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 * 最後の方で亨登場の為ちょこっとBL要素あり。ご注意を! *



「逃げてんじゃねーよっ!!」
「だから逃げてないって…」

そう言いながらスタスタ早足で歩く男。
街で信号待ちしてた俺をじっと見てやがった。

「何人の事ジロジロ見てんだよっ!!」
怒鳴りつけてそいつに詰め寄った。
『ああっ!』って顔して軽く俺に笑いかけてきやがった。
そのままいつの間にか 変わった信号で横断歩道を渡り始めてる。
ふざけんなっ!逃がすかっ!!俺はそいつを追いかけた。
「おいっ!待てよっ!!」
「あーもうオレ急いでんのっ! 君の相手なんか出来ないよ。」
「人に眼付けといて逃げんじゃねーよっ!!」
「眼なんか付けてないって…男の子かなぁ?女の子かなぁ?って見てただけ。
男の子だったんだね。」
そいつは俺の方を見もしないで言った。
「バカにしてんのかっ!!」
余計ムカつく!!
「バカになんかしてないってっ。」
「いいから止まれよっ!!」
「オレ急いでんのっ!君なんかに構ってる暇ないのっ!」
「俺だってマジなんだよっ!逃がすかっ!」
「あーもーしつこい。大体 身長差からいって君に勝ち目ないよっ!」
「うるせーんだよっ!テメーなんか目じゃねーんだよっ!!」

思えば何でこんなにこの男の事が気に入らなかったのか…
自分でも判らないほど男の後を追いかけた…ここまで俺を無視した奴が初めてだったからか…
「これで最後!本当オレ急いでんの。だからもう終わり。君の勘違い! じゃサヨナラ!」
「ふざけんじゃねーって言ってんだろーがっっ!!」
男の足が急に止まった。
振り向きざまに胸倉を掴まれそのまま店と店の細い路地に引っ張り 込まれ
思いっきり壁に押し付けられた。
「 !? 」

「急いでるって言ってんだろーがっ!そんなにやりてーなら秒殺で殺してやるよ…」

さっきまでのオレをノラリクラリとかわしていた奴がいきなり殺気丸出しで別人の様に変わった…
本当に一瞬だった。
みぞおちに奴の膝蹴りを数発くらい耐え切れず 咳き込んでる所に回し蹴りを入れられた。
「 死 ね …クソガキっ!!」
確かにそいつはそう言った…何の感情も込めずに…
蹴り飛ばされ壁に叩き付けられ その場に崩れ落ちる。

「調子に乗ってんじゃねーぞクソガキっ!お前とオレとじゃ年季が違うんだよっ!
こっちはお前が幼稚園の頃から喧嘩してんだよ。 今も現役でなっ!
大人しく帰っとけば良かったんだよっ!ったく…オレの邪魔しやがってっ!」
「げほっ…」
クソっ何だよ…コイツ…ヘラヘラしてやがった くせに…
チクショー…この俺が一発も入れられねーなんて…俺だって腕には自信がある。
こっちだって現役だ。今まで自分より身体のデカイ奴だって難なく相手に してきた…
でも…コイツは…今までの相手とは違う…クソッ…
悔しくて着いていた両手を強く握りしめた…爪がアスファルトで異様な音を出してる…
「もうつきまとうなよ。」
「おいっ!待てよっ!!」
立ち去ろうとする男に向かってよろめきながら怒鳴った。
「!!…へー立てるの?まぁそれなりに強いって 事?でもホントしつこいな…」
俺を睨みながらそいつは言った。
「だあああああああっ!!」
ありったけの力を込めて俺はそいつに殴りかかった…
「 !? 」
走り出したその瞬間俺は足元にあったパイプの棒に足を取られ
そのまま勢い余って目の前にいた男に飛び込む形で倒れ込んだ。
「うおっ!」
「なっ…!?」
マジかよっっ!!と言うような男の声。
俺と奴はそのまま真後ろに開いていた店の地下に続く階段を
2人で転げ落ちていった…

おい…

誰かが…呼んでる…?

