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「んっ!んっ!んっーーー!うっ…あっ…」

「ちゅっ…ちゅっ…」
「し…椎凪っ!!」
「目覚めた?」

椎凪の…オレを起こすキスが…どんどん エスカレートしてくる…


「はーーー……」

ここは『TAKERU』のオフィス…
「どうしたの?寝不足?」
疲れモード全開のオレの溜息する姿をみて 社員の卯月さんがオレに声を掛けた。
「ううん…毎朝起きるのに…身の危険を感じて…」
「身の危険?何?そんなハードな目覚まし時計なの?」
ビックリした 様にオレに聞きなおす。
「え?…まぁ…ウン…ちょっと…ね…自分で起きれればいいんだけど…オレ朝どうしても苦手で…」
「あー私もダメ!でもその目覚まし時計 って絶対起きれる?」
「え?ああ…うん…起きないと危ないから…」
いろんな意味で…
「えーいいなぁ。使ってみたいなー…何処で売ってんの?それ。」
「いや…非売品…と言うか…一個だけって…言うか…」
「何?貰い物?」
「いや…その…何て言えばいいか…」
オレは言葉に詰まって…シドロモドロ…
「んー?」
卯月さんが不思議そうな顔してる…

…がちゃっ

「ダメですよ。卯月さん。それは耀君専用の目覚まし時計ですから。ね!耀君。」
慎二さんが飲み物を持って入って来てそう言った。
「え?そうなの?」
「うーーーー…」
返事に…困る…
「椎凪さんに毎朝キスで起こして貰ってるんだよねー 」
からかう様に慎二さんが笑いながら言った。
「えっ!!」
卯月さんがもの凄くビックリした声を出した。
「ちょっと慎二さんっ!!」
オレは顔が 真っ赤…
「えっ?えっ?ウソっ!!あなた達そう言う関係?」
「ちっ…違うよっ!!オレと椎凪はただの友達っ!!椎凪がふざけてするだけで…
オレは別に… それに…オレ達…男同士だし…」
「ふーん…」
ピーンと来ちゃったぁ…へー…そうなんだ…

「じゃあ椎凪さんが他の誰と付き合っても構わないのよね?」

「え?」

「前から紹介しろって言われてるのよね…知り合いで。」
「………え?…」
「そっか!じゃあさっそく椎凪さんに連絡しよーっと」

慎二さんがニコニコ笑いながらそのやり取りを眺めているのにオレは気が付かなかった…


それから何日かして…椎凪が食事のあと出かけるって言い出した…

「え?出かけるの?これから?」

そんな事…初めてかも…事件でさえ呼び出される事滅多に無いのに…

「うん。卯月ちゃんに呼ばれててさ。ゴメンネ。耀くん。」
そう言うと…椎凪はサッサと…出かけて行った…

別の日…
「おかえり…遅かった…ね…」
椎凪が事件でも…瑠惟さん達との飲み会でもないのに… 遅く帰って来た…
「ごめんね。卯月ちゃんに誘われちゃって…断れなくて…」
…申し訳なさそうな顔で椎凪は謝るけど…

なんか…気分悪い…変なの…
女の人…紹介してもらったのかな…2人っきりでお酒とか飲んで…さ…
椎凪…そう言う相手…上手そうだもんな…
最近…髪伸ばして…かっこ良くなってるし…もてるの… 仕方ないよな…
背も高いし…やさしいし…独身の男の人だし…

うまく…いってるのかな…卯月さんの…知り合いの人と…



「目…覚めた?」

椎凪がオレの顔を両手で挟んで覗き込む…
「んー…」
オレは眠い目を擦りながら返事をする…
椎凪は相変わらず毎朝起こしに来てくれる…でも…

最近椎凪は… オレに…キスしてこない…

「どうしたの?元気ない?」
部屋から出ようとした椎凪がオレを見てそう声を掛けてきた…
「何でも…ない…大丈夫…」

オレは強がりを言う…
本当は椎凪の事が気になってるのに…それで…気分が悪いのに…

「そう?」
「うん…」

「やっぱり耀くんはオレのキスが無いと元気 出ないんだよ。」

椎凪がベッドに腰を下ろして笑って言う…オレはドキッとして…慌てて
「ちっ…違うもんっ!!」
「じゃ…試してみる?きっと元気出るよ。」

ゆっくりと…椎凪の顔が…オレに近づいて来る…
「ち…がう…」
オレは追い詰められて…
「…ん…」

…ちゅっ…って優しくキスされた…

「オレが好き なのは耀くんだけだから…」
「え?」
「心配してたんでしょ?オレが他の子相手にしてるのかなって…くす…」
小さく椎凪が笑う…
「し…心配なんか… してないもん…」
「そう?それはそれで悲しいなぁ…」
オレの目を見つめながら椎凪が呟いた…
「うそばっかり…」
オレは椎凪を拒みもせず…椎凪を見つめてた…

「愛してるよ…」

椎凪がそう言いながら…そっとキスをする…何度も…何度も…

「オレは…愛してなんか…ん…ない…ん…」
「くすっ…分かってるよ…オレ… 耀くんの事は…全部…分かってるから…」

それから…長い時間…オレと椎凪は…ずっと…キスをしてた…

椎凪のキスは…本当に不思議で…
オレはその後から…重い気分がすっかり治って…朝からご飯をたくさん食べた。