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いつもの様に2人っきりの夜。
オレ達はお互い向き合って抱き合ってる。
耀くんもしっかりオレの事抱きしめてくれてる…

「何?耀くん」
「好きだよ… 椎凪」
「オレも好きだよ…耀くん」
「オレの事愛してる?」
「うん…愛してる。」
「本当?」
「うん。本当…」

ずっと2人共唇は離さず確かめ 合ってる…
「 ?…耀…くん?」
「なに?しないの?椎凪…」
耀くんが珍しくオレのシャツのボタンを外しにかかってる…
「え?いや…あの…シャワー浴び てから…」
慌てるオレの肩からスルリとシャツが下がる…
「うわぁ…すごい耀くん…積極的…はは…」
笑いながらオレの心臓がバクバク言ってる…
いきなり 耀くんがオレの右腕の二の腕の所をギュと掴む。
「……つっ…!!」
痛さに声が漏れた。
「やっぱり…」
耀くんがまったくと言ったように呟く。
「瑠惟さんに聞いたよ…椎凪が今日怪我したって…」
「もーお喋りなんだから…」
ボソッと呟いた…

今日仕事中ルイさんを庇って犯人にナイフで切りつけ られた。
ルイさんも傍にいた通行人を庇って動けなかったから仕方ない…
耀くんには絶対内緒って言っといたのに…オレを心配してかそれとも
オレのしつこいまで の念の入れ様の口止めをおかしく思ったのか…
どっちにしても余計な事をしてくれた…

「 椎凪っ!! 」
「 はっ…はい?! 」
耀くんがオレを 見上げて眉を寄せる…怒ってる??
「怪我したらちゃんと話すって約束だろっ?もう何度目?オレに黙ってんの?」
さぁ…何度目だったか…なんて言ったらもっと 怒るだろうな…
「ご…ごめん耀くん…でもこれ位平気だし怪我のうちに入らないよ…
だから別に耀くんに言うほどの事でもないかなって…耀くん心配するし…」
「大体裸になったらどーせバレるだろっ!!それなのに何で言わないのっ?!」
何でって…そんなの分かりきってる…
「え…?いや…見せないで済むかなあって… 耀くんが寝た後で脱げば…」
最後はブツブツと口篭った…

「 ……うーーっっ… もういい!わかったっ!!オレも椎凪には何も話さないからっ!!
椎凪と同じ事するっ!!昼間どんな事があっても椎凪になんか何一つ話してあげないっっ!!」
そう言うとプイッと横を向いてしまった…
「え?何で?耀くん? それってチョット違うんじゃ…?」
オレは焦り始めてた…これっていつもの如くヤバイ状況に突き進んでる??
「違わないよっっ!!今日はオレ自分の部屋で寝るっ!!
絶対オレのベッドに入ってこないでよねっ!」
「耀くん…!?」
「入ってきたら…椎凪と一生口利かないからっっ!!」
ズドッとその言葉がオレに突き刺 さった。
「あ…うそ…」
オレがショックを受けてる隙に耀くんが乱暴にリビングのドアを閉めて出て行った…
「え?ちょっと待って!!耀くんっ!!」
慌てて追いかけ耀くんの部屋のドアを叩いた。
でも開かないように中から鍵を掛けてる…
「話し合おうよっ…ねェってばっ!!お願いっ!!耀くんっ!!」
「うるさいっ!!知らないってばっ!!」
「耀くんっ!!!」

結局耀くんはドアを開けてくれなかった…
オレは仕方なく自分の部屋に戻ってベッドの上で 落ち込んでいた…
う…どうしよう…また耀くん怒らせちゃった…
このままじゃオレ本当に嫌われちゃうかもしれない…
前は直ぐにドアを開けてくれたのに…何で… うーーどうしよう…
あっ!!そうだ!とりあえず明日の朝ご飯は耀くんの好きな物沢山作ろう!!
で…沢山謝って許してもらおう…そうだ!そうしよう!!

それで許してもらえるとオレは思っていた…1晩経てば耀くんだって…

長い長い夜が明けて待ちに待った朝が来た。
オレは慌てず落ち着いた振りをして 耀くんの部屋に向かった。
「 ?! 」
ドアが開く…?そっと開けて中を覗いた。
「耀くん…?おは…んっ??えっ??」
自分の目を疑った…どう見ても 耀くんが部屋にいない…!?
ベッドも使った痕跡が無い…いつも使ってるパソコンも無いっ!!
「えっ??何で?」
パニクッているとダイニングテーブルに 置いたオレの携帯が鳴った。
「 はっ!!! 」
猛ダッシュで携帯を取りに行く。
メールだ…げーーっっ!!!!慎二君からじゃんっっ…
み…見るのが… こっ怖いけど…恐る恐るメールを開く…

『お早うございます。耀君とケンカしたんですってねぇ?
耀君僕の所にいますから心配しないで下さいね。
連れて 帰る自信があるなら迎えに来て下さい。来れるものなら。楽しみだなぁ。』

頭が…クラクラする…酸欠で死にそうなくらい息が苦しい…
これって慎二君に勝てるならっつー事 だもんな…ヤバイ…マジヤバイよーっっ!!


「 だからってオレんトコ来んじゃねーっっ!!迷惑なんだよっ!! 」
オレは速攻祐輔の所に駆け込んだ。
玄関で今まで起きた事を慌てふためいて話すオレに向かって祐輔が言ったセリフ…
「だってっ!!慎二君に対抗出来んの祐輔しかいないじゃないかっ!!」
半泣き 状態で捲くし立てる…そう慎二君に勝てるのは祐輔だけなんだ。
「あのなぁ…お前が悪いんだよ!まず怪我した時点でオレ的にはアウト!!」
「えーっ?どうして? 祐輔まで…」
思いっ切り呆れた顔の横目で睨まれた。
「あのなぁ…もともと危ねー仕事だろうが…テメーで気をつけねーと
待ってるこっちは心配してんだぞ!! だから和海だって怪我したら許さねー」
「………でも…」
「お前はタカくくってっかもしれねーけどな…考えてもみろ?
取り返しのつかない怪我して耀一人 残して死ぬ事だってあんだろーが!
お前それでもいいのかよ?」
「そんな事オレしないっ!!」
オレは自信たっぷりで言い切る。そんなドジしないっ!!
「んなの…わかんねーだろ?」
「だってオレ耀くん心配掛けさせたくない…」
「後でバレた方が余計心配かけてんだよっ!わかんねー奴だな!!」


ヨロめきながら祐輔のマンションを後にした…

『とにかくオレは知らねーっ!!テメーで何とかしろっ!!』

って言われ放り出された…頼みの 綱だったのに……
本当オレ…耀くんに心配かけたく無かっただけなのに…
こんな軽い怪我なら知らなくてもいいんだ…

物凄く重い気分で…
きっと勝てないであろう 慎二君の家にオレ一人で向かう事になった…