「おいっ!!いい加減目覚ましやがれっ!クソガキっ!!」
髪の毛を鷲掴みにされ思いっきり頭を引っ張られた。
「いでででででででっ…!!」
かなりの激痛が 脳天に送り込まれた…毛…抜けるっっ!!
「いてーなっ!!」
目が覚めて思わず文句を言った。
「うるせーっ!テメェがどかねーとオレが動けねーんだよっ!
人の上に乗りやがってっ!オレの上に乗っていいのは耀くんだけだっ!!」
は?…何言ってんだコイツ…?
「うっ!俺も動けねー…上が重っ…」
気付けば俺の上に ダンボールが覆いかぶさる様にのしかかっている。
「オレはもっと重いんだよっ!!ったく!テメェのせいでロクな事がねーっ!!早くどけっ!!」
「って言ったて…」
「根性出せっ!!」
「うぐぐぐっ…」
何とか起き上がろうと試みたが俺の上に乗っている荷物はビクともしない…
「だっ…だめだ…」
どてっと男の上に 力尽きる…
「ダメダじゃねーんだよっ!!こっちは人と待ち合わせしてんだよっ!
お前がどかねーとケータイも使えねーんだよっ!」
まったく…随分カリカリ してやがる…
「手ぐらい動くスペースあんだろ?右手は動かせてんじゃんかよ…」
「左手動かねーの…多分怪我してる…」
「…え?…」
仕方なく俺が 奴の左のズボンのポケットから携帯を出してやった。
「耀くんってあるだろ」
「あー…」
そう言って掛けてやり携帯を奴の耳にあててやる。
「…あっ!耀くん? オレ!ごめんちょっと遅くなるから先に祐輔の所行ってて…
うん…ごめんね…ううん大丈夫。」
コロッと態度が変わってる…さっきまでの怒ってたのがウソみたいだ…
「愛してるよ…じゃあね」
はぁ…?ビックリした…
「何…あんた…良くこんな時にそんな事言えるな…恥ずかしくねーのか?」
「クソガキには分かんないよ。 …さてと…」
男はもう一本どこかに電話しようか迷っているようだった…
「仕方ないな…ここから近いし…助けに来てもらうか…あー…やだな…でも他にいないし…」
随分嫌がって悩んでたみたいだけど…結局電話を掛ける事にしたらしい…

「亨?オレ…ちょっと…来て…え?やだ……わかったよ…場所は…」
「?」
何だか変な会話みたいだったが…一体どうした?


…ダンボールの下敷きになってもうどんくらい経ったんだろう…
その重さに耐えつつ…でも俺の下には俺とダンボールに押し潰されてるヤローがいる。
こんな状況なのに 電話の相手に『愛してる』などとほざく奴。
俺に怒りまくってたかと思ってら今は静かになってる。
何だか良く解らん奴だ…どこかに電話してから静かになった…

「あと5分もすれば助けに来るよ…げほっ…あー重い…左手も感覚無くなってきたし…」
「!!」
いきなりそいつが俺の顔を右手で掴むとマジマジと俺を見た。
「くすっ…本当…女の子みたい…」
そう言ってそいつが静かに目を閉じた…掴んでた右手もパタリと落ちた!
「あ…お…おいっ!!どうしたんだよっ!」
まさか くたばったんじゃねーだろうな??殺人犯なんて勘弁してくれっ!!
しかもその死体の上で俺もお陀仏なんて冗談じゃないぞっ!!
「疲れた…これから…もっと…疲れる…」
奴がボソッと喋った。
「は?何?」
良かった…生きてる…そんな事を思ってたら階段を下りて来る足音がした。
「慶彦いるの?」
男の声だ。
「亨?ここ…」
俺の下の男が力なく答えた。
「あ!本当にいた…何してんの?」
「説明は後っ!いいからこれどかして…」
「その前にちゃんと約束して。助けたらキスしてくれるって。」
「えっ!?」
思わずビックリして声が出た。
「ん?誰?他に誰かいるの?」
「いいから早くっ!!もう限界っ!!」
本当に限界らしかった… 辛そうに話してる。

やっとダンボールから開放されて自由になった身体を動かした。
服は汚れて身体は擦り傷だらけ…
「…つっ…」
男が言ってた通り 左の二の腕を何かで切ったらしく出血がひどい…
「…もしかしてその手当ても僕がするの?」
呼び出されたメガネの男は服の汚れを叩きながら呆れた声で言った。
「出来れば頼みたいね…そーゆーの得意でしょ?」
そう言って俺を叩きのめし何十分もの間俺を胸の上に乗せ続けた男は苦笑いをしてた…

俺達はメガネの男の部屋に上がり込んだ。
「何で俺まで…」
何故か俺まで連れてこられた…
たいした怪我じゃ無いからとサッサとおさらばしようと思ってたのに
あいつに帰らせてもらえなかった…
「当たり前だろっ!君にはこの怪我の説明を皆に…特に耀くんにしっかりとしてもらわないとねっ!」
この男…『椎凪 慶彦』って 言ってたな…
メガネの男は『真鍋 亨』だったっけ?なんか冷たそうな男だ…
しかもメガネの男に『慶彦の上に一体何十分乗ってたの?まったく…』
なんて変な 誤解とヤキモチらしきモノを妬かれ名前吐かされた…
オレは咤鐺一唏高校2年生だ。
言いたくなかったのにメガネの男が『目上に対して礼儀も知らないの?』って
教師みたいな口調と目線でお説教を喰らった…
まったく…何なんだ…?

