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 携帯電話の液晶画面をジッと見つめる…オレと耀くんのツーショット。
 最近撮ったものだから耀くんを後ろから抱きしめて2人で笑ってる。
 前は何気に耀くんが ヨソヨソしかったから…でも今は違う。
 そんな携帯を眺めつつ顔がニヤける。
 仕方ないよね…やっと『好き』って言ってもらえたんだし…
 それに…やっと 耀くんを抱ける様になったし…フフ…余計顔がニヤける。
 だからオレは今スッゴク幸せ。
 でも困った事に朝のキスや行ってきますのキスでもそのまま押し倒して
 耀くんを抱きたい衝動が湧き上がってくる…マズイよなぁ…
 だから…絶対仕事早く終わらせて1分1秒でも早く家に帰るっ!!!
 オレはそう決心したっ!!

 「堂本君。」
 これから犯人逮捕に向かうと言う時…
 車に乗り込む直前に椎凪さんに声を掛けられて振り返る。
 「はい?」
 何だ?ちょっと緊張気味の俺は思わずドキドキで 返事をした。
 「あのさ…」
 何だ?椎凪さんが改まった様に俺を見つめて肩に手を掛けた…
 何かアドバイスでも…?俺そんなに緊張してるかな?
 「オレさ…前にも増して早く家に帰りたいわけ…だから…」
 「はぁ……」
 何の事言ってんだ?ってか…ちょっと顔近いんですけど…
 何故か心臓がドキドキ いい出した…何でだ???

 「この後ドジるんじゃねーぞっっ!!ドジッたら殺すっ!!いいな?」

 「ええっっ!!」
 もの凄い殺気の篭った顔で言われたぁっっ!!  目も据わってるし…
 俺の両肩に置かれた椎凪さんの手に力が篭って指が食い込むっ!!痛いっっ!!
 しかも…凄いプレッシャーなんですけどぉっっ!!


 「かんぱーい!!」
 瑠惟さんがニコニコの顔でグラスを掲げて乾杯の音頭をとる。
 「あー事件のカタついた後のビールはおいしいーっ!!」
 そう言って ゴクゴクとビールを飲み干していく。
 な…何でこんな事に…?早く帰るはずが…何でオレこんな所に座ってんだ???
 もうオレは失意のどん底で眩暈までする。
 「何よっ!暗いわね?椎凪!!」
 瑠惟さんがオレの事なんてお構い無しに陽気にオレの肩をバシバシと叩きながら話し掛けてくる。
 オレはその反動で身体が 揺れる…もう…呆然だ…
 「椎凪のお陰で早く終わったんじゃない。あんなに犯行の手口ペラペラ喋らせてさぁ。」
 捕まえた犯人をチョット殺気を込めて『オレ』 で吊るし上げたんだ…
 そしたら恐怖に駆られた奴がペラペラと話し始めた。
 だって誰にもオレの予定を邪魔させないって思ってたから…
 仕事の為なんかじゃない… 別の目的があったんだよ…
 なのに…瑠惟さんに絡まれ飲みに来る羽目になろうとは…
 「瑠惟さんっ!!オレ耀くん待ってるから早く帰るよっ!!」
 くそっ! こうなったら先手打って早く帰る宣言しとくっ!!
 「えー何言ってんのよ。耀君には承諾済みよ。」
 瑠惟さんがニッコリと笑ってそう言った。
 「え?」
 何言ってんの?この人??しばし理解不能…
 「ほら。」
 そう言って携帯をオレに見せた。
 「うそ…」
 メールの画面が映し出されてて… その画面には…
 『わかりました。ゆっくり楽しんで下さい。耀。』…だって!!
 「ね?大丈夫でしょ。ははっ!!」
 瑠惟さんが勝ち誇った顔でオレを覗き込んでる… チクショウ…
 「もー余計な事しないでよっ!!瑠惟さんっっ!!」
 「うるさいわねー。ほら飲んだ飲んだ!」
 ふざけんなぁ…いっつもオレの邪魔しやがって… クソー…
 こうなったらガンガン飲ませて早く2人を酔い潰すっ!!
 オレはフルフルと拳を握り締めて決意を新たにした。


 「ちょっと堂本君!!家 こっちでいいの?」
 くそっぉぉぉ…ふざけんなっつーの!!
 オレの立てた作戦は見事に失敗した…
 飲ませ過ぎて堂本君が1人じゃ歩けない程ベロベロに酔っ払った。
 「うー…ウイッ…この…公園…抜けたら…すぐです…ひっく!」
 「もーーっっ!!」
 オレに肩を借りてやっと歩いてる堂本君が目を瞑ったまま返事をした。
 くっそーー何でこうなるんだよ…瑠惟さんはサッサと帰るしさぁ…まぁスゲー酔ってたけど…
 コイツも家近いって言うから送ってく羽目になって…何だよ…どんどん 帰るのが遅くなるよぉ…
 ホントコイツ此処に捨ててってやろうか…なんて本気で思った。
 でもオレのせいでもあるし…なんて親切心出したのが間違いだった。

