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「じゃあ…おやすみ。耀くん。」
「うん。おやすみ…椎凪。」

ここはとある海辺の別荘。
今回椎凪のポスターの撮影で泊りがけで慎二さんと撮影スタッフで 来てるんだ。
撮影は明日。だから今夜はゆっくりして寝る所ってわけ。
椎凪がずっとオレの部屋にいたんだけど寝る事になったから自分の部屋に帰る所…

「寂しいなら一緒に寝てあげようか?」
椎凪がニッコリと笑って言う。
「だ…大丈夫だから…ありがと。」
丁重にお断りした。

あれから1時間…
耀くんの部屋の前で気配を伺うオレ…多分もう耀くんは眠ってるはず…
オレはそっと耀くんの部屋のドアの鍵穴に鍵を差し込んでゆっくりと回した。
…ん?何で鍵が あるかって?もちろん耀くんの目を盗んで持ち出したに決まってるじゃん。
耀くん絶対鍵閉めて寝ると思ってたから。
オレは静かにドアを開けて音がしない様に 後ろ手にドアをゆっくりと閉めた。

静かな部屋の中…ベッドを見ると耀くんが予想通り完璧に眠ってた。
可愛い寝顔…思わず微笑んじゃうよ…
「ギシッ」
ベッドに手をかける…慎重に耀くんに近づいた。
まあこれ位で耀くんが起きるわけないんだけどさ。
…耀くん…んーーーChu
耀くんの首筋にキスをした…
「…ん…」
耀くんの可愛い声が洩れる…でも…そのせいか寝返りをうって反対に向いちゃった…
ちぇ…でもいいもんオレは手を伸ばして耀くんの パジャマのボタンを上から2つほど外した。
パジャマをずらすと耀くんの肩から背中にかけて肌が露わになった…
「オレのもんだもん」
そう呟いて背中にキスを した。キスマーク付きで。
しばらく耀くんの首から背中にかけてキスしたり…舌を這わせたりして楽しい時間を過ごした。

「…ん?」
なんだ?なんか…変だ… そんな気がして目が覚めた。
「んん?何?え?」
オレの身体に腕がまわされてる…何?一体どうし…
「あっ!!椎凪?何で?何でここに椎凪がいるんだよ?鍵 かけてあったのに…」
オレの身体にしっかりと抱きついてる…
「ちょっ…と…椎凪!!何してんだよ?ここオレの部屋だよ。」
「んー…だってオレ…寂しく… なっちゃった…んだ…」
起き上がったオレに更に引っ付いてくる。
「ええ?うそばっかり…ほら…自分の部屋…行きなよ…」
「やだ…よ…お願い…一緒に…」
そう言って眠っちゃった…ホントに寝てんの?…なんか怪しいけど…
まあ…いいか…今怒るのもなんか…な…オレは諦めて椎凪と一緒に寝る事にした…

次の日の朝…
オレと耀くんは朝の海辺を散歩してる…
夕べはベッドから叩き出されもせず朝まで耀くんと一緒に寝れたからオレはすごく気分が良かった。
「んーいい気持ち。」
耀くんが 波打ち際で深呼吸をしながら伸びをする…そんな耀くんを微笑みながら見てるオレ…
まるで恋人同士だ…

「あ…」
耀くんがオレの視線に気がついて照れた顔をした。
オレは耀くんの 傍に近づいて…ゆっくりと顔を近付ける…
でも耀くんは逃げようとはしなかった…
やったね!夕べからの苦労が無駄にはならなかったって事だよな…

「好きだよ… 耀くん…」
耀くんもそっと目を閉じた…

「2人共ーー。朝食の用意出来ましたよーーー 」

って…絶妙なタイミングで慎二君の呼ぶ声がした。
あと…数ミリだったのに…
「あ!…はーい。」
耀くんがさっさと別荘にもどろうとしてる…
まったく慎二君ってば…どうしていつもグッドタイミングで邪魔してくれんのかね… はー…
オレはヨロヨロと耀くんの後を追って別荘への道を歩き出した。

