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こんな時…どうしようかと考えるけど大体はオレは何もしないで成り行きを見守ってる。
普段にも増して耀くんは意固地になるからだ。
一定の距離を空けて同じ 歩調で後ろからついていく…耀くんの背中に視線を集中して。

背中に視線を感じる…椎凪はオレに話し掛けて来ない…
本当はもう…怒ってなんかいない… いつも怒っても何故か椎凪が傍に居てくれると
直ぐにそんな気持ちは何処かに行っちゃうんだ…何でだろ?
折角の旅行なのに…こんなの…つまんない…でも…
そう思っても椎凪から話し掛けて来ないし…オレからも話しかけ難い…
もー椎凪ったら…察してよね…

いつもオレは先に白旗を上げる…椎凪には仕方ないから 許してあげるって素振りをする。
本当は椎凪に触れたくて…椎凪の温もりを感じたくて…椎凪の声が聞きたいからなのに…

「お腹……空いた……」
耀くんが立ち止まってオレの方を見ずにそう言った。
いつもそうだ…怒っても耀くんから折れて来る…オレが傍にいない事に違和感を覚えるんだよね…
当然だよ…そう思ってくれる様にオレはいつも耀くんに接して…耀くんの傍にいるんだから…

「何が食べたい?」
言いながら耀くんの隣に歩いて追い越しながら 耀くんの手を握った。
「椎凪を探して歩き回ったからすっごくお腹空いた!だからお腹一杯食べれる所。」
ワザと拗ねて不貞腐れてる…可愛いなぁ…
「じゃあ ここの名産じゃないけどチョット行った所に大盛で出してくれるお店があるんだって。
値段は普通で。」
「ホント?じゃあ其処に行くっ!!!」
もう食べる気満々だ… 機嫌も直ったみたいで良かった。
「じゃあ行こっか。」
「うん。」
繋いだ手をギュッと握りあった…まだお互いの顔を見てないけど2人共笑ってるのは判る。

「ねえ…耀くん…」
「なに?」
「愛してるよ。」
「……!……オレは…愛してなんかないよ!」
ちょっとの間があって耀くんはそう言った…
愛してないって 言うのを少し考えたんだ…本当はオレの事愛してるから…
「そう?」
「そうだよ。」
見なくても判る…耀くんの顔が真っ赤だって…
「そっか…でもオレは 耀くんの事愛してる…」

その言葉に返事は無かったけど…オレはいつも満足してて…満たされてる…
でも…そろそろそんな関係も考えなくちゃいけないかな…と …オレは思い始めていた。

「はぁ…気持ちいい…」
あの後夕方まで色々な所を見て廻った…
夕食も済んで露天風呂の淵に凭れ掛かってぼんやりと夜空を 見上げながらのんびりと湯船に
浸かってると言うわけ。
耀くんは仕方なくオレが折れて入浴中は部屋から出てた…昼間の事もあったからホント仕方なくだ。
「気持ち良さそうだね…椎凪。」
「うん…最高。」
少し離れた所で耀くんの声がした…警戒して傍に来ない…ちぇっ…つまんない。
「 ザ バ ッ !! 」
「 !!! 」
おもむろに湯船から立ち上がって耀くんの方を向いた。
「なっ!!いきなり何してんの?椎凪!?」
慌ててオレに背を向けて逃げ様とする耀くんを 後ろから抱きついて捕まえた。
「耀くんも一緒に入ろう。」
「 えっ!?う…ウソでしょ?やだよっ!!入らないってばっ!!やめっ…」
「どうして?一緒に 入ろうよ。もう明日は帰るんだよ。記念に一緒に入ろう。」
もがく耀くんを両腕でしっかりと抱き込んだ。
「…あっ…あっ…ちょっ…うわっ!!」
思いっきり 2人で背中から湯船に突っ込んだ。
「 わっぷ…もー!!椎凪っ!!」
浴衣のままお湯に浸かった耀くんが慌ててる。
「やだなぁ…耀くんが照れるから。」
「ちがうだろっ!!もー椎凪は…」
そう文句を言いながら耀くんが立ち上がった。
「 わぁお!! 」
思わず歓声を上げてしまった。
「え?……あっ!!」
ザ バ ッ !!
耀くんが気付いて慌ててまた湯船にしゃがみ込んだ。
立ち上がった耀くんは浴衣が濡れて身体の線が思いっきりわかって…
胸元も腿も露わになってて色っぽかったんだ…
なのに惜しい…
「本ーー当!椎凪のバカッ!!」
「ごめんね。」
「もーこのまま入ってるからね!」
「はは… いいよ別に。」
裸のオレに浴衣姿の耀くんが並んで湯舟に浸かってる。
しかも二人して夜空を見上げて…なんとも不思議な光景だ。
「……綺麗だね椎凪。」
「うん…満月かな?」
「ふわぁ…何だか和む。お風呂に入りながらお月見なんて初めてだよ。」
「オレも初めてだよ。」
「普通そっか…ふふ…」
無理矢理 お風呂に引っ張り込んだのに耀くんはさほど怒りもしないでお月見を堪能してる…
そんな耀くんをジッと見つめた。
「椎凪?…あ…ん…」
そっと近付いて…初めて お風呂で耀くんとキスをした。
激しく舌を絡ませる度に湯舟が揺れて小さく水の跳ねる音がする。
「…ん…椎凪…やめ…」
遠慮がちに耀くんがオレの身体を押し 戻す…裸だから焦ってるのか?
「んー…もう少し…」
そう言いながら唇を放さなかった…
「し…いな…ん…」
軽く目を閉じて…オレの名前を呼びながらオレと 深い深いキスを交わす耀くんが…
可愛いったらありゃしない…ふふ…
「 ちゅっ!ちゅっ!ちゅっ! 」
思いっきり舌を絡ませたキスの後触れるだけの軽いキスを 繰り返した。
「エヘッ…」
嬉しくて思わず微笑んでしまった。
「椎凪…」
耀くんがハニカミながらオレの名前を呼んだ。
「耀くん…」
オレも呼び 返す…あれ?グググって…水面からゆっくりと拳が現れた。え?
「… し い なぁぁぁ……」
「え?」
「やり過ぎだろっ!!!」
ゴ キ ッ !!
「イテッ! 」
思いっきり頭をゲンコツで殴られた…耀くんには加減が難しい…