 「す…いません椎凪さんっっ!!俺…ここで…大丈夫れすから…もう帰ってくらはい…ウイッ…」
 堂本君が真っ赤な顔とトロンとした目でオレに敬礼しながら 呂律の廻らない口で喋ってる。
 「本当平気?本当にオレ帰るよ?」
 何とも頼りない堂本君…真っ直ぐ立ってもいられない…
 「はい…へーきれす…」
 「え?」
 言いながらヨロヨロと堂本君の身体が傾いていく。
 「あっ!ちょっとっ!!堂本君!!」
 目の前で倒れて行くもんだから咄嗟に手が伸びた… 放っておけば良かったとすぐ後悔した…
 「あっ!!ああっっ!!ちょっ…バカッ!!」
 「おろ?」
 フラついた堂本君がすぐ後ろにある公園の噴水の縁に 脚を引っ掛けてそのまま倒れ込んで行く。
 「うわっ!!」
 オレの叫び声が夜の公園に響いた。

 ザ パ ァ !!
 「うわっ!!つめてーーっっ!!!」
 勢い良く水面から顔を出した。
 何だ?何で俺こんな水の中に入ってんだ?しかも俺んちの近くの公園じゃん…?
 確か今日椎凪さんと瑠惟さんと一緒に飲んで…
 うわぁ…これですっかり酔いが醒めちゃったよ…って…あれ?俺何か忘れて…

 「 どぉ…も…とぉ…」

 すぐ傍で椎凪さんの重い声がした。
 恐る恐る振り向くと髪の毛からポタポタと雫を垂らしながら両手を水の中に付いて
 水に浸かってる椎凪さんが視界に飛び込んで来た。
 「え?あっ…椎…凪…さん?」
 なんで?…何で椎凪さんが一緒になって噴水に嵌ってんだ?
 途切れてる記憶を辿る…あっ!そう言えば椎凪さんが俺の事送ってくれてたんだ…
 一人で帰れるって言って… 俺…よろけて噴水の縁に脚取られて…
 ヤベー!!椎凪さんスゲー怒ってるっ…!!
 俯いたままの椎凪さんから超ド級の怒りのオーラが立ち昇ってるっっ!!
 「 いっぺん死ねっ!!! 」
 椎凪さんがイキナリ俺の頭を鷲掴んで水の中に押し込んだっ!!
 「 ぐがばげぼっ!!!! 」
 どんなにもがいても もの凄い力で押さえ込まれて動けない!!
 い…息が…出来な……!!死ぬっ!!俺…殺されるっ!!…かも…


 俺の部屋…2人とも上から下までずぶ濡れ…夜風が寒い季節なのに…
 「スイマセン椎凪さん…どうしましょう…着替え…俺の服じゃ小さいですよね?」
 恐る恐る声を掛けた…俺と椎凪さんとでは体型が大分違う。椎凪さんの方が俺より背が高い。
 「先にシャワー浴びてオレの着替え買って来いっ!!!」
 ゲシッ!!
 「はっ…はいっ」
 うっ!怒鳴られて蹴られたっっ!!ヤバイ…ホント椎凪さん怒っ てるよぉ…
 そういや早く帰るって言ってもんなぁ…

 速攻シャワーを浴びて椎凪さんの着替えを買って戻ると椎凪さんはもうシャワーを浴びて待っていた。
 買ってきた服を渡す。
 「あれ?椎凪さん下着は?」
 「いらない!」
 「え?そ…そうですか?」
 えー?穿かないの?えっ?えっー?
 椎凪さんは巻いてたバスタオルを取ると俺なんか居ないみたい着替え始めた…
 べっ…別に男同士だし気にする事も無い筈なのに…何でだろ…椎凪さんから目が離せない…
 「なに?」
 「えっ?いえ…」
 視線に気付かれた…何か焦る。

 だけど…椎凪さんって…色っぽいつーか…なんつーか…
 同じ男なのに…男の俺から 見ても…目を引くんだよな…

 「コーヒーくらい淹れてよね!ったく」
 着替え終わってタオルで頭を拭きながら椎凪さんがタバコを吹かして要求した。
 「あっ…はい。あ…あの…帰らなくていいんですか?」
 「もういいよ。あきらめた。今日は我慢するよ!」
 もの凄い不機嫌な顔で全く納得してないって顔してますけど…睨まないで下さいよぉ…
 「すいません…」
 もう俺は謝るしかない…

 コーヒーなんかたまにしか飲まない。
 男一人で朝なんか毎日ドタバタして落ち着いてコーヒーを淹れる 暇なんて無いし…
 だから支度に手間取ってしまう…
 「あーもートロいなぁ!いいよ。オレやるよ。」
 椎凪さんが突然オレの肩に両手を乗せて覗き込んで言った。
 「ドキッ!!」
 なっ!うわっ!椎凪さんの顔が…唇が…こんな近くにっ…
 思わず身体が少し引いた…何でだ??
 「何?もーイジメないよ。ほらどいて。」
 「あ…はい…」
 未だに心臓がバクバク…どーしちゃたんだっ!?俺?
 「椎凪さんて身長いくつあるんですか?」
 改めて隣に並ぶと肩の位置が大分違う 事に今更気が付いた。
 「?…確か…182だったかな?」
 テキパキとコーヒーを淹れながら咥えタバコで答えてくれた。
 俺が170だから…俺よりも 12cmもちがうのか…背も高くて顔もよっくて腕っ節も強くて恋人もいて…
 世間もうまく渡ってて…大人の…男なんだよな…

