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「あれ?」
いつもより遅く仕事から帰ると耀くんの部屋のドアが少し開いていた。
「耀くん?」
部屋に居るのも珍しいけどドアが開いてるのも珍しい。
そっと様子を伺いながら中を覗くと耀くんがベッドの上でパジャマ姿で仰向けで眠ってた。
「あらま…」
癖なのか耀くんは仰向けに寝ると両手を顔の横に上げて眠る。
その格好が赤ちゃんみたいでこれまた可愛い。
オレはそっとベッドに上がると耀くんに馬乗りする様に身体を跨いだ。
膝と手を着いてジィ…と寝顔の耀くんを 見下ろした。

「ホント可愛いな…」

そう呟いて優しく頬に触れる。
親指で耀くんの柔らかくて暖かい唇を撫でた。
「起きないよね…」
最近じゃ 目が覚めてもあんまり慌てないんじゃないかと自分では思うんだけど…
だってキスしても耀くん怒らないし…どうみてももう一押しとみた。
そんな思い込みと 耀くんの無防備な寝顔でオレは緊張の糸を緩めてしまった…

「……耀くん…ん…」

ゆっくりと耀くんに覆いかぶさって唇を重ねた。
無抵抗な耀くんの口をオレの 舌で簡単に押し開けて舌を絡めた。
「……ンッ…」
耀くんが甘い声を出してちょっと動いた。
いつもならここで我慢して引いたんだけど…何故か今日は引く事が 出来なくて…
思わず耀くんの身体の下から腕を差し込んで抱きしめてしまった。
そのまま首筋に唇を押し付ける…柔らかくて暖かくて好い匂いがする…

「…耀くん…好きだよ…早くオレのものに…オレだけのものになって…
オレの事好きって言って…お願い…」

搾り出す様に呟いてもう一度眠ってる耀くんにキスをした…
つい気持ちが篭って何も考えず深くて大胆なキスを延々と続けてしまった。


「……!?…ン?」

当然の如く耀くんが気付いて目を覚ました…らしい…
オレは気付かずと言うか耀くんが起きるって言う事も頭から消えてた。

「…し…い…んっ…うっ…ちょっ…」

耀くんが抵抗してるのも気にしない…
身体の下から廻した腕に力を込めて耀くんを掴まえた。

「…ちょっと…椎凪ふざけてるの?…椎凪…聞いてる?椎凪っ!!」

耀くんの言葉なんか耳に入らない… パジャマのボタンを何個か外す…
そのまま肩から脱がしにかかった。
自分では本当に無意識で身体が勝手に動いてた…だって…オレその時の記憶が無いから…

「………あっ!!……」

暴れる耀くんの腕をベッドに押さえ付けた。
「…耀くん…」
首筋から鎖骨に唇を押し付けた…誰も触ってない…オレだけの耀くんの身体…

「あっ…あっ!!やっ…いやぁっっ!!椎凪やめてっ!!いやだっ!!椎凪っ!!」

叫びにも似た耀くんの声でハッと我に返った…

「…え?……??」

オレ… 何してたんだ??

「…………」
「…耀…くん…?」
マジで記憶が無い…オレの身体の下で耀くんがオレを睨んでる…瞳に涙を一杯溜めて…
「耀くん…オレ…」
見れば耀くんの胸はパジャマが肌蹴て素肌が半分見えてる…
サラシを巻いて無い胸がオレの目に飛び込んで来た。

「あ…ごめん…オレ…」
一瞬で全てを理解した。

オレ…無理矢理耀くんを抱こうとしたんだ…眠ってる耀くんを無理矢理…
オレを下から見上げてる耀くんの瞳から涙が零れ落ちた。

「 !! 」

耀くんがパジャマの 前を押さえながら起き上がる…オレは無言で後ろに下がった…

「………耀…くん…」

そっと耀くんに向かって手を伸ばした…その瞬間耀くんは見て分かるほどに
身体 をビクリとさせてオレの伸ばした手から後ろに遠のいた。

「……………」

オレは何も言えず…伸ばした手を引っ込めて強く握りしめる事しか出来なかった…
…オレ……オレ…耀くんを傷つけたんだ…

「ごめん…」

言いながらベッドから降りた…そのままドアの方へ歩いて行く。
「ごめん…本当にごめんね…耀くん…」
耀くんの部屋のドアの前でもう一度振り返ってそう言った。

「…………」

耀くんは無言で…オレの方を見てもくれなかった…
相変わらずパジャマの前をギュッと握り 締めて手の甲で涙を拭いてた…
オレは黙って…静かに耀くんの部屋のドアを閉めた。



「!!……椎凪?」

椎凪が部屋から出て行くと玄関の鍵を開ける 音とドアの閉まる音がしてハッとなった。
オレは急いで洋服に着替えると夜道をひたすら走った。
着替える時間ももどかしくて…早く椎凪を追い駆けなきゃって 焦ってた。