「美味しかったぁ。」
耀くんが満足げに食後のコーヒーを飲みながら感想を述べた。
「椎凪さんもたまには人が作った料理食べるのもいいでしょ?」
「うん…美味しかった。」
「オレデザート貰ってくる。」
「あ…あそこにいる人に言えば貰えますよ。」
「うん。」
耀くんが嬉しそうに席を立った。
その時部屋のドアが開いて小学生くらいの男の子が一人入って来た。
「なんだ…もう食事終わっちゃったのか?」
なんだ?生意気そうなガキだな…
「あれ?圭太君?いらっしゃい。」
「誰?このガキ?」
「ガキじゃねーっ!!横永圭太。小学5年だ!ここの持ち主だぞっ!!」
「はぁ?」
「ええ…この別荘の持ち主の息子さんです。この場所に「TAKERU」の持ってる別荘無かったんで…
貸して頂いてるんですよ。」
ホテルで泊まるより 別荘を借りた方が仕事絡みだと都合がいいらしくそうなったらしい。
「何だよ。朝飯食いに来てやったのに。」
「まだ…あると思いますよ。」
「何?こいつ…?」
「暇な時は遊びに来いって言ってただろ?だから来てやったんじゃねーか!」
「ちょっと慎二君…この子に話つけてもいい?」
オレはがっしりと圭太の肩を掴んだ。
「何すんだよっ!!」
「椎凪。2人の分も貰ってきたよ。…ん?どうしたの椎凪?」
「ここの別荘の持ち主の息子さんで圭太君ですよ。望月耀君です。こっちが椎凪さんで…」
慎二君がオレ達を紹介してる時…圭太がジッと耀くんを見つめていた…そしていきなり…

… む ん ず っ !!
「 へっ? 」
「 !! 」
「 ん な っ !! 」

「へぇ…」
「 うわっ!!なっ…なにっ!! 」
耀くんがムネを押さえて慌てて後ろに逃げる。
圭太が両手で耀くんの胸を鷲掴みに掴んだから!!
「本当にムネねぇーや… 女かと思ったのに。」
 ── ゴ ッ !!
「いってぇ!!」
オレは思いっきり圭太の頭にゲンコツを叩き込んだ。

「何すんだよっ!!」
「何すんだじゃないっっ!!お前こそ何してんだっっ!!何耀くんの胸触ってんだっ!!」
オレは圭太の服を掴んで引っ張り上げた。
「し…し…い…な…こっ…子供の した…事…だから…さ 」
ショックでふらつきながら耀くんがオレに声をかける。
「そーですよ。大人気ない…」
慎二君がオレをなだめる様に圭太の服を掴んでる オレの腕を押さえた。
「何言ってんの2人共!!
オレだって耀くんの胸触ったこと無いんだぞっ!!ふざけんなっ!!オレを差し置いてっ!!」
オレはもの凄い勢い で叫んだ。

……… は ? …… 
3人の動きが止まった。

「なっ…何言ってるんですか?椎凪さん!!あなたが触った方が大問題ですよっ!!」
「なんでさ!!オレは全然0Kでしょ!」
当然と言う様に言い切るオレ。
「OKじゃ無いだろっ!!椎凪はっ!!」
「なんで?おかしいよっ!2人共っ!!」
「おかしいのは椎凪!!いいからその手放して…ほら…椎凪!!」

何だかんだと圭太はオレ達の傍から離れなかった。
家では一人でつまらないって言ってたから…
それに圭太は耀くんの事が気に入ったらしい。チョコチョコと纏わりついてる…
オレは気にしつつも相手は小学生だと渋々自分を納得させた。
撮影も始まったからオレには どうする事も出来なかったし…そんな2人が動いた。
圭太が耀くんの腕を引っ張りながら何処かに行こうとしてる…
「耀くん!!」
オレは慌てて声をかけた。
「椎凪。ちょっと出かけて来るね。大丈夫。すぐそこのお土産屋さんだから。」
耀くんが気が付いてオレにそう叫んだ。
オレは追いかける事も出来ず…仕方なく2人を見送った。
まあ小学生じゃ何かあるとは思えないし…確かホントすぐそこのお店だったよな…