 「堂本君ていくつだっけ?」
 「20です」
 椎凪さんが淹れてくれたコーヒーをすすりつつ答えた。
 「耀くんと同級になんの?」
 「あ…そうですね…」
 耀くん…椎凪さんの恋人… 男の人なんだよな…
 「しかし…女っ気無いね?この部屋…彼女いない暦何年?」
 部屋を見回して椎凪さんが言う…確かに彼女がいるような部屋じゃない。
 女の子が使うアイテム一つ無い…
 「えー…あー…三年です…。」
 「え?高校が最後?」
 「はぁ…卒業をきっかけに別れました…」
 って言うか振られ たんだけどさ…
 「それに刑事ってけっこー敬遠される仕事じゃないですか…時間も不規則だし」
 「え?そお?」
 そーいやこの人毎日定時に帰ってんだった… 恋人もいるし…
 「 !? 美味しい!!いつもと同じコーヒーなのに…?」
 「オレが淹れたんだから当然でしょ!」
 椎凪さんがニッコリ微笑んで言った。
 そー言えばこの人料理も得意だったんだ…うわっ!!そんな優しく微笑まないでくださいよぉー…
 何故だか目のやり場に困って視線を外してしまった…
 「良く 平気だね?3年もしないなんて…」
 椎凪さんが真顔で言う。
 「す…すみませんね…」
 ちょっと…しないなんて…そんな露骨に…
 「努力が足りない んじゃない?」
 どっ…努力ですか?そう言うモノなんですか?しかもすごい呆れた顔してるし…
 「やっぱ椎凪さんは常に彼女がいたんですか?」
 「え? オレ?オレ付き合ったのって耀くんが初めてだよ。」
 「 ええっ!!マジッすか?うそ!?」
 思わず身を乗り出してしまった。
 「オレ特定の子つくらな かったから。毎回その場限りの相手だからさ。」
 「その場限りって…?」
 「声かけてOKなら即ホテルって感じ。一晩限りの相手しかしなっかたしね。」
 …ったく…この人何サラリと言っちゃてんの?
 「し…椎凪さん…いつからそんな事…」
 「え?高校の時からね。え?何?フツーでしょ?そんなの。」
 「普通じゃないですよ!!」
 って聞くのも怖いけど…
 「まさか…刑事になってからもそんな事してたんじゃ…?」
 「してたよ。当たり前じゃん。 何で?ダメ?」
 「ダメじゃないですかっ!!そーゆーのって!」
 「えーだって犯罪じゃないし刑事ってバレた事ないし。OKでしょ?」
 ったくこの人は…信じられん…


 「さて。そろそろ帰ろっかな。」
 おもむろに椎凪さんが立ち上がった。
 「あ…本当に今日はすみませんでした。」
 何とか椎凪さんの機嫌が直って良かったよぉ…俺はホッと胸を撫で下ろした…
 お仕置きされるかと思ったから…
 「そーだね。でもこの穴埋めはキッチリ払って もらうからね。」
 「はい…」 
 やっぱりそうなるのか…ん?椎凪さんの手が俺の頭に…しかも優しく微笑んでるし…え?なに…

 「早く初体験。 出来るといいね!」

 「 えっ!!」
 「やっぱ図星?くすっ」
 椎凪さんが笑いながら俺の髪をクシャっとして言う。
 「がんぱれ!じゃあおやすみ。」
 そう言うと椎凪さんは軽く手を振って帰って行った。
 うーなんだよ…スゲードキドキしてる…
 椎凪さん…仕事の時はあんなんだけどさ…こーゆー時って…安心 するって言うか…
 なんか…いいんだよな…
 俺は変な安心感とトキメキ感で何とも妙な気分だった。
 …次の日…昨日の今日で…まだドキドキしてる…
 椎凪さんの顔見たら俺…どーなんだろ?夕べから変だよな…
 なんて一人舞い上がっていた俺が甘かった。
 出勤してきた椎凪さんがニコニコしながら一枚の紙を俺に 渡した。
 「はい。これ。」
 「は?何ですかこれ?」
 何かの伝票らしき紙だ。
 「夕べ君が壊したオレの携帯の代金。」
 「はぁ?」
 かなり の金額が印字されてますけど??
 「水の中でみんなパア!耀くんとのツーショット写真もみんなパアだったし…
 夕べの埋め合わせもかねて最新型の一番高いヤツ に替えたから支払いヨロシクね!」
 「 ええっ!! 」
 ニッコリと笑ってる椎凪さんの顔に怒りマークが浮き出てるのが見えた気がした…
 夕べは帰り際 あんなに優しかったのに…騙されたっっ!!
 俺は仕方ないと思いつつも何だか納得の出来ない思いで伝票と椎凪さんを見つめてた。


            堂本君の受難の日々はこれからも続く…