32





「何観たい?耀くん。」
「椎凪は?」
二人で映画館の入口で上映中の映画のポスターを眺めてる。

最近出来た大型のステラタウンに遊びに来た。
行き当たりばったりで映画を見ようって事になったんだけど何を観るかなんて決めなかったし
大体何を上映してるかも知らなかったんだよな。

「オレドロドロの 愛憎劇がいいかなぁ。」
椎凪が面白そうに言う。顔も笑ってる。
「えーオレやだよ…オレはこっちの推理物かアクション物がいいな。」
「どっちがいい?」
「…んー…じゃあこっちの推理物!って時間大分あるよ…」
前の上映が始まったばっかりで次の上映までに時間が大分あった。
「ちょうどいいじゃん少し廻って時間 つぶそう。」

何百って言うお店が並んでる。
オレと椎凪は主に雑貨関係のお店…二人で色違いのコーヒーカップを買った。

「ねぇ見てもいい?」

オレは 本屋を見つけて目を輝かせた。
「ダメ!」
思いっきり速攻でダメだしされた。
「え〜何で?椎凪のケチ〜!!」
「だって耀くん本屋入ると暫く出てこないんだもん。 時間無いから今はダメ!映画見終わったらね。」
「ぶ〜〜」
耀くんが可愛いく不貞腐れた。

「椎凪…」
「ん?」
映画館の席に座った時椎凪に声を掛けた。
「いい?絶対見てる間オレにキスしないでよ!」
「ヤだなしないよ。」
「ほんとだよ。約束ね!暗いとすぐキスするんだから…」

最近の椎凪はオレにキスばっかりする。
さっきだって不意をついて何度もキスされた。
周りの人に見られちゃうって言っても『耀くんが騒がなきゃバレないよ』ってまったく聞く耳を持たない
…嘘だ… 絶対バレてるもん…

オレ達は恋人同士なんかじゃない…だけどいつもキスをする…
この際椎凪の恋人宣言はほっといて何でオレが怒らないかって言うと……
自分でも良く分からない…別に嫌じゃないだけ。
椎凪はオレが優しいからだって言う…それも良く分からない…

隣の椎凪を気にしつつ映画が始まった。
途中心配してた事は無く無事に 見終わった。
それも何だか怪しいけど…

「椎凪は犯人分かってた?」
「まあね。」

「ほんとかな…!!…うっ…」

出口に向かう通路の角に追い込まれて 強引に口を塞がれた。
はたから見たら椎凪が一人で角に向かって立ってるとしか見えない。
オレは椎凪の身体に隠れてるから。

「…ン…アン…」

すごく… 激しく椎凪が舌を絡ませるから…また頭が真っ白になって変な声まで出ちゃった…

「刑事をバカにした罰。後はオアズケして我慢してた分。」
優しい眼差しだ… 見つめてたらホワンってなっちゃう…
「何でキスばっかりするの?変だよ…オレ達恋人同士でもないのに…」
自分でも矛盾してる事を言ってるのは分かってた…
オレが拒否すればいいんだ…椎凪に聞く事じゃないのに…
「それは耀くんがオレに優しいから。」
「オレ…が…?」
「そう。オレだけに優しいんだ。好きだよ。 耀くん。」

きっとオレは顔が真っ赤だ…自分でも分かる…駄目だ…
このまま椎凪の前にいたら椎凪に抱き着いちゃう…

「さ…さあてと…本屋に行こうっと。 さっき椎凪にダメだしされたから。いつもより粘ってやる!」
言いながら椎凪の脇を抜けた。
「いいよ。待つの得意。半年待ってるし。」
「え?」
「刑事だから待つの得意って言ったの。」
「うわ!イヤミ?」
言いながら振り向くと…椎凪が優しく微笑んでいつもと同じ様にオレを見つめて立っている。

        オレはそんな椎凪を見て安心して…本屋に向かって歩き出した。