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「俺達は年くってるから無理なんだよ。だからお前と深田で頼むぞ。」

課長から頼まれたのは殺人未遂で逃亡中の「沖田」と言う男を捕まえる事。
潜伏先と思われるクラブに潜入するのが今回の仕事だ。
若い奴らが集まる場所だから課長や課の他のそれなりにお年をめした方々だと
目に付くと言う訳だ。
内藤さんルイさん堂本君は他の事件に関わっていてこちらには手が回らないから
オレと深田さんにお声がかかったと言うわけ。
深田さんと一緒に動くなんて珍しい…
「あーすげー緊張するよ…」
大袈裟に心臓に手を当てる。
「何でですか?そんな…大丈夫ですよ。」
深田さんがオレを見てニッコリ笑う。
「だって…オレと一緒の時に深田さんに何かあったらオレ…祐輔に殺されちゃうよ…」

『 仕事中に和海に何かあったら殺す! 』

ってクギ射されて るんだもん…内藤さん良く平気だよなぁ…
深田さんは内藤さんとコンビを組む事が多い…オレじゃ3日と持たないよ…

そんなビビリながらも言われたクラブに 無事着いた。
そこは大き目の倉庫を改造していて入り口もわかり難く薄暗い…
課長が言うにはカップルじゃないと怪しまれると言ってたけど…
怪しまれる事なく 中に通された…
廊下にまで中の音楽が洩れていてかなりうるさい…
入り口のドアを片手で押し開けた。
大音響と共に薄暗い中を無数の赤やピンクのライトが動き回っている…
しかも多くの席を埋め尽くしているカップル達は この場所をベッドの中と
勘違いしているのかと思うほど2人で絡み合っている…

「なんでこんなにエロイの…?」
「………」
深田さんは両手で真っ赤な 顔を覆って言葉を無くしてる…
一度ドアを閉め廊下の隅に深田さんを連れ出した。
「いい?深田さん。今日のこの捜査の事は祐輔と耀くんには絶対内緒だからねっ!!
オレが2人に殺されちゃうからっっ!!」
コクコクと操られてるかの様に深田さんが無言で大きく頷く…大丈夫か…??
「じゃあこっからは仕事だからね! 深田さん!」
「は…い」
深田さんも覚悟を決めたみたいだ…

入り口と2階へあがる階段を見渡せる席に座った。
相変わらずボリュウムの大きい 音楽と人の多さとタバコの煙がすごい…
カップルと言う事でオレ達は必要以上にくっ付き深田さんに
腕を廻してオレの方に抱き寄せてる。
「沖田見付かった?」
耳元に口を寄せて話す。
音楽の音が大きくてそうしないと話が聞えないからだ。
「いえ…まだ…」

恋人同士の振りをしなくちゃいけないから仕方ないけど… 恥ずかしい…
祐輔さんと慎二さん以外でこんなに男の人が傍にいるなんて初めてだし…
あ…椎凪さん…私に話しかけながら廻してる手で…私の髪…触ってる…
「ったく…こんな人多いんじゃわかんねーじゃん……」
オレは気が付かなかったけど無意識に深田さんの髪を撫でていたらしい…
身体が勝手に動いてたんだな…んーまずかったかな…

急に音楽のボリュウムが下がる。
『さあ!今夜もやって来ましたっ!!
自分達のアツアツぶりを存分に見せ付けてくれっ!!』
終わると同時に音楽が元に戻り室内が更に薄暗くなる…
「?… 何だ?」
訳がわからん…
突然ピンクのライトが光る。
そして一組のカップルにピンクのスポットライトが当たった…
当たったそいつらは男が片手を高々と 上に上げ
相手の女の子を抱き寄せキスをし始めた。
遠目で見ても舌が絡み合ってるのが判る…音まで聞えそうなくらいだ…
周りからは口笛やら奇声が響く。
「ありゃま…そーゆー事…」
「………」
深田さんはあまりの事に言葉を無くしてる…祐輔と付き合ってるって言っても
確か恋愛経験は祐輔が初めてだったん じゃないかな?
刺激が強すぎたかな…?

何組かのカップルが次々と当たって同じ様に淫らなキスをする…
あーあ…耀くんとだったら喜んでしちゃうんだけど なぁ…
まあ当たるわけ無いから大丈夫だ…!?
一瞬にしてオレと深田さんの周りがピンクに染まった。
げっ!!あたった……??うそだろっ……
2人して固まった…
でも周りはさっきと同じ様に口笛や奇声を上げている…

「…………」
やだ…ライトが当たってる…
椎凪さんも固まってる…でも… キスしないと…怪しまれる…
えっ…うそ…椎凪さんどうするんです…!!

か?…
「 …んっっ…!! 」

もうヤケクソだった。
このまま何も しなければ怪しまれる…
ったく…なんでこんなにカップルがいるのにオレ達に当たるんだよ…くそっ!!

深田さんが逃げない様に廻した腕に力を入れて抱き 寄せて空いている手で
深田さんの顔を強引にオレに向けてキスをした。
深田さんは逃げようとはしなかったけど…体中力が入って固まってた…
オレは思いっきり 舌を絡ませて濃厚なキスをした…
他の奴らもそうしてたから…

ライトはまだオレ達に当たってる…
まだかよ…時間が長く感じられる…
やっとライトが 離れてオレ達の周りが暗くなった…
深田さんから離れるとお互いドッと疲れて力が抜けた…
オレは深田さんの両肩に手を乗せながら
「ご…ごめんね…深田さん… オレ祐輔に殺される…耀くん…ごめんね…」
今頃になって物凄い罪悪感がオレを襲う…
唯一救いだったのは…
「し…仕方無いですよ…いっ…今のは…」
って深田さんが言ってくれた事だ…
深田さんもかなり動揺してたけど…

「深田さんっ!!ぜったい!今日の事は内緒だからねっ!!お願いねっっ!!」

オレは必死!今にも泣きが入りそうな気分だ!!
「は…いっ!わかって…ます。」
そう言う深田さんも笑顔が引きつってる…

それからオレ達はお互い精神的 ショックで立ち直れず……暫く放心状態だった…

そんな時人影に見え隠れして沖田が現れた。
オレと深田さんの視界にも入ってきた。

あ の 野 郎 ー っっ !!!

怒りが沸々と湧き上がって くる…
深田さんも同じらしい…もう視線は沖田を追ってる…
オレと深田さんは席を立つと人混みの隙間をぬって沖田に近づいて行く…
もう逃がす事のない距離まで 近づくと
オレはムカついて大声で沖田の名前を呼んでこっちに振り向かせた。
「沖田!!」
名前を呼ばれ振り向いた沖田の肩を逃げない様に鷲掴みして 顔面に
思いっきり拳を入れてやった。
オレと同時に深田さんの蹴りも沖田の鳩尾に入る。

「お前のせいだっっ!!」
「あなたのせいですっっ!!」

オレ達は2人同時にそう叫んでいた。