「もー何処行っちゃったの…椎凪…」

大分走ったのに椎凪の姿が見当たらない…そんなに遅れて出たとは思えないのに…

椎凪があんな事するなんて きっと何かあったんだ…いつもいつもオレに優しかった椎凪…
その椎凪がオレにあんな事するなんて絶対におかしいもん。
いつのも冗談とか悪ふざけとかじゃなかった… オレの腕を掴んでたのだって凄い力だったし…
オレの言葉なんか全然耳に入ってなかったみたいだったし…
いつものニッコリと笑う椎凪の顔が頭に浮かんだ…
きっと今頃落ち込んでるだろうな…椎凪…オレ睨んじゃったし…返事しなかったし…泣いちゃったし…
そんな事を思いつつ探し続けた…変な事考えてなきゃいいけど…


「もー…何処にいるんだろ…」
ふと薄暗い小さな公園のベンチに座ってる人影が目に入った。
「椎凪…」
やっと見つけた…ゆっくり近付いて声を掛けた。
両手で覆っていた顔をゆっくりと持ち上げてオレを見る。

「…耀くん…」

目を真っ赤に腫らした椎凪がオレを見上げてる。
やっぱり泣いてた…もー…椎凪は…

「探しただろ…」
ちょっと怒った口調になちゃった…だって本当に心配で…焦ってたから。
「探してくれたの?オレの事怒ってるのに?」
子供みたいな言い方と顔だ…
「別に怒ってないよ…ただ怖かっただけ…椎凪すごく強引だったから…
でも椎凪の事が心配だったからそれ所じゃ無くなちゃって…」
「怒って…ないの?」
椎凪の顔がチョットだけ明るくなった。わかり易い…
「だって…目が覚めたらいきなりオレの事抱こうとしてるし…やめてって言ってるのにやめてくれないし…
怖く なっても仕方ないだろ?」
椎凪がベンチから立ち上がってオレの前に立った。
もの凄い不安げな顔でオレを見下ろしてる。

「何か…あったの?」

優しく聞いた。

「ごめんね…怖がらせちゃって…だって…耀くんの寝顔見てたら可愛くって可愛くって
自分でも押さえ切れなくなちゃって…身体が勝手に…」

はぁ?
…その時を思い出す かの様に椎凪が目を瞑って…何気に頬赤くして握り拳まで作ってる…

「な…何か仕事とかであったんじゃなくって?」
呆れながら聞いた。
「無いよ!オレ仕事で 悩みなんて無いもん。」
「あー…そうなの?」
至って軽く返事された…そうだよな…椎凪が仕事で悩みなんて…あるわけ無いよな…
はは…心配して損した…!!
オレは心の中でそんな事を呟いてた。

「…耀くん…」
「ん?」
椎凪がまた困った様な顔でオレを見てる。

「耀くんの事…抱きしめてもいい?」

「!…え?」

初めてそんな事聞かれた。
今までオレに承諾無しで散々抱きしめてたのに…
今日の事がどんなに椎凪にショックを与えたか認識した瞬間だった。

「うん。いいよ。」
オレはニッコリと笑って椎凪に返事をした。
本当に怒ってる訳じゃなかったし逆に落ち込んでる椎凪の方が心配になったから。
オレって何処 まで椎凪に甘いんだろう…
「ありがとう…」
椎凪がギュッと目を瞑って涙を堪えながらそう呟いた。

ゆっくりと椎凪がオレを抱きしめていく…
いつもと同じ 様に椎凪の大きくて暖かい胸がオレの視界を一杯にしていく…
オレの方がホッとして…安心しちゃう…椎凪ってばズルイなぁ…
でも今夜の椎凪はちょっと違ってた。
オレを抱きしめながら震えてる…震えながら徐々に両腕の力が篭ってくる。
「椎凪?」
どうしたんだろうって思って…椎凪に声を掛けた。

「もう…耀くんに 嫌われたかと思った…だからもう…耀くんには会えないって…思って…怖かった…
ごめんね…耀くん…本当にごめんなさい…オレの事…許して…もう二度とあんな事 しないから…」

オレの頭に頬ずりしながら椎凪はそう言った…

「うん…怒ってないし嫌いにもならないから安心して…椎凪…」

思わずそんな言葉が零れる… それだけ椎凪が痛々しかったから…

耀くんを抱きしめながら癒されて…今日の事を反省した。
耀くんにはまだ…オレに抱かれる気持ちの準備はないんだ…
でも…自分でもわかってる…もう限界なんだって…こんな関係も終わりにしなきゃいけない。
もう自分を押さえる自信が無い…
ねぇ…耀くん…そろそろオレを受け 入れて…オレの事好きだって認めてよ…お願いだから…

じゃないと…オレ…


そんな事を思いつつとりあえず今は耀くんの優しさをじっくりと堪能して癒してもらう事にしよう…

傷つけて…しかも夜道を1人で歩かせたなんてもう二度とそんな事 させたくない…

抱きしめた耀くんに更に頬ずりをして甘えさせてもらった。
耀くんはじっとオレのされるがままに抱きしめられてる…
出来ればこのまま耀くんが オレを好きって言ってくれないかな…
なんて微かな希望を抱きつつ…

普段よりハッキリと見える星空をしばらく2人で眺めていた…