「さっきから『ようくん』って言ってっけど…誰?まさか恋人?」
気になってたから 聞いてみた。
「何まさかって?そうだよ。オレの恋人。」
「おっ…男同士かよ…」
露骨に顔に出た。
「なに?悪い?」
あ!ちょっとムッとしてる… ヤバかったか?
「まあ慶彦の場合男同士って言っても特別だけどね。」
「うるさいな…」
「へー態度デカイね慶彦…。さて約束守ってもらおうかな?怪我の治療 の分もあるからね。」
メガネの男がニヤリと笑ってアイツを見た。
「げっ!!たっ…たまにはさ若い子なんてどう?可愛いよこの子…」
「は?」
そう言って俺に腕を回してメガネの男に顔が見えるように引っ張った。
ちょっ…なんのつもりだ??俺を身代わりにするつもりか?冗談じゃ…
「僕慶彦以外興味ない。」
あっさりと拒否された…ホッとしたような…俺眼中に無しか?
「えーーーーっ…」
奴が返事をする間もなくメガネの男が前に出る。
「わーっ!!ちょ…ちょっと タンマっ!!かっ…彼が見てるよっ!ね!また次の機会っていう事で…」
俺を引き合いに出すんじゃねー!!それにこの男にそんな事通用すんのか?
「そんなの 待てない!別に見られてたって構わない。」
ほら見ろ…どんな理由もこのメガネの男には通用しないらしい…
だけど…こいつらそっち系なのか? なんか…ヤバイか?俺…襲われねーだろうな?
「うれしいなぁ…久しぶりだ…」
ニッコリと笑う…逆に怖い…
「いやぁ…挨拶じゃ無きゃ…耀くん以外とは… 出来れば勘弁してほしいなぁ…っと…」
「へー…大人になったねぇ…慶彦。僕にウソついたの?助けて怪我の治療までしてあげただろ?」
「……それは…感謝してる…よ…」
あいつがジリジリと追い詰められている…
「ほら!キスして!ちゃんとしたキスだよ。」
2人の顔がもの凄く近い。
「………はぁ…」
あいつが諦めた様に 溜息を一つ吐いてメガネの男に自分から近づいてキスをした…
舌が絡み合う音が聞こえる…こいつらマジでしてるよぉ…うそだろーっ!
「…ん…」
どっちの声だ??俺はナゼか 心臓がドキドキ言い出して…何でだっ!?
それにしてもどんだけしてんだ?もう結構な時間が過ぎてるはずなのに離れる気配が無い…
どうやらメガネの男が満足するまで終わらないらしい…

俺と慶彦と言う男は「ようくん」が待っていると言う 場所に一緒に向かっている。
「いい?さっきの事は誰にもナイショだからねっ!!言ったら殺すよ!」
睨まれて凄まれた。
「あ…ああ…」
俺は気の抜けた 返事をした。
男同士のディープなキスを延々と見せられ軽くショックを受けたらしい…
「あんた…あの人とも出来てんの?」
呆れて聞いた。
「できてないっ!! 怖い事言うなっ!!あいつとは腐れ縁!」
もの凄い勢いで振り向かれた…相当焦ってる…
しかし…俺とやり合った時とは別人だな…こんなにも変わるもんか?
二重人格みてぇ…

「じゃあちゃんと 説明してよねっ!特に耀くんが不安にならないようにねっ!!」
「分かったって…」
あーうるせーな…何でいちいちそんな説明しなくちゃいけねーんだよ…
しかしこいつホント何者?
「ようくん」と言う恋人が待っていると言うビルは有名なブランド『TAKERU』のビルだった。
一つの大きなビルに店と事務所なんか が入ってるらしくとにかくデカイ。
中に入ってエレベーターで最上階に着くとそこは住居スペースになっていた。
何個かある扉の一つを開けて自分の家の様にスタスタ 進みだだっ広いリビングに出た。
あまりの広さにあたりを見回しているとあいつが嬉しそうに名前を呼んだ。

「耀くん!!」
「椎凪!!」
え?男?…この人が…?
そう言ってこっちに駆け寄って来た「ようくん」と言う恋人はどう見ても男には見えない…
まるで…女の子だ…
「よかった。やっと来た。」

そう言ってニッコリと笑う…何とも可愛い笑顔だ…
ハッ!!俺何考えて…なんて1人で焦ってた。
「ごめんね…耀くん。迎えに行けなくて…」
あいつが手で 「ようくん」の頬をそっと触れて撫でた…
その仕草が何とも自然で優しくて…思わず見とれる…
「ううん。大丈夫だったよ。」
相手の『ようくん』もアイツの事を 見上げて…これまた何とも言えない可愛い顔で見つめてる…
何なんだ?この2人…スンゲー2人の世界に浸ってんじゃん。
「んー…会いたかったよ。耀くん。」
アイツがギュッと『ようくん』を抱きしめる…
「もー大袈裟だなぁ…」
そう言って抱き合う二人を呆然と眺めていた俺に「ようくん」が気付いた…

「あ!」
「!」
ナゼかドッキとした…どうした?俺っ!!
「ん?」

2人がジッと俺を見つめてる…
これをキッカケに俺は2人に関わっていく事になるなんて 思ってもみなかった…