「ベッドに入らないで!」
「えーじゃあオレ何処で寝るの?」
「床があるだろ! 畳だってあるよ。」
「耀くん!」
「ふん!」
そう言うと耀くんはオレに背を向けて寝てしまった…オレは仕方無く床に座ってベッドにもたれ掛かった…
「耀くん許してよ…耀くーん…耀くーん…」
椎凪がまたイジケモードになった。
ほとんどの場合オレが椎凪をイジケさせてるんだけど…いつもの事でまたオレが白旗 を上げる事になる。
「いやらしい事しないって約束するなら寝てもいいよ。」
「しないっ!!約束する!」
椎凪がベッドの端からヒョッコリと顔を出して潤んだ 瞳でニッコリと笑った。
半ベソだったの…椎凪…相変わらず直ぐ泣くんだから…椎凪はオレに怒られるとすぐ涙ぐむ…
25歳だろ?椎凪……
「へへ…」
嬉しそうに椎凪が笑ってオレの左側に潜り込んだ。
定番の場所…いつも一緒に寝る時は椎凪が左側でオレが右側。
「オレの事怒って無い?」
「怒って無いよ。」
「オレの事嫌いじゃ無い?」
「嫌いじゃ無いよ。」
いつものセリフ…時々不安になる椎凪はそうやってオレに確かめる。
「好きだよ…耀くん…」
「……!……おやすみ…椎凪…」
「…!……おやすみ…耀くん…」

耀くんはオレの『好き』に答えてくれた事は無い…いつもそうだ…
でもいつか…耀くんが オレの事『好き』って言ってくれるって信じてる…
だから今は…この状況でもオレは満足してる…

椎凪がオレの隣で…眠ってる…椎凪の寝息が聞えるくらい近くで 眠ってる…
椎凪はあったかい…オレを抱きかかえて…椎凪の身体でスッポリと包み込んで眠ってくれる…
祐輔とは違くて…甘えて眠る事が出来るんだ…
昨日から… 怒ってばっかりでごめんね…椎凪…
だって…そうしていないとつい…言っちゃいけない言葉を言いそうになるから…
椎凪があんまりにも積極的で…オレはそんな椎凪に 負けそうになる…
でも…オレは今のままでいいから…
このまま…椎凪と友達でいれれば…それでいいんだ…
だから…椎凪が望む言葉は…言ってあげられない…
ごめんね… 本当にごめんね…椎凪…
友達なら…いつかオレの事嫌いになっても…きっと…オレは耐えられるから…
椎凪がオレの傍からいなくなっても…きっと…

耀くんが ぐっすり眠ってる…オレはまた眠ってる耀くんの身体でチョットだけ遊ぶ…
だってもう耀くんはオレのものだから…誰にも触らせたりするもんか…全部…オレのもの…
一緒に眠るのに耀くんはサラシを巻いて無い…だからついついそれに便乗してしまう。
耀くんの首筋に顔をうずめて…両手でしっかりと耀くんを抱きかかえた…
柔らかくて… あったかくて…オレに安心をくれる…唯一人の人…
そのまま耀くんの胸に頭を乗せた…耀くんの心臓の音が『トクン…トクン…』って聞える…
それが心地良くて… 子守唄みたい……だ……

「…ん…うー…おっ…重い…」
胸が苦しくて目が覚めた…なんで?
「……って!!椎凪っ!!なんて格好で寝てるんだよっ!!!」
起きて目を開けた目の前に椎凪の頭があった!!
しっかりオレの両足の間に入り込んで…しかも……浴衣の前が思いっきり左右に肌蹴てる…
胸がっ…胸がっ…露わになってて…
そのオレの胸の上で…椎凪が気持ち良さそうに眠ってる?!
「もーーーーっっ!!椎凪のバカッ!!変態っ!!スケベっ!!大っ嫌いだぁーーーっっ!!」
ゲ シ ッ !!
「 ぎゃんっ!!」

           眠ったまま…オレは思いっきりベッドから蹴り落とされた!!