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玄関のドアを開けるとどこか違った所に帰って来た様な感覚だった…
椎凪が休みの日は大学まで必ずオレを迎えに来てくれてた…
そのまま2人でブラブラして夕飯の 買い物をして…このデザートが美味しいとか…
これは新作なんだよ…とか…オレの好きなもの選んでくれてた…

静か過ぎる部屋…

椎凪の部屋を開けた…
もともと荷物は洋服ぐらいだったけど…いつもと違う静けさが漂う椎凪の部屋…
まさか…こんな風に椎凪との生活が終わるなんて思ってもみなかった…
ろくに サヨナラも出来なかった……

我慢しても…我慢しても…涙が次から次へと溢れてくる…椎凪…

もうどの位こうしてるんだろう…リビングのソファにずっと座ってる…
オレが右側…椎凪が左側…いつもそうだった…でも今は…椎凪はいない…
誰も…何の音もしない…オレ一人なんだと…改めて思った…

「耀…」
誰かがオレを呼んだ…
「祐…輔…?」
見上げるといつの間にか祐輔が立ってた…ここの鍵を持ってるから勝手に入れるんだ…
「どうしたんだよ…大学も来ねーし…携帯も 出ねーし…」
大学…?え?…ああ…どうやらオレは昨日からずっとソファに座り続けてたらしい…
いつの間にか夜が明けて大学に行く時間になったのに気がつか なっかた…
連絡もしないで休んだから祐輔が心配して来てくれたんだ…
「椎凪が…椎凪が出て行っちゃた…!!」
オレは泣きながら叫ぶと祐輔にしがみついた…
「オレとは… 友達には…なれないって…オレとはもう…会わないって…元気でねって…うっ…」
また…涙が…溢れて…止まらなくなった…

…一週間前の仕事帰り…
耀くんには ナイショで祐輔と慎二君を喫茶店に呼び出した。
大事な話をするためだ。

「出てく?」
「うん。」
「やっと諦めたか。ったく…しぶとかったなっ!」
タバコを吸いながらヤレヤレといった感じで祐輔が呟いた。
「フリ!するだけだからっ!!」
冗談にも思えない祐輔の素振りだ…まったく…
「耀くんがあんなに意地っ張りだとは計算外だったよ。」
腕組みをしてしみじみと言った。
「もう半年待った。お互いの気持ちも十分確かめ合ったからハッキリさせる。ショック療法!」
「でもそのまま本当に別れるって 事もありますけどね。」
慎二君がにこやかに笑いながらそんな事を言う。
「ないからっ!!慎二君!怖い事言わないでっ!」
即訂正を入れた。
「きっと耀くん凄いショック受けると 思うんだ…だからその時は2人に耀くんの事頼みたいんだ…」
とにかく耀くんの事が心配だった…想像するだけでその時の耀くんが手に取るように分かる…
「いいぜ!まかせろ。別れる様にアドバイスしといてやる。なあ…慎二。」
意地悪そうにオレを見て祐輔が言う。
「うん。」
これまた楽しそうにうなずく慎二君。
「だからそれ心配なのっっ!!本当にやるつもりだろっっ!!2人共絶対止めてよねっ!!」

オレは2人を指差して厳重に 注意して余計な事はしないって…オレの邪魔はしないって約束させた。


まったく椎凪のヤツ…こんなに泣いた耀を見たのは久しぶりだ…
オレに自分の事を話して くれた時もこんな風に泣いてたっけ…

「椎凪がいないのがそんなに辛いのか?」
「祐…輔…」
耀がちょっと驚いた様な顔でオレを見上げた。
「だったら…」
耀の顔をそっと持ち上げて話しかける…
「もう…お前の答え出てんじゃねーか…バカだなこんなに泣いて…」
両手で零れまくってる耀の涙を拭いてやった… まったくあいつの為にこんなに泣きやがって…
「もう意地張るのやめろ。」
「でも…オレ…うっ…きっと椎凪に迷惑かける…そしたら…ヒック…嫌われちゃう…」
泣きながらやっと喋ってる…
「誰も迷惑なんて思わねーよ。オレも…慎二も…椎凪も…何があっても耀の事嫌いになんか
ならねーから…」
いつまでも泣き じゃくる耀をそっと抱きしめた。
「椎凪なら大丈夫だから…絶対耀の事守ってくれる…お前の全部受け止めてくれる…」
「祐輔…」
「オレの耀を預ける んだから…オレが認めた奴じゃなきゃ誰が渡すか…
そのオレがあいつなら大丈夫って言ってんだぞ?それでもダメか?」
「本当…うー…?本当に平気…うっく …かな?椎凪…オレの事…嫌いになったりしないかな…」
アイツの為にそんな顔すんなよ…そんなに好きなのか?
「大丈夫だよ。あいつ耀がいないと 生きていけないんだから。」
ホントこのまま死んじまえばいいのに…本心でそう思った。

耀の額に優しくキスをしながら複雑な気分だった…耀が…オレ達以外の…人のものになる…
そんな手伝いを…オレがしてやってると 思うと何故か無性に腹が立って来た。
…クソッ…椎凪の野郎…一生オレに感謝しやがれっ!!

     オレはやっと泣き止み始めた耀を暫く抱きしめていた…