「圭太!」
別荘から出て少しすると突然後ろから声を掛けられた。
「姉ちゃん!!」
「何やってんのよ? この人誰?」
圭太君のお姉さん?
「いいじゃん。ちょっとした知り合い。行こっ!!耀君。」
「え?ようくん?何?男の子なの?うそぉ!!」
「どうしたの? 真奈美?」
圭太君のお姉さんの後ろからもう一人女の子が現れた。
「この子男の子なんだって!うそみたいじゃん?ねぇ。」
「え?マジ?うそでしょ?可愛すぎじゃん。 ねぇホントに男なの?」
「…う…ん…」
「ほら…もう帰ろうぜ。撮影終わってるかもしれないし。」
「撮影?ああ…別荘に来てる人なんだ…?ねぇうちらに少し 付き合わない?
この辺案内してあげるよ。ねぇ?」
「うん。友達にも紹介したいしさ。こんな男の子なかなかいないもん。」
「いや…でも…」
どうしよう…なんか 断っても…納得してくれなさそうだった…

が ち ゃ 

「圭太?」
圭太が一人で戻って来た。
「圭太耀くんはどうしたんだよ?」
オレはすぐ圭太に 駆け寄って問い詰めた。
「おれの…姉ちゃんが…」
「は?」
「おれの姉ちゃんに…そこで会って…耀君…連れてっちゃった…」
「なっ…」
「おれダメって 言ったんだ…でも…聞いてくれなくて…耀君も無理矢理引っ張って連れてっちゃって…」
「どっちに行ったんだよ?」
「駅の方…姉ちゃん最近ガラの悪いのと付き合って るから…だからおれ…行かせたく無かったのに…」
「………」
圭太も…子供ながらに責任を感じてるらしい…
「大丈夫だよ。オレが耀くん連れ戻すから。」
「………」
圭太の頭に手を乗せてそう言ってやった。

「ね?可愛いでしょ?男には見えないよね。」
いつの間にか圭太君のお姉さんの友達と言う人達が集まって… 10人近くになっていた…
殆んど男の人…オレは余計動けなくなる…
椎凪!…心の中でそう叫んでた…携帯も置いて来ちゃったし…
「マジ女でも通用するんじゃね? あんた幾つだよ?俺らと同じくらいか?」
「………」
「何?照れてんの?可愛いねぇー…男でも俺あんたならいいな…なぁ?そう思うだろ?」
「……!!……」
帰らなきゃ…そう…帰るって…言わなきゃ…
「あ…あの…」
オレが言いかけた時…後ろから別の声でかき消された…
「テメーらここで何やってんだよ?邪魔なん ですけど?」

「やっ…離して…」
オレの腕を掴んで引き寄せられる…
「何だよ。いいじゃねーか。他の女も連れてくからさ。俺達と楽しもうぜ。」

圭太君のお姉さん達に絡んで来たのは前から何度かもめ事を起こしてるグループらしかった…
乱闘になって…圭太君のお姉さんの男友達はみんな殴られて…動けなくなってた…
どうしよう…オレ…このままこの人達に…

「おい!そいつらも連れてけ…」
 ……ゴ ッ !!
オレの腕を掴んでた男の人がいきなり…オレの後ろに飛んだ…
「え?」
「 ! 」
その場の空気が一瞬で変わる…
「 椎凪!! 」
いつの間にか椎凪がオレの傍に立っていた。
椎凪の伸ばした手が…オレを抱き寄せる…
「椎凪…どうして…?」
凄く…椎凪が…怒ってる…オレの声も聞えてないみたいだ…

「オレの耀くんに何しようとしてたんだ?」

「はぁ?何だテメェ…お前 この人数に一人で勝てると思ってんのかよ?
そいつらもやられちまったんだぞ…」
殴られて倒れてる人達を見渡して自信ありげに言う…確かに相手は10人…椎凪は一人だ…
「くすっ…くっ…くっ…」
椎凪が呆れた様に鼻で笑った…

