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その時は何のまえぶれもなくやってきた。

いつもの風景。
夕食の後椎凪とコーヒーを飲んでくつろいでいた…
「もーすぐ一緒に暮らし始めて半年になるね。」
ニコニコしながら椎凪が話す。
「もうそんなになるの?暮らし始めたんじゃなくて下宿し始めたのだろ…」
オレはすぐに訂正を入れる事を忘れない。
「ねえ…耀くん…」 
椎凪が改まった言い方をしてオレを呼んだ。
「ん?」
「オレはさ…耀くんの事が好きだよ。」
何百回…いや何千回と聞いたセリフ…
「耀くんはオレの事好き?」
珍しく椎凪がオレに答えを求めた…いつもは一方的に言うだけなのに…
「だっ…だからいつも言ってるだろ…」
ワザとらしく 目を背けて言う。
「友達として…好きだよ…恋人としてじゃ…無くてさ…」
これもいつものセリフ…この後いつもなら椎凪がめげずにまた好きだと言ってくるハズ…
「それはさ…永遠に恋人になる事はないの?」
「え?」
初めてそんな事聞かれた…
「ずっと友達のまま?」 
椎凪は静かにオレに聞き返した…
「…そっ …そうだよ…オレ誰とも付き合わないもん…そう…決めてるんだ…」
いつもと違う沈黙が流れる…何だか変な雰囲気だった…
「そっか…」 
椎凪が寂しそうに 微笑みながら優しく言った…
どうしたんだろ…椎凪がいつもと違って見えた気がした…

次の日の朝確かに変だった。
オレを起こしに来た椎凪が普通にオレを 起こしたからだ…まあオレもすぐ起きたからかもしれないけど…
玄関まで椎凪が見送ってくれる。いつもと同じ光景……の…はずだった…

「じゃあ…行ってきます。」
「うん。 あっ!耀くん。」
「ん?」

「オレ…今日出て行くから…ちょうど休みだしさ急でゴメンネ…でも…そう決めたから…」

「 えっ?! 」
今…椎凪…何て言った…の…?
「今日…出て行く…」
「えっ?うそっ!?どうして?何で急にそんなっ…」
訳がわからずとっさに椎凪の両腕を掴んでた。
オレの心臓がドキドキいい始めた…何?何が起こってるの?
「オレは…耀くんとは友達になれないから…」
そう言ってオレが掴んだ手を優しく椎凪が外していく…
「え…?」
「オレは耀くんと恋人同士になりたいんだ…でも耀くんは違う…恋人には絶対ならないって…」 
寂しそうに目を伏せて椎凪が続ける…
「だったらオレ無理だから… 友達じゃ我慢できない…だから…一緒にいれない…
このままいたらきっと耀くんを傷付けるから…だから…出てく…」
身動きも出来ないままじっと椎凪の話を聞いていた…

「耀くんとも…もう…会わない…」
「え?な…なんで?」
身体が震える…心臓がさっきよりドキドキいってる…いつの間にかギュっと手を強く握りしめていた…
何… 言ってる…の?椎凪…オレ…わかんない…わかんないよっ!!
「これから先…オレは友達のフリは出来ないから…何事も無かったみたいにはいられない…」
椎凪の言葉が… 聞きたくないのに勝手に頭に入ってくる…
「だから…もう…会わない方がいいんだ…」
何て言ってるのか分からないよっ!!椎凪っ!!
「本当に急でごめん…でも… 早い方がいいと思って…耀くんが帰って来るまでには出とくから…
もう…会うこと…無いと思うけど…今までありがとう…耀くん元気でね…」
椎凪が辛そうな顔で…それでも 無理して…ニッコリと笑ってそう言った。

どうやって玄関から出たのかも覚えてない…
どうやって大学まで歩いて行ったのかも覚えてない…
一体…何があったの… 椎凪が…出て行く?って…言った?
そう…オレとも…もう会わないって…言った…どうして…どうしてそんな…
オレの傍にいるって…ずっと一緒にいるって…言ってたのに…どうして…
はっ!
あ…オレ…何言って… オレが椎凪を拒絶してたくせに…
ずっと…好きじゃないって…言ってたのオレなのに…
椎凪が出て行くって…オレと一緒にいれないって…当たり前なのに…
オレ…何言ってるんだろ…

椎凪はずっとオレの傍にいるって思い込んでたから…
椎凪を…あてにして…甘えて…椎凪の気持ち…本気だって…わかってたのに…

          オレは泣きたいくらい辛かったのに…何故か涙が出てこなかった…