩かれた…失敗…やりすぎたらしい…

…その後は警戒されたまにしかオレの部屋に来てくれなくなった…

このウサ晴らしを明日どんな風に堂本君に晴らそうか 重たい頭で真剣に考えていた。