「こんなガキ共と一緒にすんなよ…こいつらとはネンキが違うんだよ。」

「椎…凪…」
そう言うと椎凪はオレを自分の後ろに下がらせた。
「くす…くす…」
椎凪がずっと…小さく笑ってる…

あっという間の出来事だった…椎凪は一気に相手を 倒していった…
椎凪の手から…血が滴り落ちる…自分の血じゃない…殴り倒した…相手の血…
それを振り払って…ニッコリと椎凪が笑う…

「弱いなぁ… お前ら…くすくす…汗もかかないや…」
「…………」
圭太君のお姉さんと友達たちが驚いた顔でその光景を見つめてる…
オレも…初めて目にした光景で…黙って 見つめているしかなかった…
「お前が耀くん掴んでたんだよな。」
そう言って倒れている彼に近づくとオレを掴んでいた腕を持ち上げて…
背中を足で押さえながら無理 矢理上に引っ張り上げた…
「がっ…!!」
骨の軋む音がする…
「!!」
周りの誰もが驚いた…椎凪…腕を折る気だ…オレはそれに気が付いて…慌てて声を 掛けた。
「しっ…椎凪!やめて!!オレ平気だからっ!!椎凪っ!!お願いっ!!」
椎凪が小さな溜息をついて腕を離す…そしてオレの横を通り過ぎて行った…
「椎凪?」
倒れてる圭太君のお姉さんの友達の前まで来ると…
 ご っ !! 
「椎凪っ!!」
椎凪が倒れてる全員を殴りだした。
「お前ら耀くんを危険な 目に遭わせたからな…許さねーよ。」
静かな声で…でも…怒ってるのが伝わってくる…
「圭太の姉貴はどっちだ?」
椎凪が急に振り返って2人で立っている 女の子を見た。
そのうちの一人の身体がビクッと動いた。
「 え? 」
「お前か…」
スタスタとその子に近づいて行く…
「 きゃっ! 」
彼女の胸倉を掴んで引っ張った。
「椎凪!!」
「なっ…何よ…?」
「お前が耀くん無理矢理誘ったんだってな。」
「え?」
「オレはさお前の弟との デートは大目に見てやったんだよ…ガキだしそーそー危険な事は
ないだろうってさ…それも仕方なくだったんだぞ…
それをお前はさ…耀くんを無理矢理誘って連れまわして… こんな危ない目に遭わせたんだ…」
椎凪の声がどんどん冷たくなっていく…
「オレが来なかったら耀くんこいつらに何されてたか分かんなかっただろ?
お前らが どんな目に遭ったってオレには関係ないけどさ…
オレの耀くんに何かあったらお前ら全員…殺す!オレ本気だから…
女だろうが関係ない…もう二度と耀くんに近づくんじゃ ねーぞ。わかったな!!」
そう言って圭太君のお姉さんを思いっきり突き放した。
「もー椎凪…何脅してんの…もうやめて…」
椎凪の腕を掴んでそう言った。
「なんか…ごめんね…怖がらせちゃって…」
「………」
椎凪が黙って俯いてる…でも…次の瞬間…振り向いた椎凪は…
「さぁ 耀くん帰ろっ! 慎二君がケーキ用意して待ってるよ。」
もの凄い笑顔だ…!!
「椎…凪…?」
「 もー早く帰ろうよ。」
そう言ってオレを抱きしめる。
「もうオレの傍から離れちゃダメだよ。chu!」
耳元に囁かれて…耳にキスされた…
「…んっ…!!」
「じゃあね。君達。もう二度と会う事ないと思うけど。 元気でね。バイバーイ。」

椎凪が明るく…倒れてる彼等に手を振ってサッサとその場から離れて行った。

オレはさっきまでの心細さは無くなって…
喧嘩した椎凪を初めて見たけど…何だかホッとして…

椎凪にしがみつきながら…別荘へと帰って行った。